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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
再会、でもすぐお別れ
319/345

318.

 初めて見る真剣な顔のシェリに、俺は言葉を詰まらせた。

 いや、だってさ、彼女が俺にそんな顔をするなんて思ってもいなかったよ、うん。

 「頼みって?」

 「聞いてくれるのか?」

 「話くらいは聞くよ」

 「・・・・話だけか?」

 どこかがっかりしたような口調のシェリに、俺はわざとらしく大きな溜め息を吐いた。

 「あのな、俺には巫女様が何を考えてるのかなんてさっぱり判らないんだよ。だから話を聞くって言ってるんだ」

 「じゃが我の頼みを聞いてはくれんのか?」

 「それは話の内容次第だ。当たり前だろ? 話の内容も知らない事をホイホイと引き受けるなんて、物事を知らない馬鹿のする事だ」

 下手にここで頼みを聞くっていったりしたら、揚げ足を取られて何を頼まれるか判ったもんじゃない。

 「もし頼んでくるのがミリーやジャックなら、俺は頑張ってできるだけ2人の頼みを聞くよ。でもさ、巫女様とはここで知り合って何度か一緒に飯を食っただけ、それだけの相手の頼みをホイホイ聞く訳ない」

 「それはそうなのじゃが・・・」

 「コータ・・・・」

 少し剣呑な言い方をしたせいか、心配そうなミリーが俺の名を呼ぶ。

 だから大丈夫だと伝えるために軽く頷いた。

 「とにかく話は聞くからさ、それから聞いた話をどうするかをチームメンバーで決めるよ」

 「チーム?」

 「あれ、知らなかったのか? 俺とミリー、それにジャックの3人でチーム・コッパーなんだ」

 「そうじゃったのか・・・」

 どうやらシェリを失望させたみたいだけど、今の会話のどこで失望させたのかさっぱりだ。

 「俺たちがチームを組んでいる事で何か問題でもあるのか?」

 「い、いや。そんな事はないのじゃが・・・」

 ないといいつつも、問題がありそうな雰囲気だけど、下手に突っ込んで思いもよらないものが出てくるかもしれない。

 って事で、余計な事は口にしないぞ。

 「まぁ、とにかく話を聞かせてくれるかな?」

 「も、もちろんじゃ・・・その・・・」

 しどろもどろになったシェリは俯いたまま、少し逡巡してから口を開いた。

 「我が16になると神殿を出る事になっておるのは、前に話したと思うのじゃが覚えておるじゃろうか?」

 「巫女としての力がなくなるから、だったよな?」

 「そうじゃ。今神殿には19人の巫女がおる」

 「19人?」

 それは多いのか少ないのか判断に困る人数だな。

 「そして巫女見習いが6人じゃな」

 「巫女見習い?」

 「そうじゃ。巫女は10歳から16歳までの浄化の能力ちからを持つものの事を言い、巫女見習いは10歳以下の浄化の能力ちからを持っている可能性を持つものの事じゃ」

 「じゃあ、見習いは巫女になれないかもしれない、って事か」

 「そうじゃが、巫女見習いは神殿でその能力ちからがあると見なされたものじゃからな、殆どの巫女見習いは巫女になる」

 なんらかの方法で浄化の能力ちからを持っていると判別されたから見習いになってる、って事か。

 もともと信仰心が薄かったからな、この世界に来てからも1回も教会とか神殿とかに行った事ないんだよな。

 「巫女や巫女見習いの7割は帰るべき家族を持っておる。巫女としての仕事を終えたのち家に戻れば、巫女をしていたという肩書きを持ってどこかしらに嫁いで行く事になるじゃろう」

 「でも巫女様は帰る家がない、と」

 「その通りじゃ。我は孤児院の出じゃからな。神殿を出ても行く場所はない」

 なんとなくシェリが俺に何を望んでいるか判ってきた気がするぞ。

 「で、行くところがないから俺に行くところを紹介しろって事か?」

 「・・・そうじゃな」

 異世界人で旅人の俺が紹介できる相手なんて1人しかいないだけどな。

 でも彼女なら受け入れてくれる気がする。

 「いいよ。1人ならアテがある」

 「・・・誰じゃ?」

 上目遣いで俺を見上げてきたシェリを安心させるように、俺はにっこりと笑って頷いてみせた。

 「アリアナにある孤児院の院長先生を知っているんだ。俺たちもアリアナにいる間はずっとお世話になっているからさ。彼女だったら孤児院で働く人として、巫女様を引き受けてくれると思うよ」

 「・・・孤児院」

 「うん、まぁ巫女様も孤児院の出身だから何か思うところがあるかもしれないけどさ。でもセレスティナさんはすごくいい人だから、巫女様の事を悪く扱うような事はしないと思う」

 あれ、神殿を出てからの就職先を考えてあげたのに、なんで失望したような顔をするんだ?

 まぁまだセレスティナさんに相談のしてないから確約はできないけど、彼女だったらシェリの事を引き受けてくれると思うんだけどな。

 「なるほど・・・・」

 「なるほどって、気に入らなかったのか?」

 「そうは言っておらんじゃろう」

 「でも根無し草の俺たちはあんまりたくさんの人と関わりを持ってないだよな。だから、セレスティナさんくらいしか巫女様の事を頼める人っていないんだけどさ」

 「そうじゃないんじゃ」

 ガバッという音がする勢いでシェリが顔を上げた。

 「我はコータと、いや、コータたちとともに旅をしたいと思っておったんじゃ」

 「・・・・へっ?」

 「チームを作るには最低3人必要じゃと教えてもらったからな、我が入ればチームができるじゃろうと思ったんじゃ」

 それって、自分が入ればチームを作れるぞ、と恩を着せるためか?

 「いや、でも俺はもうチームを持っているぞ?」

 「そうじゃな。獣人と人種ヒトの2人だけでチームを組めるとは知らなんだ」

 なんか勘違いしてないか?

 「ちゃんと3人いるからチームなんだけど?」

 「どこにおるんじゃ? もしかして懇意にしておるという孤児院に、1人残してきておるのか?」

 「いや、ちゃんとここいいる」

 どこに、と言わんばかりの辺りをキョロキョロするシェリから視線を話すと、どこか憮然とした表情のジャックが目に入る。

 そんなジャックに苦笑いしながら俺はジャックを指差した。

 「ジャックも俺たちのチーム・メンバーだよ」

 「なに? じゃがジャックはケットシーじゃろう?」

 「うん。でもジャックはれっきとした俺たちのメンバーで、ちゃんとハンターズ・ギルドのカードも持ってるよ」

 驚いた顔でジャックを振り返るシェリに見えるように、彼は胸元からカードを取り出して見せている。

 「な、俺たちはちゃんと3人いて、チームを組んでいるんだ」

 「そうか・・・」

 「それに神殿から出ただけの何にもできない人をチームに入れるなんて事、怖くてできないぞ」

 「どういう意味じゃ?」

 「俺たちはハンターなんだよ。ハンターっていうのはさ、採取採集が仕事だから危ない目にも遭う事が意外と多いから、何もできない素人を連れて歩くなんて怖い事はできないよ」

 不満そうな顔のシェリにきっぱりと言うと、シェリは一瞬悔しそうな表情を浮かべた。

 「それに神殿を出た後に行く場所がないからっていう理由で、俺たちの旅についてこられても困る」

 「なぜじゃ」

 「自慢じゃないけどさ、俺たちは今まで仲違いをするような喧嘩をした事はない。それなりに上手くいっているチームなんだよ。それに3人で困るような事も今までなかったしな」

 「・・・それは我がお主らの仲間に入ると不和が起きる、という事か?」

 じろり、と睨まれたけど、それでビビるような俺じゃないぞ。

 シェリに睨まれたって、スミレの半分も怖くないもんな。

 「そうは言ってない。ただ、その可能性はある、って事だな。それと今の俺たちは3人でいる事に不満も物足りなさも感じてないんだ。3人で上手くいっているのに、わざわざ不和の元になるかもしれない仲間を増やすなんて事する必要はないだろ?」

 「不和になるとは限らんじゃろう?」

 「そうだな、でもさ、3人でも依頼をこなす事になんの問題もないんだ」

 「それは・・・」

 それに俺たちには4人目となるスミレだっているんだ。

 スミレがいれば俺たちが失敗する事なんて有り得ないよ、うん。

 「だから、さ。もし神殿を出てから行く場所が必要なら、懇意にしている孤児院を紹介するよ。ただまぁ、俺にできるのは紹介だけだから、向こうが必要ないって言えばどうしようもないんだけどさ」

 「・・・どうしても仲間にはしてもらえんのじゃな」

 「うん・・・悪いけど」

 申し訳ないけど、シェリを旅の仲間にしたい、とは思わないんだよ。

 ミリーとジャック、それにスミレがいれば俺はそれで満足だから。

 「じゃが・・・」

 小さな声がシェリから届いた。

 「なに?」

 「じゃが、我はコータと一緒にいたい」

 「俺と・・・?」

 「コータと一緒にいたいんじゃ」

 なんで俺と?

 そう口に仕掛けてまだ話そうとするシェリに気づいて、彼女の話を聞くために黙る。

 「我はコータが好きじゃ」

 「・・・へっ?」

 「じゃから、コータと共にいたい、そう願うのでは駄目か?」

 「いや、それは・・その・・・」

 シェリの真っ直ぐな視線が向けられ、俺は返事に詰まってしまった。

 まさかそんな理由で一緒に来たいって言ったなんて思いもしなかった。

 「我はまだ巫女としてあと2年、神殿におらねばならん。じゃが、2年後に神殿を出たあと、好いておるコータと共にいたいのじゃ」

 「いや・・だから・・・」

 「迷惑か?」

 「迷惑っていうか・・」

 そんな事考えた事もなかったよ。

 ってか今までのシェリの態度から、そんなもの全く伝わってこなかったよ。

 でもさ、シェリの事をそういう対象には思えない自分がいる。

 だから俺は断るために口を開く。

 「俺は--」

 「ダメッッッッッ!」

 そんな俺の顔めがけて、テーブルを挟んだベンチに座っていたミリーが飛んできた。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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