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海は広いな大きいな 1

 大変ご無沙汰しておりました。 引っ越しその他でバタバタしていて、話を書くところまで余裕がありませんでした。申し訳ありません。

 

 さて、以前リクエストもいただいたジャックと海ケットシーの話です。もしかしたら期待していたような話ではないかもしれませんが、それでも最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

 予定では10−12話くらいになるのではないか、と思っています。


 木が1本も生えていない、ただただ緑色をしたなだらかな丘を登るように、上に向かって真っ直ぐ伸びる1本の道は雑草がところどころ生えてはいるもののちゃんとした石畳の道だ。

 その道と並行するように2号を運転する俺。

 この2号っていうのはサイドキックの改良版の事だ。

 以前スミレと一緒に作った、っていうかスミレ先導で作ったサイドキックはミリーが成長した事で少し手狭になったので、それを口実に俺は旅をしながら改良したものを新しく作ったんだ。

 最初はサイドキック(改)と呼んでいたんだけどめんどくさくて2号と呼び始め、そのまま2号が名前になってしまった。

 安易な名付けだとスミレには散々突っ込まれたけど、そんなもん俺に言われたって、俺の名付けセンスを知ってるんだからかっこいい名前は無理だって判ってるだろうにさ。

 前のサイドキックは小型の四輪駆動車だったけど、今度のは大型の四輪駆動車並みの大きさがあるので、中はゆったりとしている。

 時々目の前の立体GPS、もとい、サーチング・ボードを見ながら位置の確認も忘れない。

 そんな俺が座っている前部座席を覗き込むようにして身を乗り出しているジャックが不意に声をかけてきた。

 「おいコータ。あれを越えたら海か?」

 「多分な」

 「なんだよ、多分って」

 使えねえな、コータは。

 舌打ちはしないものの偉そうな態度のジャック。こいつはこういうヤツだよな、相変わらず。

 後部座席から身を乗り出して偉そうに聞いてくるジャックを横目でジロリと睨んでやる。

 「あのな、俺だってここに来るのは初めてなんだぞ? あの先がどうなってるか知ってる訳ないじゃん」

 「でもコータ、目の前に地図があるじゃん」

 「あるけどさぁ」

 目の前にあるのは立体的なGPSマップで、それを見ればちゃんとこの先が海だって事は判るんだよ。

 でもさ、まだ実際に見ていないんだから、きっぱりと言い切れる訳じゃないと思うのは俺だけか?

 GPSマップはダッシュの上に置かれた板の上に盛り上がっている立体的な地形も示していて、道の先にある海もそこに表示されているけど、だ。なにぶん青の濃淡で示されたマップだから、一段と色が濃くなった部分が海なんだろうなぁ、って判る程度なんだよ。

 「実際に見るまでのお楽しみよ、ジャック」

 「そうですよ。いくらマップでこの先の地形が判るとはいえ、やっぱり自分の目で見るまで待った方がいいですよ」

 「ちぇぇぇぇぇ。判ったよ」

 ミリーとスミレに言われて、口を尖らせたまま座席の背もたれにもたれかかったジャックは、それでもやっぱり待ちきれないのかすぐにまた前部座席のシートの間から身を乗り出す。

 「この道を真っ直ぐ行ったらさ、その・・・ケットシーの村だったっけ?」

 「この道の先には人族ヒトの市であるソーラン市があります。ケットシーの村はそこから更に先に進んで街道を外れて徒歩で2日と聞いてますね」

 「徒歩で2日って事はどのくらいだ?」

 「そうですね・・・・距離で言えば20から25キラメッチくらいですね」

 顎に手を当てて考えながらスミレが口にした距離は、頑張れば1日で移動できそうな距離だった。

 ジャックもそう思ったのか、バカにするような声音で感想を口にした。

 「近いじゃん」

 「距離だけで言えば、ですね」

 「ケットシーだったらそれくらいの距離1日で十分だぞ」

 「整備されていない道を移動する訳ですからね、移動に時間がかかるんですよ。ちなみに先ほどの予想時間はケットシーによる移動時間で、人族ヒトであるコータ様でしたら3日はかかりますよ」

 なぜに俺を引き合いに出すんだ、スミレ?

 「そういやコータは足が遅いよな」

 「うるさいな。俺は人族ヒトとして平均だ」

 「でもさ、もっと身体を鍛えた方がいいぞ、コータ」

 「だから大きなお世話だ。俺は普通の人族ヒトだから、今のままでいいんだよ」

 「そんなんじゃ俺たちと一緒に行動できな--イテッッッ」

 顔を抑えて後ろにのけぞったジャックの前を飛んでいるスミレが目の端に映った。

 お、これは・・・・マズイんじゃないのかな・・・?

 今のスミレは身体ボディーに入っているから、普段だったら触れられないジャックに1発かます事だってできるんだよな。

 「・・・ジャック、後ろで話し合いましょうか?」

 「スッ、スミレ」

 「どうやら口の聞き方も勉強した方がいいようですしね」

 「んな事っっねぇよっっ」

 「いいえ、ちゃんと話し合いましょう」

 ずい、とジャックに近づくスミレの勢いに圧され、ジャックは後部座席の背もたれまで下がってしまう。

 「だっ、大丈夫だからさっっ、コータッッ」

 「コータ様は運転に忙しいですからね。お手を煩わせる事はありませんよ」

 「いっ、いやっっ、コータッッッ」

 「あ〜・・・・」

 チラ、と視線を向けると、にっこりと口元だけで笑うスミレが俺を振り返ってるのが見えた。

 「まぁその・・・がんばれ」

 「コータッッ」

 あの状態のスミレに盾突くだけの勇気は俺にはない。

 って事で、放置だ放置。

 俺はさっさと前を向いて運転に集中する。

 もうすぐ海が見える筈だ。

 こっちに来てから初めて見る海、楽しみだな、うん。

 俺は後部座席から目をそらし、そのまま現実逃避をしたまま海を目指すのだった。








 もしかしたらオレンジ色とかかも、という俺の期待、もとい不安(?)は見事に外れ、この世界で初めて見た海はただただ青かった。

 うん、まぁオレンジ色よりは海らしくていいよな、うん。

 ちょっと変な期待をしていたけど、見知った色の方が安心して触ろうって気になるから、まぁこれはこれでオッケーだな。

 ただ昔読んだSF小説にでてきたオレンジ色の海を想像しただけなんだ、うん。

 それにしても、と俺は視線を波打ち際に向ける。

 「猫ってさ、水、大丈夫だったっけか?」

 「猫じゃないですよ。ケットシーと虎獣人です」

 「細かく言えばそうだけどさ、でも猫系じゃん」

 俺の視線の先を辿ったスミレが苦笑いで返事する。

 ケットシーのジャックは二足歩行だけど見るからに猫だし、ミリーだって耳と尻尾を見れば猫系だって判る。

 そんな2人が波打ち際で海に膝まで足をつけたままキャイキャイと楽しんでいるのは、やっぱりどことなく違和感がある。

 「少なくとも俺の知ってる猫は水が嫌いだ」

 「だから猫じゃないですよ。ミリーちゃんが聞いたら怒りますよ」

 「ぅお?」

 それはマズイ。ミリーは心の広い女の子だけど、怒らせると怖いんだよな。

 「それにジャックは海ケットシーですよね?」

 「海ケットシーが混ざってるってだけで、生まれは山ケットシーじゃないか?」

 「それでも見た目はそのまま海ケットシーらしいですから、それもあって水が大丈夫なんじゃないんですか? 大体、海ケットシーは海に潜って魚を獲るらしいですよ」

 「マジかぁ・・・」

 波打ち際で遊ぶミリーのそばに腰まで海に浸かって遊んでいるジャックを見ていると、とても魚が獲れるほど俊敏だとは思えないんだけどなぁ。

 なんせ2号から海が見えた時、大声で叫んだジャックだが、2号から転がるように降りて波打ち際に走ったものの、結局波打ち際でそのまま見事に転けたんだよな。

 あれを見たらとてもじゃないけど、魚が獲れるような俊敏さは欠片も感じられなかったよ、うん。

 「今日はこのままここに泊まりますか?」

 「うん?」

 「今からでもソーラン市には着けると思いますが遅くなると思いますよ? それにあの2人もこのまま海辺でのんびりと過ごしたいんじゃないんでしょうか?」

 スミレの視線の先にいるミリーとジャックは、確かに楽しそうに遊んでいる。

 確かにあれを見ると、出発するなんて言えないか。

 「そうだな、じゃあ今日はここに泊まって、明日の朝出発するか」

 「きっと喜びますよ」

 「だな。じゃあついでに釣り竿でも作るか?」

 「釣り竿ですか?」

 「うん。まぁここじゃあ大した獲物は釣れないだろうけどさ。でもソーラン市に行けば、波止場で釣りができるかもしれないだろ?」

 「そうですね。あの2人はもう少し海で遊ぶでしょうから、夕食まで待っている間の暇つぶしになりますね」

 あ〜、うん。バレバレだな。

 あの2人が遊んでいるのを見てるのもそれなりに楽しいんだけどさ、やっぱり手持ち無沙汰なんだよ。

 「どんな釣り竿を作りますか?」

 「そうだなぁ・・・・やっぱりリールが付いたやつ?」

 「どのリールですか?」

 「どのって、そんなに種類があったっけ?」

 「ありますよ。少なくともコータ様の記憶データバンクの中だけでも数種類あります」

 マジか・・・俺、前の世界じゃあ釣りなんてテレビで見たくらいで、自分ではやった事ないんだよな。

 「あ〜・・・じゃあ、どんなリールが海釣りにいいか、スミレが選んでくれるかな?」

 「いいんですか?」

 「うん、釣りをした事もない俺じゃあ変なのを選びそうだからさ」

 「そんな事ないと思いますけど?」

 「いいんだよ。スミレを信用してるから」

 「はい、じゃあ、コータ様にぴったりのものを選びますね」

 嬉しそうにニッコリと笑うスミレに、俺も思わず笑みが浮かんだ。

 「ついでにミリーとジャックの分の釣り竿とリールも選んでくれるかな?」

 「もちろんです。3人にそれぞれに一番適した釣り竿を作らせていただきます」

 「んじゃあ、俺は浮きとか疑似餌ルアーとか、釣りに必要な小物を作るかな」

 「いいですね。色々と作れば魚に合わせて変える事もできますね」

 「うん、3人で競争しても面白そうだしな」

 特にジャックは絶対に競いたいって言うに決まってるもんな。

 いや、ミリーも意外と好戦的だからな、ジャックと一緒になって競争だって言うか。

 「そうだ、釣り竿って長さ調整できるように作れるかな?」

 「長さ調整ですか? そうですね・・・・・できると思います」

 俺が知ってる釣り竿だとできないんだけど、スミレができるといえばできるんだろう。

 どんな釣り竿になるのか、ちょっと期待だな。

 「コータ様は? 疑似餌ルアーを作ると言ってますが、どのような形にするんですか?」

 「どんなって、小魚の形?」

 他にどんなのがあるっていうんだ?

 「エビとかも作れって事か?」

 「それもいいですけど、魚の餌はいろいろありますから、それらも合わせて作ってみればどうでしょう?」

 「ふぅん、いろいろねぇ」

 エビや小魚以外にどんなものがあるのか判らないけど、スミレのデータバンクを使って調べてみよう。

 そこまで思ってから、スミレを振り返る。

 スミレがそんな事を言うって事は、と不安が胸に浮かんだからだ。

 「スミレ、どんな餌があるのかな?」

 「どんなって、餌は餌ですよ?」

 「うん、だから、小魚やエビ以外にどんなのがあるのかなぁって思ったんだけどさ」

 「私のデータバンクに入ってますからね、それを使って頑張って作ってくださいな」

 ニッコリと笑みを浮かべるスミレに、不安しか込み上げてこないぞ、おい。

 「やっぱり俺が--」

 「では私は作り始めますから、コータ様は頑張って浮きと疑似餌ルアーを作ってくださいね」

 「おいっっ」

 「3本も作らなくちゃいけないですからねぇ。あ〜、忙しい忙しい」

 「おいっっ」

 ふわっと飛び上がったスミレは2号に向かって飛んでいく。

 ちくしょう、逃げたな。

 俺は飛んでいくスミレの後ろ姿を見送ってから、大きな溜め息を吐いたのだった。





 


 読んでくださって、ありがとうございました。


 そしてお気に入り登録、文章評価、ストーリー評価、ありがとうございました。とても励みになっています。


 今回からまた懲りずに感想欄を受け付けできるようにしております。

 今までも読者様からの励ましや感想はとてもありがたく思っていました。

 ただ、感想の返信につきましては返信しにくい、というかどのように返信すればいいのかと悩んでしまうようなものに関しては返信をしないスタンスをとらせていただきます。(返信に困っていたところ、そのように助言をいただきました。助言を下さった読者様、ありがとうございます)


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