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6.

 目の前をふわふわと飛んでいる妖精。

 思わずガン見してしまったが、これは仕方ない。

 いくら女性をガン見してはいけないと言われて育ってはいても、こんな状況に陥る事は想定外なのだから。

 『はじめまして、コータ様』

 「なっ、なんだよ、これ」

 それだけでも十分驚いているのに、その女の子はなんとしゃべる事ができたのだ。

 『私は多次元プリンターのサポート・ブレインです。基本、コータ様が多次元プリンターを使う際のサポートをさせていただきます』

 「は・・・はぁ」

 小さなトンボみたいな羽を動かして目の前を飛んでいるその子は、白の膝丈のワンピースを着た腰までの長さの薄紫色の髪をした15センチくらいの妖精とでも言えばいいのだろうか。

 長い髪を背中に流した彼女はどこかのお嬢様といった感じで、妖精というものは元気一杯、という俺のイメージとはあまりにも似通っていなかった。

 そんな俺の胸のうちに気づかないまま、彼女はにっこりと笑みを浮かべて俺に話しかけてくる。

 『初めまして。お会いできて嬉しいです』

 「はあ・・こちらこそ、その、初めまして」

 『コータ様、まずは私に名前をつけてくれませんか?』

 「名前?」

 『はい、私はコータ様のスキルである多次元プリンターのサポートブレインです。けれど毎回多次元プリンターのサポートブレイン、と私の事を呼ぶのはちょっと呼びにくいと思うので、コータ様が呼びやすい名前をつけてくだされば結構です』

 「はぁ・・・そうだな、じゃあ、スミレ?」

 いきなり名前を付けろと言われても困る。

 だがニコニコと俺が名前をつけるのを待っている彼女を待たせる訳にもいかない、って事でとっさに浮かんだのは彼女の髪の色から頭に浮かんだ花の名前だった。

 『スミレ、ですか? かわいい名前だと思います。嬉しいです。それではこれからは私の事はスミレとお呼びください』

 それでもどうやら俺が思いついた名前を気に入ってもらえたようで、目の前の妖精、もといスミレは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 「じゃあさ、スミレ。スミレは俺がスキルを使う時のサポートをしてくれる、って事で合っているのかな?」

 『はい。コータ様のスキルは少し扱いが難しいため、サポートのための機能がつけられています』

 「それって、よくある事なのかな?」

 『よくある、という事はありませんが、全くないと言う訳でもありません。珍しい、といったところでしょうか』

 それは良かった、と俺は小さく息を吐いた。

 俺にしかスミレみたいなサポートが付いていないっていうんだったら目立って嫌だなって思ったんだよ。

 「でもさ、なんで?」

 『それは・・・コータ様に対して引け目があるあのお方が、特別に私を用意したのです』

 「あ〜・・・なるほど」

 俺のため、ね。引け目って、やっぱり駅での出来事なんだろうな。

 『それではコータ様のスキルである多次元プリンターの説明をさせていただいてよろしいでしょうか?』

 「はっ、はい、よろしくお願いします」

 俺が慌てて頭をさげると、フイっとスミレは目の前のスクリーンの左端に移動する。

 『では、始めます。メニュー・オープン』

 スミレの指がスクリーンに触れると、1度点滅をしたスクリーンに幾つかの項目が現れた。

 『基本のメニューは、プランニング、サーチ、カスタム、メイキング、セーブ、アップデート、の6つです。プランニングはコータ様がどんなものをどのような機能を付けるかを決めるものです。サーチはコータ様が作りたいと決めたものの名前を告げる事で、そのもの、もしくはそれに準ずるものがリストに出てきます。その中から作りたいものに一番近いものを選んでいただきます。カスタムはその名の通りサーチで出てきたものをコータ様が使いやすいように更なる機能を上乗せするためにプログラム、または、簡潔化のための変更を行うものです。メイキングは、カスタムまで済ませたものを実際に作成実行する場所です。ここでいくつ作るかの数を決め、その上でコータ様の製作リストにデータをセーブして保存いたします。その場限りで2度と作らないと思うものであればセーブをする必要はありませんが、セーブ用のファイルは無限ですのでとりあえずセーブする事をお勧めいたします。そしてアップデートではこれまでにコータ様が製作されたものをより洗練されたものに変更する事ができます』

 スミレの説明は判ったような判らなかったような、そんな説明だった。

 っていうか1度の情報量が多すぎて、全てを理解して覚えたとはとてもじゃないけど言えないよ。

 ただなんとなくではあるが彼女の言いたい事は判った気がするので、とりあえずぎこちない笑みを浮かべて頷いておいた。

 「つまり、まず俺が作りたいものを決めると、スミレがそれをデータから見つけてきて、それを使って作ってみる、って事?」

 『基本としてはそうですね』

 「で、それを俺の好みや使い勝手に合わせてカスタマイズできるって事だよな。それから作ったもののデータはセーブしてあるから、いつでも同じものを作る事が可能、そういう事?」

 『はい、コータ様のデータバンクは無限ですので、作られたもの全てをセーブして置く事もできます』

 「そうなんだ。じゃあ、とりあえずは作ったもののデータは全部残しておくって事でいっか。データが増えすぎて検索が大変になったら、その時に整理すれば大丈夫だな」

 データがありすぎると探しているものが見つからない、なんて事もあるからな。

 それに最初の方に作ってセーブしたものは、多分まだまだ未熟だろうからいいものができたらそれに変えていってもいいわけだしな。

 『データが増えても大丈夫ですよ。データバンクは私が管理しますので、コータ様が必要と思われるものは言ってくだされば私が検索しますから』

 「えっ、そうなんだ。じゃあ、いくら増やしても見つけられないって事はないって事だよね?」

 『はい、その通りです』

 それはありがたいな。

 『それでは説明だけではなかなか理解しにくいと思いますので、まずは何が作ってみますか?』

 「おっ、いいのか?」

 『もちろんです。そのためのスキルですから』

 「じゃあ・・・そうだな、何を作ればいいのかなぁ」

 作っていい、とスミレから許可は出たものの、いざ作るとなると何を作りたいのかが全く頭に浮かばない。

 じゃあ、何か必要なもの・・・お、そう言えば、さっき考えたものがあったっけ。

 「あっ、そうだ。ナイフ、って作れるかな?」

 『ナイフ、ですか?』

 「うん。1週間は自給自足なんだよな。非常食はもらっているけど、できればウサギか何かを捕まえたいと思っているんだ。だから、それを捕まえて捌くためのナイフが欲しい」

 『なるほど、判りました。それでは材料は何を使われますか?』

 「へっ? ああ、材料かぁ・・・う〜ん、ポーチの中にはナイフの材料になるものは入ってなかったなぁ」

 物を作るには材料がいる。当たり前の事だが、俺の頭からスッポリと抜け落ちていた。

 『コータ様のスキルレベルは1ですので、1つの物を作るために5つまでの材料を使う事ができます』

 「そうなんだ? でも俺、材料になるような物持ってないから、今は作れないな」

 『コータ様の魔力を使えば作れますよ』

 「へっ・・? 魔力?」

 『はい、魔力によって必要となる材料を作り出す事ができます』

 「でも俺、魔力なんかないぞ?」

 元の世界で魔法が使えるヤツなんていなかったぞ?

 そりゃラノベの世界では最強の魔法使いなんていうのがゴロゴロいたが、現実ではいなかった・・筈だ。

 『コータ様は魔力をお持ちですよ』

 「・・・そうなんだ?」

 『はい、それもかなり潤沢な魔力量なので、ナイフ程度でしたら問題なく簡単に作れると思います』

 「・・・あっ、そう」

 スミレはそう言いながら俺のステータスが書いてある小さなスクリーンを作り出して、それを俺が見やすいように両手で持って俺に見せてくる。

 「魔力、特大って・・なんだよ、それ」

 『ほら、ちゃんと魔力があったでしょう?』

 「あ、ああ・・・」

 『それでは魔力を使われますか?』

 「そうだな」

 よく判らないが、ナイフを作るための材料の代用という事で俺の魔力とやらでなんとかなるのであれば、今はそれを使って貰えばいいや、と頷いた。

 『それではサーチを開始します。その前にコータ様の記憶をデータバンクに登録しても構いませんか?』

 「俺の記憶?」

 『はい、多次元プリンターでものを作る時には必ずデータというものが必要となってきます。しかしこのような場所ではコータ様のナイフを作るためのデータが全く入手できませんので、コータ様の記憶をデータとして使用してナイフを作成したいと思います』

 「ふぅん。どうやって?」

 「私がコータ様の記憶を覗きます。そうですね、今後の事も考えてコータ様の記憶を全てこちらに転写させていただきます。その際に少し違和感を感じるかもしれませんが、ほんの数秒ですので我慢してください」

 「判っ・・・・うぅおぉぉぉっっっっ! いってぇぇぇぇっっっっ!」

 その途端頭に響いたとんでもない痛みに、俺はその場に頭を抱えて転がったのだった。





 読んでくださって、ありがとうございました。

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