83.
スミレに冷たい目で見られたものの、そのあとはちゃんと朝食を作ってミリーと一緒に食べた。
お腹もくちくなり、食後のお茶も飲み終えたところで俺はスクリーンを呼び出した。
「コータ、パンジーの引き車、作る?」
「うん。材料は一通り集まった筈だからさ」
まあ、量は足りてないかもしれないが、その時は俺の魔力を使うとスミレが宣言していたからな。
そういや昨夜、スライムボールと遭遇してから殲滅するまでにスミレはずっと結界を展開していたし、俺のパチンコ玉やミリーの矢に魔法陣を刻んだりそれらを作ったりで結構魔力を使ってる筈なんだよな。
だからあんなに疲れてたのかな?
「そういや昨日あんなに眠かったのって、スミレが俺の魔力を使ったからかな?」
『それもあると思いますよ。コータ様の魔力を半分近く使いましたから』
「そっか」
別に俺が軟弱だったって訳じゃないって事だな。
それを聞いてちょっと安心したよ。
だってさ俺1人だけが疲れてたら、俺はまだ子供であるミリーよりも体力がないって事になるもんな。
『でも一番は慣れない戦闘のせいで気疲れしていたからでしょうね』
「そうかな?」
『日中はゴンドランドを仕留めるのに緊張されたでしょうし、沼地では予想外のスライムボールとの遭遇となりましたからね。慣れない事が続いたせいだと思いますよ』
慣れないっていうか、経験がさっぱりないからだと思うぞ?
「ミリーは? 疲れは取れたか?」
「わたし? 疲れてないよ?」
「そうか? だったらいいんだけどさ。でも今朝はよく寝てただろ? やっぱり疲れてからじゃないかな?」
「んんん・・・そ、かな?」
頭を捻って俺の言葉を考えてから、ミリーはよく判ってないと言うような返事をする。
ま、よく寝れたんならそれが一番だよ。
「そういやさ、スミレ、結局スライムボールから何個の魔石が取れたんだ?」
『178個ですね』
「マジかよ・・・・それだけの矢とパチンコ玉を使ったって事かよ」
『使用した矢とパチンコ玉は253です。視界が暗くて悪かったという事もあったでしょうね』
「全部回収したんだよな?」
『もちろんです』
そりゃそうか、昨日のあの会話の後でその場に残してきているなんて事はないよな。
それにしても178個かあ。道理で疲れたと思ったよ。
まあ一晩寝たから、結構回復してきてはいるんだけどさ。
「んじゃそれだけ魔石があればいろいろできるな」
『そうですね』
「んじゃパンジーの引き車にもいろいろと使えるって事か。いくつか手動のものも考えてたけど、その辺は全部自動にしてしまえばいっか」
その方が俺も楽チンだからな。
そんなグータラな事を考えながら、俺はセーブされたデータの中からパンジーの引き車大改造計画作成図を選ぶとそれに指で触れる。
「これってちょっと複雑すぎるかな。どう思う、スミレ?」
『大丈夫ですよ。全てを1度に作り上げる訳ではありませんから。それぞれのパーツ単位で作り上げればいいだけですから』
「そうなのか? だったらさ、なんでもできるって事じゃね?」
『いいえ、無理ですね』
「なんで? だってさ、複雑なものでも小さなパーツにすれば作れるような気がするけどさ」
違うのか?
『確かに小さなパーツで作れば、大抵のものは作れると思いますよ。でもですね、そのパーツの数が100個以下ならば、の話です。パーツの数が増えれば増えるほど作業は複雑化してきますし、作られたパーツを組み上げて更にパーツを作るとなるととんでもない作業量になります。例えばそうですね・・・車を作ろうとするとパーツの数だけでも凄い数になりますよね。そこまでの数になると私が組み立てる事はできませんから、コータ様がご自身で組み立てる事になりますけどできますか?』
「えっ? でもさ、スミレってスキルで作ったものなら動かせるんだろ?」
『はい、動かせますね。ですがその数が問題なんですよ。私が一度に動かす事ができる数はレベルによって限られていますので、今のレベル4では100個までです。ですが車を作るとなると100個程度のパーツを動かすだけでは作れませんよ。というのも100個のパーツを集めて新しく作ったパーツは、1個と数えるのではなく100個のままですから』
ああ、そっか、そこがネックなんだな。
今作れる複雑なものっていうのは100個以下のパーツの組み合わせって事なのか。
じゃあ100個使ったパーツに1つ付け足すって事ができないって事か。
「んじゃ、今まで作ってきたものって、全部100個以下のものって事か」
『はい、そうなります。あっ、でも材料とはまた別ですよ? 材料はいくつでも組み合わせられますからね。ただ、作り上げたものを100個以上動かしてものを組み上げるという事ができない、という事なんです』
「あれ、じゃあさ、パンジーの引き車は・・・」
『気がつかれましたか? 作業の手順はきちんと指示しますから頑張ってくださいね』
「マジかよ・・・・」
なんかさ、スミレにしてやられた気分になったのは仕方ないよな・・・うん。
最初にしたのはパンジーを引き車から離す事だった。
これが意外と大変だったんだよ。
パンジーにとって、この引き車は彼女のものという認識だったんだよ。
宿に泊まる時はおとなしく厩舎に連れて行かれていたから思いもしなかったんだけどさ、こんな場所だと引き車から離れるのも嫌だ、と言わんばかりの抵抗を受けた。
「ほら、パンジー。大丈夫だよ。新しいのを作るだけだからさ、な」
「ポポポポポポッッ」
「誰も取らないって。もっと引いててかっこいい車になるんだぞ。いいだろ?」
「ポポポッッッ」
ぐいっと手綱を引いてもパンジーは俺が引っ張る方向に移動してくれない。
どうすりゃいいんだよ。
『そういえば、ヒッポリアは自分の車を定めたらそこから離れたがらないって聞きましたね』
「うん、そういやそんな話、聞いた記憶があるなあ」
『どうしましょう? パンジーちゃんがいても分解できないわけじゃあないんですけど、でもなんらかの手違いがないとも限らないですからねぇ』
「いや、スミレ。俺は分解されたパンジーは見たくないぞ?」
手違いで解体されたパンジーか?
それってグロいの一言に尽きると思うぞ?
『ですから、それは本当に低い確率なんです』
「いやいやいやいや、確率が低くてもやるなよ? その低い確率が当たらないとも限らないんだからな」
現に俺だって、そのくらいの確率で神様のせいで事故って今ここにいるんだぞ?
「コータ、わたしが試して、いい?」
「ミリー? できるのか?」
「わからない。でも、もしかしたらできるかもしれないよ」
「そっか、んじゃ頼むよ」
ミリーは獣人だからもしかしたら俺よりはパンジーと意思の疎通ができるのかもしれない。
頷いた俺を見てから、ミリーはそのままパンジーの背中に乗った。
驚いたパンジーは一瞬体をブルッと震わせたが、飛び乗ってきたのがミリーだと気付いて落ち着いた。
「パンジー、だいじょうぶ、だよ? コータはパンジーの車、取らないよ。きれいにしてくれるって、言ってる」
「ポポポポポ」
「うん、そうだね。でも、新しい車は、もっとカッコイイよ」
そっとパンジーの首元を撫でながら話しかけるミリーを俺は少し離れた場所からじっと見守る。
「コータはパンジーの事、大事だから、新しいカッコイイの、作るんだって。よかったね」
「ポポー、ポポポ」
「じゃあ、離れてくれる? ここにいたら、カッコイイ車、できないよ」
パンジーは頭を左右に大きく振ってから、俺の方をじっと見た。
「ミリーの言う通りだよ。カッコイイ車を作るから待っててくれるかな」
「大丈夫、気に入らなかったら、作り直してくれるから」
「ミリーの言う通り、パンジーが気にいるように頑張るよ」
スミレが、だけどさ。
「ポポポ・・」
パンジーがミリーに引かれるまま引き車からゆっくりと離れて、ミリーと一緒に俺たちの後ろに陣取った。
『では始めますか』
「うん。まずは引き車を分解して材料にするところからだな」
『はい。では陣を展開します』
スミレがテキパキとスクリーンを操作して陣を展開すると、そのまま陣の真ん中にある引き車が淡い光に包まれて少しずつ光の粒子になってから、陣の外に板やら皮やらが積まれていく。
それを見てミリーと一緒に後ろにいるパンジーが小さくポポポと鳴いた。
『コータ様、忘れる前にアメーバを持ってきてもらえますか?』
「あ、そうだな。どこに置いたっけ?」
『竃の向こう側にありますよ』
地面に座り込んでいたからさ、竃が邪魔で見えなかったんだよ。
と自分に言い訳しながら、俺は立ち上がるとアメーバの入っているタライをえっちらおっちらと引き車の部品の並んでいるところに持っていく。
「ミリー、ウサギの毛皮使うよ」
「いいよ」
既にそういう話はしていたんだけど念のためにもう1度ミリーから了承を貰ってから、俺のポーチに入っているウサギの毛皮を全部取り出してタライの横に置いた。
そのそばには引き車の車輪がそのまま残って置かれている。
「あれ、車輪はそのまま?」
『はい、あれをベースに使うつもりです。その方が少し手順を減らす事ができますからね。あの車輪の輪の部分にタイヤの部分を装着する形になります』
「ふぅん」
『ただ分解した時に車輪も1度分解してから元の形に戻しました。そうしないと私が動かす事ができませんからね』
スミレが動かす事ができるのはスキルで作ったものだけだからな。
確かにそうしないと車輪を動かしながらタイヤを作っていく事はできないか。
でもさ、いくら鉄の車輪がベースになっているとはいえ、ウサギの毛皮とアメーバで作るタイヤ・・・う〜ん、全く想像できないなあ。
『終わりました。次は製作に入ります』
「どこから作るんだ?」
『下から順番に、と思っています。ですので、まずは車軸を組み上げてからそれにつけるタイヤを作ります』
おっ、タイヤを作るんだ。
『それからその上に載せる床部分を作ります。おそらく原型までの組み立ては私の方でできるのではないか、と思っています。ですのでそこから先はコータ様にお任せすることになりますね』
「ああ・・そうだな、うん、判ったよ」
いくら100のパーツを動かせることができるにしても、さすがに新しいパンジーの引き車はそれだけのパーツじゃあ納まらないのか。
力仕事、頑張るしかないなあ。
「コータ?」
「ん? なんだミリー?」
「なんかガッカリしてる?」
「あ〜、ちょっとな。スミレが全部できないから、手伝わないといけなんだよ」
「わたしも、手伝うよ?」
「そうか? じゃあ、一緒に頑張ろうな」
「うんっ」
肩を落としていると心配そうに声をかけてくれるミリー。
ホント、良い子だよな。
「パンジーも手伝うって言ってる」
「ポポッ、ヒポポポ」
ミリーの言葉に了承を示すようにすかさずパンジーが鳴き声をあげる。
パンジーの手伝いって、何ができるんだろうな?
「大きなものを動かす時にはパンジーにも手伝ってもらうよ」
「うん、パンジー、重くても、大丈夫」
「そうだな」
「ポポポポポ」
ミリーの言葉に返事をするヒッポリア。
どうやって意思の疎通ができてるのかさっぱりだけど、端から見ているとできてるように見えるんだよ。
きっとそれも獣人だから、なんだろうなあ。
俺は後ろでスミレの作業を一生懸命見ている1人と1頭を振り返り見て、思わず微笑ましくなってしまうのだった。
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