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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 鉱山に行こう
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90.

 上を見上げると、小さな明かりが灯っているような点が見える。

 下を見下ろすと、真っ暗な闇が広がっているだけで一体どこが底なのかさっぱり判らない。

 俺はこの世界に来たばかりの時に作ったランタンを片手に、もう片方の手でミリーの手を握ってやったままもう30分近く螺旋斜面道を歩いている。

 昨日鉱山の管理所に着いて手続きを済ませると既に夕方になっていたので、どうせ鉱山に入るんだったら朝の方がいいだろうって話し合って俺たちはその日は敷地の隅で野営をした。

  鉱山の管理所で払った入山料は1人が1日10ドラン、100円ってところだ。

 むっちゃ安いよな。

 ただし連れてきたパンジーの世話代が1日500ドランだそうだ。ちょっと高いがほったらかす訳にもいかないし、管理所がある敷地内には魔物魔獣除けの結界が張ってあるそうだから、1日500ドランでパンジーの安全は保証されると思えば妥当な金額だろう。

 んでもって、鉱石は持ってくれば4割引で売ってくれるそうだ。つまり鉱夫に払う日当と税金分がタダになるって事だな。

 それでも街で精製されたものを買うよりははるかに安くつくのでありがたい。それに1度でもスミレが本物を見てスキャンしておけば、これから魔力で作る時は魔力量を節約できるって事だから、そのためにもやっぱり本物は見ておくべきだろう。

 そして今、朝飯を食べてパンジーの世話を頼んでから坑道を下り始めたんだけど、これがもう長い長い。

 いつまでたっても続く道は終わりそうにない。

 「コータ、みゃだ?」

 「どうだろうなぁ・・・スミレ、そろそろ着くかな?」

 『あと4分の1くらいですね』

 「げっ、まだそんなにあるのかよ」

 「よんぶ、んのいち?」

 ミリーは4分の1という単位が判らなかったようで、辿々しい口調でスミレの真似をする。

 「今歩いた距離を3つに分けて、そのうちの1つ分の距離で着くんだってさ」

 「うぇええ・・・大変」

 「うん、大変だなぁ」

 まだまだあると言われて、ミリーはガッカリしている。

 もちろんそれは俺も一緒な訳で。

 とはいえ下まで降りない事には依頼を達成する事もできないから頑張るしかない。

 「鉱夫が100人くらい入っているって言ってたけどさ、この鉱山ってどのくらい広いんだったっけ?」

 『坑内に掘られている坑道は現時点で全長15キロですね。ただしそのうちの3割は旧坑道として使われていません』

 「俺たちが向かうのはその旧坑道なんだよな?」

 『はい、そちらであれば鉱夫の邪魔にもなりませんし、人が入らないような坑道の方が闇纏苔やみまといごけは繁殖しやすいですから』

 人が出入りするとどうしてもランタンなんかの明かりが当たるから、そういう場所には闇纏苔やみまといごけは繁殖しないらしい。

 『コータ様、これは昨日管理所で説明を受けた内容ですよ?』

 「あ〜・・・うん。でもさ、あんまりたくさんの説明を受けたんで、全部は覚えられなかったんだよ」

 「わたしも、覚えてない。ごめんね、スミレ」

 『ミリーちゃんはいいんですよ、まだ小さいんだから。でもコータ様はチームリーダーなんですから、この程度の情報はちゃんと覚えていないと駄目ですよ』

 「はい、すみません」

 ミリーとは随分と扱いが違うなあと思うものの、スミレの言う通りなのでここは素直に謝る。

 「でも上がる時はエレベーターを使わせて貰えるのは、ほんっとうにありがたいよな」

 「うん。この坂歩くの、大変」

 「だよなぁ。下りだからなんとかずっと歩けてるけどさ、上るとなると途中で何度も休憩を入れなきゃ絶対に無理だよ」

 そんな事を言いながら俺はまた上を見上げる。

 なんかちっちゃな電灯が付いているように見える鉱山入り口から差し込む明かりは、ここからどれほど距離が開いているのかを俺に思い知らせているようだ。

 「見えたっ」

 不意にミリーが叫ぶように言いながら、俺を握っている手に力を込めた。

 「明かり、ほら、コータ」

 「どこだ? う〜ん・・見えないぞ」

 「ランタンの、明かり、消せば見えるよ」

 『判りました』

 「うぉおっ、真っ暗だぞっ」

 「今なら、コータでも見える」

 「見えるって何が・・・お?」

 グイグイ俺の手を引かれながら下を見下ろすと確かにほんのりとした明かりが見えている気がする。

 うん、これが上からの明かりじゃないんだったら、下からの明かりって事だな。

 「判った。判ったから。俺にもちゃんと見えたから、頼むから明かりをつけてくれ」

 『本当に見えましたか?』

 「だから見えたってば。でもランタンを点けてくれなかったら俺は1歩も歩けないぞ」

 いつまでもこんなところに立ち往生なんて俺はごめんだぞ?

 「スミレ、明かり、点けて」

 『仕方ないですね』

 「おい、スミレはここにいたいのか?」

 『いえいえ、ではランタンの明かりをつけて先に進みましょうか』

 「ス〜ミ〜レ〜」

 「ミリーちゃんもあと少しなので、足元に気をつけて歩いてくださいよ。怪我なんかしないようにね」

 「はあい」

 おまえら、2人して俺を無視するんだな。

 一言ひとこと文句を言ってやろうかと思ったけどさ、明かりがついて見えたミリーの顔は嬉しそうに笑みを浮かべていたから言えなかったよ。

 きっとスミレはそれを見越していたんだろうな、ちぇっ。

 仕方ない、と軽く肩を竦めてから俺はミリーに手を引かれるまま歩き出した。





 ゆっくりと降りていくに従って下からの明かりは、ランタンを持っている俺にも見えるようになってきた。

 でもやっぱり薄暗いんだよなぁ。ランタンがあって良かったよ、ホント。

 ようやく螺旋斜面道の終点に着くと、その突き当たりにちょっとした広場のような場所がある。

 そこに入ると1人の男がテーブルに足を上げて椅子に座っているのが見えた。

 モジャっとした髭を顎にたくわえて、ずんぐりした体型からしてドワーフだろうか?

 「こんにちは」

 「おう? なんだ、おまえさんたちは?」

 「採取の依頼を受けてきたハンターです」

 俺がそう言うと、途端になんだと言わんばかりに背中を椅子の背もたれにつけた。

 「ギガント・アントの甲殻か?」

 「いえ、闇纏苔やみまといごけの採取です」

 「ほお・・・珍しいな」

 「そうなんですか?」

 「ああ、闇纏苔やみまといごけは難しいって聞くからな。って事は旧坑道に向かうのか?」

 「はい、そのつもりです」

 「そりゃ助かるな。こっちは忙しくて旧坑道まで魔物の間引きに行ってるヒマなかったらな。丁度良い」

 「あ、あははは」

 こうはっきり言われるとなんて返事をして良いのか判らなくて、俺は笑ってごまかす事にした。

 「何日くらいいるつもりだ?」

 「はっきりとは判らないです。でも依頼が済むまで居させてもらおうと思ってます」

 「あんた、人種ヒトだろ? だったら3日だ」

 「えっ?」

 「人種ヒトは3日以上ここに留まる事は許可されてねえんだよ。俺らみたいなドワーフなら地面の下は居心地良いが、人種ヒトはそれ以上ここにいると心が壊れちまうらしいんだ」

 「そんな事、管理所では言われませんでした」

 「ああ、あいつらはそんな事気づいていないだろうからな。けど、この中じゃあそれがルールだ。気に入らなくてもちゃんと従ってもらうぞ」

 ジロリ、と睨めつける男に、俺は頷いて了承を伝える。

 「わしの名前はダッド・リーだ。一応監督の職についとる。何かあればここに来ればわしは大抵ここにおるからな」

 「判りました」

 「そういや、ここの地図は買ったのか?」

 「あっ、はい。管理所で買うように言われたので」

 「全くあの連中は・・・地図だったら無理に買わんでもここで見せてやれたんだがのう」

 なるほど、地図は管理所の金儲けの1つだったって訳だな。

 「いえ、大丈夫です。持っていて困るものじゃないですから。ダッド・リーさん、何か他にもルールがあれば教えてもらえますか?」

 「ダッドで構わん。そうだな・・・あっちの斜面道のところにエレベーターがあったのを見たか?」

 「えっ? いえ、気がつきませんでした」

 「そうか。じゃあな、エレベーターの周囲には鉱石を置く場所があるんだ。そこの鉱石は盗むなよ。あれは鉱夫がそれぞれ集めたものを置いておく場所でな、それぞれ時個人個人におく場所が決まっとる。用がなければいかん方が良いぞ。いらぬ疑いをかけられんとも限らんでな」

 「判りました。俺たちの目的は採取なので行かないと思いますが、探検と称してうろつく事もあるかもしれないですからね、そういう時にそこまで足を伸ばさないように気をつけます」

 「おう、それが一番いいだろうな」

 俺たちがここにいる間、スミレにはエレベーターと斜面道周辺の確認の意味でデータをとっている筈だから、多分あとで合流した時にはその辺も状況が判る筈だ。

 「それと、鉱夫のそばには近寄るなよ。特に掘っている時のあいつらに近づいてピッケルで殴られても責任は取らん」

 「判りました。でも旧坑道では誰も掘ってないんですよね?」

 「まあな。だが一応念のために言わせてもらっただけだ。聞いてなかったって言われても困るからな」

 「そうですね。俺たちも時間があれば少しだけ鉱石を取らせてもらおうと思っているので、その時は今の言葉を肝に命じておきます」

 「おまえ、鉱石をどうするんだ?」

 「まあその、見た事がないので触ってみたいかな、と。好奇心ですね」

 「なんだ、それは。まあおまえらハンターは変わりモンが多いからな」

 いや、俺は変わり者じゃないと思うぞ?

 呆れたように言うダッドさんは顎ひげを引っ張りながらニヤリと笑う。

 「地図をだせ、現在地を教えてやる。それと旧坑道の位置もな」

 「上で教えてくれましたよ?」

 「だったら、どこが旧坑道って言ったか教えてくれ。違ってたら訂正してやるよ」

 それなら、と俺はポーチから地図を取り出してダッドさんの足が乗っているテーブルに置いた。

 ダッドさんは足を下ろすとそのまま前かがみになって地図を覗き込む。

 「あのばか、ここが旧坑道って言ったのか?」

 「えっ? あ、はい。あとはこの部分と・・・その部分です」

 「あのな、ここは合ってるが、そっちは違うぞ。そこはまだ掘ってる。っていうか、一番よく鉱石がでるところだな」

 「って事は、鉱夫がたくさんいるって事ですよね?」

 「おう。へたすりゃ脳天かち割られてたぞ?」

 いやいや、それはないだろ?

 俺は冗談を言っているだろうという目でダッドさんを見るが、彼の表情はどう見ても真剣そのものだ。

 「マジですか?」

 「おう。全く、毎週地図更新してやってるっていうのに、何やってんだかな」

 「訂正してもらえて助かりました」

 「おう。まあ旧坑道だからと言って気を抜くなよ? 鉱夫はおらんでも魔物はおるだろうからな」

 「ははは・・・頑張ります」

 「なんか頼りねえニイちゃんだなあ。大丈夫か? おまえ、そんな小さな子を連れてるんだ、本当に気をつけろよ?」

 ダッドさんは本当に心配だと言わんばかりにミリーを見る。

 「わたし、大丈夫、だよ?」

 「おう、そうか。まあネコ族なら気配察知にも長けてるから連れてきたんだろうが無理はさせるなよ」

 「判りました」

 「ほいじゃ、頑張れよ」

 ダッドさんは片方の手をヒラヒラと振ってから、また椅子に深く座ると両足をテーブルの上に乗せた。

 俺とミリーはお互いの顔を見合わせてから、小さく頭を下げてから広間から出てスミレと合流する事にした。





 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 05/05/2017 @16:38CT  誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

今歩いた距離よりを3つに分けて → 今歩いた距離を3つに分けて

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