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海は広いな大きいな 7

 海を覗き込む俺の隣にミリーがやってきて一緒になって覗き込むけど、俺たちにはジャックと彼を海に引きずり込んだケットシーがどこにいるのかも判らない。

 「ねぇ、探しに行った方がいいんじゃない?」

 「ミリーって泳げたっけ?」

 「ほんの少しだったら」

 「じゃあダメだ」

 ほんの少ししか泳げないミリーが海に入っても、ジャックを見つける前に溺れるだけの気がするぞ。

 「でも・・・」

 『少ししか泳げない人が飛び込んでも意味がないですよ』

 「スミレ、でもね」

 『でもじゃありません。探しに行ってそのまま溺れたらどうするんですか?』

 周囲に誰もいないので姿を現したスミレが言い募るミリーを止める。

 「じゃあ、コータは?」

 「俺はカナヅチじゃないけど、泳ぎが達者って訳じゃないから無理だ」

 プールならまだしも海なんて不安定要素ばかりだ。しかも潜って探すなんて俺には無理だよ。

 「スミレ、サーチング・ボードでジャックを探せるか?」

 『既にやっています。相手のケットシーの位置も確認できてます』

 そういうスミレの前にはサーチング・ボードが展開されている。

 「2人はどこに?」

 『ここから約50メッチ(メートル)沖、水深約15メッチ(メートル)のところにいます』

 「もうそんな沖に出ちゃってるのかよ・・・んで、2人とも生きてる?」

 『もちろんです』

 そっか、じゃあ、ジャックは無事といってもいいのか・・・?

 「で、ジャックは泳げるのか?」

 『さぁ・・・』

 「さぁって、大丈夫なのかよ?」

 『とりあえず、生きてますから』

 あ〜・・・・うん。

 確かにまだ死んではないんだけどさぁ。

 『そんなに心配しなくても、ジャックも海ケットシーなんですから水の中も大丈夫なんじゃないですか?』

 「かもしれないけどさ、ジャックの場合は先祖返りみたいなもんだろ? だったら海ケットシーの能力ちからを受け継いでないかもしれないじゃん」

 『大丈夫ですよ』

 ホントかぁ? と疑いの目を向けると、スミレが苦笑いで頷いた。

 『ジャックはずっと山の中で暮らしていたのかもしれませんけど、先祖返りなのか姿形すがたかたちに海ケットシーの特徴が出ていますからね』

 「それがなんで大丈夫なんだ?」

 「ああ、じゃあ大丈夫ね」

 「ぅえっ・・?」

 スミレのよく判らない説明を聞き返す俺と、それを聞いて安心するミリー。

 どういう事なんだ?

 『異種族同士の間に生まれた子供は、両親のどちらかの特徴を受け継ぐんです。たとえばコータ様とミリーちゃんの間に子供が生まれたら、コータ様と同じ人族かミリーちゃんと同じトラ獣人となります。まぁミリーちゃんの場合は特殊な銅虎という生まれとなりましたが、これは種族特性のようなもので、普通であればただのトラ獣人が生まれます』

 「ハーフは?」

 『生まれませんよ。ただ同じ系列の種族間ではその遺伝子的なものが受け継がれて、どこかでいきなり出てくる事もあります。見た目が黒猫獣人でも、両親のどちらかに茶猫獣人がいれば、その血がどこかで出現でてくる、という感じですね』

 隣に立っているミリーを見下ろすと、スミレの説明を肯定するように頷いている。

 「つまり、海と全く縁のなかったジャックでも、あの海ケットシーの見た目を受け継いでいるから海も大丈夫、って事か?」

 『簡単に言えばそうですね』

 「じゃあ溺れないって事か?」

 『それだけじゃないですよ。海ケットシーの特性も引き継いでいる筈ですから、水中での呼吸も楽な筈です。コータ様よりも長時間、海に潜っていられますよ』

 「えっっ、そうなんだ?」

 驚いてスミレによって目の前に展開しているサーチング・ボードを見るけど、確かにジャックらしき緑の点は未だに海の底に沈んだままだ。

 『ただ、海というものに慣れていないでしょうから、生粋の海ケットシーに比べるとその能力は低いのではないか、と思います』

 「じゃあ、他の海ケットシーに比べたら海の中に長くいられないって事かしら?」

 『それもあり得るでしょうね』

 あれ、じゃあやっぱりヤバいんじゃね?

 「なぁ、2人が海に飛び込んでどのくらい経つ?」

 『そうですね・・・そろそろ5分といったところでしょうか?』

 「あれ? まだそんなものなんだ?」

 「でも5分も海の中って、息が続かないんじゃないの?」

 『その前には先ほどのケットシーがここに連れて来てくれると思いますよ』

 あ〜、スミレ。それは思うだけ(・・・・)なのか?

 確信がないんだったら、マジでジャックのやつ、溺れんじゃないか?

 「一応ジャックは男の子で、さっきのケットシーは女の子ですから、体力だけを言えばジャックの方が勝っているでしょうしね」

 「え、あれ、女だったのか?」

 「コータ、見て判らなかったの?」

 全然、さっぱり、全く。

 そういう気持ちを込めて頭を振ると、ミリーとスミレが肩を竦める。

 悪かったな。

 なんか気まずいので、話題をとっとと変えるぞ。

 「じゃあ、ここで待ってる、って事か」

 『そうなりますね』

 大丈夫かなぁ、と心配ではあるけど、どうしようもないもんな。

 「んじゃ、2人が戻ってくるまで待ってるか」

 「そうね・・・」

 『そんなに心配しなくてもいいですよ、ミリーちゃん』

 「スミレ、でもね」

 『お茶でも飲んでのんびり待ってればいいんです』

 心配そうなミリーにきっぱりと言い切る。

 『ほら、コータ様、お茶にしましょう』

 「えっ・・いいのか?」

 『大丈夫です。テントとシートを出してのんびりしてください』

 「お、おう、そうだな」

 多分スミレのいうテントは屋根だけのやつだろう、とポーチから野外で昼飯を食べる用に作ったテントを取り出して、その下にシートを広げる。

 それからテントの端っこにいつも使っているテーブルを設置してから魔石コンロを載せると、お湯を沸かす準備を始める。

 そんな俺を見てからミリーは少し心配そうに海を振り返ってから、俺の手伝いをするためにテントの方にやってくる。

 スミレのいう通り、海に潜った2人を心配するしかできない、と諦めたのかもしれないな。









 シートの上にいくつかのクッションを置いてそれにもたれるように座った俺とミリーは、カモミールもどきのハーブティーの入ったカップから淹れたてのお茶を一口飲んだ。

 2人の間にはお茶菓子として取り出したマカロンもどきが載っている皿が置かれている。

 ここでマカロンもどき、と言ったのは、俺はマカロンを食べた事がなかったから本物がどんなものなのか知らないからなんだけどさ。

 俺の知識を使ってスミレが手に入れたレシピを使って作ったから、おそらくこれはマカロンってやつなんだろうと思う。

 「美味しい」

 マカロンを1つ手にとって、それをパクリと食べたミリーが思わず呟いた。

 「この前も思ったけど、これ、美味しい」

 「だろ。ミリーとジャックがすごい勢いで食べるからさ、これだけを死守するのが精一杯だった」

 「そんなに食べてないわよ?」

 「いや、食ってた食ってた。俺、これ作った時晩飯食い過ぎて1個しか食えなかったけど、あの時ミリーとジャックの2人がかりで20個は食ってたよな?」

 「えぇぇ、そんなに食べてないわよ」

 ムッと口を尖らせて文句をいうミリー、可愛いなぁ。

 思わず口元が緩んでしまう。

 俺がニヤニヤと緩んだ口元のままミリーを見ていると、少し斜め上に視線を向けて考え込む。

 「そりゃちょっとは食べたかもしれない、けど・・・でも20個は食べてない」

 「だからジャックと2人で、だよ。ミリー1人で食べたとは言ってないだろ?」

 「でも、なんか大食いって言われた気がするわ・・・」

 「食べたいだけ食べればいいんだよ、ミリーは」

 むしろミリーがそんなに気に入ったって言うんだったら、俺はいつでも作るぞ、うん。

 『ミリーちゃんは食べちゃえばいいんです。足りなかったらコータ様に「もっと作って❤」と言っておねだりすれば、いつでも作ってくれますよ』

 「おい、スミレ」

 『図星ですよね?』

 ああ、うん。その通りだな。

 『女の子は可愛く男に甘えていればいいんです。そのために男は女の子に貢ぐんですから』

 「おい」

 『ああ、コータ様がミリーちゃんに貢ぐ、の間違いでした』

 少し困ったような顔をしていたミリーがスミレのあまりの言い方に、思わずふっと笑みを浮かべた。

 「私、いっつもコータに甘えてるわよ?」

 『いいえ、あんなのは甘えてるうちに入らないですよ。どんどんワガママを言えばいいんです。可愛いミリーちゃんのワガママだったらいつでもドンと来い、ですよ』

 ふふん、と偉そうに胸を張るスミレの頭をはたきたいところだが、今のスミレは身体を使ってないのでできないのが残念だ。

 でもまぁ、スミレのいう通りだもんな。

 ミリーは滅多にワガママを言わないから、マカロンが食べたい程度のことだったら可愛いもんだ。

 「いつでも作るぞ」

 「コータ、ありがとう」

 嬉しそうにニッコリと笑うミリーはやっぱり可愛いなぁ。

 それを見て思わずニヘラとなりそうな頬をごまかすために、マカロンを1個頬張る。

 それからふと思い出した事を口にしてみる。

 「なぁ、スミレ。2人はまだ海の底なのか?」

 『いいえ、2度ほど海面にあがってきましたけど、すぐにまた海に潜りましたね』

 「呼吸のため?」

 『だと思います。大体7−8分程度は潜水ができるみたいですね』

 7−8分かぁ、すごいなぁ。俺だったら2分潜ってられるかどうか、だもんな。

 『ただ海ケットシーであれば10分以上潜水可能らしいので、おそらく海になれないジャックのために上がってきているんだと思います』

 「ジャック、大丈夫なの?」

 『大丈夫ですよ。死んでません』

 いや、それ、大丈夫って言えるのか?

 「海中で動きは?」

 『ありますけど、それほど激しいという動きじゃありません』

 「何してるの?」

 『そうですね、海底で何かをしている、といった感じです』

 あれ? 2人で魚でもとってるんだと思ったんだけど?

 「罠でも仕掛けてるって事か?」

 『さぁ・・・私にはそこまでは判りません。ただ、海底に近い場所にいる、という事が判るだけですので』

 あ〜、まぁな。サーチング・ボードを見ているだけじゃあ、さすがに何をしているかなんて事までは判らないよな。

 「まぁ、何か動きがあったら教えてくれな」

 『判りました』

 「コータ?」

 「とりあえず俺たちにできる事はないからさ、のんびりお茶でも飲んでような」

 「うん・・判った」

 ミリーとしては心配だろうけどさ、だからって俺たちにできる事はないからさ。

 ここで戻ってくるのを待つだけさ。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 そしてお気に入り登録、文章評価、ストーリー評価、ありがとうございました。とても励みになっています。


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