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海は広いな大きいな 3

 「それではソーラン市へようこそ」

 「ありがとうございます」

 あっさりと門を抜ける事ができ、なんか拍子抜けだよ。

 門番はゴツくもなく普通サイズの男が2人だけ。

 ただ背中に背負っていたのは銛だったけどさ。

 剣だったら腰に帯びるんだろうけど、それより長い銛だから背中に背負っているんだろうな、うん。

 通り過ぎる俺たちに軽く手を振る門番に、ミリーが振り返って手を振っているのを横目に見ながら俺はゆっくりと台車を動かしていく。

 いや、台車って呼ばないんだったっけか。

 スミレが台車というのでそのまま呼ぼうとした俺にジャックとミリーが文句を言ったのだ。

 これは台車とは言わない、ってな。

 







 じゃあ早速出発しようか、って時になってジャックが変な事を言い出した。

 「別に呼び名くらいなんだっていいだろ?」

 「でも誰も台車で納得しねえぞ、これ」

 「そうよね。これは台車じゃないわよ」

 ああ、めんどくさい、と思ったのはここだけの秘密だ。

 たかが荷物を運ぶ車、台車のどこが悪いって言うんだ?

 「んじゃあさ、2人で呼び名を決めればいいよ」

 「えっ?」

 「めんどくせえよ」

 おい、ジャック。

 おまえ、自分がめんどくさいと思うような事を俺にさせるのか?

 「俺としては台車という呼び名で文句はないんだ。でもおまえたち2人はそれが気に入らないんだろ? だったら気に入らないっていう2人で呼び名を決めればいいよ」

 『そうですね。コータ様の言う通りだと思います』

 「スミレ?」

 『頑張って2人で決めてください』

 いつになく投げやりなスミレの言葉にミリーが心配そうな顔をする。

 でもさ、スミレが台車と名付けたようなもんだからな、それに文句つけるような真似をしたのは2人だから俺にはどうしようもないぞ。

 『その代わり、名前を決めるのはここからあの門の前に並ぶまでですよ。それまでに決まらなかったら、これの呼び名は台車のままです』

 「えぇぇ、時間がみじけえよ」

 『文句を言ってる暇があれば考えないと時間はないですよ』

 そう言ってさっさと台車を動かし始めるスミレに、2人は慌てて前と後ろで相談を始める。

 「スミレ、強引だな」

 『仕方ありませんよ。門を抜けるとその足でどちらかのギルドに向かわれるのでしょう? それまでに名称が決まってなければコータ様が困りますからね』

 そりゃそうだ。

 問題なく門を抜けられたとはいえ、この台車の設計図は数少ない俺の手札の1つだからな。

 使うにしろ使わないにしろ名前が決まってないとこっちが困る。

 とはいえ、先に商人ギルドに肉を卸せば少しは2人に時間を増やしてやれるんだけどさ。

 あ、でもスミレは門の前までって言ってたな。

 俺はチラ、と視線をミリーとジャックに向けてから、頑張れ、と心の中で応援したのだった。








 「コータ、生産ギルドに行くの?」

 「ん? あ〜、別に無理に行く必要はないんだよな」

 「そうなの?」

 「肉を売るつもりだから商人ギルドには行くけど、そこでどこかお勧めの宿を聞けばそれで済むからさ」

 「でもポーリーは登録しないの?」

 「しなくてもいいだろ?」

 ミリーは自分が乗っている台車、もといポーリーを見下ろしながら聞いてくる。

 「スミレが設計図を用意したのに?」

 「あれはジャックがここに入るのに問題になった時に少しでも事を有利に働かせるためだっただろ? 結局ジャックは問題なく市内に入れたんだから、無理に登録しなくてもいいんだよ」

 俺としてはもう十分すぎるほどの収入源はある訳で、別にこれ以上何か売ろうとは思ってないんだよな。

 肉だって高く売ろうと思えば直接肉やとかに卸した方がいいのは判ってるけど、正直肉屋の店主と直接遣り合うのがめんどくさい。

 なので在庫整理を兼ねてギルドで売ろうと思ってるだけだ。

 「そんな事より、とりあえず今夜はここに泊まるけど、明日の情報集め次第ではすぐにまた出て行く事にかるかもしれないんだぞ」

 「あ、そうね」

 「そうなのか?」

 「そうなのか、って・・ジャック、お前のための情報収集だろうが?」

 「お、おう、判ってるって」

 慌てて頷くジャックを見るに、こいつ絶対に判ってなかったな。

 「情報はギルドで?」

 「あ〜、そうだな。ギルドでケットシーの事を聞いてもいいな。基本情報は手に入れられるだろうからな」

 どこに住んでいるか、という情報はなくても、このソーラン市でのケットシーの位置付けとかが判れば、そこから先の情報収集もやりやすくなるだろうからさ。

 「でもスミレが場所とか知ってるんじゃないの?」

 「スミレが知ってるのは都市ケートンで調べた結果だけ。だからもしあれから場所を移動していたりしていたら判らないだろ?」

 「そっか。でも、その、『なび』とかっていうのを使っても判らないの?」

 「ナビは位置を登録しないと駄目なんだよな。つまり場所が判らなかったらどうしようもない」

 スミレとナビがどうの、っていう話をするからミリーにも多少のナビの知識はあるみたいだけど、それがどういうシステムで動くのかまでは知らないからこんな事を考えるんだろうな。

 「まぁいざとなったらスミレのサーチング・スフィアを飛ばしてもらってもいいんだけど、さ」

 「ああ、あの丸いヤツね」

 「そう。でも最低限の情報を集めておいても無駄じゃないだろ?」

 「そうね」

 「まぁそれで情報が集まらなかったら、明日の朝、ここを出ればいいさ」

 『一応私がコータ様たちが宿で休んでいる間に、ここにある本屋か図書館で情報収集するつもりですけどね』

 俺の肩に座っているスミレが付け加える。

 といっても俺以外には聞こえないんだけどさ。

 「スミレも探してくれるっていうからさ、とりあえず商人ギルドに行こう」

 「オッケー」

 納得したのか素直に頷いたミリーが俺からハンドルを奪う。

 どうやらポーリーの運転が面白いようだ。

 「そういやさ、なんでポーリーなんだ?」

 「ポーリー?」

 「ほら、これの名前だよ。門を入る直前に決めたって2人で言うから訪ねるチャンスがなかったんだよ」

 ああ、そういう事。と頷いてから後ろを振り返る。

 「ジャック、説明する?」

 「いいよ、任せる」

 「判った。ポーリーっていうのは虫の名前よ」

 「・・・虫?」

 「そう、これくらいの大きさの虫でね」

 そう言ってミリーが親指と人差し指を10センチばかり離して見せる。

 「短いツノが生えててね、そのツノで木に穴を開けるの」

 「ああ、樹液を飲むんだな」

 「違うわよ。中に潜り込んで餌を捕まえるの」

 あれ、ツノがあるっていうからカブト虫みたいなのを想像していたんだけど?

 「ほら、幼虫とかいるじゃない。それを捕まえて背中に乗せて自分の巣に戻るの」

 「背中? どうやって」

 「背中にね、イボイボがあるの。それに乗せるというか、ちょっと刺して固定させて巣に持ち帰って子供の餌にするのよね」

 「そいつ、下半身が四角くってさ、おまけに荷物を積んで移動するからさ、これにソックリだろ?」

 後ろから顔を出してミリーの言葉を補足するジャック。

 う〜む、これは聞かない方が良かった気がするのは俺だけか?

 背中に幼虫を乗せて移動する虫、なんか想像がしにくいが、あまり可愛いイメージじゃない事は確かだよな、うん。

 『コータ様、もし気になるのでしたら画像をお見せしましょうか?』

 「いや、いいよ。大丈夫」

 『そうですか?』

 「うん、あんまり想像したくないような気がするからさ」

 「ええ、確かにあまり見た目のいい虫ではないですからね」

 うん、そんな気がしてるんだ。

 だからスミレが気を回す事はないと思うな、俺。

 それなりに付き合いのあるスミレの事だから、俺が画像にあまり興味を示さない理由も判るようだ。

 なんせ俺はシティーボーイだからさ、虫に慣れてないんだよ。

 「それよりも、今日は野営じゃないんだからさ、どこかに食べに行こうか?」

 「おう」

 「うん」

 「何が食べたい?」

 「俺、肉」

 「私もお肉がいいかな」

 まだ説明が足りないという感じだった2人だが、俺が飯に話題を振るとあっさりと食いついた。

 「おまえら・・・肉肉ってさ、ここは海が近いんだぞ? 魚が食べたい、とかって思わないのか?」

 「う〜ん、魚は自分で採りたい、かな」

 「おうよ。競争すんだぞ」

 あぁ、そういや3人分の釣竿を作ったっけか。いや、4人分だな。小さいのをスミレ用にって用意したんだっけか。

 「じゃあ、ギルドに行った時に、宿と美味い店を聞くよ」

 「やった」

 「ありがとう、コータ」

 「もちろん、それよりもケットシーの話が先だからな。ちゃんと我慢して待てよ」

 特にジャック。

 「判ってるって」

 「私が見ておくから大丈夫よ」

 「なんだよ。俺だってちゃんと待てるぞ」

 「ああ、はいはい」

 適当に返事をすると後ろから文句が飛んできたが、俺はそれを適当にいなしながら見えてきたギルドの看板に目を向けた。






 読んでくださって、ありがとうございました。


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