84.
「どうだ?」
「カッコイイ、よ」
「ポポポポポポポポッッ」
腰に手を当てて偉そうに振り返る俺にミリーは笑顔で、パンジーはひときわ甲高い声で答えてくれた。
どうやらどちらも気に入ってくれたようだ。
今までの引き車に比べると1回りほど大きくなったものの、タイヤ付きの車輪とサスペンション、それに引き車の底の部分に刻まれた重量軽減の魔法陣のおかげで、パンジーにとって今までよりも数段引きやすくなったと自信を持っている。
タイヤは車輪にウサギの毛皮を毛がついたまま合成してチューブを作り、その中にアメーバを詰め込んだ。
スミレの話ではアメーバは外気に触れるとそこから硬化するらしく、ウサギの皮に穴が開いたとしても外気に触れた場所が硬化するのでそれ以上漏れる事はないそうだ。おまけに毛皮から染み出した少量のアメーバは、毛皮ごと硬化して更なる厚みを増やす事で穴が開きにくくなっているのだとか。
元の世界にこんなタイヤがあったら、きっとバカ売れだよな、うん。
今俺とミリーは新しい引き車の側面の前に立っている。
向かって左側はパンジーを繋ぐ先頭部分で幌屋根がついた御者台が見える。
今までの引き車は後ろ部分からの出入りだったんだけど、サイドアウト形式を取り入れたので新しい引き車は側面に出入りするための扉が付いている。
俺はミリーを促して側面にあるドアを開けて中を見せた。
「中は、そんなに、広くない?」
「い〜や、それが広くなるんだよ。ほら、ここにボタンがあるだろ? それを押せば奥行きが倍くらいになるんだよ」
「ボタン?」
「おうよ、この丸いのがボタンって言うんだよ。これ魔石を使っているからさ、こうやって押すだけで勝手に動いて広がってくれるんだ、すごいだろ〜」
俺はミリーの手をとって、入り口の扉の横につけられたボタンを押させる。
「コータっ、かべ、動いたっ」
「止まるまで中に入んなよ? 危ないかもしれないからな」
床が広がるだけだから危ないって事はないと思うけど、念のために注意しておくに越した事はないだろう。
まあ危ないとすれば広がった部分が戻ってくる時だろうけどな。その時は絶対に外に出ているように言っておこう。もしかしたら足を挟むかもしれないからさ。
「止みゃった?」
「もう中に入ってもいいぞ」
ピョンっと音がするような勢いで扉から中に飛び込むと、ミリーはそのまま一番奥まで一気に突進していく。
それから中をキョロキョロと見回している姿が可愛い。
「思ったより広いな」
『そうですか? 予定通りの広さですよ?』
「今までが狭かったから広く感じるのかもな」
なんせ今まではこの半分の広さだったもんな。
でもさ、この引き車を作った時はそれで十分だと思ってたんだよ、あの時は俺1人だったからなぁ。
「広いね。これならコータのお布団、ここに敷ける?」
「そうだな、これからは外で寝なくてもいいな」
「これから一緒? 嬉しいっっ」
ミリーに返事をしながら俺も中に入って壁周りを見回す。
天井部分から50センチ入って右側、つまり一番後ろの部分は全面ドア付きの棚にしてあるから、そこに俺のポーチから取り出した普段から使うようなものを入れておく。
御者台の真後ろの部分は小さなドアが付いていて、そこから出入りできるようにしてある。
とはいっても自由に出入りできるのはミリーくらいなもので、俺はかがんで膝をついての出入りになるんだけどさ。
でもまあ、それでも雨の日なんかだったら便利だろうと思う。
「そうそう、これからは床に布団を敷いて寝ないんだぞ?」
「布団なしで、寝るの?」
「い〜や、備え付けのベッドで寝るんだぞ」
「ベッド・・・? ないよ?」
ベッドと言われて中をキョロキョロと見回すミリーを見て、俺は思わず笑ってしまう。
確かにパッと見ただけじゃベッドなんてないもんな。
そんなミリーを見て、俺と同じようにスミレがクスクス笑っている。
「ほら、これがベッドだよ」
「それ、かべ、だよ?」
「だからさ、ほら、そこのボタンを押してみな。でもそこから動くなよ」
ミリーが言う壁の真ん中部分には左右にボタンが2つ並んでいて、そのうちの左側のボタンを押させてみる。
すると今まで飛び出した壁だと思っていた部分がゆっくりと動いて折りたたみ式になっていたベッドが出てくる。
「ベッド・・・」
「すごいだろ〜。これなら邪魔にならないだろ?」
これも引き車の幅を広げる事ができたから取り付ける事ができたんだよな。
とはいえ今目の前にあるベッドはマットレスとシーツだけだ。
俺はしゃがみ込んでベッドの下部分の引き出しを引っ張る。
「ベッドの下は引き出しになってるから、その中に入っている掛け布団をだせばベッドの出来上がりだ」
言いながらも掛け布団を出してベッドの上に広げてみせる。
するととても立派なベッドができた。おまけに頭のところにはあまり大きくないけど、ゴンドランドの羽を使って作られた窓がある。これは俺のベッド側にも付いている。いちおう開け閉めはできるようにしてあるので、風通しもいいはずだよ。
「その窓は開けられるぞ」
「窓、開けるの?」
「暑い時は開けると涼しい風が入るぞ」
「今?」
「今は暑くないだろ」
ベッドに上がって窓に手を伸ばすミリーは、そっとステンドグラスのように透明な羽の上にオレンジ色の羽を使って描かれた六芒星を指で撫でる。
俺の方の窓には透明な羽の上に緑の羽を使って同じような六芒星が描かれている。
本当はベッドを下ろさなくても窓を開けられるようにしたかったんだけど、機能性重視したらこんな形になったんだよな。
窓を開ける事はできなくても六芒星を指で撫でた事で納得したのか、ミリーはベッドから降りてから改めてベッドをじっと見る。
「ほら、これで今夜の寝床は準備オッケーだな」
「コータ、すごい、よ?」
「これはミリーのベッドだよ。俺のベッドはもう1つの方だよ」
「ボタン、押す?」
「今はいいよ」
ワクワクした顔で俺を見上げてきたけど、ボタンを押せなかったのが残念なのかガッカリしている。
もろにそれが顔に出ているので思わず吹き出してしまった。
でもさ、今からベッドを2つも出すと邪魔になるんだよな。
ミリーのベッドは後ろの棚側で、俺のベッドは御者台側だ。
その方が何かあった時、すぐに出入り口と御者台にあるドアの両方から外に出る事ができるからだ。
とはいえ、あまりにもガッカリしているミリーが可哀そうだな。
「ミリー、今はベッドは出さなくてもいいだろ? その代わり、さっき押したボタンの上にある別のボタンを押してみるか?」
「これ?
「うん、押してみろ」
「わかった」
ドアに近づいてきたミリーがそのまま俺がいったボタンを押すと、ドアのある側面いっぱいの長さのシェードがゆっくりと外側に向かって伸びていく。
「やね・・・?」
「うん、まあ屋根って言うほどの物じゃないんだけどさ、これなら外でご飯を作る時に雨が降っても濡れずに済むだろ?」
「やね・・・」
ミリーはゆっくりと広がっていくシェードの動きに気を取られて俺の話なんか聞いていないみたいだな。
シェードは引き車から3メートルほど突き出たところで止まる。
止まったのを確認してから、俺はすぐに支えの棒を地面に立てる。
これで少々の風くらいでは吹き飛ばされる事もないだろう。
「このまま出しておくか」
「いいの?」
「どうせ今夜はここに泊まるんだから、またシェードを出すよりはこのままでいいよ。でもま、ついでにコンロも作るか?」
「こんろ? わたしもご飯、作れる?」
昨日の話を覚えていたミリーは期待で目をキラキラさせて聞いてくる。
「そうだな。コンロだったらミリーでもヤケドの心配はないかな。どう思う、スミレ?」
『使い方をちゃんと教えれば竃よりも安全だと思いますよ』
「だな。じゃあ、コンロができたら今夜からミリーにもご飯作りに参加してもらうか?」
「うんっ」
自分も手伝えると聞いて、更にテンションが上がったミリー。
「スミレ、コンロを作る材料はあるか?」
『はい、十分ですよ』
「魔石は・・・って、あれだけ集めたんだもんな」
178個って言ってたっけ?
確かパンジーの引き車に50個くらい使ってるけど、まだまだ余裕だな。
「どんなコンロを作る?」
『ミリーちゃんでも簡単に使えるようなものですよ。もちろん今のコータ様のレベルで作れるものは簡単な構造の物になりますからね』
「判ってるって。俺が思ってるのは電気コンロの魔石版なんだ」
電気コンロなら表面は平べったいから吹きこぼしてもすぐに綺麗にできるし、間違って触っても熱くないからミリーでも火傷の心配はない。
そりゃ沸騰している鍋に触れば火傷はするかもしれないけど、そこまで心配していたらミリーに手伝いは頼めないもんな。
「コンロの数は4口。手前が大きいの2つで奥にちいさいのを2つでいいか。そうだ、ついでにコンロの下にオーブンもつけよう」
コンロだけなら小さいから台を作ればいいかなんて思っていたんだけど、ついでだからオーブンもつけてしまえば焼き物も作れるな。
これなら別に台を作る必要もないか。ま、その分重くなるけど十分だよ。
これも上手くいけば、生産ギルドに持って行って特許をとってしまおう。
俺はスクリーンを操作しながら魔石コンロの設計図を作り上げていく。
『コータ様、ちょっとミリーちゃんには高すぎませんか?』
「そうだな。でもさ、あんまり低いと俺が料理しにくいよ。それにできれば生産ギルドに持って行って登録したいからさ、一般的な高さのコンロに仕上げたいんだ」
「コータ、わたし、料理、できないの?」
「えっ? いやいや、ちゃんとミリーも料理できるようにするよ。ほら、踏み台を作ればいいだろ? コンロの前に踏み台をおけばミリーだって届くようになるよ」
『危ないですよ?』
「そんな事ないだろ? 大体ミリー1人だけでやらせる訳じゃないんだからさ。俺やスミレも傍にいるんだから」
あんまり心配して何もさせないでいると、大きくなってから困ると思うもんな。
「あ〜、チクショー。キャンピングカーみたいに中に備え付けのキッチンが欲しいなあ」
それだったらもっと凝ったものが作れるのに、と思うものの、今の広さにキッチン部分を取られるとベッドを2つなんて備えられないもんな。
「スミレ、空間魔法の魔法陣って作れないのか?」
『無茶言わないでください。今の私のレベルでそこまでの魔法陣が書ける筈ないですよ』
「・・・って事は、レベルが5になればできるのか?」
『おそらくは、ですけどね』
「判んないのか?」
「レベルが上がらないと得る事ができない知識というのものあるんですよ。今までにもレベルが上がって初めて使用できるようになった知識とかありましたよね?」
忘れたのか、と睨みつけられて俺はうんうんと頷いた。
スミレの目には肯定以外は受け付けないと書かれている。
だから俺は彼女の望む答えとして頭を縦に振ったのだ。
ま、言われてそういう話をしたなあって思い出したんだけどさ。
「できるようになるといいなあ。できたらまたすぐにパンジーの引き車の大改造をしような」
「何ができる?」
「今は外でご飯を作ってるだろ? もしかしたらスミレがもっと凄くなって引き車の中でご飯を作れるようになるかもしれないんだよ」
「ほんとに?」
期待して見上げるミリーの前で、スミレはパタパタと手を左右に振った。
『コータ様っ。ミリーちゃん、コータ様の話を鵜呑みにしないでくださいね。できるかどうかも判らないんですから』
「だから、なるかもしれない、って言っただろ? 俺はできるって断言してないぞ?」
「スミレなら、できるよ? だって、スミレ、すごいもん」
『ミリーちゃん・・・それはコータ様次第ですよ。私だけじゃ無理なんです』
「そうなの? じゃあ、コータが、頑張る」
「おいおい、なんで俺に振るんだよ」
せっかく責任をスミレに押し付けたのにさ。
「もしスミレが空間魔法の魔法陣を描けるようになってたら、ミリー用の魔法ポーチを作りたいな」
「わたしの、ポーチ? コータみたいなの?」
「うん。でもミリーだったらポーチじゃなくてリュックサックがいいかな? スミレに可愛い生地を作ってもらって、なんでも入れられるリュックサックを作ってもらいたいな」
「うんっ、スミレ、リュックサック、欲しい、よ?」
ミリーはリュックサックがどんなものか知らないくせに、欲しいとスミレに強請ってるぞ。
そんなところもミリーらしくて可愛いけどさ。
『コータ様ぁ・・・・』
「うん、だからさ、できるようになったら、って言っただろ? ミリーもスミレにだってできる事とできない事があるんだから、できなくても文句は言うなよ?」
「うん。わかってる。わたしも、あんまりできない、だから無理は、言わない」
神妙な顔で頷くミリーを困ったような顔で見下ろしているスミレの2人を順番に見てから、俺はパンパンと手を叩いた。
「まあいいや。とりあえず今は魔石コンロを作ろうな」
「こんろ、楽しみ」
「そうだな」
そろそろ暗くなる時間だ。
早くコンロを作らないとまた竃って事になるもんな。
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Edited 05/05/2017 @ 16:27CT 誤字のご指摘をいただいたので訂正しましたありがとうございました。
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