表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
都市ケートン ー 草原に行こう
72/345

71.

 スキップしながら歩くミリーの後ろをトボトボとついてパンジーの待っている場所まで戻った俺たちは、そのまま竃をだして夕飯を作った。

 とは言ってもいつも通りのスープとパンだけだが、それでも十分美味しくいただいた。

 「コータ、これから何するの?」

 夕飯を終えてまったりとお茶を楽しんでいると、ミリーがどこか期待したようなキラキラした目で俺に聞いてくる。

 そういや移動中は休憩所で泊まるたんびに物を作ってたな。

 「ん〜、スミレは何か予定があるのか?」

 『わたしですか? いいえ、特には』

 「そっか、じゃあ、俺の手助けしてくれないかな?」

 「コータ、わたしは?」

 スミレに声をかけた俺に慌ててミリーが聞いてきた。どうやらミリーも手助けをしたいようだ。

 「ミリーには意見を聞かせてほしいかな?」

 「わかった、頑張る」

 「うん、頑張ってくれよ」

 ぐっと握り拳を作って宣言するミリーに思わず笑みを浮かべてしまってから、俺はミリーと俺の間でホバリングをしているスミレに視線を向ける。

 「休憩所だともしかしたら誰かがやってくるかも、って思ってできなかったんだけどここなら誰もこないだろ? だからさ、パンジーの車改造をしたいんだ」

 『パンジーちゃんの引き車ですか?』

 「そうそう、今のままでも使い勝手が悪いわけじゃ無いんだけどさ、でももうちょっと良くする事ができるんだったら良くしたいだろ?」

 スクリーン展開、と口にすると俺の目の前にスクリーンが現れた。俺は指先でスクリーンに触れて六芒星陣をパンジーの引き車の真下に呼び出した。

 まずは、という事でパンジーの引き車をスキャンする。

 そのためにさっきスープを作っている間に、車の中にあった布団とかを全部ポーチに突っ込んだんだよ。

 『でも形が変わったらパンジーちゃんが嫌がらないですか?』

 「えっ?」

 『厩舎の人が言ってましたよね?』

 あ〜、なんかそんな話を聞いたような。

 俺は引き車から5メートルほど離れた場所で丸くなって寝ているパンジーを見る。

 「パンジー、俺が引き車を改造したら怒るか?」

 うん? と頭をあげて俺の顔を見返すパンジー。

 「コータ、パンジーには言葉、わからないと思うよ」

 「そりゃそうだな。ま、とりあえず改造計画だけ進めるよ。もしかしたらもっと材料がいるかもしれないしな。もしパンジーがどうしても気に入らないって言うんだったら、元に戻せば良いだろ?」

 『まあそうですけどね』

 しぶしぶながらも同意するスミレ。

 まあスミレには中の居心地は関係ないもんな。

 「スミレは自分用の木箱を作れよ。ミリーと話し合って、どんな大きさが良いか、デザインとかもさ」

 「スミレの箱?」

 「うん、ミリーが昨日持って歩いていた箱があるだろ? あんなやつだよ。あれ、スミレの好みじゃなかったみたいだからな、ミリーも一緒になって考えてやってくれ」

 「うん」

 パンジーの引き車の事を一緒に考えてもらおうと思ったんだけど、それよりも自分が持ち歩く事になる箱の手伝いの方がミリーには良いだろう。

 引き車の大体のデザインは既に決まってるし、ミリーには聞いてもイメージが湧かないだろうしな。

 見るとスミレが展開した陣の上に、ミリーが箱を置いているところだった。

 多分スキャンしてその大きさを基本のデータにするんだろうな。

 2人の方はほっといても大丈夫、という事で俺は自分のスクリーンにデータを呼び出す。

 俺が考えているパンジーの引き車はキャンピングカーの変型版だ。ほら車で引くタイプに左右が横に広がって室内が広くなるっていうのがあるだろ? あんな風に改造したいんだ。

 それにあれなら元の世界のテクノロジーなんか知らなくても、この世界にある技術で十分作る事ができるだろうと踏んでいる。

 つまり、上手く出来上がったらパンジーの引き車の設計も、今度生産ギルドで登録しようと企んでいるのだ。

 まずは呼び出してデータの中からサイドアウト式のRV(Recreational Vehicle)、日本でいうところのキャンピングカーに絞り込む。

 ふむ、結構色々な種類があるな。ただどう見てもデカ過ぎるものも多いから、更にサイズを全長5メートルのプルスタイルに絞り込む事で、残ったのはたったの5つ。

 それでも十分だな。ちゃんと中の見取り図なんかもあるが、別にキッチンやトイレを作るつもりはないので、その辺はあまり参考にならない。

 「えっと、サイドアウトも部分的にしかできないのか・・・それだとなぁ・・・じゃあ、俺の希望を入れて行ってみるか。できなかったら教えてくれるだろ」

 まずは引き車の幅の3分の1ずつ両側にせり出せるようにする。これがサイドアウトってヤツだな。キャンピングカーだとせいぜい全長の半分くらいしかできないんだが、俺は全長まるまるできるようにする。 

 これで停めている時は幅が1.6倍になるので、布団を2枚軽く敷ける筈だ。今は狭いから俺の布団は外の竃の隣なんだよな。

 今はいいけどこれから寒くなってきたり北に移動したりした時の事を考えるとさ、やっぱり俺の布団も中に敷けるようにしたい訳だよ。

 それから後ろのドアがある部分だな。今はただ後ろの部分全面が観音開きのドアなんだ。これはこれでなかなか便利がいいので文句はないんだが、雨の時だと屋根が欲しいと思う。

 あれ、そういやここに来てまだ雨が降ってるの見てないぞ?

 「スミレ、この世界って雨、降らないのか?」

 『降りますよ。ただ今は雨の降らない時期ですから。あと2週間もすれば週に1日は雨になると思います。それに南に移動すればもう少し雨の降る日も増えてきます』

 「あっそ」

 聞けばすぐに返ってくる答えはホントにありがたい。

 スミレペディアと呼ぶべきか。

 ま、今は大丈夫だけど、これから先は入り口に屋根があった方が便利になるって事だな。

 俺はさっきまで見ていたキャンピングカーのデータの中からシェードを調べてみる。

 う〜ん、後ろだと左右に広げた時でも最初の幅のシェードしか取り付けられないか・・・

 だったら入り口をやっぱりサイドに持ってきた方がいいか。

 でもそうしたら広げ幅が減るか?

 いや、だったら思い切ってドアが付いていない方を引き車の幅まるまる広げてしまうっていうのはどうだろう?

 広げた分バランスの事もあるし強度を保つために支柱は必要だが、それは広げる前にタイヤのあった場所に差し入れる事ができるようにすればいい訳で。

 俺はスクリーンの横にサンプル用の小さなホログラムを浮かび上がらせて、それをじっと見つめる。

 そうだな、進行方向に向いた時の左側の真ん中あたりに、今よりも幅広の観音開きのスライディングドアを取り付けよう。

 でだ、左側はドアもあるし雨の時に外で料理をする時に広く使えるように全長の長さ分のシェードにして、ついでに広々と使えるように3メートルほど伸ばせるようにする。

 なんならサイドに付け足しができるようにもしておけば箱型の屋外の部屋みたいにもなるだろう。

 右側はそのまま丸々元の幅の90%が広げられるようにする。前後のタイヤの間に1本支柱を立てられるようにすれば広げても強度は保てるだろうし、広げた部分にも前後だけじゃなくて真ん中の部分にも1本支柱を立てるようにすれば、少々過重となっても底が抜けるとか床がめり込むとかっていう心配をしなくても大丈夫だろう。

 パンジーの箱そのものの改造はこんなもんでいっか。他にも棚とか色々とあるけどその辺の細かい部分は大まかな部分が済んでからだな。

 んじゃ、次はサスペンションだな。

 今のままでも我慢できない訳じゃないんだけどさ、やっぱりもう少し振動の少ない引き車がいいと思うんだよ、うん。

 とはいえ、製作図は生産ギルドに登録しようと思っている訳だから、空圧式や油圧式とかじゃなくってコイル式がいいな。これなら鍛冶屋に頼めばなんとかなるだろう。

 俺は引き車に良さそうなコイル式サスペンションを見つけてクリックしておく。

 「あとは、タイヤ、だよなぁ・・・」

 今の馬車に付いているのはタイヤの部分が木なんだよ。だからショックなんて全く吸収しない。

 できればゴムとかがあるといいんだけど、この世界にあるのか?

 「スミレ、ゴム製品とかってあるのか? タイヤを作りたいんだけどさ」

 『ゴム製品、ですか? そうですねぇ・・・コータ様の知っているゴム製品はありませんけど、タイヤを作るのであれば代わりになるようなものはありますよ』

 「ホントかっ」

 『はい。でも材料はここでは揃いませんよ』

 「えぇぇ・・・なんかガッカリだ」

 『もし明日早く依頼のゴンドランドを狩り終えたら移動しますか?』

 「ん〜、そうだなぁ」

 明日は朝からゴンドランドを仕留める予定だ。一応2泊3日の予定で来ているけど、早く済んだたらケートンに帰るかなんて話をしていたんだよな。

 「ミリー、どうする?」

 「移動してもいいよ。パンジーの引き車のためだよね?」

 「うん、まあそうなんだけどなぁ」

 「じゃあ行こうよ」

 「そうか? んじゃ、スミレ。明日早く済んだら移動って事で」

 『判りました』

 じゃあ、タイヤに関しては明日スミレが言う材料を揃える事ができたら、だな。

 でもまあ、サイズだけ決めておくか。大きさは今の車輪を元にするとして、少し幅があった方がいいかな? その分負荷は増えるかもしれないけど、安定感は増すと思う。

 俺が腕組みをしてスクリーンのタイヤを見ていると、いつの間にか隣にミリーがやってきていた。

 「ミリー、箱はできたのか?」

 「うん。今スミレが作ってる」

 「そっか」

 「それで、何作ってるの?」

 「タイヤだな」

 「たいや・・・って?」

 タイヤなんて見た事も聞いた事もないミリーが口にするタイヤという言葉が可愛くて思わず笑ってしまった。

 「コータ」

 「ごめん。えっと、タイヤっていうのは、スミレの引き車の車輪があるだろ?」

 「うん」

 「あれって石を轢いたりするとガタンって揺れるだろ? だから車輪にタイヤっていうのをかぶせようかと思っているんだ。そのタイヤっていうのは、柔らかくて弾力があって、それで車輪を包み込むと石を轢いてもそれほど揺れなくなるんだよ」

 できるだけ判りやすく説明した俺の言葉をミリーはあんまり信じていないみたいだな。

 「柔らかいものを使ったら、車輪からすぐに取れるよ?」

 「そうだな、だから取れないように工夫されたものがタイヤなんだよ」

 「スミレ、コータのいうたいやって本当に作れるの?」

 どうやら俺の言葉は信憑性がないようで、ミリーはスミレを振り返って聞いている。

 『コータ様の言う通りですよ。タイヤがあるとパンジーちゃんも走らせやすくなるでしょうね』

 「じゃあ、石を踏んでも大丈夫?」

 『多少は揺れると思いますけど、今の車輪よりはマシになりますね』

 「わかった・・・って、コータ、痛いっ」

 『コータ様、大人げないですよ』

 俺がより詳しく説明してやったのに、こいつ、スミレの説明の方で納得しやがった。

 思わずミリーの頭をゲンコツでグリグリしたが、確かにスミレのいう通り大人げなかったのですぐにやめてやる。

 『タイヤの設計ですか?』

 「うん、でもまあタイヤは明日材料が手に入ってから設計するよ」

 『引き車の方はどうなりましたか?』

 「本体の方はこんな感じだよ。内装はスミレとミリーの意見を聞こうと思ったんだ」

 そう言ってからホログラムに本体を呼び出して、どんな風に改造したのかを2人に説明する。

 キャンピングカーを俺の知識から知っているスミレはそうでもなかったけど、今の引き車くらいしか見た事がないミリーはとても目をキラキラさせながらホログラムを見ている。

 「って感じかな。中もある程度は考えてるんだけど、その辺は2人はどうしたいか希望はあるかな?」

 『これ、箱の蓋をずらすようにするんですよね? でしたら、この部分とこの部分に窓をつけましょうか。2重窓になりますが、その分広げた時に窓の数が倍になって風通しもいいと思いますよ』

 スミレは御者台の背中部分と今のパンジーの引き車の出入り口がある部分を指差す。

 「お布団2つ敷ける?」

 「うん。余裕だね。でも、ベッドにしようかなって思ってるんだ。2段ベッドにすれば布団1つ分のスペースしかいらないから、中でのんびりできるだけのスペースもあるだろ?」

 「ベッド?」

 「そう・・・こんなのだよ」

 俺はスクリーンに検索で出て来た2段ベッドをミリーに見せる。

 「わたし、上がいい」

 「いいよ。俺も下の方がいい」

 2段ベッドの写真を見るとすぐにミリーは上を選んだ。

 その早さにスミレが笑っているが、本人は気づいていない。

 「じゃあ、どんどん意見を言ってくれよ。まとめていくからさ」

 「わたし、自分のものをしまう場所が欲しい」

 今ミリーが使っているのは小さな木箱で、それを棚に載せている状態だ。

 確かにミリーの着替えなんかを仕舞えるものがあってもいいよな。

 俺は少しずつ自分の欲しいものが言えるようになってきたミリーに安心しながらも、他にないかと聞いてみるのだった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。b(^O^)d


Edited 05/05/2017 @ 15:54  誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

ぐっとにぎろ拳を作って → ぐっと握り拳を作って

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ