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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
ただいま、孤児院
327/345

326.

 差し入れの肉は喜ばれた。

 やっぱり食べ盛りの子供たちがいるからなぁ。

 夕飯には1人2本のチンパラの串焼きが付いていてみんな大喜びだ。

 2本といっても1本の串に結構大きな塊肉が5個付いているんだよ。量的に言えばそうだな・・・コンビニのおにぎり2個分程度の肉が串1本にはついているから、かなりのボリュームがあるって事だ。

 俺なんてそれ2本で十分腹一杯になったよ。

 まあ、ミリーやジャックには物足りないだろうけど、他の子供たちがいるからか文句を言う事もなく食べていたけどさ、ププッ。

 差し入れついでに大量にあったラッタッタもかなりの量を差し出したら喜ばれたよ。どうやらそれを使って明日はシチューにするらしい。

 俺も楽しみだな、うん。

 思わず口もとに笑みを浮かべた俺の前に、お茶の入ったカップが置かれた。

 見上げるとセレスティナさんが横に立っていて、カップを置くと俺の前に座る。

 「今日はありがとうございます」

 「いえいえ、これくらいしかできませんからね」

 「十分ですよ」

 「パンジーだって預かってもらってますから、これでも足りないくらいだって思ってます」

 「パンジーちゃんのお世話のお金ももらってるんですよ? それにパンジーちゃんを使わせていただいた上にわざわざ引き車を改造してくださったおかげで、孤児院の子供たちの移動が本当に楽になって助かっているんです」

 どうやらパンジーはここでも大活躍のようだな。

 食事の前に会いに行ったけど、孤児院の子供達からブラッシングもしてもらってるようで、一緒に旅をしている時よりも毛並みが良くなってたよ。

 「それで、パンジーはどうでしたか?」

 「子供たちがお世話の順番を争うくらい、ここでは人気者ですわ」

 「世話に困った事は?」

 「いいえ、特にこれといったトラブルはありませんでした」

 「そりゃ良かった」

 ちょっとは心配してたんだよ。

 なんせ買って以来、パンジーはずっと俺たちと一緒だったからさ。こんなに長期間離れている事なんてなかったから、ちゃんと迷惑かけないで入られたか気になってたんだよ。

 「特に獣人の子供たちとは意思の疎通ができるようで、パンジーちゃんに引き車を引いてもらう時は獣人の子供達が御者台に座っていましたね」

 「ああ、そういえばミリーがそんな感じでしたね。俺たちの中で一番パンジーの扱いが上手でした」

 「獣人は家畜の扱いが上手いと言いますからね。それはきっと動物の気持ちがなんとなく伝わって判るからでしょうね」

 どこか納得したように頷くセレスティナさんに、俺も頷いて同意を返した。

 よし、今が話をまとめるチャンスだな。

 「それで、あの話は?」

 「いいんですか?」

 「できればセレスティナさんたちにお願いしたいです」

 「ですが、ヒッポリアは安くありませんよね? それにあの引き車にしてもかなり高額のものなんじゃありませんか?」

 「ヒッポリアは確かに安い買い物ではありませんでしたけど、引き車は俺の手作りですから材料費しかかかってません」

 まぁ、一番最初に引き車は作ってもらったんだけどさ。

 でもそれからはスミレと一緒に改良していったんだから、俺が作ったって言ってもいいだろう、うん。

 「では、せめてヒッポリアの代金くらいは--」

 「いいえ、引き取っていただけるだけで十分です」

 「ですが・・・」

 「知らない人に引き取られる事を思えば、信頼できるセレスティナさんのお世話になった方が俺も安心できるんですよ」

 今回俺たちが出かけている間のパンジーの世話を頼んだ時、もし良かったらこれからもずっと世話をしてくれないかって持ちかけたんだ。

 今お俺たちにはアラネアやサイドキックがあるから、移動に困る事はない。

 でも出かけた先で引き車から離れなくちゃいけない時だってある事が、前回ランク・アップ試験の時に判ったんだよ。

 さすがに長期間放置するのは心配だし、パンジーに申し訳ないからな。

 だからもし良かったら、このままパンジーの面倒を孤児院でしてもらえないかって思ったんだ。

 ここだったら、パンジーも働きすぎって事もないし、子供たちが世話をしてくれるからその方が幸せだろう。

 だから、そのためのお試し期間を作ったんだ。

 「セレスティナさんが引き受けてくれなかったら、全く知らない誰かに譲る事になります。そうなるとその人がどんな風にパンジーを扱うか全く判らないでしょう? もしかしたら鞭で打つかもしれない。そんな心配をしなくていいセレスティナさんに、ぜひともパンジーを引き受けてもらいたいんです」

 「コータさん」

 「それにここに来ればいつだってパンジーに会えますからね」

 俺たちはまた旅に出る。

 でもたまにここに寄るつもりだから、その時にパンジーに会えるといいな、って思う。

 「いいんですか?」

 「セレスティナさんだから、いいんです」

 「・・・判りました」

 「ありがとうございます」

 セレスティナさんが頷くのを見て、思わずホッと安堵の息が零れた。

 「正直言って、パンジーちゃんは既にここの一員なんです。ですから、もしコータさんたちが連れて行ってしまったら、子供たちががっかりしたと思います」

 「でしょう」

 「ふふふっ、これからもパンジーちゃんがここにいるって言ったら、きっとみんな大喜びですわ」

 だといいな、と思いながら俺もセレスティナさんに笑みを返した。

 それからセレスティナさんが持ってきてくれたお茶を一口飲む。

 喋っている間に温くなったけど、今の俺には丁度いい温度だな。

 そうしてお茶を飲んでいると、前に座っているセレスティナさんの視線を感じて顔を上げた。

 俺と目が合うと、セレスティナさんはそのまま頭を下げた。

 「セレスティナさん・・?」

 「ミリーの事も、ありがとうございます」

 「えっ?」

 「あの子の成長した姿を見られるとは思ってもいませんでした。本当にありがとうございます」

 「えっ・・いや、それはお礼を言われるような事じゃあ・・」

 「いいえ、あの子が幸せそうにしている姿を見れただけで、私は本当に嬉しかったんです。それなのに、あの子が成長した姿まで見る事ができました。きっとあの子の両親も喜んでいる事でしょう」

 セレスティナさんはすぐ隣のテーブルで子供達と遊んでやっているミリーを見ながら嬉しそうに頷いている。

 「あの子がここに来た時、すぐにマリアベルナだと判りました。あの子は母親にそっくりでしたからね。けれど髪の色を見てあの子が銅虎だという事にもすぐに気づいて・・・あの子の未来に自由がない事が不憫だと思ったんです」

 「それは・・・」

 「ですが、コータさんがあの子を守る、と言ってくれた時、本当に嬉しかったんですよ」

 ミリーとは出会ってからずっと一緒だったんだ。可哀そうな目に遭ってもらいたくなかったんだよ。

 「あの子もコータさんと一緒にいる事が本当に嬉しいようで、このまま幸せになってくれたら、と思っていたんです」

 「セレスティナさん・・・」

 「でもね、成長して戻ってくるとは思いませんでした」

 「それは・・・」

 俺のせいか? まぁ・・・俺のせいだな。

 「おまけに、あなたと絆を結んでいたなんて・・・」

 そう言いながらセレスティナさんはミリーの方を向いて顎を上げて、鼻をピクピクとさせている。

 さすがに俺にも彼女がミリーから漂う匂いを嗅いでいるんだろう、って事が判りなんとも言えない顔になる。

 絆を結んだ、ってさ、言い方はいいけど、つまり最後までやっちゃいました、って事が匂いでバレバレって事なんだろ?

 俺には全く臭わないけど、セレスティナさんにはしっかりと匂っているんだろう・・・・あぁ。

 なんか顔が熱くなってきた。きっと赤くなっているんだろう。

 「これでもうあの子は金虎銀虎に狙われる事はないでしょう」

 「そうだといいんですけどね」

 「大丈夫ですよ。金虎のいる村での出来事を鑑みると、コータさんたちに手を出してまであの子を捕まえようとは思わないでしょう」

 「あれは・・・やりすぎでしたかね?」

 「いいえ、良い薬になったと思います。それにあのおかげで銅虎がどのような目に遭っていたのかも、村の知るところになりましたからね。あれ以来村での銅虎たちの扱いが少し変わった、と聞いております」

 なるほど、少しは役に立ったって事か。

 そりゃ良かった。第2のミリーが出てくる事を防げたかもしれないって事だもんな。

 「私のところにもミリーちゃんに手を出さないように、という手紙が来ましたよ」

 「えっ?」

 「よほどコータさんたちの事を恐れたんでしょうね」

 くすくすと楽しそうに笑うセレスティナさん。

 でもそれは違うぞ。彼らが恐れてるのは俺じゃなくて・・・・スミレだ。

 「あっ」

 「えっ?」

 不意に声を上げたセレスティナさんを見ると、両手で口を押さえてる。

 どうしたんだ?

 「一番大切な事を忘れてました」

 「えっ?」

 「コータさんたちが出かけている間に、生産ギルドの職員がやってきたんです」

 生産ギルド・・・? ああ、あれか。

 「驚きました」

 「そういえば言いませんでしたっけ?」

 「聞いてません」

 ありゃ、忘れてたか。そういや結構バタバタしてたんだよな、あの時。

 「あれはもらいすぎです」

 「いいえ、そんな事はありません」

 「いいえ、生産ギルドの方がコータさんの登録した商品の売り上げの1部をこの孤児院に贈与するという書類にサインをしてください、なんて言ってきた時、驚きすぎてその場で立ち上がったんですよ」

 いつもは落ち着いた雰囲気のセレスティナさんが立ち上がるほど驚いたのか。

 「あんなにはもらえません」

 「いいんですよ。あれ、実は俺が騙されて搾取されていた分なんです」

 「えっ?」

 眉間に皺を寄せて俺を見るセレスティナさんに、俺はミルトンさんが生産ギルドの事を知らなかった俺を騙して取り分をくすねていた事を説明する。

 そしてその分をどうするかという話になって全部俺の取り分にしても良かったんだけど、既に書面上では他者に譲渡する事になっていたからさ、それを書類をすべて作り直すよりは孤児院に寄付するようにすればいいかって思ったんだよ。

 もちろん、ミリーやジャックからも了承を貰ってる。

 「ミリーの大切な叔母さんが経営する孤児院が困らないように、とミリーとジャックの願いです。どうか受け取ってやってください」

 「コータさん・・・」

 「あの子たちもここに戻ってくる事を楽しみにしてるんです。次に訪れた時に痩せこけた子供たちと遊びたくないでしょうからね」

 笑顔でそう言うと、セレスティナさんがじろり、と睨んできた。

 いや、冗談だってば。セレスティナさんが子供達を痩せこけさせる訳ないのは判ってるって。

 「・・・判りました。大切に使わせていただきます」

 「そのお金でパンジーのご飯を買ってあげてくださいね」

 「どれだけ食べるんですか、パンジーちゃんは」

 「いや、残りは子供達の食費にしてください」

 「全部を食費にしても使い切れませんよ」

 「でしたら、建物の修繕費にでもしてください」

 結構古くなってるもんな、ここ。

 「・・・そうですね。他の先生方と一緒に、適切な使い道を考えていきたいと思います」

 「そうしてください」

 俺たちが使い道もなく持っているよりもよっぽどいいよ、うん。

 明日は久しぶりに生産ギルドに行かなくっちゃな。

 それから食材を買いだめして、これからの事を考えよう。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 10/22/2018 @ 15:02 誤字のご指摘をいただいたので訂正しました。ありがとうございました。

 俺はスウィーザさんが生産ギルドの事を知らなかった → 俺はミルトンさんが生産ギルドの事を知らなかった

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