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32.

 さすがはスミレだった。

 解体待ちの2時間で、スミレは2階にあった図鑑を全部スキャンしてしまった。

 薬草図鑑、魔獣図鑑、動物図鑑、野草図鑑、それに加えてなんと置いてあった地図もついでにしてもらった。

 ただまぁ地図といっても現代日本で見れるような精巧なものではなく、どちらかというと縮尺とか一切関係なしのどんな町や村がどの方向にあるかって事しか判らない縮尺無視のものだったが、それでもなんとなく方向のイメージが付けられるようになったのがありがたかった。

 その地図を見ながら、俺はふと聞こうと思っていた事を思い出した。

 「なぁ、スミレ」

 『はい、なんでしょう?』

 「この世界の長さの単位ってどうなってるんだ? スミレとは俺が使っていたメートル単位で何とかなってたからすっかり忘れてたけどさ」

 俺もスミレもメートル単位を使っていたから違和感がなかったのだが、ヴァンスさんに引き車を頼む時に苦労したのを覚えている。

 なんせテーブルの大きさと比較して希望の大きさを説明したんだよなぁ。

 『その事ですか? それがですね、コータ様が使っていたものと同じなんです。単位は1センチからメートル、それにキロメートルですね。ただ名称がセンチはセッチ、メートルはメッチ、キロメートルはキラメッチですね』

 「へっ、そうなんだ?」

 『はい、ですから単位の名称さえ覚えてしまえば大丈夫ですよ』

 それは楽だな。アメリカに遊びに行った時に距離がマイルだった時にいちいち電卓で調べていたもんな。

 「そっか、じゃあさ、重さは?」

 『重量ですか? それも・・・いえ、重量は違いますね。1ワンスが50グラムですね。10ワンスで1パンスになります。10パンスで1ガンスになります』

 って事は、っと・・・50グラム、500グラム、5キロの単位なんだ。

 「むっちゃくちゃ重いものを示す単位っていうのはないのか?」

 『100ガンスが1グランスになります。それ以上の単位はないです。反対に小さいものは2分の1ワンス、10分の1ワンスなどという形になります』

 さすがに重さも日本と一緒とはならなかったか。

 残念だけどそれは仕方ないな。でも結構判りやすい気がするよ。

 「んじゃ、計算に困ったらスミレが教えてくれな」

 『はいっ、もちろんです』

 「で、ここから一番近い村はハリソン村っていうところみたいだけど、ここからそこに行くのにどのくらいかかる?」

 『そうですね。ヒッポリアの移動速度から計算します。どのタイプのヒッポリアですか?』

 「あ〜、そういやいろいろあるってサランさんが言ってたな。でも聞いてもよく判んなかったよ。あっ、でも色で種類が違うって言ってたから、俺が買ったのはクリーム色のヒッポリアだよ」

 『クリーム・・・ああ、これですね。でしたら引き車ですので進行速度が落ちるとしても・・・7−9日ほどで着くと思います』

 「やっぱり結構かかるんだなぁ・・・まぁ、確かに大都市アリアナまでは4ヶ月って言ったっけ?」

 『そこまではかからないと思いますけどね。けれど3ヶ月は最低でもかかると思います』

 まぁ自分の足で歩く事を考えれば、のんびりした行程でも文句はない。

 「食料はどのくらい買っておけばいいと思う?」

 『最低でも10日分、でしょうか? できれば2週間分を用意しておけば何か突発的な事が起きても対応できると思います。それにコータ様は魔法マジックポーチを持っているので、その中に入れておけば悪くなりませんから多めでも大丈夫ですよ』

 「ん、判った」

 んじゃ、今日はこのあとで雑貨屋に行って、携帯食や乾物とかを買うかな。

 あっ、ポーチに入れておけばいいんだったら、少し多めに野菜とか果物を買っておいても良いって事だな。

 「あっ、そういや俺用の鍋とか作んなかったなぁ」

 『ああ、そうですね。忙しくなったのですっかり忘れてました。でもそういった物なら野営しながらでも作れるから大丈夫ですよ』

 「ん〜、じゃあ、そうするか」

 どうせ日が暮れる前にはどこか野営する場所を見つけなくちゃいけないし、長い夜の間に何もしないのもつまんないしな。

 「そういや野営って街道沿いでするのか?」

 『街道沿いには約25キロ毎に休憩のための場所が設置されています。この休憩所には簡易の結界が使われているので低級の魔獣や獣であれば立ち入る事はできませんし、水の魔石を埋め込んだ給水所がありますから水はそれほど多く持って行く必要はありません』

 「あれ? 低級の魔獣よりも強い魔獣の方が怖くないかな?」

 『強い魔獣は群れませんし大抵の場合は街道には近寄りません。けれど低級の魔獣は知能も低いので街道までやってきては群れで人を襲います。休憩中に群れで襲われると危険ですから、それで簡易の結界が使用されているんだと思います。まぁ1番の理由は簡易の結界の方が安く設置できる事なんでしょうけどね』

 少し苦笑を浮かべて説明してくれるスミレに、俺はなんとなく納得した。

 そりゃそうだよな。いくら街道を移動する人を守るための物とはいえ、25キロ毎に設置するとなるとどれくらいの結界が必要となるか俺には想像もつかないよ。

 それに結界という事は魔法具だから安くないだろうしなぁ。

 おまけに水の給水所も作るとなると本当に高くついているだろうから、簡易の結界があるだけでもありがたいんだろう。

 「25キロって事は歩いて1日で移動できるくらい距離だよな」

 『馬もヒッポリアも安くありませんからね。歩きで移動する人も多いと思います。特にこの辺りはどちらかというと辺境と言われてもおかしくないほどの田舎ですから、歩いてやってくる人の方が多いと思いますよ』

 つまり金を持っている人が少ない、って事か?

 あとは商人がやってくるくらいなんだろうな。

 『コータ様はヒッポリアを持っていますが、クリーム色の種類であればあまり足は早くないです。それでも徒歩よりは早く移動できますよ。ですから休憩所を使うのは水の補給の時などで、野営は無理に休憩所を使わないで夕暮れ前までに進んだ場所で野営をすれば良いと思います』

 「でも休憩所の方が安全なんだろ? でもそうなると移動が遅くなるのか・・・」

 『コータ様、私が結界を張れる事を忘れてませんか? 私がいるんですから無理に休憩所で休む必要はありませんよ。ただ街道のど真ん中で堂々と野営をすると目立つので、少し離れた場所で野営をした方が良いと思います』

 そりゃそうだな、安全のために休憩所があるのにわざわざ街道のど真ん中で野営をするようなヤツはいないだろう。

 『通常の馬での移動であれば休憩所3つ分の移動が目安です。早馬であれば4つ分ですね。それから足の速いヒッポリアであれば引き車がついていても休憩所2つ分は移動できると思います』

 でも俺のヒッポリアは足が早くない。って事は中途半端な距離しか移動できないって事か。休憩所1つ分だと早く着くし、休憩所2つ分は無理がある、なるほどなぁ。

 「んじゃ適当に野営地を見つけて休むって事でいっか。もし時間が余れば薬草を集めてもいいしな」

 『そうですね。魔法マジックポーチに入れておけば傷まないですからね。それに野営をしている時に薬草を使ってポーションを作ってもいいでしょうし』

 「えっ? そんなもん、作れんの?」

 『はい。スキルのレベルが上がったので、今なら可能です。といっても初級ポーションだけですけどね』

 「それって売れる?」

 『もちろんです。途中の村や町に寄った時に売ってもいいですね』

 「うんうん。ヒッポリアと引き車に結構お金を使ったからさ、移動の途中でもなんらかの収入が欲しいなって思ってたんだ」

 『では移動中は探索しながら、という事ですね。途中で薬草が見つかれば止まって集めて、野営の時にポーション作成する、という事でどうでしょう?』

 俺はうんうんと頷きながら親指を立てて同意する。

 それからスミレに返事をしようとして、誰かが階段を上がってくる音が聞こえてきたので口を閉じた。

 階段の方に視線を向けると、丁度階段を上りきったケィリーンさんの姿が見えた。

 「コータさん、お待たせしました。解体が終わりましたよ」

 「ありがとうございます」

 「それでは下に参りましょう」

 「はい」

 立ち上がった俺はテーブルの上に広げていた地図を本棚に仕舞うと、ケィリーンの後を追うように階段を降りる。

 そのままカウンターに行くのかと思ったけど、どうやらまたいつもの部屋に行くみたいだ。

 「魔石があるのでこちらの方がいいと思ったんです」

 ドアを開けて俺を振り返ったケィリーンさんは、俺の顔から何を考えているのかを正しく読み取ったようだ。

 「はは、気を使わせて申し訳ないです」

 「いえいえ、メンバーの安全確保も仕事のうちですから」

 そんな事をいうケィリーンさんはドアを閉めるとすぐに席についた。

 「魔石は価値がありますからね。誰かに目をつけられないとは言い切れないんです。それにコータさんは魔法マジックポーチを持っているので、そこに入れるところを見られる事も考慮するとやはり別室が安全だと思いました」

 既にテーブルの上には肉の塊が入っているのであろう包みが1つ置かれている。肉は一塊でいいと言ったんだが、その包みは30センチ四方ほどあるデカイものだ。

 まぁ今夜はこれを焼いて食べて、残りは全部ボン爺にあげればいいか。

 「では依頼報酬が8万ドラン、それから肉を売った代金は4500ドランでしたので、合計84500ドランとなります」

 チャラ、とテーブルに置かれた硬貨は小金貨8枚、大銀貨4枚、それから小銀貨5枚だった。

 頭の中でそれであっているかを確認してから、ポーチから取り出した硬貨入れ用の皮袋に入れる。

 結構手元にお金はあるんだが、旅の準備にどのくらいお金を使うか判らないし、ヴァンスさんとサランさんに残りの半金を支払わなきゃいけないからな。

 「ケィリーンさん、ちなみに魔石はいくらくらいになるんですか?」

 「魔石は種類によって値段は変わってくるのではっきりとは言えませんが、ライティンディアーの魔石は雷属性なので・・・そうですね、小金貨1枚といったところでしょうか」

 小金貨1枚って事は約10万円かぁ、なんか高いのか安いのか判断に困る微妙な値段だな。

 「一番需要が高いのは火と水の魔石ですね。これらであれば3割ほど価値が上ります」

 「そうなんですか? でも魔法具があるから別に火の魔石にこだわる必要はないんじゃないんですか?」

 「そうですね。確かに魔法具を使えば属性にこだわる事なく使えます。ただ属性を持った魔石を使う方が消費魔力も少なく済みますし、その上で更に威力が上がるので、それぞれの属性に関する魔法具に属性魔石を使う事で高級品を作り出せるんですよ」

 つまり、火を熾す魔法具に火の属性魔石を使えば魔力節約で威力増大って事か。

 そりゃ属性魔石の方が断然いいよな。

 「それで、ですね。コータさんが言っていたマッチというものはどうなっているんでしょう?」

 「へっ? マッチ・・ああ、忘れてました」

 そういやマッチを納品するって話になってたんだった。

 「忘れていた、という事はまだできてないという事でしょうか?」

 「いっ、いいえ、ちゃんと用意できてます」

 おれは慌ててポーチに手を突っ込んでマッチを取り出し始める。

 とはいえ数は1000個だ、半端じゃない。

 おれはテーブルの上に1つずつ立てて並べる。なんせ筒状の入れ物を使ってるからな、横にすると転がって行っちゃうんだよ。

 おれが3つずつほど掴んではテーブルに置くと、ケィリーンさんはそれをテーブルの端に数を数えやすいように並べる。

 見ていると1列に25個並べてそれを基準にしてどんどん並べていく。

 下手をすると俺がポーチから取り出すよりも早いかもしれない。

 さすがカウンター係、という事か?

 「はい・・ちゃんと1000個ありました。ではマッチの代金の小金貨1枚をお渡ししますね」

 「ありがとうございます」

 「ではこちらにライティンディアーの依頼達成金、肉の売却代金、それからマッチの売却代金の詳細と合計が書いてあるので確認してください。納得されましたらサインをお願いします」

 「あっ、はい・・・大丈夫です、合ってます」

 出されたペンを受け取ってから俺は日本語で名前を書く。

 それをペンと一緒にケィリーンさんに渡すと、これで今日のギルドでの用は終わりだ。

 早速立ち上がろうとした俺をケィリーンさんは手で制した。

 あれ、何か忘れてるのか?

 「まだ何かありましたっけ?」

 「いいえ、以上で依頼は終わりです」

 「じゃあ帰っても?」

 「その前にこの板の上に手を置いてください」

 そう言ってケィリーンさんが出してきたのは20センチx30センチほどの大きさの黒っぽい塗装がされた金属の板が木枠にはまっている物だった。

 「これは?」

 「コータさんのレベルを調べます。そろそろレベルアップしている筈ですからね」

 「レベルアップって俺のハンターのレベルですよね?」

 「もちろんです。ここはハンターズ・ギルドですよ。他にどんなレベルがあるんですか」

 全く、と呆れた顔をして俺を見るケィリーンさんに苦笑いを見せて、俺は素直に言われたようにその板の上に開いた右手を乗せた。

 「はい、いいですよ。それじゃあコータさんのギルド・カードを貸していただけますか? ランクアップしていれば星が増えますよ」

 おぉっっ、ランクアップしてるといいなぁ。

 俺はポーチに突っ込んだままだったカードを取り出すと、ずいっと突き出すようにしてケィリーンさんに渡した。

 ケィリーンさんは少し待っているように言ってから部屋を出て行く。

 結構真面目に薬草採取もしたからな、きっとランクアップしてる筈。

 『コータ様、ランクアップってなんですか?』

 「俺のギルド・カードは今最低ランクなんだ。でも少しずつ依頼をこなしてたからランクが上がっているかもしれないんだってさ」

 スミレがウキウキと話す俺に声をかけようとしたところで、ケィリーンさんが戻ってきた。

 「お待たせしました。コータさんのランクは星が2つ分上がってましたよ。今は黄色の星3つです」

 そう言いながら返してくれた俺のカードを見ると、確かに赤い星が3つに増えている。

 「もう1つ増えるのもすぐみたいですよ」

 「そうなんですか? 楽しみですね」

 嬉しそうな俺に引きずられたのかケィリーンさんも楽しそうに笑う。

 ただ蛇顔なので笑い声が聞こえなかったら、ちょっと怖い顔だったんだけどな。

 俺は笑顔を少しだけ引き攣らせながらもケィリーンさんにお礼を言ってから、今度こそ部屋を出て行った。




 読んでくださって、ありがとうございました。

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