327.
今夜は鉄板焼肉だ。
昨日孤児院に差し入れた肉を使って、屋外でみんなで焼きながら食べようという話になった。
もちろん昨夜のうちに鉄板はスミレと一緒に作った。畳1まいより2回りほど小さいのを2つ作ったから大丈夫だろう。
バーベキュー用のグリル台は、戻ってから作る予定にしている。
このグリル台はこれからも継続で使えるように頑丈に作り上げるつもりだ。
鉄板を取り外して手入れをしていけば、いつでも使えるだろう。
という事で、今朝朝食を孤児院でご馳走になってから、俺たちは町中に出かける事にした。
ジャックとミリーは孤児院の子供達を数人連れて商店地域に向かった。
俺は、といえばいつものようにギルド巡りだ。
とはいえ、ハンターズ・ギルドには行かないつもりだ。
ローガンさんから依頼は受けたけどもともと口約束で書面で契約した訳じゃないし、何と言っても途中で投げ出して帰ってきたからローガンさんたちの事を聞かれないためにも行かない方がいいだろう。
「こんにちは」
ドアを開けてカウンターにいる職員さんに声をかける。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
「商品登録の件で来ました」
「どなたか担当の方はおられますか?」
「え〜っと・・・・担当かどうか判りませんが、前回はバラントさんとお話ししました」
以前ここに来た時は、バラントさんが全部面倒を見てくれたんだよな。
「バラント、ですか?」
「はぁ・・」
「判りました。少々お待ちください」
そう言ってすぐに奥へ入っていく職員さんを見送る。
あれ、もしかしてバラントさんって、偉い人だったって事か?
まぁ都市ケートンでの事後処理を任されるくらいだから、下っ端じゃあなかったんだろうけどさ。
もしかしたらバラントさんの名前を出さない方が良かったのかもしれない。
回れ右して出直そうか、なんて思っていると、奥からバラントさんがカウンターの職員さんと一緒にやってくるのが見えた。
「コータさん」
「お久しぶりです、バラントさん」
「本当にそうですよ。ずっとこちらに来ていただけてなかったので、もうアリアナを離れたのかと思っていました」
「いろいろと忙しくって、アリアナから離れている事が多かったんですよ」
「ああ、ハンターズ・ギルドのお仕事もされてますからね」
頷きながら俺についてくるように促すバラントさんの後に続いて、俺は案内されるまま奥にある部屋へと移動した。
通された部屋は前回の6畳間ではなく、その倍くらいの広さがあった。
「広いですね」
「ああ、ちょっと他の部屋は使われているので今はこれしか空いてなかったんです」
すみません、と少し頭を下げるバラントさんだけど、俺としては広い方が都合がいいからラッキーだ。
「広い方が助かります」
「おや? もしかして何か新しいものを持ってきてくれましたか?」
「ええ、まぁ需要があるか判りませんけど、面白いものを作ってみました」
「それは楽しみですね。ではまぁとりあえずお座りください、お茶を持ってきます」
勧められるままに椅子に座ると、俺はポーチからスミレが作ったテントを取り出した。
大小2つの折り畳み傘もどきをテーブルの上に置いた。
他にも改良版卓上魔石コンロや膨らんでいないエアマットレス、遊びで作った寝袋なんかも取り出した。
このあたりのものであれば問題はないだろう、って事で登録する事にしたんだよな。
バギーや素材集め用の熊手はさすがにここには出せない。
「お待たせしました」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
お茶の入ったカップを置いてから、バラントさんは俺の前に座った。
「これが今回登録してくださる商品ですか?」
「ええ、でも大したものじゃないんですけどね」
「いえいえ、コータさんが持ってくるものですからね、良いものだと思いますよ」
ニンマリと口元を緩めるバラントさん。
随分期待しているみたいだけど、その期待を裏切らないか心配だよ。
「そうそう、新商品の登録の前にこちらの書類を片付けたいのですがいいでしょうか?」
「えっ? ああ、はい」
バラントさんがテーブルの上に1センチほどの厚さの書類を置くのを見て、これは長くかかりそうだな、とちょっとだけがっくりする。
「こちらの書類は、今までコータさんが大都市アリアナに来てから提出してくださった登録商品の詳細ですね。全て登録許可がでましたので、こちらにサインをお願いしますね」
「はい」
あれ、今まで登録したものの事でサインなんかしたっけっか?
「これって?」
「ああ、新しいシステムを導入したんです。あの件で私ども生産ギルドも色々と考えさせられました。あのように表に出てきたのはあの件だけでしたが、あのあと各地に散らばる生産ギルドで調査したところ、同じように搾取されていたギルド・メンバーが複数見つかりました」
「複数って事は・・・」
「はい、残念ながら11名のメンバーが搾取されていたのが調査によって判りました。ただまだ全ての調査を済ませておりませんので、もしかしたらまだ被害者の数が増えるかもしれません」
あ〜・・・そういやミルトンさんも複数の人から騙し取ってたんだったっけか。
「ですので、登録審査が通った時に、その結果の報告だけでなくこのように書面をもって、きちんと登録内容の確認をとる事にしました」
「でもそれだけでも心配じゃないですか?」
「ええ、もちろんです。ですから登録の条件に生産ギルド職員は一切の利益をもらう事はできない、という条例を組み込みました。もちろん生産ギルド職員に一部を、という方もおられるかもしれませんので、そのような方がいた場合において3人のギルド職員立会いのもと、きちんとした理由を明記の上で利益の還元を許可する一文を加える事ができるように条例を変更したんです」
つまり勝手にできないって事か。もし自分の利益にしようと思っても3人のギルド職員が立ち会う事になるし、ちゃんとした理由がなければメンバーの商品登録の利益還元ができないって事か。
それなら大丈夫な気がするな。
「なんか俺のせいですみません」
「何を言ってるんですか、コータさん。コータさんのおかげでこのような不正が表に出てきたんですよ」
「いや、でもですね・・・」
そうは言ってもさ、やっぱり俺があの時ブチっと切れたから、じゃないのかなと思う訳だ。
都市ケートンの生産ギルドの人には悪い事をしたよ、うん。
「いえいえ、コータさんがあのように叱ってくれたからこそ、私たちは職員による不正に気づけたんです。生産ギルドとしてはお礼は言っても文句はいいませんよ」
「そうですか・・?」
「もちろんです。おかげで不正を受けていたメンバーにもきちんと謝罪をした上で、今まで騙し取られていたお金を返金する事ができました」
ああ、それは良かった。もしかしたらお金がなくて困っていた人もいたかもしれないからな。
「という訳で、そちらの書類の確認をお願いしますね」
「・・・・はい」
ほんわかとしていたらあっという間に落とされて、俺は目の前の書類に目を通す。
「あれ、今までの書類とは違うんですね」
「はい、書類を見る事が苦手という方もおられますので、登録商品使用料の割合が一目で判りやすいように考えました」
「なるほど、これなら俺でも大丈夫です」
本当に割合が判りやすくなっている、っていうか、割合がメインに来るように配置された書類だよ。
これなら誤魔化しにくいし、誤魔化されにくい。
俺にもよく判るから助かるよ。
「ああ、ちゃんと割合を変更してくれたんですね」
「はい、もちろんです。コータさんが言っていたように変更しました」
「うん、ありがとうございます」
そこに出ているのは俺の登録使用料の取り分の割合を示すものだった。
登録使用料からギルドの手数料を抜いたものに対して、俺とセレスティナさんが経営している孤児院の割合が五分五分になっている。
これは俺がバラントさんに頼んで変更してもらったのだ。
セレスティナさんも全額といえば遠慮するだろうけど、俺と半々だっていえば遠慮しながらも受け取ってくれるだろう。
「そうそう、これを預かってきました」
「何でしょう? ああ、なるほど。ありがとうございます」
「これで孤児院が受け取る事にしても大丈夫なんですよね?」
「もちろんです。今のままでも大丈夫ですが、このように書類にサインをしてくださっていれば、どこから文句を言われても大丈夫です」
ああ、良かった。
孤児院に寄付するにあたって、外野がうるさく言うのではないか、とスミレが心配してたんだよな。
なんせここには4つの孤児院がある。
その全部に寄付をするのであればともかく、そうじゃないのであれば不公平だと言って文句を言ってくるヤツだって出るかもしれない。
だからそのためにもセレスティナさんと俺のサイン入りの寄付に関しての合意書みたいなのを作ったんだ。
「では、コータさんが書類にサインをしている間に、私は新商品を確認してもいいですか?」
「ははは、もちろんです。手にとって確認してください」
「おお、ありがとうございます」
「ああ、でもその前に製造方法と使用方法を書いた書面をお渡しします」
「コータさぁん・・・」
恨めしそうな顔で俺を見ても駄目だからな。
だいたいさ、ちゃんと使用方法が判らなかったら使えないだろ?
呆れたような目を向けると、コホンと小さく咳をしてから俺から受け取った書類に目を走らせる。
そうそう、俺だって嫌だけど頑張ってるんだから、バラントさんもちゃんと書類を読もうな、うん。
「おぉ・・・なるほど・・・ふぅむ・・・」
でもさ、最初は渋々だったけど、あっという間に書類にのめり込むところがギルド職員だけあるよ。
なんとか読んでいる俺と違って、バラントさんはあっという間に登録のための書類に没頭してしまった。
相槌を打ちながら頷いたり、眉間に皺を寄せて同じところを何度も読んでは唸ったり、とちょっと俺の集中力の邪魔をするんだけど、それだけちゃんと読んでいるって事だから我慢する。
俺もとっとと読んでサインをすれば楽しい商品の説明だからさ。
バラントさんと俺はまるで競争をするように向かい合わせで書類をめくる。
これが終われば、さっさとミリーたちと合流しよう。
俺も買い物したいからな。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。
06/04/2018 @ 17:28HST 誤字の指摘を受け訂正しました。ありがとうございました。
搾取されている → 搾取されていた
スウィーザさん → ミルトンさん




