4.
もう暫くは毎日更新できそうですので、1日のおヒマな時に読んでいただけると嬉しいです。
それから5分ほど経った頃、ようやく神様は顔を上げて俺の方を見た。
「すみません、お待たせしました。転生させる時の身体が成長している事って滅多にないので、時間がかかってしまって」
いや〜大変でした、それでもなんとかできました、とホッとしたような表情を浮かべる神様。
確かに待ったけど、いろいろと考え事をしてたから、神様がいうほど待っていたっていう気はしてない。
それよりもさっきから気になっていた事を聞こう。
「うん、大丈夫。気にしないでいいよ」
「そうですか、そう言ってもらえると助かります」
「それよりさ、その話し方、なんとかならないかな?」
「話し方、とは?」
「いや、だからさ、丁寧すぎて困るよ。神様だっていうんだったら、なんていうの? こうさ、どっしりと構えた口調じゃないと、全然威厳が伝わってこないよ」
「しかし、私のせいで死なせてしまった人に、普段の偉そうな口調で話すには失礼な気がしますので」
「いやいやいやいや。あれは事故だろ? 不慣れな場所だったが故の事故だよ。そのお詫びとして俺に新しい人生をくれるんだろ? だったらそれでチャラにすればいいじゃん」
そりゃ確かに神様のせいといえばそうなんだけどさ、今更その事をグチグチ言ったって生き返れる訳じゃない。
「しかし、私のせいで家族や友人とも二度と会えなくなったんですよ」
「そりゃそうだけどさ・・・でも、仕方ないって諦めがついたよ。いつか別れ別れになるのが人生ってヤツで、それが少し早まっただけだよ。それにさ、新しい人生、楽しみにしてる」
「そうなのですか?」
「うん。だってさ、正直言って社畜生活にはウンザリだったんだ。毎日毎日会社に行ってさ、仕事をしてるのに文句を言われて、週の半分以上は残業だよ。家に帰ったらヘトヘトで何かをしようっていう気にもならない。週末だって大抵は疲れてるから寝過ごして、それから掃除洗濯って言った家事をしているうちに終わっちゃう。そんな生活を続けるよりはここで心機一転して、新しい人生でのんびりと趣味を楽しみたいな」
うん、できれば神様の世界が俺が住んでた日本みたいな忙しない世界じゃなくって、もっと伸び伸びと毎日をすぐせる世界だといいなぁ。
「そうですか・・・判りまし、いや、判った、そうしよう」
「うん、そうそう、もう堅苦しい言葉遣いは無し、な」
「北村君が良いと言うのであればそうしよう」
「うん、いいんだ。あんまり丁寧な口を聞かれるとケツがむず痒くなっちまうよ」
俺がおどけたようにいうと、神様は俺の意図を受け取ったのか、にっこりとフライドチキンのお店の人形みたいな笑みを浮かべた。
「じゃあ、話を続けるか。とりあえず、北村君の身体の設定は終わった。あとは身体ができるのを待つだけだが、おそらく君がいた世界でいう時間軸だと5−6ヶ月はかかるだろう」
「結構かかるんだな」
「うむ。1から身体を作らねばならんからな。その身体に君の魂が馴染みやすくなるように手をくわえながらとなると、急いで作る訳にはいかんのだ」
「なるほど」
そういう理由だったら、時間がかかっても仕方ないな。
だってさ、新しい身体に馴染めなくて死んじゃったりしたら、せっかくの新しい人生、楽しめないじゃん。
「それで、どんなスキルにするか決めたのかの?」
「うん、決めた」
「やっぱり魔法か?」
「魔法もいいな、と思ったんだけど、それって俺が欲しいものじゃないから、使えないなら使えなくても我慢するよ」
「そうか?」
神様はてっきり俺が欲しがるスキルは魔法だと思ったらしい。
ま、俺の世界には魔法なんてなかったからね。
だが、違〜〜〜う!
俺が欲しいものは1つしかない。
俺は思わず顔の前に人差し指を立てて、ちっちっち、と左右に振った。
「俺が欲しいスキルは3Dプリンターみたいな能力だ」
「・・・・3D、プリンター・・? それは私が君にぶつかった時に持っていた箱の中身の事だったか」
「そう。もちろん3Dプリンターと全く同じものじゃなくってさ、なんて言うかな、3Dプリンターみたいな俺が欲しい物を作り出す能力が欲しいんだ」
そう、俺が欲しいのは3Dプリンターだ。
そのために休みの日にわざわざあんなところまで出かけて行ったんだ。
その気持ちは今も昔も変わっていないのだ。
とはいえ、結局買うところまでは行ったもののそれを使う機会はなかった訳だけど、それでもどうしても諦めきれない。
「ふむ・・・つまり、君が買った3Dプリンターのように物を作りだす能力、という事か?」
「うん、そうそう。でも、ただ物を作るって言うだけじゃなくってさ、なんて言うかなぁ、3Dプリンターみたいに画面があって、それを使ってシミュレーションしながら物を作っていく、っていうのかな。とにかく俺が買った3Dプリンターみたいに物を作りたい」
「なるほど・・・」
神様は、片方の手で顎ヒゲを撫でながら考え込んでいるようだ。
「そういえばさ、3Dプリンターの事、知らなかったんだよな?」
だから俺にぶつかって線路に突き落としたんだよな。
「うむ、初めて見るものだったな。あの時は3Dプリンターなんていうものの事は知らんかった。でも君の魂をここに連れてきて目を覚ますまでの間に、あの箱の中身が一体どんなものなのかをパソコンで調べてみたよ。だから、ある程度の事は理解したと思っとる」
ああ、そういやパソコン持ってるってさっき自慢してたな。
とにかく、神様は俺が持っていた3Dプリンターの事をそれなりに理解している、という事なんだろう。
「それなら話は早いな。俺が欲しいのは3Dプリンターみたいなスキル。なんでも作れるスキルが欲しい。まぁ世界が違うから、材料とかはその世界で手に入れる事ができる物限定にして貰うけどな。それと電気がないんだったら何か他のエネルギー源を使うようにしてもらわないと駄目なのか・・それってできるのか?」
なかなか好き勝手な事を言っている自覚はあるが、どうせスキルを貰うなら使い甲斐があるスキルがいいに決まっている。
「・・・・なかなか難しい注文だな」
「そうかもな。けど、ど〜〜〜〜しても、諦めきれないんだ。俺は3Dプリンターが欲しくって、ボーナスと毎日続けていた100円玉貯金を全て叩いて買ったんだよ。なのに肝心の3Dプリンターを使う事もなく死んでしまったんだ。それがどうしても未練なんだ。だから、俺が3Dプリンターみたいなスキルが欲しいって言っても仕方ないだろう?」
「うっっ、それは・・・」
眉間に皺を寄せていた神様は、俺の言葉を聞いて慌てて皺を伸ばした。
そりゃそうだ。俺から3Dプリンターを使う機会を奪ったのは誰でもない、神様なんだからな。
俺にこう言われると返す言葉がなくなる事は、もちろん計算済みだ。
欲しい物は貪欲に求める、それが男ってもんだろ。
もちろん、そのためには手段を選ばないのは当たり前だ。
「そうだな、確かに君の3Dプリンターに対する執着は、それはもう見事なものだったな。まさかあのまま線路に向かって落ちていく3Dプリンターの後を追って行くとは、さすがに私も思いもしなかったからな」
思わぬ反撃を受けて、今度は俺が眉間に皺を寄せた。
「なんだよ、俺のせいだっていうのか? 線路に落ちそうになっていたのがお茶の入ったペットボトルだったら俺だってほったらかしていたさ。けど、あれはそんなチャチいもんじゃなかっただろ? 俺の全財産と言ってもおかしくないものをそのまま線路に落とすわけにはいかなかったんだよ」
「それは・・・」
「それとも何か? もしあの時俺が3Dプリンターの後を追わないで止まっていたら、あんたは俺に自分が突き飛ばしたせいで3Dプリンターが線路に落ちて粉々になったって素直に認めて、新しい3Dプリンターを買ってくれたっていうのか?」
そんな訳ない、と俺は言い切れる。
きっと、ヤバい、とそのまま逃げている筈だ。
そんな俺の心の声が聞こえたのか、神様はがっくりと頭を項垂れた。
ほらみろ。そんなものだって判ってんだよ、こっちは。
「しかし、だな・・・それをスキルにするというのはちょっと大変というか、無理というか・・・」
「さっき、俺が望むものをスキルにして貰う事はできるのかって聞いたらできるって言ったけど、もしかしてあれって口だけだった、って事?」
「そんな事・・・口にしたか?」
「うん。きっぱりと、できる、って断言した」
「・・・そう、か」
どうやら俺の身体を作る事に集中していたせいで、俺の話をちゃんと聞いていなかったようだ。
だが、今更言い逃れはさせんぞ。
「別に新しいスキルを作る事はできるだがなぁ。ただなぁ・・・大変なんだよ。さっきやっていたような君の身体を作るよりももっと手間も時間も掛かるんだ」
「助言くらいはするよ?」
「それは・・・はぁ、仕方ないな。できると言ってしまったようだし、それもお詫びの一環として頑張らせてもらおうか」
うん、そうしようそうしよう、俺のために。
にっこりと会心の笑みを浮かべて頷いた俺とは対照的に、目の前の神様はがっくりと疲れたような顔で頷いた。
読んでくださって、ありがとございました。