44.
しかし、だ。
結界の外に音を逃がさないから、獲物に近づくのに便利だというのは以前体験したんだよ。
でもな、今回は同じ結界の中にいる訳だ。
って事は音は丸聞こえになるって事だ。
そっと近づいて、まず1羽目をパチンコで落とした。胸元に当たったから死んでいるだろう。
けどその音で残りのブガラ鳥が一気にパニックになって飛びまわりだした。
スミレの結界は20メートルとの事で、その結界にぶつかって気を失って落ちたヤツが5羽。残りは木から木へと飛び回っている。
それをなんとか仕留めようと頑張っているんだが、既に7回パチンコで狙ってなんとか仕留める事ができたのは2羽だけ。
て事はまだあと4羽も残っているんだよなぁ。
けど頑張らないと、俺の羽毛布団が作れない。
俺は次のブガラ鳥を探す・・・が、見つからない。
「あれ? あと4羽いるんじゃなかったっけ?」
『あっちですよ、コータ様。あの茂みの向こうにいます。見えますか?』
「ん〜? おっ、見えた」
てっきり木の枝に止まっているとばかり思ってたから上ばかり探してたよ。
茂みの向こうに黒っぽいものが見えるんだけど、ここからだと狙いがつけれないなぁ。当てる事はできるだろうけど、その1撃で仕留められるかどうか判らない。
さて、どうしよう?
俺は残りの3羽の姿もついでに探してみるがさっぱり判らない。
仕方ないから、スミレが見つけてくれたブガラ鳥を狙う。
左手でパチンコを構え、右手でホルダーに石玉をセットしてからぐっと引く。
それを顔の前に持ってきて、左目を閉じて右目で狙いをつける。
本当なら両目を開けて狙いをつけなくちゃいけないんだけど、俺は利き目が左なので両目を開けると素っ頓狂な方角に飛んでいくのだから仕方ない。
茂みから見える黒い部分はおそらく後ろ側だと思うからそれよりも茂みの中よりに目測30センチのあたりに狙いをつける。
手ぶれを防ぐためにその位置でぐっとためをしてから、バッと右手を離した。
ヒュンっという音が聞こえ、そのまま目で玉の行方を追う。
バシッ
茂みの葉っぱを巻き込みながらも石玉は見事ブガラ鳥に命中した。
小さなクエっと鳴いてからブガラ鳥はその場に倒れた。
そしてその拍子に残りの3羽がパニックを起こして動いたおかげでどこにいるのかがわかった。
俺はすぐに次の石玉をセットして次々と残りの3羽を仕留めていく。
『ブガラ鳥、12羽、全て仕留め終わりました』
どうやら無事に全部仕留めたようだ。
俺は潜んでいた茂みから出ると、そのまま結界の中をウロウロと歩きながら12羽のブガラ鳥をとりあえずポーチに入れる。
ついでに石玉も回収しようとしたんだけど、4個しか見つからなかった、ちぇっ。
だってさ、重いんだよ。あんなの持って歩き回れない。
「なぁ、この近くに水場はないかな?」
『水場、ですか?』
「うん。ついでにここで処理しておこうよ。ハリソン村でやってもいいけど水場のある場所も知らないし、もしかしたら村の人間しか使用できないかもしれないだろ?」
『そうですね。判りました。探索開始します・・・ここから500メートルほどのところに小さな川が流れています。そこでいいですか?』
「うん、十分。どっちの方角?」
『パンジーを残してきた方角に進んでから少し森に入ります』
「オッケー」
だったら処理を終えたらすぐにパンジーのところに行けるな。
「スミレ、先導お願い」
『判りました』
スミレが羽を動かして2メートルくらい俺の前を飛んでいく。
もちろん俺の歩くスピードに合わせてくれているから、姿を見失うなんて心配はない。
5分ほど歩くとチョロチョロという音が聞こえてくる。
ガサガサと茂みをかき分けながら俺は前方に目をこらすが、残念ながらまだ小川は見えない。
『見えました』
いつものようにスミレが先に見つける。
ま、スミレは俺より前を進んでるからな、うん。
スミレが見つけた小川は幅が1メートルもない本当に小さな流れだった。
それでも透き通った綺麗な水が流れている。
俺は川辺に越を下ろすと早速ポーチから最初のブガラ鳥を取り出した。
「羽はどうする?」
『大きめの袋って作ってましたっけ?』
「ん〜、作ってなかった気がするなぁ」
『じゃあ、まずは袋を作りますか?』
「どうやって?」
『コータ様、雑草も集めていたじゃないですか。あれを使いましょう』
あれで俺の服の替えを作ってもらおうと思ってたんだけどな。
まぁいいか、とポーチに手を突っ込んで雑草雑草と心の中で呟きながら皮袋を2つ取り出した。
大きさは大した事ないがぎゅうぎゅうに詰め込んであるから、かなりの量はある筈だ。
『多次元プリンター、オープン』
スミレの声と同時に川辺に陣が浮かび上がる。
その中心に皮袋の中身を引っ張り出して広げる。
『大きさはどうしましょう?』
「これだけの雑草でどのくらいの大きさの袋が作れる?」
『そうですね・・・1メートルx1.5メートルの袋ができそうです』
「んじゃ、その大きさで。ちょっとくらい大きくてもまた使えるだろ?」
『はい。小さすぎるよりはいいでしょうね』
スクリーンをタッチして色々と設定しているスミレの横で、俺はポーチから神様にもらったシャツを取り出してその上に毟った羽を置いていく。
これが結構大変なんだよ。羽を1本ずつ毟るのであればまだしも、そんなまどろっこしい事はしてらんないから手を広げて掴めるだけ掴んでからぐっと引っ張ろうとすると思い切り引っ張らないと毟れないのだ。
『あの・コータ様?』
「ん?」
『何をしているんですか?』
「何って、羽を毟っているんだけど?」
『ご自分で、ですか?』
「・・・うん?」
何かやらかしたのか、俺?
手持ち無沙汰だったから勝手に羽を毟り始めたんだけど、もしかして早すぎたとか?
『あの、ですね。無理にコータ様が毟らなくても陣に置いていただければそこでできますよ?』
「マジ・・・?」
『はい』
俺は右手に握りしめている毟ったばかりの羽に視線を落とす。
羽のいくつかには赤い血がついていて、結構生々しいのだ。
「じゃあ・・・あとは頼む」
いいんだ、別に。
スミレがしてくれるんだったら任せるよ、うん。
ブツブツと呟いているうちに、スミレは茶色い布製の袋を作り上げてくれた。
「んじゃ、ここにブガラ鳥を置けばいいんだな」
『はい、お願いします』
「全部だすのか? それとも1羽ずつ?」
『1度に全部できますよ。あ、その袋は口を開けてから陣の中に置いてください』
「どの辺?」
『真ん中よりも少し端の・・そう、その辺りでいいです』
指示通りに袋の口の部分を開いて少し折り曲げてすぐに閉じないようにしてから、スミレが言った場所に底に手を入れて倒れないように立ったままになるようにして置く。
ちゃんと置けている事を確認してから俺は陣から出てスミレの隣に戻った。
なになに・・・ブガラ鳥の羽、全て毟る、羽は袋に移動、移動先の袋の位置設定XX-X。
他にももう少し細かい設定がされているが、要は毟った羽は袋に入れよ、って事だな。
なんでもできるなぁこのスキル。これってもうプリンターじゃない気がするのは俺だけだろうか?
そういえば、とスミレを振り返る。
スミレは実体がない。
それなのにものに触れる事ができるんだよな。
スミレの説明によると触れる対象は多次元プリンターで製作したもののみらしいけど、それでも十分便利だと俺は思う。
というかすっげー助かってる、俺が。
『はい、終わりましたよ』
「はやっ」
多分5分とかからずに毛を毟られたブガラ鳥12羽が陣の中に転がってる。
でもなくなったのは羽だけだった。
って事は解体をするのか?
めんどくせえなぁ。
「なあスミレ、このブガラ鳥の内臓って食えるの?」
『食べれますよ。内臓の煮込みにするみたいですね』
「ふぅん、じゃあ、このまま持って帰ればいっか」
内臓ごと売ってしまおう、うん。
俺はポンポンと1羽ずつ触ってポーチに仕舞っていく。
なんせポーチの時間は止まっているんだ。内臓を除去しないままほったらかしていても鮮度が落ちるわけじゃないからさ。
「そういやここで羽毛布団、作っていくのか?」
『そうですね。まだ雑草は残ってますか?』
「えーっと・・・全部使ったみたいだな」
『じゃあ、帰り道に雑草を集めましょう。それで今夜の野営の時に作りましょうか』
「そうだな。じゃあそうするか」
俺の魔力を使えばできるんだろうが、スミレ曰く魔力を使ってものを作るよりはなんでもいいから材料を揃えて作る方がレベルが上がりやすいらしい。
なのでできるだけ材料または材料もどきをあつめるようにしている。
「よっし、じゃあパンジーのところに行くか」
『はい、パンジーちゃん、待ってますね』
「うん」
もう2時間以上経つからな。ちょっとパンジーが心配だぞ。
『コータ様、戻るのであればこの川沿いに暫く進めば近道ですよ』
「おっ、そうなんだ。じゃあその方がいいな」
出発の前にその辺の茂みで用を足して、それから俺は川沿いに歩き始める。
ちょっとでも早くパンジーのところへ戻ろう。
チョロチョロと流れる川は大きくなる事もなく少しくねくねとしている。
『その先の大きな木のところで左に進んでください。そこから200メートルほどです』
「オッケー・・って、くっさ」
『コータ様?』
「くっせーっ! スミレ、なんだこの匂い」
スミレが言った木までほんの20メートルほどのところまで来ると、途端に鼻が曲がりそうな匂いが漂ってきた。
『臭いんですか?』
「すっげーくっせーぞ。スミレ、匂わないのか?」
『私には匂いは判りません』
「そ、そっか・・・」
スミレには嗅覚がないのか、知らんかったよ。
『どのような匂いでしょう?』
「なんか腐ってるような匂いだよ。っていうか、動物が死んでるのかもしれないな」
強烈な匂いの元はどこだろう、とキョロキョロしつつ木に向かって歩いていると、件の木の根元に黒っぽい薄汚れた何かが見えた。
「あれ、死体か?」
『判りません』
俺は歩みを緩めてゆっくりと薄汚れた塊に向かって歩く。
木の根元に転がっているそれは焦げ茶色の毛皮だった。
「熊か何かが死んでんのかな?」
『スキャンしますか?』
「ん〜、いや、別にいいよ。どうせ死んでるんだ。俺に害はないだろ?」
『そうですね』
毛皮なら金になるんだが、こんな腐ったような毛皮なんか売れる訳がない。
それでも気になった俺は足先でツンツンとつついてみる。
『欲しいんですか?』
「えっ? いらないよ。ちょっとつついてみただけだよ。じゃあ行こうか」
突いているのを指摘されて、ちょっと恥ずかしかった俺は慌てて手を顔の前で振って否定する。
ここからはスミレが先導しないと俺には行き先が判らない。
ひらっと俺の横を通り過ぎて前に出るスミレの後を追おうとした俺の足に何かがひっかかった。
さっきの死体が靴にでも引っかかったか、と見下ろしたその時。
毛皮から小さな手が出てきて俺の右足首を掴んだ。
「うわあああああああああああっっっっっ!」
足首を掴まれたせいでバランスを崩した俺は、悲鳴をあげながらその場に尻餅をついてしまったのだった。
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