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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
ハリソン村 ー 見つけたものは?
54/345

53.

 あれ?

 てっきりカウンター席に戻るのかと思っていたら、サイモンさんは俺たちを練習場に行く時に通った通路沿いにある個室の1つに連れてきた。

 「あの・・カウンターに戻らないんですか?」

 「はい、ちょっと話があるものですから」

 ニッコリと笑みを浮かべたサイモンさんは俺とミリーに席を勧めてから出て行く。

 「コータ?」

 「ん〜、なんだろうなぁ」

 「もしかして、わたしハンターになれないの?」

 「いや、それはないんじゃないか? ミリーの矢は最初の試し打ち以外は全部的に当たってただろ?」

 「ん、でも・・・」

 個室に入るように言われた事で、ミリーは心配になっているようだ。

 「わたし、人種ヒトじゃないから・・・」

 「だったらハンターに登録したいって言った時に駄目だって言われてるよ。そのつもりで最初に毛皮から頭を出せって言ったんだからさ」

 スミレに言われて、ミリーが猫系獣人である事を隠さないように最初に見せつけたんだから、その段階で駄目なものは駄目って言ってる筈だ。

 「お待たせしました」

 ノックをしてサイモンさんがお盆を手に戻ってきた。

 彼は3人分のお茶の入ったカップをテーブルに置いてから、小さな器に入ったクッキーっぽいものをミリーの前に置く。

 「ちょっとコータさんと話があるので、申し訳ありませんがミリーさんはそれを食べながら待っててくださいね」

 「うん・・」

 「大したものがなくて申し訳ありませんね。お茶菓子を探したんですが、それしか見つかりませんでした」

 どことなくしょんぼりしたミリーを見て、サイモンさんは頭を傾げてから俺を見る。

 「ミリーはハンターになれないかも、って心配しているんだ。お菓子が気に入らないからじゃないから気にしないでくれたらいいよ」

 「もしかしてカウンターに戻らなかったから、ハンター登録をしてもらえないと思ったんですか?」

 「そういう事」

 「ミリーさん、あなたはちゃんと攻撃手段を見せてくれました。ですのでハンターとして申し分ありません」

 「で・・でも」

 「ここにお連れしたのはコータさんと話をしたかったからです。ですので、それが終わり次第ミリーさんのギルド・カードを発行しますね」

 途端にパッと顔を上げたミリーは、サイモンさんが嘘を言ってないか確認するように彼の顔をじーっと見つめる。

 それから嬉しそうな顔で俺を振り返った。

 「コータ、カード、貰えるって」

 「よかったな」

 「うん」

 ホッとしたように持っていた毛皮をぎゅーっと抱きしめてから、ミリーはサイモンさんが持ってきたクッキーもどきに手を伸ばした。

 「それで、俺に話、ですか?」

 「はい、売っていただきたいものがあるんです」

 「俺に?」

 サイモンさんが欲しがるようなもの、持ってたっけ?

 「あのですね、ジャンダ村のギルドに売ったマッチというもの、余っていませんか?」

 「マッチ? ああ、あれかぁ」

 「ジャンダ村ほどは必要ありませんが、もし余っていれば売っていただけると助かります」

 なるほどね、すでにマッチの情報がここにきているんだな。

 マッチならあれからスキル上げのために結構な数を作ってあるんだよ。

 都市ケートンのギルドで売ろうかと思っていたんだけど、ここでも売れるなら売っちゃうよ。

 「どのくらいあればいい?」

 「どのくらい、とは?」

 「ジャンダ村では1000個売ったんだけど、サイモンさんはいくつくらい必要ですか?」

 「そうですね・・・300個くらいあれば助かります。でももしなくてもあるだけ売っていただけると嬉しいです」

 「300個なら用意できますよ」

 「本当ですか? いや〜、助かりますよ。実は今朝ジャンダ村から来た商人が持っていたのを見て、この村でも売りたいなって思っていたんです」

 「商人が?」

 なんで商人が持っているんだ?

 「商人の話では、彼が雇った護衛のハンターがジャンダ村で買ったんだ、と見せてもらったんだそうです。あれなら魔力を無駄遣いする事もなく火を熾す事ができる、という事で100個ほど購入したんだとか。火を熾して見せてもらいましたが、本当に便利なものでした」

 「でも商人からは俺の名前は出なかったんだろ?」

 「はい。ただハンターズ・ギルドで購入したと聞いたので、すぐに連絡を入れて聞いてみたんです。そうしたらコータさんが作ったものだ、と言われたのでもしかしたら売ってもらえるかもしれないと考えたんです」

 どうやらギルド同士で連絡できる手段があるみたいだな。

 一体どうやっているんだろ?

 「じゃあ、俺の事はケィリーンさんから聞いてますか?」

 「はい。彼女とは直接話しました。ですのでコータさんが持ち運びのために便利なものを持っている事も聞いてます。ですからこの話をするのであれば個室の方がいいだろうと判断しました」

 「気を遣って貰えて助かります」

 「いいえ、こちらこそ無理を聞いてもらいました。ただそのせいでミリーさんに要らぬ心配をおかけしたようですけどね」

 苦笑いを浮かべて俺の隣に座るミリーに視線を向けるサイモンだけど、ミリーはもう気にしていないようでクッキーもどきをカリカリと音を立てながら食べている。

 その音からするとかなり固そうだが、まぁミリーが嬉しそうに食べているからいいんだろう。

 「ではこちらの箱に入れてもらえますか?」

 「サイモンさん、俺が300個持っていると思っていたみたいですね」

 「ええ、ケィリーンさんの話では1000個をあっという間に用意してくれたって言ってましたので、もしかしたらそのくらいは持っているのではないか、と推測していました」

 悪びれずにしれっと答えるサイモンさんに軽く肩を竦めてから、俺はポーチからマッチを取り出した。

 なんだかんだと結構大きな筒なので、一度に握って出せるのは3個だ。

 なので3個ずつ10回分をサイモンさんが取り出した箱に並べていく。

 「はい、丁度300個あります。でもこれ、本当に1つ10ドランでいいんですか?」

 「いいですよ。そういえば売値はケィリーンさんに聞いてますか?」

 「はい、1つ15ドランで売る予定です」

 そういいつつ、サイモンさんは懐から取り出した売買証明書を取り出して俺の前にすっと差し出す。2枚あるので両方にサインをしてから1枚をサイモンさんに返す。

 「でもコータさんは欲がないですねぇ。これなら倍の値段でも十分売れますよ」

 「そうですか? 俺としては簡単に火を熾す手助けになれば、と思っただけですからね。そんなものに高い値段なんてつけられないですよ」

 「今朝やってきた商人はこれを町に持って行って30ドランで売るって言ってましたよ?」

 たった15本しか入っていないマッチを30ドランって事は300円かよ、たっけぇなぁ。

 でもまぁ、それなら時間がある時にたくさん作っとくかな?

 どうやらマッチならいく先々で売れそうだ。

 「それで、ですね。他に何か売れるようなもの、持ってませんか?」

 「ほかに、ですか?」

 「ええ、マッチというものを作られたコータさんだったら、何か他にも便利なものを作られているのでは、と思ったんですけどね」

 う〜ん、俺が作ったもので便利なもの、ねぇ。

 そんな都合のいいもの、持ってたっけか?

 「え〜っと・・・残念ながらないですねぇ」

 「そうですか」

 目に見えてガッカリするサイモンさんだが、ない袖は振れないからなぁ。

 「今あるものと言えば、ナイフやなた、そんなものですね。あとは鍋かなぁ」

 「・・鍋、ですか? 見せてもらっても?」

 「見せるようなものじゃないですよ」

 と言いつつ、スミレと一緒に作った鍋を取り出した。

 大きさは4リットル分くらいの鍋だが、中には穴の空いた鍋が入っている。

 これは蒸し器を兼ねた鍋なのだ。

 こんなのが欲しいと言ったらスミレがデータを出して見せてくれたので、その中から選んで作ったんだけど、結構使い勝手が良くて重宝している。

 「ほぉ・・・変わった鍋ですね。中の穴の空いた鍋を取り出せば普通の鍋として使える。そして穴の空いた鍋を入れれば蒸し器になるんですね、なるほどなるほど。それで穴の空いた鍋に中身を移せば水切りをしてくれる、と。便利な鍋じゃないですか」

 「そうですか?」

 なんか褒められすぎている気がするんだけどなぁ。

 「それで、いくつこの鍋を持ってますか?」

 「これ、ですか? え〜っと、いくつ作ったっけ? 多分10個くらいかな?」

 「判りました、それ全部売ってください」

 「へっ?」

 「コータさんは丁度商人ギルドにも登録したところですので助かります。ハンターズ・ギルドではハンターから買い入れるものはハンターが使うようなものでないと駄目なんですよ。ですが、コータさんは商人ギルドにも登録されたので、商人として売って貰えばあとはこちらで転売できますからね」

 ニッコニッコというのが一番表現がぴったりくる笑顔を浮かべたサイモンさん。

 「おっと、肝心の値段を聞いてませんでしたね。いくらで売ってもらえますか?」

 「いくらって・・・いくらで売ればいいんでしょう?」

 鍋の値段なんて知らないよ。

 「そうですねぇ・・・それでは1つ300ドランでどうでしょう? 300ドランで買い入れさせていただいて、うちで450ドランで売らせていただきたいと思っています」

 「300ドランで450ドランですか」

300ドランって事は3000円だな。それで売値が4500円ってところか。鍋なんて滅多に買わないから値段が判んないんだよなぁ。

 でもまぁ妥当なところなのかな?

 「判りました、300ドランで売らせていただきます」

 「ありがとうございます。それではすぐに売買証明書を作りますね」

 ウキウキと立ち上がってさっさと部屋をでて行くサイモンさんを見てから、俺はポーチから見せたばかりの鍋を取り出す。

 幾つあるかなぁ・・・これも練習を兼ねて10個くらいは作った記憶があるんだよな。

 丁度スミレが鉄の延べ棒を山ほど作ってくれた時だったからさ、それを使って鍋を何種類か作った記憶がある。

 ウサギの毛皮は100ドラン、マッチが300個で3000ドラン、それから鍋が10個で3000ドランの合計6100ドランの収入か。

 1日で6万円以上の稼ぎなら悪くないな。

 これなら無理して今日出発しなくても、今夜は宿に泊まるのも有りだな、うん。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 そして、お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。

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