表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/345

31.

 ライティンディアーの名前は、雷鹿(Lightning Deer - ライトニング・ディアー)をもじったものでした。(これでもじったと言えるのかどうかは別ですが・・・)想像力が乏しくて、とにかく名前を考えるのが本当に大変です・・・・(^_^;)

 ズルズルと俺は木の枝を引っ張りながら森を塀沿いに村に向かって歩く。

 できれば裏から入りたいところだが、前回通してもらった時にここは緊急時のみだと言われたのだ。その時は知らなかったからと言って通してもらえたが、それ以来毎回表にある門を通るようにしている。

 なんせ俺は村の人間じゃないからな。

 あんまり融通を利かせて貰う事もできないんだよなぁ・・ちぇっ。

 それにしてもクソ重い。

 俺が引っ張っている木の枝の上にはでっかいライティンディアーがそのまま乗っかっている。

 その場で解体しようかとも思ったのだが、いかんせん俺にはどうすればいいのかさっぱり判らなかった。

 ウサギ程度であれば少々解体に失敗してもしれているが、スミレの話ではライティンディアーは魔獣だからいい売値になる筈だ、との事。

 そんな事を言われるとせっかくの獲物の価値が下がるような事はしたくないのだ。

 ポーチに入れようかとも思ったんだが、なんせ獲物はでかすぎる。ポーチの中に入れている皮袋にも入らないし、直接入れる事には抵抗があった。

 だってさ、血まみれなんだよ。ポーチの中で血がどうなるのか判らないからな。

 だから俺は毛皮を傷めないように大きめの木の枝を選び、その上に更に枝を並べてからライティンディアーを乗せて運んでいるのだ。

 そして今ようやく村の門が見えるところまでやってきた。

 「おお? 何を引っ張っているんだ?」

 ズルズルと枝を引っ張っている俺に気づいた門番が俺に声をかけてきた。

 「森で襲われたんで返り討ちにしたんだ。けどどうやって解体すればいいのか判らなくってさ、丸ごと持って帰ってきた」

 「おまえ、こりゃあライティンディアーじゃねえか」

 枝に乗っている獲物を覗き込んできた門番が驚いたように俺を振り返った。

 「うん。解体しようかと思ったんだけど、俺の手に余った」

 「そりゃあそうだろうなぁ。下手に解体してダメにしちゃあせっかくの獲物も台無しだからな。このままギルドに持っていくのか?」

 「そうしようと思ってる。ギルドで解体してくれるって前に聞いたからね」

 「おう、素人がするよりゃ解体手数料を取られたってその方が絶対いい」

 どうやら門番もスミレに同意のようだ。

 やっぱり自分でしなくて正解って事なんだな。

 俺はそのまま中に入れてもらって、ズルズルと引きずりながらギルドへ向かった。

 その道中村人の視線が痛かったのはここだけの話だ。






 さて、ギルドについたものの、ライティンディアーを持ってどうやって中に入ろうか、と俺は建物の前に立ち止まった。

 さすがにここに置いたまま中に入る訳にはいかないしなぁ・・・

 誰かが盗むとは思えないが、絶対に無いとも言い切れない。

 そこまでこの村の人間の事を俺は知らないからな。

 「コータさん?」

 そんな風に悩んでいると、ギルドのドアが開いてケィリーンさんが顔を出した。

 「あっ、ケィリーンさん、ちょうどいいところに。これどうやって中に運ぼうかって悩んでたんです」

 「みたいですね。さっきほかのハンターの方が、コータさんがライティンディアーを引っ張って通りを歩いている、って言いながらやってきたんですよ。それで様子を見るために来てみたんです」

 「そっか。それで、そうすればいいですか?」

 「これはここで売るつもりですか?」

 「できれば売りたいですね。それに解体もお願いしたいです」

 「わかりました。それではこちらのドアから中に入れてもらえますか?」

 ケィリーンさんは俺にギルドの建物の左側の壁の方を指差す。

 それから先にたって歩いていくので、俺は木の枝を握り直してからまたズルズルと引きずってついていく。

 左側に回って少し進むと村を囲む塀のすぐ手前のあたりに観音開きのドアがあるのが見えた。

 どうやらそこから中に入るようだ。

 「こちらからどうぞ。この奥が解体室です」

 「そんな場所があったんですね。知らなかったです」

 「もう少しすればシーズンが始まりますから、そうなるとここのドアはほぼ解放状態になりますね」

 ああ、そういえばまたシーズンじゃ無いってボン爺が言ってたよな。

 「それにしても1人でよく無事にライティンディアーを仕留められましたね」

 「ああ、ははは。たまたまラッキーだったんですよ」

 「そうですよ。隙を突かれて雷撃を受けていたらそのままライティンディアーに仕留められてましたよ。本当に気をつけてくださいね」

 「は、はぁ」

 ジロリ、とケィリーンさんに睨まれて、俺は小さく頭を縮めた。

 いやだってさ、あのヘビの目で睨まれると怖いんだよ。

 そんな事を思っている間にケィリーンさんはそのままドアを閉めた。

 「ではここで待っていてくださいね。解体ができる人間を呼んできます」

 「おねがいします」

 どうやら解体はほかの人がするようだ。

 ま、こんなでっかい獲物をケィリーンさんが解体している姿はとても思い浮かばない。

 案内された部屋には大きなテーブルが4つ並んでいる。

 そのどれもが2メートルx4メートルくらいの大きさで、おそらくその上で解体をするんだろうな。

 あのテーブルの上だとこのライティンディアーも軽々載せる事ができるだろう。

 って事はもっとでかい獲物だって持ってこられる事があるんだろうなぁ。

 「お待たせしました」

 そんな事を考えていると、ケィリーンさんが戻ってきた。

 彼女の後ろから2人の男がついてきている。

 「こちらが解体を専門にしているヨーライさんとシンガンさんです」

 「はじめまして。よろしくお願いします」

 「おう、獲物はこいつか」

 「すげえな。ライティンディアーかよ」

 片手をあげて挨拶を返した2人は、そのまま俺が床に放置した木の枝に乗っているライティンディアーの元へ行ってしまう。

 そんな2人を見てケィリーンさんが頭を振っているのがおかしい。

 「にいさん、あんた1人でこいつを仕留めたのか?」

 「あっ、はい。運が良かったみたいです」

 「そりゃそうだろうなぁ・・・」

 「仕留めるつもりはなかったんですが、成り行きでそうなっちゃいました」

 「それでも仕留めただけたいしたもんだよ」

 できれば見逃してもらいたかったんだよ、俺は。

 けどさ、そいつが俺を獲物認定しちゃったから、生き延びるためにやり返したんだよ。

 「で、解体だけか? 欲しい素材はあるのか?」

 「素材、ですか?」

 「おうよ。こいつは魔獣だ。って事は魔石を持っている。それにこの角は雷魔法用の魔法具の媒体に使える。それにこの毛皮だって魔法防御のためのマントを作るのに最適だしな」

 なるほど、色々と使えるようだ。

 でも、今はいらないんだよな。

 「肉は食べられないんですか?」

 「肉か? 食えるぞ」

 「じゃあ、肉を一塊と魔石だけいただいて、あとは売る事ができますか?」

 「もちろんだ。誰か売る相手はいるのか?」

 「売る相手、ですか?」

 「おう。既に商人と話がついているんだったら、うちで解体だけして取りに来させればいい」

 そんな事をする人もいるんだ?

 でもまぁ、商人に直接売れば手数料分も手元に来るって事なんだろうな。

 「いえ、そんな相手はいません。ギルドで買ってもらいたいんですけど、できませんか?」

 「できるぞ。だが、ギルドでは適正価格でしか買い取りはできないんだ。いいのか?」

 「はい、それで十分です」

 「すみません、その事ですが、ギルドの方にライティンディアーの依頼があるので、コータさんにそれを受けていただきたいんですが?」

 それまで黙っていたケィリーンさんの言葉に振り返ると、彼女は手に持っていた依頼用紙をヒラヒラと振ってみせる。

 「お? あーっと、そういやライティンディアーの依頼があったな」

 「半年以上貼りっぱなしだったから、すっかり忘れてたぜ」

 頭をボリボリ掻いている男2人をジロリ、と見てからケィリーンさんは依頼用紙を俺に見せてくれた。

 「こちらの依頼を達成した事にすればギルドの適正価格価格より少し多めの金額を受け取る事ができますし、コータさんのギルドポイントにもなりますよ」

 「そうなんですか? じゃあ、それでお願いします」

 少しでも高く売れる方がいいし、ギルドポイントがもらえるなら尚更だよ。

 「じゃあ、向こうに移動しましょうか。そこで話を詰めましょう」

 「はい、判りました」

 俺は先を歩くケィリーンさんのあとについて歩く。

 てっきりそのままカウンターの方に行くのかと思ったんだけど、どうやらいつもの部屋に移動するようだ。

  部屋に案内されて椅子に座り、ケィリーンさんがお茶を持って戻ってくるのを待つ。

 「お待たせしました」

 「いえいえ、こちらこそいつもお世話になってます」

 お茶をテーブルに置いてからケィリーンさんは俺の正面に座る。

 「ライティンディアーの毛皮が5万ドラン、それから角が3万ドランの合計8万ドランとなります」

 「いい値段ですね、助かります」

 「魔獣ですからね。ただライティンディアーは大型の魔獣ですから仕留めるのが難しいので、大抵は7−8人のチームで倒すんですよ」

 って事は1人1万ドランって事か。じゃあ、それほどでもないのか。

 そんな獲物を俺1人で仕留められたんだから、運が良かったって事だな。

 スミレの結界がなかったら、きっと俺の方が仕留められてただろうしな。

 そんなスミレは俺の真後ろを飛んでいるはずだ。俺の視界に入るとどうしても気になるし、つい話しかけそうになるので村にいる時はそうしてもらう事になった。

 「それではこちらが依頼達成照明書です。ここにサインをしてください」

 「えっと・・依頼達成証明書、ですか?」

 「はい。ああ、そういえばコータさんはいつも常時依頼をこなされてましたね。常時依頼であれば達成証明書のサインは必要ないんです。ですが、個人が出された依頼ですとこのように達成証明書にサインをいただく事になっているんです」

 なるほど、そういや俺、今までイズナの依頼しか受けた事がなかった。

 「あっ、でも俺字が書けないかも・・・」

 「えっ? ああ、そういえばギルドの申し込みの時、私が書きましたね。ローデンの集落ではどうされていたんですか?」

 「どうって・・・」

 ど、どうしよう。

 『コータ様、日本語で大丈夫ですよ』

 「スッッ・・・」

 思わず俺の肩に止まっているスミレの名前を呼びかけて、なんとか止める事ができた。

 目の前のケィリーンさんを見ても、スミレの声は聞こえなかったようでホッとする。

 スミレがついてきている事をすっかり忘れてたよ。

 「えっと、字が汚くても勘弁して下さいね」

 日本語でいい、というスミレの言葉に俺は思い切ってケィリーンさんが差し出した用紙にサインをする。

 もちろん漢字で北村幸太、だ。

 「はい、確認しました。ありがとうございます」

 あれ?

 「それで、ですね。依頼はライティンディアーの角と毛皮ですので、残りはどうされますか?」

 残り?

 「魔石はもらってもいいんですか?」

 「はい、今回の依頼に魔石はありませんでしたから」

 「じゃ、じゃあ魔石と肉を一塊ひとかたまり貰ってもいいですか?」

 「そういえばそんな事をヨーライさんと話してましたね。大丈夫ですよ。では魔石と肉を一塊ひとかたまり、残りはギルドで売却でいいですね」

 「はい、それでお願いします」

 よし、ライティンディアーの肉をボン爺に食わせよう。

 びっくりした顔が楽しみだ。

 「あっ、ウサギの肉って買ってもらえますか?」

 「ウサギ、ですか? 安いですよ?」

 「それは知ってます。実はウサギを狩っている時にライティンディアーに襲われたんですよ。でも今夜の肉はライティンディアーがあるので、ウサギはもういらないかなって」

 「買い取り金額はウサギ1匹分で30ドランですよ、いいんですか?」

 やすっっっ!

 30ドランって事は300円かよ。

 まぁ毛皮だと10枚で昼メシ分だってボン爺が言ってたしなぁ。

 「安いんですねぇ…でも、はい、お願いします」

 持ってても仕方ないからな。

 そういや毛皮もあるんだけど・・・ま、今回は肉だけでいっか。

 安いから出すのもめんどくさいよ。

 「解体の方は2時間くらいで終わると思いますので、その頃にまた来ていただければ魔石と肉を用意しておきます」

 「あっ、その間2階で図鑑を見ていてもいいですか?」

 今日はまだ日が高いから、2時間くらいならここでスミレに図鑑をスキャンして貰えばいいか。

 「はい、大丈夫ですよ。それでは解体が終わりましたら2階まで知らせに行きますね」

 「はい、お願いします」

 俺は頭を下げてから立ち上がると、そのまま2階に向かった。





 読んでくださって、ありがとうございました。


Edited 01/16/2017 @ 21:01 CT 誤字訂正しました。ユッキー様、誤字指摘ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ