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39.

 ガタガタと道のない草原をパンジーは車を引いて進んでいく。

 俺はそんなパンジーが引いている車の御者台に、ちょっと肩を落としたまま座っている。

 「パンジー、ごめんなぁ」

 車なんか無い方が歩きやすいに決まっているのに、俺が無力なせいでパンジーは車を引かなくちゃいけないんだ。

 「あとでポーションあげるから頑張ってくれ」

 1本なんてケチくさい事は言わない。

 「パンジーが望むだけ何本でも飲ませてやるよ」 

 『コータ様』

 「おっきな町に着いたらヒッポリア用の餌のいいのがあったらそれを買おうな。果物も買おうな。パンジーが欲しがるものならなんだって買ってあげるよ」

 本当は引き車なんかじゃなくってさ、パンジーの背中に乗って錬金術師の家まで行くつもりだったんだよ。

 だけどヒッポリアはでかいんだ。

 馬にさえ乗れない俺に、俺の頭くらいの高さがあるパンジーの背中に乗れるわけがなかった。

 元々背中に乗るつもりがなかったから、そのためのくつわとかあぶみなんていうものを持っていないから余計なんだろうけど、どう頑張ってもパンジーの背中に上がれなかったんだよ。

 だから徒歩で行こうか、とも思ったんだ。

 だけど村の外に錬金術師の家はあるから、そこまで歩くのは危険だって俺が泊まってた宿のグレンダさんに言われた。

 魔獣はいなくても野犬の群れとかがいて危ないらしい。

 そう言われるとさ、やっぱりパンジーに乗って移動するのが一番安全なんだよ。

 「無理させて、ごめんなぁパンジー!」

 『コータ様っっ!』

 手綱をぎゅっと握りしめてパンジーに謝っていると、スミレが俺の肩に止まって大声で俺の名を呼んだ。

 「スミレぇ、俺の耳元で大声で呼ぶなよ」

 ちょっとムッとした声でそう言いながらスミレを睨みつけようと振り返ると、俺をじろっと睨みつけたスミレと目があった。

 その顔があまりにも迫力があって、俺から彼女を睨む事はできなかった。

 だって、スミレを怒らせると怖いんだよ。

 『ずっと1人でブツブツブツブツ言ってましたよ』

 「あ〜・・・ごめん」

 『パンジーちゃんは大丈夫です。元々この引き車は小さいし中は殆ど空っぽですから、彼女の負担にはなってませんよ』

 「そぉかあ? だといいんだけど、やっぱりこんな道なき道を歩かせるのは可哀そうじゃん。たったの100ドランのためにパンジーに無理させてるなんて、俺は酷い飼い主だよなぁ」

 『パンジーちゃんは大丈夫です。それに道なき道って大げさですよ。でこぼこの山道っていうんならまだしも、こんな草原で坂すらない場所なら心配する必要はありません。ねぇ、パンジー』

 う〜む、スミレがそう言うんだったらそうなんだろう。

 それにパンジーも足を引きずっているとかイヤイヤ歩いているって感じじゃないしな。

 なら大丈夫か。

 ちなみにパンジーにスミレの声は聞こえない。いや、声だけじゃなくて姿も見えないんだよな。

 ただスミレの話ではレベルが4になれば、姿を見せる事もできるし声も聞こえるようにできるらしい。

 そして、だ。レベルが5、つまりマックスになったら、プリンターを使って彼女の意思で動かせる身体を作る事ができるらしい。まぁ意思というかその身体の中に入り込んで動かす、といった方がいいのかな?

 とにかくそういう説明を受けているので、スミレのためにも頑張ってレベルアップしなくちゃいけないのだ。

 「もうそろそろの筈なんだけどな」

 『この先に林の木立が見えてきましたから、もうすぐ見えてくると思いますよ』

 村から1キロほどっていう話だからな、パンジーに乗っていれば村の門を出てから15分くらいで着く筈だ。

 「スミレ、ハリソン村からずっと探索機能を使っているんだろ? 何か見つけたのか?」

 『小動物は数匹探索にかかりましたけど、大型獣は今のところ引っかかってませんね。先ほど探索区域を広げてみたんですけど、それでも大型獣は探索にかかりませんでした』

 「んじゃ、帰り道は歩きながら薬草を探そうか」

 ここに来る道中で危険な魔獣や獣が探索に引っかからなかったら帰りは薬草採取をする、と昨夜のうちにスミレと相談して決めておいたのだ。

 昨夜、本当だったら部屋に陣を展開して何か作ろうなんて話をしていたんだが、俺の部屋があまりにも狭すぎて陣を展開できなかった。

 スミレの話ではレベルが4になれば作り出すものの大きさを確保できれば、陣を展開しなくてもスキルを使うことはできるようになるらしいが、今はまだレベル3なので当然できない。

 「この辺ってどんな薬草が取れる?」

 『定番のイズナですね。あとはこの草原にはアカサという球根をつける草がある筈です。こちらは球根が薬になります』

 「球根? 見つけるのが大変じゃないのか?」

 『そんな事ないですよ。アカサは葉が特徴があるので判別は簡単です。ただ数が多くないので探すのは大変でしょうね』

 そう言われて俺は今パンジーが歩いている草原をぐるっと見回した。

 こんな広いところをただ延々と歩く自分の姿を想像してから、ブルブルと頭を振った。

 大変なのは、嫌だ。

 だってめんどくさいじゃん。

 『それから林に入れば木の実や薬草が数種類手に入ります』

 「えっ、そうなんだ。じゃあ、アカサとかっていうのを探すより森に入って色々な種類の物を見つける方がいいんじゃないのかな?」

 数種類あれば、それぞれの数が少なくてもスミレの探索機能を使えばそれなりに集まるんじゃないのかな?

 『確かに草原をひたすらアカサを求めて歩き回るよりは、採取できる量は多いでしょうね。ただこの先にある林には大型の獣がいるかもしれませんよ』

 「えぇ、それは怖いなぁ」

 『もちろん、私が結界を張るので命の危険はありません。それに林に入る前に探索機能を使えば、大型獣がいない場所を見つける事はできますよ』

 それなら安心か。

 「んじゃ、今日はまた村に泊まる事にするか? それなら依頼の帰りに林の中で採取をしてからスキルを使って物作りをしてもいいしな」

 『そうですね・・・林の中で採取をする時間をとってから物作りという事になると、街道に出るのが夕方になるかもしれません。それでもスキルのレベルアップのためには、少しでも物を作るのが一番ですからね。それもいい考えかもしれません』

 「どうせ急ぐ旅じゃないんだしさ。あっ、そうだ。ついでにその林でいろんな葉っぱを集めよう。そしたらスミレがお茶っ葉を作ってくれるんだろ?」

 『いいですよ、でも茶器が全くないから、それもついでに作っちゃいましょうね』

 そういや急須なんて作ってなかったな。

 この世界には日本茶なんかないって思い込んでいたよ。

 日本茶もどきでもまた飲めるかもしれないって思うとそれだけでウキウキしてきた。

 




 しばらくスミレと雑談をしながらパンジーを進めていると、不意にスミレが前方を指差した。

 『あっ、コータ様。あれ、じゃないですか?』

 「へっ? あれって・・・・あれか?」

 スミレらしくない素っ頓狂な声につられて前方に視線を向けた俺の目に見えたのは家と言われると家と言える、そんなミョウチクリンな建物が見えてきた。

 まるで蟻塚のようなこんもりとした土の塊のようなものが見えてきた。

 それが蟻塚じゃないのは、煙突が飛び出していてそこから煙が出ているから判ったようなものだ。

 「あれ・・・本当に家、なのか?」

 『でもほかに家らしいものはありませんよ?』

 「そうだよなぁ・・・にしても、アレは家と呼べないような気がするんだけどさぁ」

 パンジーが進むにつれ、だんだんと蟻塚、もとい家がどんなものなのかよく見えてくるようになった。

 最初は蟻塚、と勘違いした外壁は土を塗りつけているようで、あれでは蟻塚と思っても仕方ないだろう。

 でもそんな土壁には幾つかの木窓がついている。

 そして天辺てっぺんには煙が出ている煙突が突き出ているのだ。

 だが入り口が判らない。

 地面に近い部分にある筈なのだが、俺の目に見えるのはただの土壁ばかりだ。

 ようやく蟻塚ハウスに着いた俺はパンジーをその前に止めて御者台から降りる。

 それから土壁に視線を向けるが、入り口がどこにも見当たらない。

 「スミレ、どこがドアなんだ?」

 『ドアですか・・ないですねぇ』

 「だよなぁ」

 仕方ない。俺たちはそのままぐるっと一周してみる事にした。

 もしかしたらドアは家の裏にあるのかもしれない。

 なんせ相手は錬金術師だ。林の中から錬金のための材料を集めているかもしれないからな。

 そう思いながら建物の周りを一周してみたのだが、結局何も見つける事ができないままパンジーを停めている正面に戻ってきた。

 「なかったなぁ」

 『そうですね』

 「ギルドでちゃんとどんな家なのか聞いとけばよかったな」

 っていうか、ちゃんと教えてくれよ、って言いたいよ。

 サイモンさん、きっと依頼主の錬金術師がどんな家に住んでいるのか知っていたに違いない。

 だっていろいろと言いにくそうにしてたもんな。

 『あっ、あれじゃないですか?』

 「どれだ?」

 俺がブツブツとサイモンさんに文句をつぶやいている間に、スミレが何か見つけたようだ。

 『ほら、あそこの土壁の部分、少しだけ色が違うじゃないですか。それに多分ドアとの境目の線が入っているのが見えます』

 「んん? あーっと、あれか?」

 スミレが指差す方向をみたが、壁の色の違う部分とやらはどこか判らなかった。

 けれど、スミレのいう境目の線らしきものは見えた。

 それは木窓のすぐ右側で、そこに1本の縦線が見えた。その線を目で追っていくと、確かにドアのサイズを囲むように線がコの字型に見える。

 どうやら壁とドアが同じ素材の同じ色なので、遠目では判らなかったようだ。

 それがドアかどうかを確認するために近づいて見ると、確かにドアっぽい気がする。

 「でもノブがないぞ?」

 『とりあえず叩いてみましょう。音に気づいてドアを開けてくれるかもしれませんよ』

 「ん、そうだな」

 いつまでもここで突っ立っていても埒があかないからな。

 俺はぐっと拳を握りしめてから、ドアを叩く。

 土壁は思ったより分厚いみたいで、軽く叩いたくらいじゃあ音がしない。

 ドンッドンッドンッ

 なので思いっきり叩いてみたら、低い音が響いた。

 思い切り叩いたんで俺の拳も少しジンジンしている。

 叩いてから少し待ってみるが、誰も出てこない。

 「もう一回叩いてみるぞ。スミレは探索機能で中の様子を調べてくれ」

 ドンッドンッドンッ

 『人がいるみたいです。コータ様のノックに気づいて、今こっちに向かっています』

 「依頼人だといいなぁ」

 『きっとそうですよ』

 スミレは自信満々だが、俺はまだ半信半疑だ。

 そんな俺の目の前で、ドアらしいものがギッと音を立てて動いた。

 俺は慌てて一歩後ろに下がってドアが開くのを待つ。

 「いらっしゃ〜〜い」

 男にしては少し高い声が聞こえたかと思うと、中から人が出てきた。 

 「あら、どなたかしら?」

 小首を傾げる仕草は可愛い。

 だが、その風貌がその仕草に伴っていない。

 開かれたドアから出てきたのは俺より頭1つ分ほどデカイがっしりとした体格の男だった。

 ただ、その髪はおかっぱで切りそろえられたショッキングピンクの色をしていたのだった。

 ショッキングピンクのおかっぱ頭の小首を傾げた大男と、俺は視線を絡ませたまま何も言えずその場に突っ立っていたのだった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


Edited 04/10/2017 @ 05:48 JT 誤字訂正しました。ご指摘ありがとうございました。

森に入っていり色な種類の物 → 森に入って色々な種類の物

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