329.
明日で無事に完結要諦です。
今までお付き合いいただいたお礼に、本日と明日は2話同時投稿です。
今夜はまずは328話からお読みください。
言いにくそうにしながらも、意を決したと言わんばかりにジャックはまっすぐ俺を見返した。
「俺・・・いたら・・・邪魔だろ?」
「はっ? なんで?」
「だ、だってさ。俺がいたらその・・コータはミリーと2人きりじゃないから・・・」
「はぁあっっっ?」
思わず変な声を上げてしまったけど、こればっかりは仕方ない。
「アホか、お前」
「てっっ」
ポカリ、と頭を叩くと涙目で俺を見下ろしてきた。
「あのな、なに遠慮してんだよ」
「だってさ」
「だってもさってもねえよ。大体、俺もミリーもジャックの事を邪魔だって言ったか?」
「そりゃ、言ってないけど・・・でもさ」
「でもなんだよ」
「こ、こ、こ、こ、こ、ここここ」
こっこ、こっこと鶏かお前は。
「その・・こ、こ、こ、こここっっ恋人同士の2人には俺って邪魔だろ」
こっこ、こっこって、恋人って言いたかったのかよ。
「いんや、別に?」
「だっ、だってよ。2人きりになりたいだろ?」
「そんなのなろうと思えばいつだって2人きりになれるだろ?」
昼間は無理でもさ、夜は2人きりになれるじゃん。それで俺もミリーも満足してるぞ。
「でっ、でもさっ」
「あのなあ、お前が勝手に気を遣うのはいいけどさ、ちょっとは俺たちの意見も聞けよ」
両手でジャックの顔を包んで俺の方に向かせる。
ジャックはケットシーだからこんな風に顔を包むとモフモフしてて心地いい。
「俺もミリーももちろんスミレもジャックがいないと淋しいぞ」
「・・・えっ?」
「まぁお前は生意気だからな、いつだってでかい口を叩くからスミレにお灸を吸えられてるけど、それでもお前ある意味ムードメーカだからさ、いなくなると静かで淋しいよ」
「・・・・コータ、おまえ全然褒めてねえだろ」
「はっは、バレたか。でもさ、本当にそう思ってるんだぞ? 俺としてはおまえがいてくれたら色々助かるし、何と言っても心強いんだぞ」
「んな事ねえよ」
「あるって。そうじゃなかったら、もっと早い機会におまえをこういう場所に置いてけぼりにしてるぞ?」
まぁそんな事はしないけどさ。
バカで考えなしのジャックだけど、それがこいつだと思えば許容できるよ、うん。
「それともおまえ、俺たちと一緒にいたくないのか? 一緒に旅をしたくないのか?」
「そ・・それは・・・」
おっ、あとひといきか?
「次に行く場所はおまえのために選んだのになぁ・・・」
「えっ・・・?」
「前に言っただろ? 次に行くのは海ケットシーに会える場所、だって」
「そ、そんな事・・・言ってないぞ」
あれ、そうだったっけか?
俺はそのつもりだったから、てっきりそういう話をみんなでしたつもりになってたよ。
でももしかしたら夜スキルを使ってものづくりをしている時に、スミレと2人で話し合っただけかもしれないな。
「おまえ、森にある集落で生まれたけど、本当は海ケットシーだって言われたの覚えてないか?」
「そりゃあ覚えてるけどさぁ・・・」
「おまえと同じ色合いのケットシーに会いたくないか?」
「それは・・・」
会いたいだろうな、それは間違いない。
だってさ、あれだけ元いた集落で辛い目に遭ってたんだ。確かジャックのばあちゃんが面倒を見ていたみたいだけど、ばあちゃんが死んでからは扱いが悪くなってたって言ってたもんな。
そのせいで、あの坑道に落ちていたようなもんだ。
「ここにはケットシーはいないけどさ、海ケットシーの集落に行けば、可愛い女の子ケットシーと出会えるかもなぁ〜」
「えっ?」
「そうしたらさ、その子さえいいって言えば、今度は4人で旅に出る事もできるんだけどなぁ〜」
「コ、コータッッ」
ジャックの顔を包んでいる俺の両手に彼の猫の手が重なった。
「それでもここにいたいのか?」
「そっ・・・その・・・」
「おまえ、俺たちの事を心配しないでさ、自分がしたい事を考えろよ。おまえ、本当にここにいたいのか? それとも俺たちと一緒に旅を続けたいのか?」
「俺・・・・」
ぎゅっと目を閉じたジャックが答えを出すのを黙って待つ。
ほんの5秒ほどだったけど、目を開いたジャックはさっきまでと違って目に力が戻っている。
「俺・・・一緒に行きたい」
「そっか・・・」
「そっ、そのっっ・・・俺、別に、女の子のためじゃねえからなっっ」
「あ〜、はいはい」
「ホントだぞっっ。ただっ、そのっ、ケットシーに会いたいなって・・か、それだけじゃねえぞっっ」
叫ぶようにそう言ってから、ジャックが俺にしがみついてきたので抱きしめてやる。
でもさぁ、ツンツンデレデレは女の子にしてもらいたいなぁ、俺。
なんて不謹慎な事を考えていたからだろうか、背後からガバッとしがみつかれた。
「うわっっっ!」
いきなり背中に体重がかかってそのままその場にしゃがみ込んでしまった。
そんな俺にしがみついていたジャックも、もちろにっしょになって地面にしゃがみ込む。
「誰だっ・・・って、ミリーか」
「ごめんね、2人で話をするって言ったのに」
「俺はいいけど、ジャックがなぁ・・・」
「気にすんな」
きっと我慢できなっくてこっそりと忍び込んできたなろうな、って事が判るから俺は文句は言わないけどさぁ、って思ってたらジャックが気にするなって言ったよ。
「ジャック、ごめんね」
「いいって、コータが心配だったんだろ?」
あ〜、ツンツンだ。
「違うよ。ジャックの事が心配だったの」
「なんで俺の心配すんだよ」
「今日、ずっと様子がおかしかったもの」
そうだったのか? 俺はギルドに行ったりして別行動だったからさ、気が付かなかったよ。
「なんかね、思い詰めたような顔してたから・・・それでコータと2人で話をするっていうから気になっちゃったの」
「ほらジャック、おまえ、心配されてるんじゃん。余計な事考えるなって事だよ」
「うるせえよ」
おっ、照れてる照れてるっっ、おもしれえっっ。
「おまえら、話、どこから聞いてたんだ?」
「えっ? えっと、それはその・・」
『孤児院に残るっていうところからですね』
おいっ、それって殆ど最初っからって事じゃねえかよ。
しれっと答えるスミレだけど、多分様子を見に行こうってそそのかしたのはミリーじゃないと思うぞ。
どうせスミレに心配だったら様子を見に行きましょう、ってミリーが乗せられたんだろうな・・・はぁ。
『それで話はまとまったんですか?』
「スミレ、ちょっと白々しいんだけど?」
『そうですか?』
「はぁ・・まぁいいよ。これからもジャックは俺たちと一緒だ。ここに残るのはパンジーだけ」
パンジーはここに残る事で同意している筈だ。ってか、ミリーがパンジーと話をしてくれたよ。
「今度はどこ?」
「海に行こうって話してただろ?」
「うん」
「海を見に行って、ついでに海ケットシーの集落を訪ねようって思ってるんだ」
「ホントッ? ケットシーがいっぱい?」
嬉しそうに尻尾をヒュンッと揺らすミリーは、そのまま俺の肩越しにジャックを見下ろした。
「ジャック、ケットシーだって。楽しみだね」
「お、おう」
「コータ、ジャックも楽しみだって」
いや、ジャックはミリーの勢いに押されて返事をしただけだと思うぞ?
でもまぁ、これで言質は取ったぞ。
「いつ行くの、コータ?」
「とりあえずセレスティナさんに出かけるって報告した方がいいだろうな」
「じゃあ、今晩話をするの?」
「なんだよ、ミリー。待てないのか?」
「えぇぇっ、待てるけど・・・でも、早く行きたい、かな」
耳がへにゃんと頭に張り付いているのが見えて、思わずプッと吹き出した。
身体は成長した見たいだけど、やっぱりどこか子供っぽいところがある。
でもそれがミリーらしくて、なんとなくだけどホッとする俺がいる。
「ま、今夜セレスティナさんと話すよ。多分出発は明後日くらいかな? それだったら準備もできるだろ?」
「いつでも行けるよ?」
「そうだけどさ、食料はちゃんと用意しておきたいだろ?」
「そっか」
まぁなくても食える野草とかはスミレが教えてくれるし、狩りをすれば肉だって十分手に入れる事はできるんだけどさ。
それでも出来合いのものがあれば助かるんだよ。ほら、例えばパン、とかさ。
「おやつも買いたいだろ? それにパンだってあった方が楽だしな」
「肉は?」
「もちろん買うよ。狩りで手に入らないのがいいだろ?」
「おう」
ワクワクした顔で肉肉というジャックは、すっかりさっきまでの神妙さは消えていつも通りになっている。
「じゃあ、明日は買い物だな。それで明後日には出発できるようにしようか」
「うん」
「おう」
すっかり元気を取り戻したジャックと、旅に出ると聞いて嬉しそうなミリー。
スミレは、と見回すとミリーの頭の上に座ってニヤニヤと俺たちを見下ろしている。
「スミレ、今夜中にする事をまとめといてくれるかな」
『判りました。でも特に納品とかはないですよ?』
「うん、それは今日全部済ませたからな。そうじゃなくて、孤児院でやり残した事がないようにしたいって事だよ」
『ああ・・判りました』
納品は今日生産ギルドに行った時に全部済ませたって。
とは言っても既にそれ以上の追加注文が入っていたんだけどさ。
その辺りは手作業だから無理、と言っておいた。
実際、俺にスキルがなかったら今の半分も納品できてなかったよ。
さ、これからもこのメンバーで旅だな。
いつまでこのメンバーでいられるか判らないけど、できるだけずっと続くといいな。
読んでくださって、ありがとうございました。
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