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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 草原に行こう
83/345

82.

 なんとかパンジーのところに戻って来れたのは、真夜中といってもいい時間帯だった。

 もうこれ以上何かをしようなんていう元気は残ってなかったから、とりあえず今夜はこのまま寝てしまう事にした。

 本当は今夜のうちにパンジーのタイヤを作ってそのまま引き車を大改造するつもりだったんだけど、とてもじゃないけどそんな元気は残っていなかった。

 「今夜はもう何もしないぞ。俺はもう寝る」

 『いいんですか?』

 「いいよ、明日の朝やるよ。終わらなかったら今夜もここに泊まればいいさ」

 「パンジーの車、作らないの?」

 頭を傾げて俺を見上げるミリーは、俺に比べるとまだまだ元気そうだ。

 なんか悔しいが、だからと言って無理をする気なんかこれっぽっちもない!

 「いいんだよ。もう疲れたから今夜は寝ような。パンジーの車は明日作ればいいよ」

 「でもコータ、そうすると、今夜も寝るの、外だよ?」

 「あと一晩くらい大丈夫さ。今までずっと外で寝てたんだからな」

 「そう?」

 自分だけが車の中で寝る事を申し訳なく思っているミリーの頭をポンポン叩いて、気にするなと伝えてやる。

 「明日の朝から頑張るよ。もう1日ここでのんびりしてても良いだろ?」

 「依頼、大丈夫、かな?」

 「うん、余裕あっただろ?」

 「でもご飯は? 3日分しか、買ってないよ?」

 「大丈夫だよ。3日分用意しようって言ったけどさ、都市ケートンに来るまでの旅の間の食料がまだ残ってるだろ? それにどうしてもって言うんだったら、明日ミリーが何か獲物を弓で獲ってくれたら良いよ」

 「・・・がんばる」

 ぐっと握りこぶしを作ってミリーは力強く頷く。その仕草が可愛くて、思わず笑みが浮かぶ。

 ミリーが持ってきた依頼の猶予はまだある。

 明日泊まっても十分間に合う。

 『ミリーちゃんもそれでいいですか?』

 「うん。コータがいいなら、それでいいよ」

 『良い子ですねぇ』

 しみじみと言いながら俺をチラッと振り返るスミレ。

 「スミレ、何か言いたい事があるんだったらはっきり言っていいぞ?」

 『いえいえ、特にありませんよ。それでは明日ですね』

 「おう」

 俺は疲れてんだよ。

 頼むから寝させてくれ。







 という事で翌日。

 まだ寝足りなくてボーッとした頭のまま竃の横に敷いていた布団から起き上がり、そのまま首をクキクキと動かして鳴らしてから周囲を見回した。

 『おはようございます』

 「おはよう、スミレ。今何時だ?」

 『今は7時を過ぎたところですね。コータ様の元の世界では8時半ちょっと前、といったところでしょうか』

 ああ、そういやこの世界って20時間だったっけ?

 なんかすっかり忘れてたよ。まあ時間の長さ的には24時間を20で割ったって感じらしいから、1日の長さは変わらないんだけどさ。

 「ミリーは?」

 『まだ寝てますよ』

 「やっぱりなんだかんだ言って疲れたんだろうな」

 『そうですね』

 引き車に視線を向けながら、俺はとりあえず朝食を作っておくか、と腰を上げた。

 服はパジャマ代わりのちょっとくたびれたシャツとズボンだが、さすがにこんな広々とした見晴らしの良い場所で着替える気にはならない。

 ミリーが起きてきたら引き車の中で着替えよう。

 俺は布団をポーチに仕舞うと、今度はポーチから朝食用のスープの具材を取り出す。

 と言っても都市ケートンに来る道中で集めた野草と、この前焼き鳥をした時に残ったブガラ鳥の胸肉だ。

 「そういやこっちに来てから、魚食ってないなぁ」

 『魚、ですか?』

 「うん。特に好きだったって訳じゃないんだけどさ、こう長い事食わなかった事ってなかったからさ」

 思い出すと途端に魚が食いたくなってきた。

 『昨夜行った場所のそばに池がある筈ですよ? そこで魚を捕まえますか?』

 「池ぇ? 池の魚はなあ・・いいよ。どうせ食べるんだったら海の魚がいいな」

 池の魚っていうとコイやフナくらいしか思いつかないけど、確か池や川の魚ってクセがあった筈だ。

 昔ばあちゃん家でフナ汁っていうのを食わせてもらった事があったけど、骨やウロコごとミンチにしたフナを使った汁物でさ、口の中に入れたら骨やウロコがゴロゴロしてて食い辛かったよ。

 おまけに魚臭さが倍増していて不味かったっていう記憶しかない。

 あれ以来、海の魚した食った事ないよ、俺。

 「大都市アリアナ行かないで、海目指そうか?」

 『海、ですか?』

 「あれ、この世界って海はないのか?」

 『いえ、ありますよ。でもかなり距離がありますからね』

 「遠いのかあ」

 『そうですね、日数的にはジャンダ村から大都市アリアナに行くくらいかかりますよ。それにここからまっすぐ海に向かって進んでも、とりあえず大都市アリアナに行ってから方向を変えても、かかる時間はあまり変わらないですね』

 スミレは俺の隣に飛んでくると、スクリーンを展開して地図を呼び出した。

 今俺たちがいる都市ケートンの左斜め下にあるのが大都市アリアナで、その真下よりも少し左に行ったところをスミレは指差す。

 『地図には載ってませんが、この辺りが海になります。ジャンダ村に接しているアーヴィンの森から森沿いに右下方向に進めばそこも海に接していますが、こちらは未開の土地ですので魔獣魔物が跋扈していますので海まで辿り着く事は難しいと思います』

 「そんな怖いところを通ってまで海に行きたくないよ」

 真面目な顔で地図をいつもの倍率よりも縮小して見せてくれた。

 その地図を見るとすぐ真下、つまり南は半島みたいになっている事が判る。

 今俺たちはその半島を横断しようとしているところみたいだな。

 とはいえ広範囲の地図を見て思ったけど、こうしてみるとアーヴィンの森っていうのは本当にデカい。

 「アーヴィンの森ってデカかったんだな」

 『アーヴィンの森は直線で進んでも4000キロ以上ありますからね。おまけに魔獣魔物がいるので通り抜けようと考える人はほぼいませんよ』

 「ほぼって・・・いるのか?」

 『昔はいたようですよ? 冒険者とでも言えばいいんでしょうね、そういう人たちが新天地を求めてアーヴィンの森の奥深くに入って誰も戻ってこなかった、という記録が残されています』

 「マジかよ・・・」

 地球で言うところのアマゾンジャングルだなあ・・・どんだけデカいかは覚えてないけど、きっとあれを思ってればいいんじゃないのか?

 さすがにあれを歩いて横断しようなんて思わないぞ。

 「あれ? でもスミレ、アーヴィンの森の地図とかないだろ? どうして知っているんだ?」

 『私の基本知識の中に入ってました。基本知識はこの世界の本当に基本となるものしかないので、あまり実用的な知識ではないんですよね』

 「あの神様(カー⚪︎ルおじさん)の基本知識の基準っていうの、俺にはよく判らないなあ。まあ全くないよりはマシだけどさ」

 『私はあくまでもコータ様のスキルのサポートですから、最初から与えられていた知識とコータ様からもらった知識くらいしかなかったですからね』

 ああ、あの痛いヤツね。あれは2度としたくないもんな。

 実はスミレにレベルが上がったからもう1度やりましょう、と言われてるんだよな。

 なんでもレベルが4に上がったからできる事が増えたんだそうだ。となるともう1度俺の記憶をデータバンクに入れ直す事で更に作れるものの幅が広がる、と言われたんだよ。

 でもさ、あの時の痛みは忘れられないわけで・・・

 おまけにレベルが5になった時にもまた同じ事をしたいって言われたんだ。

 だからさ、言った訳だ、レベル5になった時にやってくれ、って。

 それならあの時の痛みを2回もまた経験する必要はないからさ。

 そりゃ作れるものが増えたって言われた時は心が動いたよ。

 でもあの痛みだけはゴメンだ。

 そんな俺の気持ちを察したのか、スミレが苦笑いを浮かべている。

 『ですのでここから海に向かうのでしたら、予定通り大都市アリアナに行ってからでも別に回り道ではないという事ですね』

 「そっかあ。んじゃあ予定通りに行くかな」

 『ミリーちゃんには大都市アリアナに行くと予定を話しているんですから、特に重大な理由がないのであればそのままの方がいいと思いますよ』

 「なんで?」

 別に行き先を変えたからって特に問題はないと思うけどさ?

 『ミリーちゃんはまだ完全に不安を払拭できてませんからね、コータ様が少しでも予定外の行動を取ればそれが気になると思います。もう少し私たちといる事が当たり前だと思えるようになるまでは、勝手に予定を変えまくるのは止めた方がいいでしょうね』

 「俺たちを信用してないって事?」

 『そうではありません。コータ様は人種ヒトでミリーちゃんは獣人です。どうして獣人である自分を人種ヒトであるコータ様が受け入れてくれたのか頭で判っていても心が納得できてないんですよ。そもそもそんなに長い間一緒にいる訳ではありませんからね』

 「じゃあさ、これから半年も1年もずっと一緒にいれば、そのうち俺たちがミリーのそばにずっといるって信じられるようになるかな?」

 『なると思いますよ。今だって信じたいと思っている筈ですから』

 難しいんだなあ。

 ネコミミなんて男のロマンだと思うんだけどさ。

 でもこの世界では種族の違いによる差別意識っていうのは当たり前って事なんだろう。

 確かに元の世界でも肌の色による差別なんていうのもあったしな。

 『そんなに遠い話じゃないと思いますよ』

 「なんで?」

 『コータ様の事を信じられなかったら、ミリーちゃんは過去の話を打ち明けてないと思いますから』

 「ああ、そっか・・・・」

 両親の事やどうして村を追い出されたのかなんていう話は、確かに信頼している相手じゃないとできないだろうな。

 少なくとも俺は見ず知らずの人間に辛い過去の話なんかしない。

 「そういやさ、都市ケートンの門のところで猫系獣人の女の人たちを見ただろ?」

 『はい、3人姉妹って言ってましたね』

 「あの人たち、『な』が言えなくって『ニャ』になってたじゃん。あれってネコ族だから、かな?」

 『は?』

 『ほら、ミリーはトラ族なんだろ? だから言えなかったのは『な』じゃなかったんじゃないのかな? トラ族は『ま』が言えなくて『みゃ』だったのかなぁ、なんて思ったんだよ』

 実は気になってたんだ。

 本当はあの場で彼女たちに聞きたかったくらいだ。

 でもあ、まさか彼女たちにミリー本人の前でどうして言えないのが『ま』じゃないのか、とか、語尾に『ニャ』がつくんだ、なんて聞けなかったもんな。

 真面目な顔でスミレの返事を待つ。

 が、スミレはどこか冷たい視線を向けてくるだけだ。

 「えっと?」

 『そういう馬鹿な事を考えている暇があればさっさと朝食を作ってくださいね』

 「あれ・・?」

 『私はミリーちゃんを起こしてきますから』

 何か変な事、言ったのか俺?






 読んでくださって、ありがとうございました。


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