表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/345

5.

 ゆっくりと目を開けると、ポカリと白い雲が浮かんでいる青い空が見えた。

 俺は寝転んだ格好のまま頭だけを動かして周囲を見回す。

 右、緑の草原。

 左、緑の草原。

 どちらも同じような景色が広がっていた。

 ふむ。

 それなら、と俺は上体を起こしてから前方を見る。

 前、緑の草原。

 それから頭を回して後ろを見る。

 後ろ、鬱蒼と茂った森。

 後ろだけ景色が違うな。

 俺はその場に座ったまま首を動かすとクキクキと音がした。

 身体は結構凝り固まっていたみたいで、ボキボキといい音がした。

 一体どのくらいの時間俺はここで寝て・・・いや、気を失っていたんだろう?

 とりあえず、俺は自分の身体を見下ろした。

 ふむ・・・茶色の皮のベストに白いシャツとカーキ色のズボン。それにこげ茶のブーツを履いている足が見える。

 つまり、これがこの世界の標準装備、ってやつなんだろうな。

 俺の履いているズボンを見ればそこにはファスナーなんてものはなく、ただ結ばれた紐がチョロンと垂れ下がっている。

 う〜む、これはまるでパジャマのズボンみたいじゃないか。

 なんかカッコ悪い。

 まぁ、ベルトがあるから紐をズボンの中にしまっておけば誰にも見られないから良しとするか。

 と、ウェストポーチみたいなのが腰にベルトと一緒についているのを見つけた。

 「なんだ、これ?」

 ウェストポーチはボタンで蓋を閉めるようになっていたので、ボタンを外して中を覗き込む。

 ぅうおおいぃっ

 中は真っ暗で何も見えない。

 何これ、暗黒物質みたいなポーチなんだけど?

 そこで、はた、と神様(カー⚪︎ルおじさん)との会話を思い出しだ。 

 「そういや、荷物の持ち運びのために魔法のポーチを装備させてくれる、って言ってたな」

 って事は、これがソレか。中身を知るためのキーワードも教えてもらったんだっけ。

 「確か・・・『インベントリ・オープン』・・・おぉっ、すげぇ」

 いきなり目の前に現れたスクリーンに、ポーチに入っているもののリストがずらっと並んでいるのが見える。

 「なになに・・・ズボンx5、シャツx5、靴下x5、ブーツx1、水筒x2、皮のジャケットx1、薬セットx1・・・」

 結構いろいろなものを詰め合わせてくれているらしい。ただそれは歯ブラシやタオルなんかの日用品と言ったものだけで、あとは非常食というものが1週間分入っているだけだ。

 せめてナイフとかあると、食事を作る時なんかに役に立つと思うだけどな。

 おまけにこのポーチの収容量は数じゃなくて量のようで、それぞれの行の最後にあとどのくらい空きがあるかがパーセントで書かれている。

 俺の考えが合っているんだったら、あと今入っているものの30倍ほどのものを収容できそうだ。

 ふぅんと思いながら読んでいると、項目の最後の1行が目に止まった。

 「手紙x1・・?」

 手紙? 誰からなんだ?

 俺は手紙手紙と心の中で念じながらポーチの中に手を入れると、指先にカサっと封筒が触れた。

 それを引っ張り出して見ると生成り色の無地の封筒で、表にも裏にも何も書かれていない。

 それでもここに入っていたって事は俺宛てなんだろう、って事で早速開けてみる。







 北村幸太くん


 無事に新しい世界で目が覚めたようでなによりだ。

 最初に、残念ながら君の世界のゲームのようなステータスを見るためのスクリーンは存在しとらん。

 だが魔法マジックポーチの使い方も中に何が入っているかも知らない君のために、それには無理・・をして付ける事にした。

 この魔法マジックポーチは、君の魔力にのみ反応するようになっているので、他の人には使えないから気をつけてくれ。まぁ、もし盗まれたとしても、魔法マジックポーチを手にした人間の流す魔力に反応して北村くんのところに戻ってくるようになっているから大丈夫だと思う。


 さて、無事にスキルを身につけた君だが、自身のスキルについての情報はあの時話し合った事以外は全くないと思う。さすがにそれではスキルを使いこなす事はできないだろう。

 君のスキルの特異性もあり君の希望通り、スキルを使う時にはスクリーンとキーボードが出てくる事にしておいた。マウスはないが、スクリーン・タッチ・システムを適用しておるから、君のスキルを使う事はそれほど難しくないと思うぞ。

 それでもまぁどうしてもマウスが必要と感じた時は、スキルを使って自分で作ればいいだろう。

 君のスキルは『多元プリンター』と名付けた。

 『多元プリンター・スクリーン、オープン』と言えば、スクリーンとキーボードが目の前に現れるようになっておる。

 そして作業を終えたら『多元プリンター、クローズ』と言えば、スクリーンとキーボードは消える。

 あとはスクリーンを使って自由にスキルを使ってレベルを伸ばしていけば良いだろう。

 そうそう、ついでにそれを使う事で君自身のステータスを確認する事もできるようにしておいた。

 ま、私の世界にはゲームのような細かいステータス分類はないから、大したステータスは見れないと思うけどな。

 それからスキルのサポートシステムも用意してあるから、使い方などで困る事はないだろう。なんでもサポートシステムに聞いてくれ。


 さて、ここからが本題だな。

 これを読んだ瞬間から1週間の間、君が目を覚ました場所の周囲約100メートル程度に結界が張られるようにしておいた。

 私としても目が覚める前に何かに襲われて死んでしまっては、ここまで頑張った意味がないからな。

 それに慣れない世界にきたばかりの無防備な今の状況で、何かに襲われても対処できないだろうからな。

 これは1週間後には消えるので、その間に旅のために必要な装備を準備してください。

 今君がいる場所から2時間ほど森沿いに南に行けば、小さな村に出るだろう。

 まずはそこに行ってこの世界の事をおしえてもらうといい。

 そこから先は君が自分でどうやって生きていきたいか決めて頑張ってくれ。

 


 それでは、これからの君の新しい人生が恵まれたものでありますように。

                                   神様より







 「旅・・・?」

 旅にでるのか、俺?

 そう考えてから、ああ、と理解した。

 いつまでもこんなところにいるわけないもんな。

 まぁここで引きこもりをしても構わないんだろうけど、周囲は草原だけっていう場所でどうやって楽しい生活を送れるっていうんだ。

 田舎が好きだっていうヤツもいるだろうが、俺には絶対に無理だよな。

 となると、まずはどこか近くの町か村まで出る必要があるって訳だ。

 だからここから一番村の場所を教えてくれたんだろう。

 それにこんな手ぶらじゃあ、この結界から出てすぐに殺してくださいって言ってるようなもんだ。

 うん、神様(カー⚪︎ルおじさん)の言いたい事は理解した。

 でも、どうやって準備しろっていうんだ?

 ポーチの中には武器になりそうなものは全くなかった気がするんだが・・・・

 それに『多元プリンター』って、なんだ?

 俺に付けてくれるスキルって3Dプリンターじゃなかったのか?

 まぁいいや、とりあえず起動させてみればいいや、と俺はもう1度手紙に視線を落としてキーワードを確認する。

 「えっと・・・『多元プリンター・スクリーン、オープン』っと・・うぉおおっ」

 何もない目の前の空間に、一瞬にしてスクリーンが浮かび上がってきた。

 とっさの事で思わず声が出てしまったのは仕方ないだろう、別に怖かったわけじゃない。

 画面の真ん中に現れたスタートボタンを押すと、幾つかの項目が現れた。

 そのうちの1つに『幸太、ステータス』とあったので、それをまず押してみる。

 「ふぅん、なるほど。これが俺のステータスってヤツか。確かに神様(カー⚪︎ルおじさん)が手紙に書いていた通り、それほど情報はないんだな」

 ふむふむ、と頷きながらもさっと目を通す。



    名前: 北村幸太

  健康状態: 良好

    特技: 無し  

    魔力: 特大

   スキル: 多次元プリンター - レベル 1



 項目はたったの5つだった。しかも数値が設定されているのは俺のスキルだけだった。

 まぁこれは神様(カー⚪︎ルおじさん)が最初から言っていた事だからそれほど期待はしていなかった。

 でも、スキルにレベルがあるのか? しかも1って。

 「ショボいな」

 俺はステータス欄を閉じて、もう一度リストを呼び出して、今度はスキルという文字に触れた。


 ててれてってれ〜〜〜


 なんか聞いた事があるような、でもそれにしてはショボい気の抜けたような音が頭に響いた気がしたが、ここは無視して現れた画面を読んだ。

 なになに・・・

「ようこそ、多次元プリンター・セットアップセンターへ、ってなんだこれ」

 小さなブゥンというモーター音がして、画面に小さな羽の生えた女の子が現れた。

 それだけで驚いていた俺は、その女の子が画面から出てきた事に更に驚いた。

 そしてその子はにっこりと笑ってから、俺に向かって丁寧に頭を下げたのだった。




 読んでくださって、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ