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332.

 本日2話同時投稿しています。

 331話の方からお読みください。

 テントが張ってあった場所に、今はアラネアが停まっている。

 そして俺たちの前には勢ぞろいした孤児院の子供達と、その子たちの世話をする大人たち、そしてセレスティナさん。

 「お世話になりました」

 「お世話になりました」

 「世話に・・その、なりました」

 頭を下げる俺とミリーを見て、ジャックが慌てて同じような言葉を口にする。ま、ちょっと違ったけどさ。

 「本当に行ってしまうんですね」

 「ええ、ここには長い間お邪魔させていただきました」

 「ずっといてくださっても良かったんですよ?」

 「そうだよっっ」

 「ずっといてよっっ」

 「行かないでっっ」

 子供たちが数に前に出てきて半泣きになりながら訴える。

 なんかここまで慕われるなんて思ってもいなかったよ。

 ジャックが俺たちと離れたらここにいたい、っていう気持ちも判る気がする。

 「ほらほら、みんな、引き止めちゃ駄目ですよ。彼らはハンターなんですよ? ずっとここにいたらお仕事ができないじゃないですか」

 「でも先生・・・・」

 「だって・・・」

 「彼らは仕事で旅をしているんです。きっと仕事がひと段落したらまた遊びに来てくれますよ。だから、笑ってお見送りしましょうね」

 いや、ずっといても良いって言ったの、セレスティナさんだったよね?

 セレスティナさんがそんな事を言わなかったら、こうならなかったような気がするぞ。

 ジト目を向けると、ふふふっと笑うセレスティナさん。

 はぁ〜・・勝てんわ。

 「また来てくださいますよね?」

 「もちろんです」

 「お、俺も」

 「みんなでまた戻ってきます」

 ここは俺たちの定住の地じゃないけどまた訪れたい場所だから、機会があればまたみんなでセレスティナさんに顔を見せに戻りたい。

 「たまにお便りをしますよ」

 ミリーが、だけどさ。

 「そうですか?」

 「ええ、ギルドを通せば時間はかかりますが、手紙を届ける事ができるそうです」

 「ああ、そういえばそんな事を聞いた事ありますね」

 きっとミリーの事を気にかけているだろうセレスティナさんへ、ミリーが俺たちの近況を書いて知らせればいい。

 「パンジーの事、よろしくお願いします」

 「もちろんですよ。子供たちもみんなパンジーちゃんの事が大好きですからね」

 「そう言ってもらえると安心できます」

 「コータさんがパンジーちゃんの世話がしやすいようにいろいろと改良してくださいましたからね、子供たちも今以上にお世話をするでしょう」

 あ〜、うん。そこはセレスティナさんがするとは言わないんだな。

 ま、判ってたけどさ。

 思わず苦笑いを浮かべると、セレスティナさんも同様に苦笑いを浮かべる。

 「できれば年に1度くらいは顔を出してくれると嬉しいわ」

 「それは・・・確約できませんけど、頑張って顔を見せるようにしますよ」

 え〜っとブーイングが子供たちから飛んできたが、それは我慢してもらおう。

 なんせどこまで行くか判らない旅なんだからさ、もしかしたら1年じゃあ戻ってこれないくらい離れてるかもしれないじゃん。

 「ミリーちゃん」

 「はい」

 「コータさんを支えてあげなさいね」

 「もちろんです」

 しっかりと頷くミリーは、昨日の夜、遅くまでセレスティナさんと話をしていた。

 俺には内容は教えてくれなかったけど、すっきりした顔をしていたからちゃんと話し合う事ができたんだろう。

 ここに来たばかりの頃はまだいろいろとミリーの中で折り合いがつけられない事があっただろうけど、こうしてここを離れる時にすべての憂いを晴らしていけるならそれが一番だ。

 「ジャックちゃんも元気でね」

 「お、おう」

 「ほかのケットシー仲間に会えるといいわね」

 「お・・・うん」

 いつになく素直に返事をしたジャックは、そのまま俯いて尻尾だけを左右に揺らした。

 「すぐにでも会えますよ」

 「そうなの?」

 「俺たちの行き先は海ですからね。そこでジャックと同じ海ケットシーがいる集落を訪れる予定です」

 「あら、それは楽しみね」

 既にセレスティナさんにはその話はしてあったんだけど、その事を知らない子供たちに教えるつもりで話を合わせてくれるようだ。

 「もしかしたらジャックにもガールフレンドができるかもしれませんからね」

 「コータッッ」

 「照れるなよ」

 「照れてねえっっ」

 軽口を叩くと、すぐに反応するジャックを見て、コロコロと笑うセレスティナさんたち。

 「それに、次にここを訪れる時には、セレスティナさんにお願いしたい事もありますから」

 「あら、何かしら?」

 「その時まで秘密です」

 「ふふふ、じゃあ、楽しみにしておくわね」

 「ええ」

 俺は目だけを隣に立つミリーに向ける。

 ミリーはそっと俺を見上げて、うっすらと頬を染めている。

 そんなミリーの左手をそっと握ってから、薬指を親指でそっと撫でる。

 それだけでミリーの頬は更に赤くなり、睨むように俺を見上げてから尻尾でピシッと俺の背中を叩いた。

 「コータ」

 「ごめんって」

 「駄目」

 駄目、といいつつも手は握ったままだから、思わず口元がへにゃっとしてしまう。

 そんな俺たちを微笑ましそうに見つめるセレスティナさん。

 きっと俺が何を頼もうと思っているのかなんてバレバレなんだろうな。

 そしてミリーも俺が何を頼みたいのか判ってるに違いない。

 じゃあ、やっぱり旅の途中でいい場所を見つけたら・・・・・

 「そうだ、海に行く前に鉱山に行こう」

 「えっ?」

 「なんだよ、急に」

 「いや、だってさ、指輪用の素材が欲しい」

 いきなり別れとは関係のない事を言い出した俺を訝しそうに見上げるミリーとジャック。

 だってさ、この世界には指輪を交換するっていう風習はないけど、俺としてはやっぱり指輪を嵌めてもらいたいじゃん。

 指輪の石は魔石もあるし、もしかしたらもっといいものが見つかるかもしれない。

 おぉ、なんかすごく楽しみになってきたぞ。

 「出発が待ちきれないみたいね」

 「あっ・・・・すみません」

 「いいのよ。ハンターだものね。旅を楽しみにするのは当然だわ」

 クスクス笑いながら指摘され、思わず頭を掻いた。

 別にハンターだからすぐに出発した訳じゃないんだぞ、うん。

 「じゃあ、そろそろ出発します」

 「ええ、気をつけて」

 「今までありがとうございました」

 俺が頭を下げると、ミリーとジャックも慌てて頭を下げる。

 それから俺に促されてアラネアに乗り込んだ。

 俺は最後に、とセレスティナさんのところに行くと、手に持っていた巾着を手渡した。

 これ、昨日寝る前に作ったんだよな。色はミリーの赤銅色に黒の紐をアクセントにしているだけのシンプルなものだけどさ。

 「これは?」

 「魔法マジックのバッグです。いろいろと活用できるんじゃないか、と思って」

 「こんな高価なもの、いいの?」

 「もちろんです。セレスティナさんだったら大切にして有効に使ってくれると思いますから」

 「ありがとう」

 巾着をぎゅっと握ってから、俺にハグをしてくれる。

 「あの子の事をおねがいしますね」

 「今までと同じように俺が守ります」

 ミリーもジャックも俺が、いや、俺とスミレが守ってみせる。

 まぁスミレの結界任せなところもあるだろうけどさ、それでも俺の持つ力をすべて利用してでも2人は守りたいって思ってる。

 「淋しくなるわね」

 「また戻ってきますよ」

 「そうね、その時はもう1人増えてるのかしら?」

 「どうでしょう?」

 ジャックのガールフレンドが見つからなかったら、このメンバーのままだろうけどさ。

 「違うわよ」

 「えっ?」

 「もう1人増えてるっていうのは、あなたとマリアベルナの子供、よ」

 「えぇぇっ」

 ふふっと揶揄うような笑みを浮かべて、セレスティナさんは抱擁を解く。

 「楽しみにしているわ」

 「あ〜・・・・その前に訪ねますよ」

 「あら?」

 「そのためのお願い、ですから」

 「あら、まぁまぁ」

 両手で頬を抑えて、大げさなほどに声をあげるセレスティナさんは、そのまま視線をアラネアに乗っているミリーに向けた。

 「楽しみに待っているわ」

 「そうしてください」

 うん、もう楽しみで仕方ないって顔してるよ。

 俺はもう1度軽く頭を下げてからアラネアに乗り込んだ。

 ミリーとジャックは既にシートベルトを締めて、いつでも出発オッケーだ。

 俺は窓越しに並んで見送ってくれる孤児院のみんなに手を振ると、アクセルを踏み込んでアラネアを走らせる。

 ミリーとジャックは後ろを振り返って見えなくなるまで手を振っていた。

 今はお別れだけどまた会える日が来るだろうから、それまでにたくさん話ができるように、いろいろな経験ができているといいな。

 その日はきっとそんなに遠くない。








 最後までおつきあいいただき、本当にありがとうございました。

 約1年に及ぶ連載となりましたが、読者の皆様がおつきあいしてくださったおかげで最後まで書き上げる事ができたと思っています。


 機会があれば、『ジャックの海ケットシー集落訪問』を番外編として書ければいいな、と思っております。


 本当にありがとうございました。

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