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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 草原に行こう
73/345

72.

 ミリーやスミレの意見を入れてできあがった新しい引き車は、今のものよりも1回りほど大きくなりそうだ。

 特に御者台が今のベンチに足台だけというものから、アミューズメントパークの乗り物のように左右にドアはないものの足台の前部分から1メートルほどの高さの板が張り出しているので、ないと思うけど急停車をした時に引き車の前に放り出されるなんていう心配をしなくて済む。

 これから冬場はコタツみたいなものをおけば寒くなくていいかもしれない。

 とはいえまだタイヤの問題もあるので、とりあえず今はデータをセーブしておくだけなんだけどさ。

 気がつくと周囲は既に真っ暗になっていて、俺は竃の上に載せていたヤカンのお茶をカップに注ぐ。

 「ミリーはハチミツを入れるんだっけ?」

 「うん」

 お茶は甘い方がいいらしいミリーのためにスプーンでハチミツを掬って、そのままスプーンを入れたカップを俺の前に座っている彼女に手渡す。

 「ありがと」

 「どういたしまして。でも熱いから火傷しないようにな」

 「ん、だいじょうぶ」

 頷きながらもミリーはふーふーと息を吹きかけながら冷ましている。

 その姿が可愛くて思わず口元が緩んでしまう。

 まだ熱いのか一口飲むとネコミミがピクピクっと動いた。

 少し警戒するような動きに思わず小さく吹き出した俺は、その耳を見ていて今朝の事を思い出す。

 「そういえば今朝は猫系獣人の人たちと会ったけど、大都市アリアナに住んでるっていってたよな。あの人たち以外の猫系獣人とは会った事がなかったから、この辺りにはあまりいないって事かな?」

 『どうでしょうか? 特に珍しいという訳ではない筈なんですけどね。でももしかしたら住み分けをしているのかもしれませんね』

 「だよなぁ・・・なんかさボン爺は別としてさ、初めてちゃんと会話を交わした相手がケィリーンさんだったから特に不思議に思わなかったんだけど、よく考えたら種族の違う人ってあまり見かけないよな」

 門番は普通の人だったけど、ギルドに行ったらケィリーンさんがいたんだよな。

 びっくりしたけど、異世界だから有りなんだろうと思っていたけど、もしかしたらそうでもないのかもしれないと思い出した今日この頃だ。

 「でもあの人たちと話して思ったんだけどさ、ミリーが肩身が狭くなるような村や町にはよらない方がいいかもしれないな」

 『そうですね。まさか奴隷と間違われるなんて思ってもいませんでしたからね。なんでしたらギルドに依頼達成の報告に行く時に、その辺りを相談してもいいかもしれませんよ』

 「そうだな、あの猫系獣人さんたちもギルドの依頼で来ていたって言ってたもんな」

 多種族のハンターを抱えているギルドであれば、アドバイスが貰えるかもしれない。

 ミリーに嫌な思いはさせたくないもんな。

 ミリーは俺が守るっ!

 決意を固めてミリーを見ると、いつの間にか少し不安そうな表情を浮かべて俺を見上げている。

 「ミリー?」

 「わたし、めいわく、かけてる?」

 「なんで?」

 迷惑、ミリーが?

 「だって、わたしのせいで相談に行くんでしょ?」

 「ああ、迷惑じゃないよ。たださ、ミリーに嫌な思いをさせたくないから、ギルドで相談した方がいいかなって思っただけだよ。今朝の人たちも勘違いして、ミリーの事を奴隷じゃないか、って言ってただろ? ミリーの事を奴隷なんて思われたくないからね」

 『そうですよ、ミリーちゃんは全然迷惑じゃないですよ』

 「でも・・・」

 「俺としては可愛い可愛いネコミミ・ミリーと一緒にいられて嬉しいんだからさ」

 ある意味、憧れのネコミミだもんな。

 いつかミリーをモデルにしてフィギュアを作りたいもんだ。

 「あのね・・わたし、猫系獣人だけど、ネコ族じゃ、ないよ?」

 「へっ・・?」

 「わたし、猫系獣人だけど、トラ族なの」

 トラ? 

 猫だけど、ネコじゃない?

 でも俺にはその違いがさっぱり判らないぞ?

 俺が返事に困っていると、ミリーが思いつめたような顔で俺を見上げてきた。

 「コータ、猫系獣人だけど、ネコ族じゃないわたしとは、一緒にいられない?」

 「ばっ、馬鹿な事言うなよっ。ミリーがミリーであれば俺はそんなもん気になんないぞっ」

 「ほんとに?」

 すがるような視線を向けるミリー。

 「なあ・・もしかして俺がずっとネコ族だと思い込んでいたから、そうじゃないと判った時に俺が態度を変えるかもしれないって不安だった?」

 「・・・ちょっとだけ」

 「そっか」

 俯いたミリーを見て、俺は悪い事をしたなと頭を掻いた。

 俺には2つの違いなんてさっぱり判らなかったからなぁ。

 俺は立ち上がると正面に座っているミリーのそばに移動して、そのまま彼女を足の間に挟むように背後に座り込んだ。

 それからそっと抱きしめてやる。

 「あのな、申し訳ないけどさ、俺にはその違いが判らないんだよ。でも、それってミリーにとってはすごく重要なんだよな?」

 「すごく、ってわけじゃないよ・・・ただ、コータはずっとわたしの事、ネコ族だって思ってたみたいだから・・・それにわたし、トラ族らしくないから・・・誰もわたしを、トラ族だって、思わないよ・・・」

 「もしかして、そのせいで村から出たのか?」

 追い出されたのか、とは聞けなかった。

 追い出されたという事はミリーのトラウマになっているみたいだし、そのせいで父親が死んだと思っている彼女に追い打ちをかけるような事は言いたくなかったんだよ。

 「わたしの色が変だから、村から出されたの・・」

 「変? ミリーの耳の色って綺麗じゃん」

 「ネコ族、ならね、よかったの。でもトラ族は黄色が多いの。たまに白もいるけど、わたしみたいな、錆びたような色はいないの。だから、今朝、会ったネコ族の人たちも、わたしのこと、ネコ族だって、思ったんだと思う」

 なるほど、トラ族ねぇ。確かにトラの色って黄色の毛皮が多いよな。たまにホワイトタイガーなんていう白色もいるみたいだけど、ミリーのような赤銅色のトラはみた事がない。

 って言っても、これって俺のいた世界のトラの色なんだけど、今のミリーの言葉を聞く限り同じみたいだな。

 「あのね・・わたしのお母さん、違う村から来たの。お父さんは黄色の耳で、お母さんは白色の耳だったんだって。でもね、そんな2人の間に、生みゃれたわたしは錆びた色で、薄気味悪い、呪われている、って言われたの」

 「酷いなあ。ミリーの色は錆びた色じゃないぞ。綺麗な夕陽の色だろ?」

 「そんな事言うの、コータだけ」

 おどけるように言うと、ミリーが少しだけ笑った気がした。

 「呪われた子供だから出て行け、って言われた事もあるの・・でもね、わたしのおとうさん、すごいハンターだったの。だからわたしを追い出すと、とうさんもでていくから、仕方ないから村にいていいって」

 「そっか、ミリーの父さんは凄腕ハンターだったんだな」

 「うん、いつだって、大きな獲物を持って、帰ってきてたの。すごかったんだよ」

 「ミリーのお父さんだもんな」

 「うん。でもね・・・トラ族のえらい人がやってくる、って知らせが来たの。トラ族を統べる王様、だって、村がおおさわぎになったんだよ」

 「トラ族の王様?」

 村単位じゃなくて、そんな種族ごとに王がいるって事か?

 と言うかさ、国がないのに王様はいるのか?

 「トラ族の中でも、特に優れている虎人が、生みゃれるの。その人がトラ族をみゃとめるんだって、おとうさんが言ってた。それでね、トラ族が住む村を見にくるんだって、おふれが村に来てね、大慌てで村を囲う柵を直したりして、少しでもきれいにして王様を迎えようって、みんなして頑張ったの」

 ミリーがキュッと抱きしめた俺の腕を掴んだ。

 「ごちそうをたくさん作って、村をきれいにして、みんなすごく張り切ってた。おとうさんも王様に食べてもらうための大きな獲物を仕留めたの。でもね、そんな時、わたしみたいな、みすぼらしい錆びた色がいたら、カッコ悪いって・・・王様は金色だから、そんな王様に、みすぼらしい錆びた色のトラ族を、見せる事はできないって・・・王様が来る前に、出て行けって・・・」

 そんなしょうもない理由で、ミリーは村から追い出されたのか。

 「おとうさん、大きな獲物、捕みゃえたのに、それを森に捨てて、わたしと一緒に村を出たの・・・わたしがいなかったら、きっとおとうさん、王様に褒められてたよね? わたしがいたから、おとうさんは・・・」

 「ミリーのせいじゃないよ」

 「でも・・わたしがいなかったら、おとうさん、村をでなかったよ?」

 「ミリーのお父さんにとって、王様に褒められるよりミリーと一緒にいる事の方が大事だった、それだけだよ。お父さんにとってはさ、ミリーは大切な大切な娘だったんだから、ミリーを守る事を優先したのは当たり前だったと思うな」

 「でも・・・わたしがいなかったら、おとうさん、みゃだ生きてた・・・」

 罪悪感に押しつぶされそうになっているミリーを俺は抱きしめてやる事しかできない。

 ああもうっ、俺にはミリーの不安と罪悪感を取り除く事ができるような、そんな適切な言葉が思い浮かばないんだよっ。

 「 ミリーの父さんは、きっと最後までミリーを守れた事を誇りに思ってるよ。ミリーだけを村から追い出さなかっただろ? それってそれだけミリーの事が大事だからだよ」

 「コータ・・・」

 「そりゃさ、お父さんとしてはミリーが大きくなるところが見れなかったのは残念だっただろうけど、こうやって元気に生きてくれているって事が判れば安心すると思うよ」

 背中から抱きしめてやって、前後にミリーの身体をあやすように揺する。

 「ミリーはみすぼらしくなんかないよ。綺麗な夕陽の色をしてる可愛い女の子だよ」

 「コータ・・・」

 「俺は、そんなミリーと一緒に旅ができて嬉しいよ? これからもずっと一緒に旅をしてくれるんだろ?」

 「コータ・・が、嫌じゃ、なかったら」

 「大歓迎だよ。むしろミリーがいない方が嫌だよ。スミレだってパンジーだって、ミリーがいなくなると淋しがるよ?」

 「そ・・かな?」

 「そうだよ。だからさ、ミリーが俺たちとずっと一緒にいてくれたら、すごく嬉しいよ」

 キュッと俺の腕を掴んで、ミリーは小さく頷いた。

 「一緒にいてくれるんだ、ありがとな」

 「コータも・・ありがと・・」

 顔をあげると、空気を読んだスミレが黙って飛んでいるのが見えた。

 いつもならほっといても口を挟んでくるんだけど、今は俺に任せるって事かな?

 「パンジーの引き車、ミリーも一緒に考えてくれただろ? だったら、出来上がったら乗って感想を聞かせてくれないと困るよ。それにミリーがいないとチーム解散になっちゃうよ?」

 「わたしがいないとだめなの?」

 「うん、すっごく困るよ。せっかく俺とミリーでチーム・コッパーを作ったんだからさ」

 今はたった2人きりのチームだけど、それでもミリーの居場所になってくれるといいな。

 「もっといい人、いると思うよ?」

 「そうだな。でもさ、その人はミリーじゃないだろ? ミリーがいなかったらチーム・コッパーって名前、おかしいよ」

 ミリーの耳の色から連想してつけたんだからさ、と付け足すと、ミリーが俺の方を振り返った。

 少しだけ目が赤いのは泣いていたんだろうか?

 「コッパーは、赤銅の事なんだ」

 「しゃくどう?」

 「うん、銅っていう金属の事なんだ。ピカピカなオレンジ色をしていてね、それってミリーの色だろ? 綺麗な夕陽と同じ色だ」

 「わたしの色が、チームの、名前・・・?」

 「うん、ミリーがいないとチームの名前にならないだろ?」

 「・・・ほんと、に?」

 「うん」

 キッパリと返事をすると、ほんの少しミリーの身体から力が抜けた気がした。

 きっと不安だったんだろうな。

 そんなに心配しなくたって、俺とスミレがミリーを放り出すなんて事ないのにさ。

 それから俺はミリーが寝てしまうまで、ずっとそのまま身体を前後に揺らしてあやしていたのだった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。b(^O^)d


Edited 05/05/2017 @16:00  誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

ミリーと一緒に入られて嬉しい → ミリーと一緒にいられて嬉しい

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