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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 草原に行こう
87/345

86.

 4日ぶりの都市ケートン。

 最初の予定では1泊2日、長くても2泊3日だったんだよな。

 なのになぜか結局は3泊4日になってしまった。

 まあ予定なんていうもんはそんなもんだよ、うん。

 初めて来た時と同様にそこそこ長い列に並んでから中に入れてもらうと、俺たちはそのまま依頼主のところに向かう。

 ハリソン村に行くまでは常時依頼しか受けた事がなかったから、依頼されたものはギルドに持って行くんだとばかり思ってたんだけど、依頼にはギルドに持って行くものと依頼者のところに持って行くものの2種類がある事をずっと知らないままだった。

 今回のゴンドランドの羽は依頼主のところに持って行く事になっている。

 俺たちはギルドの依頼票に添付されていた地図を頼りに依頼主の店に向かう。

 店は蒼のダリア亭と同じ通りにあるとかで、パンジーの引き車を連れていてもいい区画だ。

 なのでミリーはパンジーの御者台に乗せ、俺はその横を従者のように歩いて行く。

 「コータ、まだ?」

 「もうすぐの筈だよ」

 「けっこう、遠い?」

 「ん〜、こんなもんじゃないのか? スミレ、もうそろそろだよな?」

 もらっていた地図に目を落とすけど、縮尺が判らないからはっきりと返事ができない。

 『はい、あと5分も歩けば着くと思います』

 「って事だ。もうちょっと我慢だな」

 「わかった」

 依頼主はハーマンという名前の土建屋で、都市ケートンの中流階級ではそれなりに名前が売れている建築家が経営しているんだと教えてもらっている。

 ハンマーと釘の意匠の大きな看板が目印だと言われているので、それを目で探しながらパンジーの手綱を左手で持ちながら歩く。

 「コータ、あれ」

 「あれって、どれだ?」

 「ほら、あそこ」

 ミリーが右手で指差す方向を見るけど、俺には看板なんか見えないぞ?

 『コータ様、通りの左手の奥に看板が見えませんか?』

 「通りの左手の奥の方ねえ・・・」

 言われて左側を建物に沿って見ていると、遠くに看板が出ているのは見える。

 「看板は見つけたけど、あれにハンマーと釘の絵が描かれてるのか?」

 「うん。おっきな、ハンマー。下の方に、釘が3本描かれてる」

 「そ、そうか・・・俺にはさっぱりだけど、ミリーがいうんならまちがいないな、うん」

 釘が3本ってところまで見えんのかよ。

 『獣人は目がいいですからね。ミリーちゃんには細部まで見えているんでしょうね』

 「みたいだな。すごいよなあ、ミリーって」

 『コータ様にはまだ見えませんか?』

 「まったく見えないよ。看板があるって事だけは判るけどさ」

 『身体能力アップの筈ですけどね』

 まあな、神様(カー⚪︎ルおじさん)曰く、身体能力アップらしいけど、さすがにそこまで規格外じゃないって事だな。

 「で、どの羽を売るのか決めたのか?」

 「うん、それぞれ、4枚ずつ」

 パンジーの窓を作るために3色を1枚ずつ使っただけで、その1枚もまだまだ半分以上残っているんだよな。

 「色がついたやつを売るんじゃなかったっけ?」

 「いいの。もしかしたら、みゃたパンジーの、車にいるかもしれない。だから、1枚ずつ、手元に残すの。コータ、それでもいい?」

 「まあミリーがそれでいいんだったら構わないぞ」

 「うん。それで、いい。車の窓、きれい」

 「そうだな。ミリーのデザインが良かったんだよ」

 「そう、かな?」

 少し照れ臭そうにはにかみながらも、ミリーの尻尾はブンブンと揺れている。

 でも御者台の背中側にぶつかりまくってるんだけど、痛くないのかな?

 そんな事を話しているうちに俺にも看板のハンマーと釘の意匠が見えるようになり、あっという間に店の前に到着した。

 ありがたい事に引き車を停める場所もある。

 「スミレはここでパンジーと待っててくれよ」

 『判りました』

 「ミリーは中から羽を持ってこいよ? それとも手伝うか?」

 「だいじょぶ。ひとりで、できる」

 俺がパンジーの軛を確認しているうちに、ミリーはとっとと引き車のドアを開けて中に入る。

 「1人で大丈夫かな?」

 『大丈夫ですよ。ちゃんと1枚ずつ棚からおろしていますから』

 俺と違ってスミレには中の様子が見えているようだな。

 「けっこう大きな土建屋だなあ」

 『そうですね。この時間だと誰もいないかもしれないですよ?』

 「そうかな?」

 『仕事に出かけているかもしれませんから』

 「そう言われるとそうだな」

 確かにまだ日も高いから仕事場に出かけているかもしれないな。

 「ま、誰もいなかったらメモでも残しとけばいいよ」

 『そうですね。あっ、ミリーちゃんが出てきましたよ』

 スミレに言われて見ると、両手で羽を重ねて持っているミリーが出てきた。

 「それで全部?」

 「ううん、あと半分」

 「じゃあそのままそこで待ってな。残りは俺が持ってくる」

 「ありがと、コータ」

 クシャッとミリーの髪をかき混ぜてから俺は中に入る。どうやらさっき12枚の羽を棚から下ろしたみたいで、床に重ねて置いてあるのが見えた。

 それらを取り上げると俺そのまま外に出る。

 「スミレ、ドア閉めといて」

 『判りました』

 「んじゃ、ミリー、行くか」

 「うん」

 頷いたかと思うとそのままスタスタと歩き出したミリーのあとを追うようについていく。

 けど、両手は羽で埋まっているから、店のドアは俺が開けてやる。

 「こんにちは」

 開いたドアのところからミリーは中に声をかける。

 「誰か、来たよ」

 耳を澄ませてみたものの俺には何にも聞こえない。

 本当か? なんて思いながらミリーの後ろで待っていると、少しして足音が聞こえてきた。

 店の奥のドアが開いて、そこからひょろっと背の高い男が出てくる。

 この男が依頼主のハーマンか?

 「いらっしゃい」

 「こんにちは。依頼の羽、持ってきました」

 「お? お嬢ちゃんがゴンドランドを仕留めたのか?」

 「コータと一緒に、仕留めた、ました」

 いつものような口調になりかけて慌てて言い直すミリー。

 「じゃあカウンターの上に置いてくれるか?」

 「はい」

 「痛んでいたら駄目だぞ?」

 「だいじょぶ、どれもきれい」

 揶揄うような口調に、ミリーはムッとして言葉を返す。

 きっと揶揄われてるって気付いていないんだろうな。

 ミリーはそれでも言われた通りに両手で抱えていた羽をカウンターの上に置いてから俺を振り返る。

 その視線の意味をたがう事なく、俺も残りの羽をカウンターの上に置いた。

 「オレンジと緑・・・おっ、透明もあるんだな。いいのか?」

 「いい?」

 「透明は高く売れるぞ? これだったら3匹仕留めたんだろ? だったら色付きばかりを持ってきて、透明を別に売った方が金になるぞ?」

 「知ってる。でもいい」

 「いいのか」

 透明の羽を手にミリーに確認している男は、彼女の返事を聞いて破顔した。

 「そっかそっか。お嬢ちゃんは今時欲がないなあ」

 「よく?」

 「おまけに状態はすこぶる良い。これなら文句のつけようがないな」

 「文句、言わない?」

 「そうだな。綺麗に仕留められたみたいだな」

 羽の表面をそっと指先で撫でながらも検分するその目は鋭い。

 「依頼書、持ってきてるか?」

 「うん。コータ」

 「はいはい」

 依頼書にサインをもらわなければいけないので、ミリーは依頼書を持っている俺を振り返った。

 俺はポーチから依頼書を取り出すとミリーに手渡す。

 「はい、これ」

 「よし、ちょっと待ってな」

 依頼書を手に男は奥へ戻っていく。

 「コータ。依頼書、取られた」

 「ミリー、違うよ。多分依頼書にサインするために奥に行ったんだよ」

 不安そうに振り返るミリーを安心させるためにそう言ったけど、サインのためだと思いたいぞ。

 でもまあ羽はカウンターに置いたまんまだから、このままでてこないって事ないだろう、多分。

 それでもミリーは少し心配そうに、男が入っていったドアをじっと見つめている。

 「・・来た」

 待つ事ほんの数分だったけど、どうやら戻ってきたようだ。

 「待たせたな。ほい、これが依頼書だ。俺の名前はハーマンだ、ちゃんと俺の名前をサインしたぞ。それからこれはお嬢ちゃんにボーナスだ」

 「ぼーなす?」

 「おうよ。良い仕事してくれたからな、ギルドに依頼金は預けてあるが、これは頑張ってくれたお嬢ちゃんに特別手当だよ」

 ゴンドランドの羽の依頼は12枚で6000ドランだ。

 その金はギルドにサイン入りの依頼書を届ける時に貰える事になっている。

 けど彼は依頼書と一緒にミリーに大銀貨を1枚手渡した。

 って事は全部で7000ドランの依頼となる。でも1000ドランはさすがにもらいすぎな気がするぞ?

 「あの、いいんですか?」

 「あん? いいんだよ。透明なゴンドランドの羽は1枚につき250ドランくらい価値が上がるんだ。それが4枚分だから1000ドラン、ちょうどだろ?」

 って事は色付きの羽は1枚500ドランで透明は750ドランって事になる。

 黙ってたら判らないのに、ちゃんと差額をボーナスと言ってくれたのか。

 「ありがと、ございみゃした」

 「おうよ、これからもガンバって働けよ?」

 「うん」

 褒めてもらえて嬉しいのかミリーの尻尾が左右にひゅんひゅん揺れている。

 「俺んとこじゃあゴンドランドの羽はいつだって買い取るぞ? もし余ってたらいつでも持ってきな」

 「いつでも?」

 「おう。ここんところ忙しいからな。在庫がすっからかんになっちまったんだ。それで慌ててギルドに頼んだんだよ」

 「窓に、使う?」

 「窓だけじゃねえぞ? 俺んとこは土建屋だけどな、ついでに内装もするんだ。そん時に部屋に合ったランプシェードを作ったり、シャンデリアなんかも作るからな。だから色はなんでもいいんだよ。とにかく在庫を揃えねえ事にはしごとにならねえからな」

 ガハハっと豪快に笑う。

 見た目がひょろっとしているからか、豪快に笑う姿に違和感があるぞ。

 「まあ、余ったゴンドランドの羽があったらいつでも持ってこい。こんなに状態が良いやつならいつだって買い取ってやる」

 「ありがとうございました」

 「ありがと、ございみゃした」

 俺が頭を下げると、ミリーはそれを見て同じように頭を下げる。

 「いつでも来いよ」

 「羽があったら、来る。いいよね?」

 「うん、そうだな」

 ゴンドランドを仕留める機会があるかどうかは判らないけど、その時はまたここに持ってきてハーマンさんに買って貰えばいい。

 買い取ってもらえる場所があるっていうのはありがたいもんな。

 俺たちはもう1度頭を下げて礼を言ってから、店をでたのだった。

 






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 02/23/2017 @21:56CT 変換ミスのご指摘をいただきました。ありがとうございます。

東名を別に → 透明を別に = 高速じゃないんだから、とツッコミを入れながら訂正しました。

書いとるぞ → 買い取るぞ

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