68.
さて、目の前にあるのは生産ギルドの建物らしい。
よくある石のブロックを積み上げた建物で、どうやらこの世界では石の建物はちょっとレベルが上の建物のようだ。
もちろんレベルが下なのは板張りの建物なんだけどね。
ハンターズ・ギルドにはハンマーとナイフが交差したデザインの看板があったのを俺はこの都市に来て初めて知ったんだけど、生産ギルドの看板には羽ペンと思しきものが描かれている。
それって多分ペンで色々描いて試行錯誤しながらものを作り上げていく、って事なんだろう。
俺はミリーと手を繋いだまま入り口から中に入る。
「いらっしゃいませ」
カウンターを見ると、20歳くらいの女性がにこやかに笑みを浮かべて立っているのが見える。
ちらっと中を見回したが、彼女の他には誰もいないようだ。
「ミリー、ちょっとあの人と話をしてくるから、そっちの隅で待っててくれるか?」
「うん、いいよ」
「スミレ、ミリーを頼むな」
『お任せください』
ミリーが入ってすぐ左の壁のそばにあるテーブルに向かって歩いていくのを見送ってから、俺はカウンターに立っている女性のところに歩いていく。
「いらっしゃいませ、私は生産ギルドのミルトンと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あの・・生産ギルドのメンバー登録したいんですけど?」
「登録ですか? 失礼ですが何か製品をお持ちでしょうか?」
「製品、ですか?」
「はい、何か登録できるような品がなければメンバー登録はできない仕組みになっています。ですのでこちらに登録される方は、何か製品として登録できるようなものを持って来ていただく事になっています」
俺が生産ギルドのメンバー登録するのは、作ったものをギルドに登録するためなんだ。
だったらついでにその登録もできるのなら願ったりかな。
「いくつでもいいんですか?」
「いえ、まずは1つ見せていただきたいです。それを見て製品が登録すべきものかどうかを判断させていただきます。もし他に類似品があるようでしたら、そちらとの違いもきちんと調査しなければいけませんから。もちろん今回持ち込まれた製品では登録ができないという事になれば、その時に別の製品を持ってきてもらう事になっています」
「判りました。ではこちらを見ていただけますか?」
俺はポーチから昨日スミレが作ったばかりのマッチを取り出した。
本当はライターを出そうかと思ったんだけど、スミレがいう魔石をまだ手に入れていないので、次回に持ち越しだ。
「こちらはどのような製品でしょう?」
「これは火を熾すためのものですね」
「魔法具ですか?」
「いえ、魔力がない人でも火を熾す事ができるように作っています。と言っても使い捨ての製品なんですけどね」
俺はそう説明しながらマッチの蓋の部分を開けて中から1本取り出した。
「この部分を蓋のここに擦る事で火を熾す事ができます。えっと、試してみてもいいですか?」
「はい、どうぞお願いします」
お願いされちゃった、って事で俺は早速シュッとマッチを擦ってみせる。
ポッと音がしてマッチにオレンジ色の火がついた。
「あら、簡単に火を熾せるんですね」
「そうですね。まあ火を熾すというよりは摩擦熱を使って火をつけた、っていう方が正しいと思います」
「なるほど。これは便利そうです」
なかなかいい反応だな、うん。
「それではそちらの製品をギルドメンバー登録の製品という事で、ギルドメンバー登録申請用紙に記入させていただきますね。製品名は『マッチ』でよかったでしょうか?」
「はい、それでお願いします」
カウンターの下から取り出した用紙の一番上の欄は申請製品となっている。
そこにミルトンさんはマッチと書き、マッチの特徴と性能についての説明文を書いてから顔をあげる。
「お名前を伺えますか?」
「コータです」
「何か身分を証明するようなものはお持ちですか?」
「ハンターズ・ギルドのカードでいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
俺はシャツのポケットからカードを取り出すと、紐を首から外してカードごとカウンターに置く。
「コータ様、ですね。出身はジャンダ村で合ってますか?」
「はい」
「一応裏も確認させていただきますね」
一言断ってからカードを裏返してそこに記入されている事項を確認しているようだ。
「商人ギルドにも入っておられるんですね」
「あっ、はい」
「という事は既に商品として売れるものがあるという事でよろしいでしょうか?」
カードから顔をあげると、どこか硬い口調になったミルトンさんが聞いてくる。
「商品と言っても、今提出したマッチなんですけどね。ジャンダ村のハンターズ・ギルドで納品させていただきました。それからハリソン村に行った時に、本当なら生産ギルドの方にも登録しておく方がいいだろうけど、とりあえずはここで商人ギルドに登録しておく方がいいだろうと言われたんです。 ジャンダ村やハリソン村には生産ギルドはないからと。それから都市ケートンに立ち寄った時に生産ギルドに登録しておくべきだ、と助言をいただいたんです」
「なるほど、そうでしたか。失礼いたしました。大抵の方はまず生産ギルドに登録してから必要に応じて商人ギルドまたは卸業ギルドにおいてメンバー登録をされますので」
これまでの事を説明すると納得したようでまた元の口調に戻る。
「コータ様のおっしゃる通り、ジャンダ村とハリソン村には生産ギルドはございません。このケートン地方で生産ギルドがあるのはこの都市ケートンのみとなっております」
「ケートン地方?」
「はい、都市ケートンの庇護下に入っている全ての村や街をまとめた地域をケートン地方と呼んでおります」
なるほど、都市ケートンに税金を払っている村や町の名前をそれぞれ個別で呼ぶよりは、確かにケートン地方と一括して呼ぶ方が簡単だな。
「役所に行かれますと、中に入って最初に目に入るのがケートン地方の地図です。あの地図に乗っている村や町は全て都市ケートンの庇護下にあると思っていただければ結構です」
「昨日役所に行った時に見せてもらいました。すごく広い範囲だなと思っていたんですが、その全てがこの都市の庇護下にあるんですか、凄いですねぇ」
「そうですね。ほぼ全ての村や町はどこかの都市や大都市の庇護下に入る事により、安全を保証されておりますね。特に人口の低い村などでは魔獣や魔物に襲撃されたらひとたまりもありませんから」
確かに防衛という面ではジャンダ村やハリソン村だと無理があるよなぁ。
でもここまで遠いとすぐに助けに来てもらえないんじゃないのか?
「でもこれだけ範囲が広いと何かあった時にすぐに駆けつける事は難しいんじゃないんですか?」
「そうですね。そう思われる方も多いです。しかしそのために都市や大都市には飛竜部隊を保有しております。彼らであればここから一番遠いジャンダ村でもほんの数時間で行く事ができます」
「そうなんですか? でも襲撃の報告に数日かかるんじゃないんですか?」
ジャンダ村からここまでだと10日はかかるんじゃないのか?
「何かあった時は村にあるギルドを通して緊急連絡を入れる事になっています。通信の魔法具ですが、魔力消費がとても大きいので緊急時以外は使用しない事になっています」
「通信の魔法具ですか? そんなものがあるんですね、知らなかったです」
「一般人は使う事ができないので、知らない人も多いと思いますよ。ただそれぞれの村や町にあるギルドの責任者は知っていますので、何かあった場合はそちらに報告していただければ、責任者が緊急と判断した場合すぐに都市ケートンに連絡が来るようになっています」
そういやジャンダ村にしてもハリソン村にしてもギルドの建物は石造りで頑丈に作られてたよな。あれって緊急時に住民が避難できるように、って事なんだろう。
そんな話をしながらも、ミルトンさんは俺の出身地とハンターズ・ギルドと商人ギルドのメンバーである事を申請書に書いている。
「もう1つ、マッチの売値はいくらくらいを希望していますか?」
「売値、って俺が売る値段ですか? それとも実際に店で売る時の値段ですか?」
「コータ様の売値で結構です。店舗での売り値は店の場所によってかかる費用が変わってきますので、それによって多少割り高になる事もありますので」
「ああ、確かにそうですね。このマッチ、俺はジャンダ村のギルドで1つ10ドランで売りました。ギルドではそれを15ドランで売っていたと思います」
「なるほど、コータ様の取り分は10ドラン、という事ですね。ジャンダ村でのギルドのよる売り値も参考のため記載しておきます」
ミルトンさんはとにかく俺のいう事を全て書き込んでいるようだ。
「はい、それでは生産ギルド登録申請書ができました。まずは製品についての確認を行います。生産ギルドには独自の連絡網を持っております。それを使う事で申請された製品が他のメンバーによって既に登録されているかどうかを確認させていただきます。そしてなんの問題も無いと判明しましたら、すぐにコータ様の名前で新製品申請届けを出す事になります」
「それってどのくらいかかるんですか?」
「そうですね・・・大体3日から1週間かかると思います。コータ様の製品はとても画期的なので、おそらく3日もあれば新製品申請までいけるとと思いますよ。私も今までこのような製品は見た事も聞いた事もありませんから」
「でも俺、生産ギルドに登録しないで結構な数を売っているんですよね。もしかしたら誰かが既に製品登録しているとかって事、あると思いますか?」
ここに来るまでに気になった事が、これだ。
ジャンダ村ですでに1000個売ってるし、ハリソン村でも300個売ったんだよな。
それにハリソン村のサイモンさんは俺がギルドに行く前に、商人からマッチの事を聞いていた。
って事は、誰かが真似をして作っているかもしれない。
「それは無いとは言い切れませんが、このマッチという製品の複製品は簡単に作れると思いますか?」
「あ〜・・・どうでしょう? それ、俺のスキルを使って作っているので、できるかどうかよく判りません」
「そうですか。私としてはそれは無いと思いますね」
「どうしてでしょう?」
「パッと見た感じ、マッチという製品は先についているこの部分が燃えるための物質なんですよね? 私は鑑定のスキルを持っていますが、その部分の成分を鑑定する事ができません」
「そうなんですか?」
火薬、ってこの世界にないのか?
やっぱり魔法がある世界だからか?
「なんらかの鉱物を使っている、という事は判るんですがそれ以上の事は出てこないんです。つまりその部分はコータ様のスキルによって出来上がったもので、真似ができないという事になります」
「だったら申請しても通らないという心配はいらないって事ですね」
「はい、その通りです」
「でも俺にミルトンさんのスキルを教えてくれて良かったんですか?」
どんなスキルを持っているか言わない方がいいって、ケィリーンさんが言ってた気がするんだけどな。
「心配してくださっているんですか、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。私が鑑定スキルを持っている事は別に秘密でもなんでもありませんから」
「でも、スキルって普通は秘匿するものだと聞いていたんですけど」
「そうですね。コータ様であればどのようなスキルを持っているか、あまり周知しない方がいいでしょうね。ですが生産ギルドにおいては、職員になる条件が鑑定スキルを持っている事なんですよ。ですのでここで働いているという事は、鑑定スキルを持っているという事になります」
鑑定スキルがないとここで働けないって事か。
道理であっさりと教えてくれた訳だ。
「じゃあミルトンさんは鑑定スキルを持っているから、生産ギルドで働いているって事なんですね。あんまりあっさりとスキルを教えてくれるから余計な心配しました」
「それは失礼しました。生産ギルド内では当たり前の事なので失念しておりましたね」
「いえいえ、とても勉強になりました。今後何か鑑定してもらいたいものがあれば生産ギルドに持って来ればいいって判っただけでも助かりました」
「そうですね。たまに鑑定してほしいといって来られる方はいますね。ただし、カウンター以外の持ち場においては一概にそうとは言えませんけどね。生産ギルドは多岐に渡って業務を展開しておりますので、それぞれの分野によって必須となるスキルは違ってきますので、生産ギルドの職員だからといって鑑定スキルを持っているとは限らないんです」
つまりギルド内での仕事内容によって必要となるスキルが違ってくるって事か。
元の世界でいう所の専門職ってヤツだな。
ただこの世界では勉強すれば身につくものじゃないから、スキルを持っていないといけないとか、いろいろと制約はあるんだろうけどさ。
「では3日後に・・・って、少し遅れても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。何か予定でもありますか?」
「明日からハンターズ・ギルドで受けた依頼のために出かける事になっているんです。一応3日の予定なんですが、もしかしたら延びるかもしれませんので」
「ああ、そうですね。ハンターの方でしたら、予定通りにいかない事もありますからね。大丈夫ですよ、気にしないで戻ってこられたら来てくだされば結構です」
ミリーが受けた依頼の事、すっかり忘れてたよ。
2泊3日の予定で出かけるつもりだったんだよな。
「それでは、またこちらに戻り次第寄らせてもらいますね」
「はい、お待ちしております」
どうやら問題なく生産ギルドのメンバーにもなれそうでホッとしたよ。
俺はお礼を言ってからギルドの隅の方でおとなしく待ってくれているミリーと合流する。
さ、ちょうどランチに時間だ。
ミリーが食べたいっていう所に連れて行ってやろう。
読んでくださって、ありがとうございました。
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Edited 05/05/2017 @15:49 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。
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