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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 草原に行こう
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89.

 ギルドで依頼を受けた次の朝早く、俺たちは都市ケートンを出た。

 理由は受けた依頼のための移動だ。

 俺たちはハンターズ・ギルドで依頼を受けた帰りにあちこちで旅の間の食料を買い込んだ。

 今回の旅は長くなる・・・・・って知ってたら、依頼を受けるのをちょっと考えたぞ、俺。

 受けた依頼は闇纏苔やみまといごけの採取なんだけどさ、これ、この都市から3日ほど北に行ったところにある鉱山の中に生えているそうだ。

 片道3日だぞ? しかもパンジーだから3日で行けるのであって、徒歩なんかで移動していたら5日以上はかかっていたところだよ。

 鉱山なんていう全く未知の場所に出かけるとあって、俺たちはとりあえず2週間分の食料を手に入れる事にした。他にいるものがあっても大抵のものは俺のスキルを使えばなんとかなるからさ。

 ここから鉱山まで往復で約6日だけど、鉱山の中にどのくらいいる事になるのかなんてさっぱり見当もつかない。

 ギルドの受付のおばさんに聞いた話では、2−5日間ほどかけて採取する人が多い、との事で俺たちなら2日あれば十分じゃないかな? なんせスミレの探索能力があるからさ。

 とはいえ前回みたいに予定外な事をして滞在期間が伸びる事だってある。

 そういった事を考慮して、俺とスミレとミリーの3人で話し合って決めたのが2週間分だった。

 ま、どうせ俺のポーチに入れるんだから、少々多すぎたって問題なしだ。

 さて、2泊3日の移動はハリソン村から都市ケートンに移動する前にしたような移動だが、街道から逸れて北に向かう事になったからかガタガタと引き車が揺れてケツに響く。

 でもまあ依頼に出かける前に宿で作ったクッションがあるから、かなり楽をさせてもらってる。ミリーには生産ギルドで言った通り、スミレに頼んでミリー専用のクッションを作ってもらったので、彼女も文句を言わずに御者台に毎日座ってパンジーの手綱を握っている。

 でもこれ、アメーバクッションじゃないんだよな。

 あれ生きてるからポーチに入れられないし、引き車のタイヤに全部使ったから残ってなかった。

 なので残念ながらウサギの毛皮を入れて少しフワフワ感を出している程度のクッションだ。

 それでも今までの板張りのシートを思えばはるかに座り心地がいい。

 「なんか見渡す限り草原だよなあ・・・・」

 前回ゴンドランドの羽の依頼を受けた場所とは街道を挟んで反対側なのに、どこまでも続く草原は全く同じ光景にしか見えない。

 っていうかさ、ゴンドランドの時はまだ茂みっぽいところや林もあったのに、この辺りはほんっとうに何もない。たまに見えるのはでっかい岩だけだ。それさえも草原の草から1メートルほど突き出しているだけなので視界の邪魔にならない。

 「スミレ、鉱山に行くんだろ、俺たち?」

 『そうですよ。鉱山でなければ闇纏苔やみまといごけは見つけられませんからね』

 「でもさ、どこにも山なんてないぞ? まさかあのはるか向こうに見えている山、なんて事言わないよな?」

 俺は進行方向のはるか先に見える山を指差した。

 今日は3日目だ。

 という事はそろそろ件の鉱山が見えてきてもおかしくないぞ。

 『コータ様、これから行く鉱山は地下なので、出入口は見えませんよ?』

 「・・・えっっ?」

 『ですから、地面に入り口があるんです。地面の上にあるのは鉱山への入り口がある倉庫のような建物とそれを管理している平屋の建物があるだけですよ』

 地面にポツンと建物があって、そこの地面に穴が開いてるってか?

 「鉱山ってさ、山の中にあるもんじゃなかったっけ?」

 『そういう鉱山の方が多いですけど、地面に穴を掘っていく鉱山もありますよ』

 「地面に穴かあ・・・おれ、鉱山って言えば山だってずっと思ってたよ」

 ってか、俺が知ってる鉱山っていうもんは山の斜面に開けた穴だったぞ?

 「じゃあさ、ハシゴか何かで降りるのか?」

 『いいえ、角度20度弱の斜面を降りていく事になります。坑道は穴の中で螺旋状になっていて、その真ん中に小さめのエレベーターもどきがあって、それは鉱夫の上り用と鉱石運搬のために使われているようですね』

 「その穴ってどのくらいの大きさなんだ?」

 「掘削地に向かう内側の穴の直径は15メートルほどでしょうか? その穴の内縁沿いに幅約3メートルの斜道が作られています。と言っても外からはその穴の全てを見る事はできません。入り口は約6メートルほどの穴ですから。その穴とエレベーターの乗降口は倉庫のような建物の中に入っています」

 建物といっても多分雨とかで濡れないようにって事なんだろう。

 そりゃそうだ、地面に穴が開いているんだからさ。

 俺はプレハブの建物のようなものを想像する。

 「他にも換気口とかないのか?」

 『3箇所の換気口があります』

 「たった3箇所しかないのかよ」

 『それで十分と判断したのでしょうね。けれどそこから出入りはできないですよ。魔獣や魔物が入り込めないように頑丈な柵を蓋代わりに作ってますからね』

 「別にそこから入ろうなんて思わないよ。たださ、中で酸欠なんて状態になったら笑うに笑えないから聞いてんだよ」

 「さんけつ?」

 「ああそっか、こっちにはそういう知識はないだったなあ」

 俺とスミレの話を聞いていたミリーが聞いた事のない言葉に反応して、俺はこの世界の文明文化のレベルを思い出す。

 この世界の文明文化水準はおそらく石を積み上げた建物が作れる程度に加え、科学的な研究は殆どされていない状態だ。なんせコンクリートの建物なんて見た事ないし、基本的な科学の話でさえ理解してもらえないくらいだ。

 大抵の事は魔法でなんとかなるし、神様の力、という事で片付けられる事案も多いみたいだ。

 俺としてはこの世界の神様(カー⚪︎ルおじさん)に会った事があるのでそこまで偉大な力を持つ至高の存在、とは思えないけどね。

 なので建物の強化は技術じゃなくて強化魔法を使って建てるやり方だ。

 おそらく鉱山の穴も強化魔法を使って崩れないようにしているんだろうな。

 そういった点を考えると、酸素の供給にしても魔法を使っていてもおかしくないのかもしれないな。

 だってさ、たった3箇所しか酸素供給のための換気口がないって言うんだからな。

 「酸素っていうのは、そうだなあ・・・・ミリーは息するだろ? 息する時に吸い込む空気を作ってるものの1つなんだよ。俺たちはそれがないと息が苦しくなって死んじゃうんだ」

 「し、死ぬの?」

 「うん。でもスミレが大丈夫だっていうから心配しなくてもいいよ」

 「そっか、スミレがいうなら、安心」

 「うん、そうだな」

 びっくりしたような顔を向けるミリーを安心させるように言う。

 でもそう言うと途端にホッとした顔をされると、俺としてはちょっと複雑な気持ちになるんだよな。

 ま、いいけどさ。

 「あっ、コータ、あれ」

 ミリーが真っ直ぐ前を指差している。

 俺は目を凝らして何を指差しているのか見ようとするけど、さっぱり判らない。

 でもまあ、これもいつもの事だ。

 「ミリー、何が見える?」

 「えっとね、おうち?」

 「建物って事か?」

 「うん、そう」

 俺に見えるのは風にたなびく背の高い雑草だけなんだけど、ミリーが見えると言うんだったら建物があるんだろうな。

 「多分あそこが目的の場所だよ」

 「鉱山?」

 「うん、多分だけどね」

 『おそらくそれで合ってると思います。距離的にもそろそろ到着してもいい頃合いですからね』

 さすがはミリーだな。よく見えるよ、そんな先の方まで。

 とてもじゃないけどさ、俺には見えないもんなあ。

 「なあ、GPS、欲しいな」

 『GPS、ですか?』

 ふと頭に浮かんだ事をそのまま口にする。

 「うん。あれがあれば自分がいる場所なんて一発で判るからさ。でもサテライトなんかある訳ないからなあ」

 『いる地点が判ってもそれに伴う地図がなければどうしようもないですよ?』

 「そりゃそうだな。だったらさ、ついでに衛生写真とか撮ってそれで地図作成する、なんていう事ができれば旅もすっごく楽になるのになあ・・・」

 ま、あくまでも希望だよ、夢だって話だ。

 「でも一番欲しいのはちゃんとした縮尺の地図かな?」

 「地図?」

 「そうだよ。ミリーだって見た事あるだろ?」

 「あの、役所、で見たやつ?」

 「そうそう。あんな感じのやつだけど、もっと距離がちゃんとしてて町や村の位置も正確なものが欲しいな」

 都市ケートンの役所で見た地図には、都市ケートンの庇護下にある村や町が載っていた。

 でもあれ、おそらくだろうけど、あのスペースに全てを描き入れるために位置なんかは大体の所在地程度の正確さだと思うんだよな。

 じゃないとあんな風に均等に距離を開けて町がある筈ないじゃん。

 「ま、今は無理でもレベルが5になれば作れるものが一気に増えるんだろ? もしかしたらその中に『そのもの』っていうものはないかもしれないけど、作成リストに載っているものでいろいろ似たようなものが作れるかもしれないもんな」

 『そうですね、今でもそれに近いものは作れるかもしれませんが、時間がかかりすぎるでしょうしね』

 「えっ、作れるの?」

 思わなかったスミレの言葉に反応する俺。

 『簡易カメラを使って上空から写真をとるんです。そのデータを使えばかなりの小さい誤差はあるでしょうが、それでも現存する地図よりはましなものができると思いますね』

 カメラ、かあ。確かにカメラを使って細切れ航空写真でデータを作れば、それらしいものができるかもしれない。

 「カメラねえ・・・確かに可能性はあるよな。んじゃこれから時間のある時にいろいろと考えるか」

 『ただし、高性能のものは作れませんよ?』

 「判ってるって。多分初期の白黒写真くらいの精度って事だろ?」

 『初期の白黒写真ですか? データバンク検索します・・・終了しました。はい、そのくらいの精度ですね』

 俺が昔見た画像の荒い白黒写真をデータとして見つけたんだろうな。

 「コータ、かめら、何?」

 「カメラっていうのはさ、目で見る事ができる風景を切り取って正確な絵にしてくれる機械の事だよ」

 「魔法具?」

 「ん〜、魔法具じゃあないな。魔力は使わないからさ・・って、いや、魔力使うのか、スミレ?」

 魔力は使わないと言いかけて、俺はライターの事を思い出した。

 あれに魔石が入ってるって知らなかったんだよな。

 だから、もしかしたら魔石を使うかもしれない。そうなると魔法具に分類される気がする。

 『まだプログラムをしていないので断定はできませんが、おそらく魔法具になると思いますよ。動力源は必要ですからね』

 「でも初期のカメラを元にして作るんだったらパーツも100を超えないだろ?」

 『おそらくは』

 「それなら作ってみてもいっか」

 パーツ100個までならスミレが組み上げてくれるんだけど、それ以上になると俺がしなくてはいけなくなるんだよ。

 カメラのパーツなら細かいものが多くなるだろうから、そんなものを俺が組み上げられる訳ない。

 『では、鉱山にいる間に鉱物も集めた方がいいですね』

 「そうだな」

 『ただし、先に鉱山管理者に鉱物を集める許可をとってください。盗んだと言われたくないですからね』

 「そりゃそうだな。判った。どうせ闇纏苔やみまといごけの採取許可ももらわなくちゃいけないんだから、そん時に聞いてみるよ」

 と言っても闇纏苔やみまといごけの採取許可というよりは鉱山立ち入り許可って言った方が正確なんだけどさ。

 鉱山内に生息する植物動物は自由にとっていい事になっている。

 その代わり鉱山に入る為の許可は必要なんだそうだ。

 この鉱山は鉄鉱石、銅鉱石、錫鉱石が取れるらしいんだけど、出入り口でそれの採掘量を管理しているのだ。

 管理者はもちろん都市ケートンから派遣されており、この鉱山で働く者は自分が掘り出した鉱石の価値の25パーセントをその日の日当としてもらう事になっている。鉱石の5パーセントが税金、10パーセントが事故で怪我をした時の補償に充てるための基金に入れられる。残りの60パーセントはその殆どが精製のための費用となるそうだ。

 「って事は掘り出した鉱石の重さでいくって事か。じゃあさ、鉱石に石を混ぜたら?」

 『鉱山の管理所で使う魔法陣を使うのでそういう不正はすぐにバレますね。一応鉱石に80パーセント以上の不純物となると鉱石と認めてもらえませんから、石を入れる事で不純物の割合が増えると、むしろ損をする事になります』

 「いろいろ考えてんだなあ。でもさ、鉱石の8割が石だったら元が取れないんじゃないのか?」

 『いいえ、大丈夫ですよ。精製したあとの鉄や銅のインゴットは鉱石の3倍ほどの値段がつきますから。それで鉱山や精製所の管理運営、流通にかかる費用を支出しています。ですのであまり実入りはありませんね』

 それでも鉱夫の取り分を今まで以下に減らすと潜って仕事をしてくれる人がいなくなるそうだ。

 この土地は都市ケートンに所属しているが、そこで働くのはこの近くにある村の人たちらしく、彼らを怒らせれば他の都市や大都市に鞍替えされるかもしれない。

 そうなると誰も仕事をする人間がいなくなる。

 だから、これがお互いの最低ラインだからと話し合いで決めた賃金なんだそうだ。

 「入山費、高くないといいなあ」

 『大丈夫ですよ。鉱石採取でなければ安価の筈です。特にハンターは喜ばれます』

 「なんで?」

 『無償で魔獣駆除して貰えますから』

 あっそ。

 確かに中で採取をする時に襲われると魔物や魔獣を駆除しなきゃ仕事にならない。鉱山としては無償でそれらを駆除してもらえるわけだ。

 現実的な事でなによりだな、うん。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 02/25/2017 @ 00:02CT  読者様のご指摘により、誤字訂正しました。

 重さでいくって個とか → 重さでいくって事か 実はこの変換ミスは結構していたので直したつもりでしたが、残っていましたね、やっぱり・・・ありがとうございました。

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