331.
今夜で完結予定です。
今までおつきあいただいた俺に、本日も2話同時投稿しています。
まずはこちらからお読みください。
必死こいてスキルを発動。
その度に白く光ってくるくると回る。
でもスミレの結界のおかげで孤児院からは全く見えない。
うん、夜中だからさ、ピカーピカーって光がくるくる回ってるのが見えるのはちょっとまずいよな。
『コータ様、そろそろ休まれた方が良いんじゃないんですか?』
「うん? ああ、判ってるって。まぁキリが良いところまではやっちゃうよ」
『私がやりますよ?』
「大丈夫だって」
スミレは心配性だなぁ。
ただこういう時じゃなくって、勝手に戦闘状態を作らない方向で心配してくれる方が俺としては嬉しいんだけどさ。
「明日、最後の納品にもう1回ギルドに行くのかぁ・・・・」
『そう約束したのはコータ様でしたよ? 忘れていたようですが』
「あ〜、うん。そこは聞き逃してたかなぁ」
『いいえ、そう提案したのはコータ様でしたけど』
おい俺、何やってんだよっっ!
そんな安請け合いしたのか? いつの間に?
って今更自分に尋ねても全く覚えていないから駄目だな。
「悪いな俺、トリ頭だから」
『いいえコータ様の場合は、金魚頭ですね』
「えっ、そんなのあるの?」
『ニワトリの記憶力は7秒だそうです』
まじかよ。ニワトリってそんなにものを覚えらんないのか、ったく。
『ですが、金魚は5秒です』
「えっ・・・ニワトリよりヒドイってか」
『はい、ニワトリの方が物覚えが良いみたいですね。ですから今日のコータ様の記憶力と比べてトリ頭っていうのは、実のところニワトリに失礼です』
「うぐぐぐっっっ」
くっそー、言い返せねえっっ。
「てかさ、なんでそんな事スミレが知ってんだよ」
『コータ様の記憶データ・バンクにありましたよ?』
あれ、それって俺の記憶?
あ〜・・・全く覚えてないんだけどさ。
ってか、誰だよそんな事真面目に研究してるヤツは。
もっと世の中に役に立つ事を研究しような。
『コータ様の考案した熊手のおかげで素材には不自由していませんから、私も納品用のブラックボックスを作りますよ』
「うぅ・・・ありがとな、スミレ」
『どういたしまして』
そうなんだよなぁ、技術をまるまる登録している商品だっていくらでもあるんだけど、品薄になるのが俺のブラックボックスを使った商品なんだって言われたんだ。
そりゃあそうだろう、って思うよ?
だってさ、それだけの高度な技術を使ってる上に値段はお手頃を目指してるんだからさ。
だから今は予約待ち状態だって言われてる。
値段をあげれば二の足を踏んで購入を留まる人も増えますけど、って言われたけどさ、魔法を使えないし高価な魔道具を手に入れられない庶民が買える商品にしたい、っていうのが俺の希望だからさ。
「あっ、スミレ、それよりもさ、スミレの折りたたみテントをついでに納品してください、って言われてるんだった」
『知ってますよ。そちらは既に100ずつ作ってストレージに仕舞ってあります』
「マジか。やるじゃん、スミレ」
『当たり前です』
ツン、と顔を斜め上にあげて答えるスミレに苦笑いする俺。
バラントさん曰く、街道にある休憩所で寝泊りをする旅人が喜んで買うだろう、だそうだ。
「なぁ、スミレ」
『なんでしょう?』
「ついでにさ、ここに遊具を作りたいんだけど・・・さ。いいかな?」
『遊具、ですか?』
「うん。滑り台とかブランコとか、ジャングルジムとか、とにかく子供たちが遊べる道具を設置したいんだ」
そういいながら今は暗闇のよく見えない孤児院の敷地に目を向ける。
「お世話になった場所だしミリーの叔母さんが取り仕切っている孤児院だからさ。どうせ俺の商品の使用料で子供の遊具なんて作らないだろうし、多分節約して無駄遣いしないようにすると思うんだ」
『遊具、で検索します・・・・検索終了しました。なるほど、いいアイデアですね。ですがこの孤児院だけでいいんですか?』
「どういう意味?」
『他にもいくつか孤児院があるんですよね? そちらには寄付とかしなくてもいいんでしょうか? あまりここばかり贔屓にすると、他の孤児院から横槍が入るのでは、と思います』
「あ〜・・・うん、それは大丈夫みたいだ」
『そうですか?』
この孤児院ばかりを贔屓している訳じゃないんだよ。
まぁ俺も話で聞いただけだから絶対とは言わないけど、それでも一応聞いたんだよな。
「他の孤児院にはそれぞれスポンサーみたいな金持ちがついているんだよ。だからその人たちからの寄付で結構潤っているらしいんだ。でもさ、ここは獣人率が多い孤児院だから、そういう金をだしてやろうっていう好事家がいなかったんだよ」
『他の孤児院には獣人はいないんですか?』
「全くいない訳じゃないけどさ、ここよりは遥かにに少ない。それに問題を起こす子供もあまりいないしね。だから金持ちのスポンサーが付きやすいんじゃないかな」
『そういえば、他の孤児院で手に負えない子供たちがここに連れてこられるとも言ってましたよねぇ。なるほどそうですか』
問題を起こす子供だって好きで起こしている訳じゃないみたいだしな。たいていが新しくやってきたって事でちょっかいを出されるとか、性格的にいじめられやすい子供、っていう事なんだと思う。
『では、他の孤児院に遠慮はいりませんね』
「うん、まぁそういう事だからさ、なんか遊具を作れたらって思ってる」
『お任せください、私が最高の遊具を作りましょう』
「い、いや、別にスミレがしなくてもいいんだよ? 俺が--」
『コータ様が寝ている間にいろいろ作って設置しておきます』
「だから、俺が--」
『あまり豪華だとよそから突かれても面倒でしょうからね、どこか素朴さを残しつつ安全に子供たちが遊べるための遊具を作りましょう』
「あ〜・・・任せた」
『判りました』
全く俺の話を聞かないで勝手に遊具プランを打ち立てるスミレ。
まぁ素材だってそれなりにあるし、やる気満々のスミレに任せるのが一番だな、うん。
それにウキウキと楽しそうだからな。
「んじゃ、俺はこれを終わらせたらパンジーの便利グッズでも作るかな」
『パンジーちゃんの、ですか?』
「うん。ほら、このままこの孤児院に残す事になるからさ、それならパンジーの世話をやりやすいようにしておこうかなって」
でっかいタライみたいなのでパンジーに水をやってるけど、それだと毎回水を全部替えなくちゃいけない。
それだったら、小さなバケツサイズの入れ物に水が自動で注ぎ足せる方が楽だし綺麗だもんな。
餌だってそうだ。できれば新鮮なご飯が食べられる環境を作ってやりたい。
まぁ子供たちが丁寧にパンジーの世話をしてくれてるから、世話が足りなくて病気になるなんて事はないだろうけどさ。
『そういえばハンターズ・ギルドに行かないんですか?』
「めんどくさいだろ?」
『コータ様・・・確かにそうですけど、売った方がいい素材とかありませんでしたっけ?』
「ない」
『コータ様』
嘘をつけ、と言わんばかりのスミレに俺は軽く肩を竦めて見せた。
「いいじゃん、別に。ポーチやストレージに入れとけば腐らないだろ?」
『それはそうですけど、邪魔なんですよね』
「スミレのストレージってほぼ無限じゃん」
『そうですけど、整理したいんです』
俺だって整理したけどさ、別にしなくたって困る事もないんだよな。
それにローガンさんの事があるから行くと面倒な事になりそうな気がする。
「おまえ、俺がハンターズ・ギルドの職員に拉致されてもいいのかよ」
『なんですか、それ』
「だってそうだろ? ローガンさんと一緒に行動している筈の俺がのほほんと顔を出したらどうなると思う?」
『別に何も?』
「い〜や、違うね。ローガンさんはギルド・マスターなんだぞ? そんな人が戻ってきてないんだ。となるといろいろと聞かれると思うな」
あんなちゃらんぽらんしててもギルマスなんだからな、あの人は。
絶対俺にいつ戻ってくるんだ、とか、どんな状況なんだ、とかって聞いてくるに違いないよ。
殆ど一緒に行動してなかった俺に判る訳ないけど、それを言ったらどうして一緒に行動してなかったんだ、って聞かれる事間違いなしだ。
それが判ってて顔を出すほどMじゃない。
『そういえばあの方、ああみえて偉い人でしたよねぇ』
ああ見えてって、スミレ、ちょっと酷いと思うぞ」
『そうですか? でも神殿の神官たちに振り回されっぱなしだった事しか記憶にないんですよねぇ・・・・』
「あ〜・・・うん。まぁそれは否定しないけどさ。それでもハンターズ・ギルドでは偉い人なんだよ」
『ああ、偉い人でしたら書類が溜まって大変な状況になっているかもしれませんね』
「そうそう、だからさ、書類が溜まってて困ってる人に捕まったら、俺、酷い目に遭わされそうだ」
だから行きたくないんだよ。
『それでしたら仕方ないですねぇ・・・・判りました。次に寄った街で売っぱらってくださいね』
「了解」
仕方ないと諦めた顔をしたスミレだが、ふと思い出したかのように言葉を付け足した。
『その街では生産ギルドに寄っちゃ駄目ですよ』
「なんで?」
『そこで納品をたっぷりと求められますよ?』
「それはヤダ」
『もし先を急ぎたいんでしたら、街に寄らないで移動するのが一番でしょうね』
いや、でもさ、それをすると在庫が捌けないんですけど?
『でも急ぎの旅という訳じゃないんですから、少しくらいは納品もした方がいいかもしれませんけどね』
「それは判ってるけどさぁ・・・・」
『いろいろなものを開発して登録したのはコータ様ですし、そちらでの収入はありがたいですからね』
「うん、そうなんだけどね」
『それにコータ様が真面目に納品すれば、それだけここの財政をサポートできますよ?』
うっ、そうくるか、スミレ。
でもまぁ、少しでも物が売れたらそれだけ孤児院の収入って事になるんだよな。
「おっけ、ちゃんと納品するよ。でも手伝ってくれるんだろ?」
『もちろんですよ。私を誰だと思ってるんですか?』
「頼りになるサポートシステム、だよな?」
「その通りです」
嬉しそうに胸を張るスミレを眺めながら、俺はさっさと納品分のブラックボックス作りをするのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。




