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海は広いな大きいな 12 完結

 視線をジャックの背後に向けた俺に気づいたミリーとジャックは、俺の視線を追うように後ろを振り返った。

 「おまえ・・・」

 こっちにやってきたのは、俺が間違えていなければ岩場で出会った海ケットシーだ。

 俺の視線の先を見て、ジャックは盛大に顔を顰めてみせた。

 あれ、海ケットシーの村で仲直りとかしなかったのかな?

 「まだ話してるちゃ」

 「関係ないだろ」

 少し呆れたような口調の彼女を見ようともしないジャックと、その横で困ったような顔で彼を見下ろしているミリー。

 「あっちで手伝うちゃ」

 「手伝わなくていい、っておっちゃんから言われてんだ」

 「でも手伝うのが礼儀ちゃ」

 どうやらジャックが商売の手伝いをしていないから、それを咎めにきたみたいだな。

 「大丈夫なのか、ジャック?」

 「うん。話す事がいろいろあるだろうから、ってここに来る間に言われたし、そっちの方が大事だって言われてるからさ」

 「それならいいんだけどな」

 「良くないちゃ」

 ホッとした俺を咎めるようにジャックの言葉を訂正する彼女。えっと、名前なんだったっけか?

 「海ケットシーはここで商売をするちゃ。ここに来た海ケットシーはその手伝いをするために来てるちゃ。手伝わないなら来れないちゃ」

 「じゃあ、なんでおまえは手伝わないんだよ」

 「手伝っていたちゃ。でもジャックが手伝ってないから手伝うように言いに来たちゃ」

 「だから、俺は手伝わなくてもいい、って言われてんだよ」

 「関係ないちゃ。ここに来た海ケットシーは仕事をするちゃ」

 仕方ないから仕事の手を止めてきたちゃ、と続ける彼女と、嫌そうに眉間に皺を寄せてジロリと見返すジャック。

 さて、俺たちはどうすればいいのかな?

 チラ、とミリーに視線を向けると、彼女は俺に頷いてから口を開いた。

 「悪いけど、少し私たちだけで話をしたいんだけど」

 「すればいいちゃ。ここで待ってるちゃ」

 「いいえ、あなたには関係ない話をするの。だから、向こうに行ってもらいたいの」

 「海ケットシーは仲間を1人にしないちゃ」

 「いいからあっちへ行けよ」

 「ダメちゃ」

 嫌そうにジャックが追い払おうとするものの、彼女は頑として聞き入れない。

 俺たちとしてはジャックが海ケットシーの村に残るかどうかを確認したいから話をしたいんだよな。

 でも、彼女の前ではしたい話じゃない。

 申し訳ないけど彼女の前でその話をしたら、絶対に口を挟んでくるのは目に見えてるからさ。

 「じゃあ、みんなであちらに行きましょう」

 「なんでちゃ?」

 「彼らに私たちだけで話ができるようにお願いするの」

 「そんな必要ないちゃ。海ケットシーは結束が硬いちゃ。仲間がいない場所で話し合いをして騙されると困るちゃからそばにいると言ってるちゃ」

 俺たちと茣蓙ござを敷いて準備している海ケットシーの間に立って、両手を広げて行けないようにしている彼女の様子から、それは彼ら全員の総意じゃないな、とピンと来た。

 「そうだな、じゃあ向こうで聞いてみようか」

 「ダメちゃ」

 「もともとジャックが海ケットシーの村に行くと決めた時に、そういう話をする事も了承してもらってたからな」

 両手を広げて行く手を阻もうとするけど、小さな彼女が俺たち3人を止められる筈もない。

 俺たちはミリーの手を掴んで止めようとする彼女を連れたまま、海ケットシーたちのところに行く。

 「なんだ、話は終わったのか?」

 「いえ、できれば俺たちだけで話をしたいのですが、彼女がそれはできないというので了承を得たいな、と」

 「なんだ、タルナ。おまえ、邪魔しねえって言ったから連れてきたんだぞ」

 「邪魔はしてないちゃ」

 きっぱりと言い切るタルナと頭を横に振る俺を見てからボルターは、ミリーの手を掴んでいるタルナの手を掴んで自分の方に引っ張る。

 「ジャックだってちゃんと話をするって言ってただろ。迷惑かけんじゃねえ」

 「迷惑かけてないちゃ。海ケットシーを1人にできないちゃ」

 「普通ならそうだけどな、ジャックと彼らは仲間だ。大事な話をする邪魔すんな」

 「でも」

 「でもじゃねえ。おまえはここにいろ」

 グイッと引っ張り、そのまま茣蓙ござの後ろに移動させてから、ボルターが済まなさそうな顔で頭を軽く下げる。

 「悪かったな。もう邪魔はさせねえよ」

 「ありがとうございます」

 全く、と溜め息を吐いたボルターに礼を言ってから、俺たちはまたさっきの丸太のところまで移動した。

 「相変わらずだな、彼女は」

 「おう、邪魔すんなってんのに口ばっかりいれてきやがったんだ」

 「ボルターさんは邪魔させない、って言ってなかったっけ?」

 「おっちゃんがいない時を狙って纏わりついてきたんだよっっ」

 「あ〜・・・そりゃ大変だったな」

 「おうよ」

 ボルターはジャックに近づくな、と言ってたみたいだな。

 ただまぁ彼女がそれを聞かなかっただけ、って事か。

 まぁ今は目を光らせてくれてるみたいだから、安心して俺たちだけで話ができそうだ。

 とはいえ、だ。なんかタイミングを逃したみたいな気がする。

 タイミングを見計らってこれからの事を聞こうと思ってたんだけどなぁ。

 困っていると、ミリーが苦笑いを浮かべてから俺の代わりに話を始める。

 「村で仲良くなった海ケットシーはできた?」

 「ちょっとだけな。でも見慣れねえヤツだって言って、あんまり近寄ってこなかった」

 「同じくらいの年の友達は?」

 「俺と同じくらいのヤツなんかいなかったぜ。なんか、村から出てる、って言ってた」

 「海ケットシーの村ってあんまり人数がいないの?」

 「あ〜・・・100人くらいいたかな?」

 頭を捻りながらミリーに答えるジャック。

 でもたった100人しかいないってか。

 「俺、よく判んねえけど、ほかの海ケットシーの村に行ってるって言ってた」

 「じゃあさっきの子は?」

 「あいつはまだ早いって言われたんだってさ。来年なら行けるだろう、ってボルターさんが言ってた」

 若い海ケットシーはほかの村と交流のためにいない、って事か。

 ああ、だからあの子はジャックに付き纏っていたんだな。

 「ジャックも、ほかの海ケットシーの村に行きたい?」

 「俺? 俺は別に・・・もういいよ」

 「同じくらいの年頃の海ケットシーに会いたくないの?」

 「そりゃ興味あるけど、さ。でもなんか、さ。村で十分海ケットシーの事を教わった、って思ってるんだ」

 そこで言葉を切ったジャックは俺とミリーを交互に見上げた。

 「俺、コータたちと旅を続けたい」

 「い、いいのか?」

 きっぱりと一緒に旅をしたい、と言い切ったジャックに思わずどもりながら聞き返す俺。冴えないなぁ・・・はぁ。

 「俺さ、なんで俺だけ毛色が違うだろって、思ってたんだ。でもそれが先祖返り? とかってヤツのせいだって判ってさ。俺だけじゃねえ、判ってホッとしたよ」

 「ジャック・・・」

 「でもさ、ここで俺とおんなじ見た目の海ケットシーの村に連れてってもらってさ、楽しい事もあったし、みんな親切だったけど、でもさ、俺がずっといたいって思う場所じゃなかったんだ」

 尻尾を力なく揺らしながら、考え考え言葉を続けるジャック。

 「俺、ここで生まれ育った訳じゃねえから・・・それよりさ、コータたちと一緒に、その・・・・」

 「旅をしたい、の?」

 「そ、そうそう、それそれ。旅をしたいんだよ」

 素直に一緒にいたいと言えないジャックのために、ミリーが言い換えてやるのを聞いて思わず口元が緩んだけどジャックにはバレなかった。

 「いいの、それで?」

 「いいんだよ」

 フン、と踏ん反り返って言い切るジャックと思わず笑みを浮かべたミリー。

 「まぁ、また海ケットシーに会いたいっていったら、ここまで連れてきてやってもいいんだしな」

 「べ、別にもういいよ」

 「すぐに、じゃないよ。2−3年してから来れば、今回会えなかった海ケットシーたちにも会えるかもしれないだろ?」

 「お、おう」

 いやいやと言わんばかりの態度で頷くジャックだけど、後ろで元気に振られている尻尾を見れば本当はどう思っているかなんてバレバレだ。

 「その事、ボルターさんたちに伝えたのか?」

 「おう、ちゃんと話した」

 「でもその割に彼女はジャックが一緒に海ケットシーと暮らすみたいに思ってるようだけど?」

 「あいつにゃ言ってねえよ。ってか、あいつ、俺の話なんかちっとも聞きゃしねえ」

 あ〜、うん。まぁそれは見てるだけでも十分判った。

 「みんな、俺がしたいようにするのが1番だって言ってくれたんだ」

 「そっか・・・」

 「だから、俺、コータたちと、その・・・一緒に行っても、その・・・」

 「もちろん、よ。ジャックは私たちの仲間じゃない」

 心配そうに上目遣いで聞いてくるジャックは今まで見た事がない殊勝な態度で聞いてくるし、そんな彼に大きく頷くミリーの尻尾はなぜかシンクロしている。

 2人の背後を左右に動く尻尾を見ているだけで、いつも通りだとホッとする。

 「じゃあ、お世話になったんだから、出かける前に挨拶はしないとな」

 「おう」

 俺とミリーは出かける準備はできている。

 ジャックだって荷物は俺たちが持っているから、いつでも出かけられる筈だ。

 別に急ぐ旅じゃないけどさ、でもソーラン市には十分滞在したって気がするからなぁ。

 それにほかにも行きたい場所は山ほどある。

 「俺、挨拶してくる」

 「一緒に行くか?」

 「いいよ。おっちゃんにはコータたちと行くって言ってあるからさ」

 俺たちと一緒に来る気満々だったんだったらあんなに不安そうに聞かなくても良かったのにな。

 ってか、最初にその話を聞いてたら、どうしようかな〜って揶揄えたのに残念だ。

 「コータ、私たちも行きましょ」

 「そうだな。お世話になったんだからな、挨拶はしないとな」

 「また来るかもしれないしね」

 「だな」

 とっとと海ケットシーたちのところに行くジャックのあとを追いかけるようについていくと、タルナと呼ばれた女の子が拳を振り上げていた。

 それを見て慌てて足を早める俺たちの耳に、彼女の声が聞こえた。

 「ダメちゃっっっ!」

 「うるせえって」

 「海ケットシーは一緒にいるちゃっっっ!」

 ジャック目掛けて振り下ろされた手は、ボルターによってぐっと掴まれていた。

 「タルナ。ワガママ言うな」

 「ワガママじゃないちゃ。海ケットシーは常に一緒ちゃ。離れるジャックの方がワガママちゃ」

 「ちげえだろ。ジャックは仲間と一緒に行く、って言ってるだけだ」

 「ダメちゃ」

 はぁ、と大きな溜め息を吐いたボルターと目があった。

 「すまんな、うちのがワガママ言って」

 「いえ、海ケットシーの事は俺たちには判らないので」

 常に仲間と一緒に行動、なんていう風習とかがあっても俺にはサッパリだもんな。

 「タルナ。村を出る連中だっているんだ。ジャックが村に残らずに出て行くって言っても、それはジャックが決める事だ」

 「そんな話聞いた事ないちゃ」

 「ここ最近は村を出るヤツはいなかったからな。でも、ジャックが決める事だ」

 きっぱりと言い切るボルターさんを泣きそうな顔で見上げるタルナ。

 「じゃ、じゃあ、一緒に行くちゃ」

 「はぁ?」

 「海ケットシーは1人じゃダメちゃ。だから一緒に行くちゃ」

 鼻に皺を寄せて低い声を出すジャックとは裏腹に、嬉しそうな声で提案するタルナ。

 俺とミリーは思わず顔を見合わせる。

 俺、この子と一緒に旅はしたくないなぁ・・・・

 「バカいうな、タルナ」

 「大丈夫ちゃ。2人なら問題ないちゃ」

 「おめえは村から出れねえって言ってんだろ」

 「大丈夫ちゃ。自分でなんでもできるちゃ」

 ボルターがダメだと言っているのに、全く彼の話を聞こうとしないで自分の主張しかしないタルナ。

 そういや、ジャックもあんまり人の話を聞かなかったな、と思い出してしまった。

 もしかしてケットシーっていう種族は思い込んだら周囲の話を聞かないのか?

 でもジャックはそんなタルナの主張をバッサリと切り捨てた。

 「連れてく訳ねえだろっっ」

 「なんでちゃ」

 「おまえは俺たちの仲間じゃねえからだよ」

 「仲間になってあげてもいいちゃ」

 「いらねえよっっ!」

 おぉ、タルナの上から目線の発言に切れるジャック。

 「俺たちはこのメンバーで仲間なんだ。ほかのヤツなんていらねえよ」

 「な・・・仲間になってあげる、って言ってるちゃ」

 「だからいらねえって言ってんだろ。俺たちはずっと一緒に旅してきたんだ。今更仲間を増やす気なんてねえんだよ」

 「なんでちゃ? 3人より4人がいいちゃ」

 「もしそうだとしてもな、俺らにおまえはいらねえよ」

 「え・・・・」

 「迷惑なんだよっっ」

 あ、タルナの泣きそうな顔を見てどうして彼女がついてきたいのか判った気がする。

 チラ、とミリーを見ると彼女も俺を見上げて目で頷いている。

 それから目の前の海ケットシーたちを見ると、彼らにも判ったみたいだな。

 判ってないのは、うん、ジャックだけだ。

 まぁ、あの勢いでグイグイ来られても、なぁ・・・俺だってあれは嫌だ、絶対に無理だ。

 「タルナ。おまえの勝手を通そうとすんな」

 「でも、一緒に・・・」

 「ダメだ。ジャックだってそう言っただろ? 仲間に入れてもらいてえんだったら、おめえも役に立つ海ケットシーになれ。じゃねえと無理だ」

 しょぼん、と耳を頭にぺたりとつけ、尻尾は力なく垂れ下がっている。

 ただ手だけは握りこぶしを作って震えていた。

 「心配すんな。ジャックはまた遊びに来てくれるさ。なぁ?」

 「お・・おう」

 「な。ジャックだってまた来るって言ってるだろ? それまでに仲間に入れてもらえるように頑張れ」

 「でも、行きたいちゃ」

 「だから、今のおめえじゃあ足手まといだってんだろ。役立たずを仲間になんて危ねえだけだ」

 おぉ、ボルター、結構きついぞ。

 彼の言葉を聞いたタルナは泣きそうな顔でボルターを睨みつけてから、後ろの茂みに走っていった。

 ジャックはそれを止めるでもなく、俺たちもそれを見送るだけだった。

 なんせ、ボルターの言う通りといえばその通りな訳で。

 俺たちにはスミレがいるけど、それでもリスクを背負いたくないからな。

 それに人の話を聞かないような仲間なんて増やすだけでリスク倍増だ。いや、倍どころか4倍10倍って膨れ上がるだろう。

 俺としてもそこまで責任を持ちたくない。

 「行こうぜ、コータ」

 「いいのか?」

 「いいんだよ。いないうちにさっさと行かないと、また騒がれちまうだろ」

 「そうだな、ジャックの言う通り、おまえさんたちは行った方がいい。タルナはこっちで捕まえとくから安心して行ってくれ」

 それって、追いかけてくるかもしれないってか?

 「じゃあ、そろそろ行かせてもらいます」

 「気いつけてな」

 「おっちゃん、ありがとな」

 「おうよ。また遊びに来いよ」

 「お・・・おう」

 「はっはっはっ、また来る頃にはタルナも分別をつけてる、さ・・・多分だけどな」

 おいおい、多分、かよ。

 思わず俺が苦笑を浮かべると、ボルターも同じように苦笑を浮かべている。

 「まぁ気いつけてな」

 「ありがとう」

 軽く手をあげて商売に戻るボルターの後ろ姿に俺とジャックも手を上げてから、俺たちは2号に乗るために門からゆっくりと離れる。

 あ、そうそう。

 「スミレ、あとをつけるものがいないかチェックしてくれよ」

 『もちろんです』

 もう面倒はいらないからな。

 「コータ」

 「いや、だってさ。追っかけてきてたらメンドくさいじゃん」

 「もう」

 「俺だってヤダよ」

 「ジャックまで」

 それから3人で顔を見合わせてから、プッと吹き出した。

 「どこ行く?」

 「そうねぇ・・・」

 「サイコロで決めようぜ」

 「それもいいかもな」

 別に行きたい場所があるでもなし。

 ただただ、のんびりとやりたい事をやりながら過ごしたいだけだ。








 最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。


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