8.
非常食は・・・なんていうんだろう、旨味を取り除いたカロリー⚪︎イト?
味がしないそれを無理やり呑み込むために水を飲んだ。
というか、水で流し込んだ、と言った方がいいかもしれない。
初めて食べた時は、やっぱり非常食はまずいなぁ、程度の感想だったんだよな。
でもさ、それが3食続くともう駄目だ。
昨日はこの世界に到着したばかりだから昼夜が非常食だったというのは仕方なかったとしても、さすがに今日も朝からこれだとがっかりどころかやる気もなくなるよ。
旨いものが食いたい! 旨くなくても非常食以外が食いたいっ! っていう欲望がこみ上げてくるわけだ。
なのに、俺は今も非常食をかじっている。
なんでだ?
俺は目の前で俺の魔力を使ってナタを作るためにスクリーンを操作しているスミレを見下ろした。
「なぁ、スミレ」
「はい、コータ様、なんでしょう?」
「俺、もう少しマシなもんが食いたい」
「マシなもの、とは?」
「だからさ〜、この非常食じゃなくってさ、もっとちゃんとしたご飯が食べたい。これ、不味くてもうヤダ」
なんか駄々っ子のような事を言っている自覚はある。
それでももう嫌なものは嫌なのだ。
「でもそれは神様がコータ様のために用意したものですよ。1日3個食べればその日に必要なカロリーやミネラルを摂取できると聞いていますけど?」
「うん・・・そうだろうな〜、栄養素は摂れるだろうな〜。でもさ、不味いわけだ。どーーーーーーーーーしても仕方ないっていう状況なら我慢する。でもそうじゃないなら旨いものが食いたい」
「はぁ・・・・それより、ナタが完成しましたよ」
スミレにはどうして俺が嫌がっているのか理解できないようだ。
まぁ彼女は俺のスキルだから食事は必要ないわけだしな。
「なぁ、ちょっとその辺、うろうろしてきていいか?」
「うろうろって、何をするんですか?」
「木の実とかなんか食べれそうなものを拾ってくる」
「そうですね・・・でもあまり遠くに行かないでくださいね。それからその場で食べずに持ち帰ってください。私が食べても大丈夫かどうかを調べますから」
「オッケー」
やった!
スミレの許可が出たので、俺はスキルを閉じて立ち上がった。
さてさて何があるかな〜〜。
昨日のうちに作った皮の袋にとにかく目に止まる食べれそうなものを突っ込んでいく。
どんぐりみたいな木の実、食べれそうに見えるキノコ、それにラズベリーっぽい実。時々ウサギを見かけたけど、足が早くてあっという間に茂みに逃げ込んでしまうから、本当に見かけただけだった。
量的には明日の分くらいまではあるだろう、というほど集まったところで、俺はテントが張ってある場所まで戻ってきた。
それからテントの前に広げたままだった皮でできた敷物の上に座ると、早速スミレを呼び出す事にした。
「多次元プリンター・スクリーン、オープン」
音はしないものの、すぐに目の前にスクリーンが現れる。
俺はスクリーンのメニューからスキルという文字に触れると、スクリーンからスミレが飛び出してきた。
「おかえりなさい、コータ様」
「ただいま、スミレ」
早速俺は皮の袋をひっくり返すようにして中身を敷物の上にぶちまける。
「いろいろなものをみつけられたんですね」
「うん、この森、いろいろなものがあったよ。ウサギも見つけたけど逃げ足が早くって、あっという間に逃げられた」
「それは仕方ないですよ。向こうも命懸けですからね」
「そりゃそうだよな」
ニコニコと持ってきた戦利品を見せびらかしている俺に、スミレが相槌を打ってくれる。
なんかそれだけで嬉しくなってしまう。
「それでは早速調べますね。スキャン・・・・」
右手をあげてたスミレはそのまま目の前の戦利品に向けて手を下ろして横に動かしていく。
その彼女の手の動きに合わせて、ほんのりとした光がスミレの手の動きに合わせて横に移動していく。
なんていうか、コピーマシンの光の線が動いているって感じ?
「はい、スキャン、終わりました」
「もう、じゃあ、食べていい?」
「食べられるものを教えますので、それ以外は捨ててくださいね」
「うん」
「では、それは食べれます。そちらはダメです。こちらもダメです。あれは大丈夫です。それから・・・」
なんてこった・・・持って帰ってきたものの4分の3は食べられないものだった。
「えぇ・・・これ、うまそうだよ」
「お腹を下してもいいのであればどうぞ。その半分でも食べると3日間は下痢が治りませんよ」
「えっ・・・じゃあさ、あれは?」
「そちらのキノコは幻覚を見ますよ。幻覚を見たついでに歩き回って結界から出ちゃうと、そのまま魔獣の餌になるかもしれませんけど、いいんですか?」
「それは・・・うぅぅぅぅぅっっっ・・・・・」
俺のわずかな抵抗はスミレの言葉に次々と撃ち落とされていく。
がっくりと両手両膝をついたorzのポーズになる俺は、大きく溜め息を零してから諦めてスミレにダメ出しされた戦利品を結界の向こうに捨てに行く。
スミレが一緒に探しに行く事ができればよかったのだが、なんでもレベル1だとスキルを展開した場所から移動はできないらしい。
レベルが2に上がったら3時間くらいの間は、スキルを展開したまま森の中を歩けるようになるそうだ。
それまでは1人で食べ物を探し回って、スミレに駄目出しを食らう事になりそうだ。
さて、神様が俺のために張ってくれた結界は主に森の中だったようで、テントから10メートルほどのところにうっすらとだが結界が見える。
俺だけは結界を出たり入ったりできるらしいが、それでも心配だから俺は結界の境界線に立ってそこからダメ出しを食らった戦利品を投げ捨てた。
それから元の位置に戻って、ラズベリーっぽい実を口に入れる。
「うぉっ、酸っぱ」
もっと甘いものを期待していたのだが、思ったより酸っぱい。でも、なんの味もしない非常食に比べれば旨く感じるのだから不思議だよな。
「こっちのキノコは、どうやって食べたらいい?」
「そうですね・・・焼き網を作りますか?」
「でも火は?」
「小さな竃を作っちゃいましょう。そこに火種を作って入れればなんとかなりますよ」
「・・・よく判らないけど、スミレが作れるって言うんだったら任せるよ」
俺のスキルのレベルが低いせいか、何が作れるのかもよく判らないんだよな。
では、と言ってラズベリーもどきを食べている俺の横で、早速スミレがいろいろなものを作り始める。
スミレが言っていた竃はどう見ても七輪だった。そこに作った炭を入れると、今度は作ったマッチをよこしてくる。
「・・・マッチ?」
こんなもんで火がつくのか?
「炭に液体燃料が付与されていますから、すぐにつきますよ」
「はぁ・・・」
なんでもありなんだな、と思いながらも言われるままにマッチで熾した火を炭に近づけると、スミレの言う通りあっという間に火がついた。
ててれてってれ〜〜〜
「あれ?」
なんか気の抜けたような聞き覚えのある音が頭に響いた。
するとスミレが嬉しそうに凄い勢いで俺の顔の前に飛んできた。
「レベルアップしましたね」
「えっ、今のがそうなんだ?」
「はい、これで作れるものの幅が広がりました」
「へぇ〜〜」
そういや俺のスキルにもレベルがあるんだったなぁ、と今更ながらに思い出す。
「あのさ、スミレ」
「はい、なんでしょう?」
「俺、あんまりよくスキルのレベルっていうのが判ってないんだよな。だから、ちょっとレベルアップしたらどうなるのか、って説明してくれない?」
「いいですよ。そういえば、その辺りの説明をまだしていませんでしたね」
申し訳ありません、と済まなさそうに謝るスミレに、俺は顔の前で左右に手を振って気にするなと言う。
「それでは、説明をさせてもらいますね。スキルにはレベルが1から5までの5段階があります。もちろんスキルによってその段階も違ってきますが、コータ様の場合は--」
それから30分ほどかけて、すっごい長い説明を受けた。
あんまり長いから途中で何度も聞き直したほどだ。
で、俺が理解したのはこういう事だ。
まず俺のスキルの名称は、『多次元プリンター』。
それはサーチ、プランニング、カスタム、メイキング、セーブ、アップデートの6つで構成されている。
それらはレベルが上がるに連れて、できる範囲も能力も上がっていくってわけだ。
レベル1では、作れるものの大きさは1立方メートルまで、使える材料は1つのものに対して5種までで、魔力を使って材料を作り出す事になるので、それでも材料は5種類まで。立方メートルだから、薄っぺらいものだとかなりでかいものが作れるから、今使っているテントも問題なく作れたって事だよな。
ただレベルが低いため、一定の場所でスキルをオープンさせたらその場所を離れられなくなるらしい。
レベル2では、作れるものの大きさは2立方メートルまで、使える材料は1つのものに対して10種までだが、単純構造なら中身を空洞にできる。つまりパイプとかが作れるようになるらしい。
このレベルだとスキルを少しの間(スミレの話だと3−4時間くらい?)は展開したままで、移動する事もできるそうだ。なので何か材料が必要になった時にスミレが一緒に来て手助けをする事ができるらしい。
しかもスキャンや探索もできるようになるので、目的のものを探す手間が減るって訳だ。
レベル3では、作れるものの大きさは5立方メートルまで、使える材料は1つのものに対して20種までになる。ここまでレベルが上がれば、単純構造なら中身を複雑化できる。まぁオルゴールの中身が作れるようになるって程度の複雑構造が可能だとスミレが言ってた。
しかもこのレベルになると、俺的にはでっかいボーナスが貰えるのだ。
なんとスキルを常時展開する事が可能になり、それによってスクリーンをオープンしていなくてもスミレがいつでも出て来れるようになる。つまり、いつでもスミレがそばにいて俺の手助けをしてくれるって事だ。
これは俺としてはほんっとうにありがたい話だ。できるだけ早くこのレベルにまであげたいところだよ。
まぁいつになるか判らんけどな。
さて、気を取り直してレベルの説明に戻ろう。
レベル4では、大きさ10立方メートルまで、使える材料は1つのものに対して40種までに増える。そのうえかなり高度な構造の内部の複雑化も可能になるらしい。どのくらい可能かスミレが説明してくれたけど、今1つよく判らなかった。そう言ったらスミレができない時は無理だと言う、と言ってくれた。
スミレ曰く、ラジオくらいの機械の内部構造はこのレベルで作れるようになるそうだ。
レベル5、これが最高レベルだ。ここまでくると大きさの制限はなし、限界突破ってやつだな。使える材料も規制がなくなっていくつでも使う事ができるらしい。もちろん材料全てを俺の魔力で作り出す事もできるんだけど、さすがにそれをすると魔力切れで倒れるかもしれない、らしい。
このレベルまでいくと、テレビやスマフォなんかも作れるんだとか。まぁ作っても電波の何もないから動かないので意味はない、と言われてしまったが・・・
でもさ、つまり将来どこかに居を定めて俺ん家の屋根に電波を発信するタワーみたいなのを作れば、そこから電波が届く範囲であれば電話は使えるって事だよな。
そう聞いたらスミレは、できるけれど作る意味はあるのですか、って冷たく言った。ま、その通りなんだけどさ。
制限が無いっていうのはプラスだよ。俺ののんびり趣味生活ができるようになるって事だから、なんとかそこまでレベルアップしないとな。
というのが、俺の多次元プリンターの能力らしい。
他にもレベルが上がれば上がるほどできる事が増えてくるらしいが、その時になればまたスミレが説明してくれるらしい。
「多分、判ったと思う。でも勘違いとかもあると思うから、間違えてたらスミレが教えてくれるんだろ?」
「もちろんです。できるものとできないものは私が把握していますから」
「じゃあ、任せるよ。頑張っていつでもスミレにいてもらえるようにしないとな」
「はいっっ!」
元気よく返事をしたスミレは、そのまま俺の顔の前からスクリーンに方に移動したかと思うと、にっこりとそれはそれはとてもいい笑顔を浮かべた。
「それでは早速スキルレベルを上げるために頑張っていろいろなものを作りましょう」
えっ、そうくるんだ・・・・・・・
「ま、まぁ、その前に、食べさせてくれよ」
「はい、待ってます」
いい笑顔のスミレは待つと言ったけれど、それさえもプレッシャーに感じた俺は慌てて食べ始めたのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。