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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
再会、でもすぐお別れ
325/345

324.  

 のんびりと街道に沿うように草原を走るアラネア。

 そろそろアリアナの石壁が見えてくる筈、らしい。

 馬車隊から離れて4回野営をした今日、ようやくアリアナに到着だ。

 と言っても馬車隊と同じスピードで移動していたらあと4−5日はかかっていただろうけど、その辺はサイドキックとアラネアのおかげで快適に距離を稼ぐ事ができている。

 それもまっすぐアリアナに戻るんじゃなくて、あちこち寄り道してこのスピードだ。

 おかげで色々な素材を採取できた。もちろん、ギルドの常時依頼用の獲物も込めて、だ。

 「ミリー、疲れてないか?」

 「大丈夫」

 助手席でにっこりと笑みを浮かべるミリーは、確かに彼女の言う通り疲れてはいないようだけどさ。

 アラネアの助手席は、以前はスミレ専用席だったんだけど、スミレと一緒になって内装を変更したので今ではミリー専用席になっている。

 「疲れたらすぐに言えよ? 少しくらい休憩したって今日中にはアリアナに着くんだからさ」

 「ありがとう、コータ」

 嬉しそうに頷くミリーを横目で見ている俺の顔の前にスミレが飛んできた。

 『激甘ですねぇ〜〜、コータ様』

 「スッ、スミレッッ」

 『いやぁ・・・甘い甘い。まるで新婚の夜が激しすぎた新妻を心配する夫のようです』

 「うっ、うるさいぞっっ!」

 『砂吐いちゃっていいですか?』

 「スミレッッ!」

 『当てられちゃって、今の私から出てくるのは砂だけですねぇ・・・あっ、でもコータ様たちから出ているのは甘〜い甘〜いお砂糖ですから、やっぱり勝負になりませんね』

 いや〜まいったまいった、と言いながらもニンマリとした笑みを浮かべるスミレ。

 お前は一体どこのデバガメだ、ったく。

 『でもまぁ、そうやってミリーちゃんに気遣いができるのは良い事ですよ、うんうん』

 「スミレェ〜〜」

 『大切な伴侶に対して気遣いができない夫ほど役に立たないものはありませんからね』

 「夫って、俺たちはまだ・・・・」

 『まだ?』

 「いいから、黙ってろ」

 駄目だ、これ以上スミレに自由に喋らすのが怖い。

 そんな俺たちの会話をどう思っているのか、とちらっと隣を見ると顔を赤くしながらも幸せそうな笑みを浮かべているミリー。

 チラ、とバックミラーを見ると、後ろの席で困ったような顔をしているジャックが見える。

 すまんな、ジャック、スミレが下品で。

 『ところで、コータ様。このままアラネアでアリアナに乗り込むんですか?』

 「ん? 出る時だってアラネアだっただろ?」

 何か問題でもあるのか?

 『アラネア、目立ちますよねぇ』

 「あ〜、まぁな。なんせ自走車だもんな」

 『いろいろと聞かれるかもしれませんね』

 「そう思うか?」

 めんどくさいのは嫌だから、聞かれるのは嫌だなぁ。

 「じゃあ、アリアナに近づいたら歩くのか?」

 『それじゃあ大変ですよね?』

 「まぁな。ある程度離れてないと、いきなり乗っていた乗り物が消えたなんて事になると、今度はその事でいろいろと問い詰められそうだもんな」

 だからと言って、2−3時間歩くのもなぁ。

 チラ、とまた隣を見る。

 俺とジャックは大丈夫でも、ミリーが心配だ。

 昨夜だって無理をさせたしな・・・・・

 「コータ、私なら大丈夫よ?」

 「いや、でもさ」

 俺の視線の意味をきちんと読み取ったミリーはそう言ってくれるけど、それでも心配なものは心配なんだよ。

 『まぁとりあえずこのまま向かいましょう。何か聞かれても「特殊な技術を使っている」で通しましょう』

 「通るのか?」

 『コータ様は生産ギルドに所属していますよね。それだけの技術を持っていて、その試運転を兼ねている、って言えばいいんです。うまくいけばそのうち生産が可能かも、ってぼやかせばなるほどって思いますよ』

 なるほど、今までだっていろいろと新商品を登録してきもんな。疑うようなヤツには生産ギルドに俺が登録しているかどうか確認すればいい、って言えばいいか。

 「でもさ、登録したら欲しい、なんて言われたらどうするんだ?」

 『動力として大きな魔石が必要なので、まずはそれを見つけたら相談してください。それでも使用している素材は希少素材が多いので、高額になりますよと言えばいいんです』

 「なるほど、希少素材と大きな魔石を理由にけむに巻くんだな」

 『そういう事です』

 それならいろいろ聞かれて面倒でもなんとかなりそうか。

 でもさ、それでも欲しいって言う人が出てこないとも限らないんだけど、そうなったらその辺りはスミレに丸投げにしよう。

 『値段は思いっきり高くしましょうね〜〜。まぁ本当にいろいろと特殊素材、希少素材を使っているので、それを探して集めるだけでも大変でしょうけどね』

 「そうなんだ?」

 いつもやりたい放題設計して、素材があればボタンを押すだけだからな。

 よく考えるとどんな素材が必要なのかなんて事までちゃんと見てないなぁ。

 『クリカラマイマイを倒した事で得た素材も使ってますし、鉱山で手に入れた魔石なんかも使ってますからねぇ、かなり希少素材が使われてますよ。他にも拾い集めた石を合成して作った特殊素材もありますから、やっぱり個人で全ての素材を集めるのは大変だと思います』

 「マジ・・・?」

 『マジ、です』

 やっべ、俺、もしかして素材の無駄遣いをしてたって事かよ。

 『そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。そのためにいろいろな場所へ行っていろいろな素材を集めたんですから』

 「そ、そうか・・・・?」

 『それに、今もアラネアの後ろにつけている熊手がいろいろと集めてくれてますよ』

 ああ、うん。あの便利な熊手、な。

 あれは確かに便利だよ。熊手に当たる部分の素材を勝手にスミレのストレージに集めてくれるんだからさ。

 しかも一瞬触れただけで素材を判別して不必要なものはそのまま放置、なんだからなぁ。

 おかげで後ろに何も残っていない2メートル幅の道を作らないで済んでいるんだ。

 「もしかしてスミレ、そのために俺たちをあちこちに連れて行った、とか?」

 『違いますよ。依頼を決めるのはコータ様たちですよね?』

 「あ、ああ、うん」

 『私はコータ様たちが選んだ行き先で手に入る素材を集めただけでしたよ』

 う〜ん、確かにその通りなんだけどさ。

 それにしてもちょっと都合が良すぎる気もしないでもないんだけどな。

 『素材っていうのは何も1−2種類しかない、っていう訳でもないんですよ? 探している素材が見つからなくてもその代わりになる素材を見つければいいんです。それに先ほど言いましたけど、あるものを合成する事で足りない素材を埋める事だってできるんですから』

 「いやいやいや、スミレがいうほど簡単じゃないだろ?」

 『大丈夫です。私にはいろいろなデータがありますから。ただ、この世界の人には合成は無理でしょうね。それに希少素材や特殊素材を集める事は難しいと思います』

 「じゃあ・・・・」

 『当面はコータ様だけがアラネアのような自走車を持てるって事です』

 「詐欺じゃんっっっ!」

 『違いますよ。だって、嘘はついていませんから』

 そりゃそうだけどさぁ・・・・

 でもまぁ、このままアリアナに乗り込めるんだったら、いっか。

 入り口でいろいろ聞かれるかもしれないけど、その辺はスミレの計画通りでいけばいいし、もし作れと言われたら素材を持ってこい、って言えばいい。

 素材入手の使命依頼、って言われたら無理だって言えばいっか。

 だってさ、もう2度とパラリウムなんて見たくないし、クリカラマイマイとは戦いたくない。

 ま、クリカラマイマイとやりあったのはスミレだけなんだけどさ。

 「やりたい放題だったもんなぁ・・・」

 特にスミレが、だけどさ。

 『なんですか?』

 「いや、なんでも」

 『そうですか?』

 「うん、それより、見えてきたら教えてくれよ」

 思わずジト目で見たからか、スミレがしつこく聞いてくる。

 『誤魔化していませんか?』

 「誤魔化してないって」

 『本当に?』

 「本当だって。それよりアリアナが見えてきたらすぐに教えてくれよ。列に並ぶ前に少しだけ休憩したいからさ」

 『・・・・判りました』

 じーっと俺の顔を見るスミレと、表情を固定して何も読み取られないように頑張る俺。

 スミレは暫く俺の顔を見ていたけど、諦めたようでフワッと移動するとそのままスクリーンを展開する。

 どうやら地図を呼び出したみたいだ。

 『今現在、この位置です』

 「緑の点だろ?」

 『はい、そしてここがアリアナですね』

 スミレがスクリーンに触れると、その部分がポッと黄色く色づいた。

 『今の走行速度であと30分も走れば見えてくると思います』

 スミレが指差した位置がどうやらアリアナが見える辺りのようだな。

 「んじゃ、ちょっと早いけど、ここで休憩するか?」

 「お昼ご飯?」

 「そうだな、作っていればちょうどいい時間になるか」

 「やったっ」

 後ろで手をあげて喜んでいるジャック。

 おまえ、あれだけ朝飯食べたのに、もう腹が減ってるってか?

 でも隣に座っているミリーも嬉しそうに顔を綻ばせているって事は、ジャックと一緒って事か。

 成長してもミリーの食欲は変わらないみたいだな。

 まぁつつく程度しか食べない女の子よりは、見ていて楽しくなるくらい美味しそうにものを食べる女の子の方が俺の好みだから丁度いい。

 「何食いたい?」

 「お肉」

 「肉肉肉肉っっ」

 2人の返事が以前と全く同じだった事に、俺は思わず吹き出した。

 「コータ?」

 「なんだよ」

 不思議そうに俺を見るミリーも文句をいうジャックも、変わりがない。

 なんか、良い事だよ、うん。

 






 読んでくださって、ありがとうございました。


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