47.
結局スミレの剣幕に圧されて、俺はネコミミ幼女のお風呂を終えた。
たださ、ガン見はしちゃいけないと思った俺は、視線を下に向けずにただひたすら前方を睨むように見つめながら手だけを動かしたんだ。
なので洗い損ねた部分があるかもしれないが、その辺は容赦願いたいものだ。
それだけの行為でも俺の精神はガリガリと削り取られたんだからさ。
俺は赤銅色のネコミミと適当に切られたと思しき同色の彼女の髪を見ながら、目を開けたら瞳の色はどんな色なんだろうと思いながら見下ろす。
『随分と綺麗になりましたね』
「あ〜・・まぁな。それより、この子が着れそうな服を作るんだろ?」
『ああ、そうでした。雑草の袋をもらえますか?』
「うん、ポーチに3つくらいあるから。幾ついる?」
『では2袋ください。それだけあれば十分すぎるほどです』
俺は地面に広げた俺のシャツの上にタオルをかけて寝ている子供を横目に、ポーチから雑草が入った皮袋2つ取り出してそれを陣が出てくるであろう辺りの端の方にほん投げる。
「で、どんな服を作るんだ?」
『とりあえずはこの子が着ていたチュニックを作ります。もちろん、尻尾用に穴も開けます』
チュニック、って、あれか。あのただ被るだけの膝丈のシャツだな。
まぁあれならサイズを気にする事もないから、スミレも作るのが楽だろうし。
「ベルトは?」
『作りますよ。丁度コータ様のベルトを作った時の残りの材料がありますから。ただ、ベルトじゃなくて革紐ですけどね』
まあ確かにこの世界にはまだベルトバックルの金具がないから、ロープみたいなもので腰を締めている人しか見た事ないな。
『革紐を編み上げたような可愛い デザインにしますからね〜。なんたって女の子なんですから、可愛くないと可哀そうでしょ?』
「あ〜、うん。まあスミレに任せるよ」
『はいっ、任されましたっ!』
可愛いかどうかなんて俺にはあんまり興味ないからさ。
そういう事であれば、スミレにお任せコースでお願いします。
俺に可愛いとかなんだっていう話をふらなければそれでオッケーだよ、うん。
『あっ、コータ様、どうしましょう』
俺がぼーっとスミレがスクリーンに色々とセッティングしているのを眺めていると、急に慌てたような声を上げた。
「どうした?」
『この子の下着が作れません』
「はぁ・・・・?」
『チュニックは大きめに作ればそれでなんとかなりますが、下着は体にジャストフィットするものが一番です。ですが私はあの子の体形をよく知らないのであの子に合った下着を作る事ができませんよ』
「べ、別にいいじゃん。適当に作れよ」
『何言ってんですか。女にとって下着はとても大切なんですよっ。ちゃんと体に合ったものを作らないと体の線がおかしくなりますし、尻尾の位置が判らないとどこに穴を開ければいいのか判りません。大体、将来の体型に支障がでたらどうするんですかっ!』
どうするって、別にどうもしないと思うよ?
だってさ、この子の面倒を見るのって親に渡すまでだろ?
ハリソン村に戻ればサヨナラだ。
なのになんでこの子の将来の体型の事まで俺が心配せにゃならんのだ?
『コータ様、この子の脇に手を入れて陣に入ってもらえませんか?』
「なんでさ」
『脇に手を入れて立っている格好にすれば私のスキャンを使えば身体のサイズを計る事ができるんです。もちろん身につけているタオルもシャツも全部取り除いてくださいね』
「却下だ」
『えぇぇっ、どうしてですか?』
「そんな変態みたいな真似できるかよっ」
何考えてんだよ、スミレは。
スッポンポンに剥いた幼女の両脇に手を入れて立たせろ、だと?
俺に変態になれって言ってんのか?
「いいからとっとと服を作れよ」
『作ってます。ほら、今スタートボタンを押しました』
ポチッとスクリーンを押して服を作り始めたスミレは、陣の中で光がくるくると回り始めたのを見てから俺の目の前に飛んできた。
『コータ様、まさかこの子に着せるのはチュニックとベルト代わりの腰紐だけ、なんて言わないですよね?』
「なんで駄目なんだよ?」
『なんで、って、聞くんですか? だって、チュニック、だけだと、その子、下半身、スッポンポン、ですよ?』
よく判らんが、なぜかスミレは単語を区切りながら俺に説明してくる。
なんだ、もしかしたら強調するために区切ってんのか?
「スミレ、その子はハリソン村まで連れて行くけど、それでバイバイなんだよ? それ以上の付き合いはないんだ。綺麗に洗ってやっただけでも十分だと思うのに、代わりの服も提供しようって言ってるんだ。それで十分面倒をみてやったと思わないか?」
『それは・・そうですけど。でもですね、こんな幼い子供にちゃんとした服も着せないっていうのはちょっと可哀そうだと思うんです』
「下半身スッポンポンが可哀そうっていうのは判ったけどさ、この子最初っからパンツ履いてなかったじゃん? だったら作っても着ないんじゃないのか?」
なんでスミレがこんなにパンツに燃えているのか俺にはさっぱりだよ。
でもさ、もともと履いてなかったパンツじゃん。
もしかしたらこの世界、パンツを履かない文化なのかもしれないぞ?
『着ないっていうんだったら、パンツを着る必要性を教えます』
「スミレ・・・」
『女の子なんです。パンツは絶対に必要です』
キリッとした顔で言い切るスミレ。
まぁさ、反論はしないよ?
だって、勝てる訳ないじゃん。
きっとスミレの言うとおり、パンツは絶対に必要なんだよ、うん。
「じゃあ、この子が目を覚ました時に聞いてみればいいんじゃないのかな? パンツがいるって言えば、その時自分で陣に立ってもらえばサイズを測れるじゃん」
『むぅぅっ・・判りました。仕方ありませんが、それまで待つとします』
「それより、服ができたみたいだぞ?」
『えっ? あっ、ホントですね。取ってきます』
フワッと陣に向かって飛んでいき、スミレが右手を上げるとそれに合わせて陣にできていたチュニックとやらが浮かび上がってスミレについてくる。
『じゃあ、これを着せてあげてください』
「・・・俺が?」
『他に誰がいるんですか? 私には無理だって判ってますよね』
はい、判ってますから、その笑顔はやめてください。
俺はフワフワと浮いている服を引っ掴むと、目の前で深く眠っている子供を見下ろした。
あ〜・・俺が着せるのか?
着せるしかないんだな。
俺は子供の背中に手を回して上体を起こす。それから身体にかかっているタオルを上半身だけ外してから、Tシャツを着せるようにチュニックを頭からかぶせた。頭を通して右手を通して、それから左手を通すと胸からお腹にかけて服の布が丸まる。
今度は上半身をまた地面に戻すとタオルの下に手を入れて子供のお尻を少しだけ持ち上げて背中の部分の服を引き下ろす。
最後にお腹の部分に丸まっていた服を伸ばしながら下ろしてやると服を着た子供の出来上がりだ。
たったこれだけの作業だが、ゴリゴリと神経を削られた気がするのは俺だけなんだろうな・・・うん。
「着せたぞ」
『じゃあ、次は腰紐ですね』
「それは起きてからでいいんじゃないのか? 多分無い方がゆっくり休めると思うぞ?」
『それはそうですね。じゃあ、起きてからにしましょう』
「うん、それでいいよ。じゃあこの辺の物を片付けたらパンジーのところに戻ろう」
『そうですね、結構時間が経っちゃいましたから、パンジーも心配していますね』
パンジーが心配してるかどうかは判らないけどさ、それでもすっかり時間が経った事は間違いない。
俺は大きな音をたてないように鍋をタオルで拭いてからポーチに仕舞う。
それから石のタライも同じようにタオルで拭き、少し考えてからポーチに仕舞う事にした。
だってさ、風呂としては使えないじゃん。なのでストレージでもいっかと思ったんだよ。
でもポーチの容量はまだまだ空いているんで、めんどくさいからそっちに入れた、まぁそれだけだよ。
それからポーチからもう1枚大きめのタオルを取り出して、濡れたタオルを全部そこに乗せた。
「んじゃ、スミレ、よろしく」
『判りました』
スミレがすぐにスクリーンを何度か触ると、人が浮かび上がり光がくるくると回り始める。
多分10秒くらいで光が収まると、俺はタオルを畳みながらポーチに仕舞っていく。
これ、スミレができるようになった新しい技なんだよ。
なんと、お洗濯をしてくれるようになりました〜。
おかげで手洗いから解放されて、ほんっとうに助かっています。
といってもなんでも洗えるわけじゃないんだけどな。スミレ曰く、俺のスキルを使って作った物限定らしい。
それでも洗濯をしなくて済むっていうのは大助かりなので、それ以来神様がポーチに入れてくれていた服は着ていない。
だってそれ着ると自分で洗わなくちゃいけないじゃん、めんどくさいよ。
タオルも鍋もタライも仕舞った。
そうなると、だ、残されたのは・・・
「これ、どうしよう?」
目の前に寝ている子供を除くと唯一残っている物は・・・例のくっさい悪臭を放つ毛皮だけだ。
「これ、ポーチに入れたくないぞ」
中が永遠に悪臭を放ちそうだからな、それはぜってーいやだ。
「ここに捨てていく・・・訳にはいかないようなぁ・・・」
『この匂いがなんとかなればいいんですか?』
「ん? 基本はそうだけどさぁ。でもそれ滑ってるじゃん。それもやだ」
薄汚くて悪臭を放っているそれを足のつま先でつつく。
本当にこれ、どうしようかなぁ。
『滑り、ですか? ああ、雨で濡れたせいで皮の部分が腐りかけているんですよね』
「それだけじゃないぞ。毛の方だってドロドロになってる」
『じゃあ、修復しますか?』
「・・・・修復? どうやって?」
俺にはさっぱりスミレのいう事が判らないよ?
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