313.
『そろそろ見えてくる筈ですよ』
「もう? じゃあ、ミリーとジャックに戻ってくるように言ってくれるかな?」
『判りました』
結界ギリギリのところで熊手がついたバギーを乗り回している2人のところにスミレが飛んでいくのを見送ってから、俺は見られてヤバいものがないかを指差し確認する。
「魔石コンロは・・・まぁ、いっか。これは俺の登録商品だしな。テーブルや椅子もおかしくないだろうし・・・・他には・・・あっ」
ヤベッッ、サイドキックを出しっ放しだったよ。
慌ててサイドキックのところに行ってポーチに仕舞うと、代わりにアラネアを取り出してサイドキックがあった場所に配置する。
『サイドキックを仕舞ったんですか?』
「スミレ」
いつの間にか戻ってきていたスミレの声に振り返る。
「知ってたんだったら言ってくれよ」
『わざと出しているんだと思ってましたけど?』
「おい」
嘘をつけ。
気がついて言わなかっただけだろ?
『たかがサイドキックくらい、今更だと思いますけど?』
「なんで?」
『だってスキッパーで救助に向かいましたよね?』
「あ〜・・・・」
そりゃそうか。
すっかり忘れてたけど、スキッパーを見られてる可能性は大、なんだよな。
「いや、でもまぁ、余計なものは見せない方針で行きたいぞ」
『そうですか、判りました』
「なんか聞かれると思うか?」
『思いますね』
キッパリと問いただされる、と言い切るスミレを見て、俺は額に手を当てて空を仰ぐ。
「マジかぁ・・・・めんどくせえなぁ」
『ウェイメラを引き離すのに無茶をして壊しました、って言えばいいんじゃないんですか?』
「う〜ん、そうだなぁ。それが一番それっぽい言い訳か・・・」
スキッパーの後を追い縋って来るウェイメラが陸に上陸したところで追いついて、そのままその一撃で壊された、ってところか。
俺たちはウェイメラがスキッパーを壊している間に必死に走って逃げました、でいっか。
「ミリー、ジャック」
「なに?」
「なんだよ」
「スキッパーの事を言うなよ」
「えっなに?」
「なんの事だよ」
頭を傾げるミリーと眉間に皺を寄せたジャックに手招きする。
「だからさ、俺たちがいろいろなものを持ってるって事はできるだけ知られたくないんだ。だから、俺たちの乗り物はアラネアだけ。連中を救助するために乗っていたスキッパーはウェイメラの攻撃を受けて壊された、って事で話を合わせてくれよ」
「わかった」
「おう、でもさ、なんで隠すんだよ?」
「下手に俺たちがいろいろな乗り物を持っているって知られたら、取り上げられるかもしれないぞ?」
「売りゃあいいだろ?」
金になるじゃん、とあっけらかんと言うジャック。
だからお前は浅慮だっていうんだよ、ったく。
「売れってか? 素材費用がかかりすぎて売れないよ。それに金を出してくれるとは限らないぞ? 取り上げられたらどうする?」
「やだ」
「やらなきゃいいんだよ」
キッパリと嫌だというミリー。うん、そうだよなぁ。
「ジャックさ、やらなきゃいいって言うけどさ、無理矢理譲るように仕向けられたらどうするんだよ。例えば神殿にお布施として、とかさ。俺たちはただのハンターだからな、強硬手段を取られたらどうしようもないんだ。それにもしここで断れたとしても、そのせいでアリアナに居づらくなったらどうするんだ?」
「それは・・・」
「俺としてはミリーのためにもアリアナでは問題を起こしたくないんだよ。お前だってミリーを大変な目に遭わせたくないだろ?」
「そりゃあ・・・」
「それに、だ。俺がスキッパーみたいなものが作れるスキルを持ってるって知られたくないんだよ。下手をしたら俺は閉じ込められて一生スキルを使ってものを作らされるかもしれない。そうなるとお前らは俺とスミレ抜きで生きていかなくっちゃいけないんだぞ」
どうやらここまで説明してようやく俺が隠したい理由に納得がいったようだ。
ったく、ミリーだったらここまで説明しなくても納得するぞ。
「あっ、バギーは?」
『私が回収しました』
「そっか、ありがとな、スミレ」
『どういたしまして』
つん、と澄ました顔でわざとらしく頭を下げるスミレを片方の眉だけをあげてみるけど、それに気づいているのか俺の方を見ない。
ちくしょう。
仕方ないな、と溜め息を1つ吐いてから、俺は両手を合わせてパンと音を立てた。
「じゃあ、みんなで見られて困りそうなものが出し忘れてないか確認してくれよ」
「わかった」
「おう」
『判りました』
4人が一斉にうろうろとキャンプ地をうろつくのはなかなか見てて面白い。
テントを覗くジャック、テーブルの下を覗くミリー、そしてテントの裏に飛んでいくスミレ。
そんな3人を見送りながらも俺はアラネアの中を確認する。
よし、大丈夫そうだな。
「だいじょぶ、だよ」
「なんもなかったぜ」
『特になし、ですね』
「そっか、ありがとな〜」
戻ってきて報告をするミリーとジャックの頭を撫でて褒めてやり、飛んできたスミレはそのまま俺の肩に座った。
「あっちはどうだった?」
「あっち?」
「うん、馬車隊が野営をする場所。それなりに下草も刈れてなんとかなりそうか?」
「うん、だいじょぶ、だよ」
さっきまで2人がバギーで走り回っていた理由の1つが野営地を整える事だ。
もちろんバギーに熊手をつけた状態だったら、そのまま素材も集める事ができるもんな。
ここから見ても背の高い草は生えていない。それなりに地面がむき出しになっているのがちょっと不自然だけど、その辺はスルーしてもらおう、うん。
そんな事を考えていると、ミリーが俺の名を呼んで指差した。
「みえた、よ」
「へっ・・何が?」
「馬車」
馬車、と言われてミリーが指差す方をみるけど、俺にはさっぱり何も見えない。
「スミレ?」
『スクリーン、展開します。マップ・・・ああ、そうですね、ミリーちゃんが指差す方向に迫ってきている筈です』
スミレの展開したスクリーンを覗き込むと、確かに赤い点々が緑の点である俺たちのところに向かってくるのが判る。
「ジャック、お前も見えんのか?」
「おう、音も聞こえるぜ」
「マジかよ・・・」
うちのお猫ちゃまたちは凄いな。
『出迎えは?』
「いらねえよ。ってか、そんな事期待してないだろ?」
『さぁ、どうでしょう』
どうでしょうって、マジでそんな事期待していたらここで野営させねえよっっ。
「よし、ふざけた事を抜かしたら、すぐに退去だ」
「馬車、追い出すの?」
「い〜や、面倒だから俺たちが出て行く。んで、そのままアリアナに帰ろう」
「いいのかよ、コータ」
「いいんだよ、めんどくせえのは嫌だ」
「でもさ、さっき言ったじゃん。アリアナにいられなくなるような事はしないって」
「うぐっっ・・・・・」
ジャックのくせに正論すぎて言葉が返せない。
あ〜、確かに言ったよ。スキッパーの事でそう説明したな、うん。
「なんか言ってきたら、ローガンさんに押し付けるよ」
「だいじょぶ?」
「いいんだよ、こっちは命の恩人なんだからさ、借りを返せっていえば間に入ってくれるって」
ってか、入らなかったら脅すという手だってあるぞ。
「でもさ、あの騒ぎの時、馬車の中にいたんだったら俺たちがあの場にいた事すら知らねえんじゃねえの?」
「それはないだろ・・・スミレ?」
『その可能性はあるかもしれませんね。特に神官組はあの場にはいませんでしたからね』
「マジかよ」
『ただ、神官たちの護衛は外に出てハンターズ・ギルドのギルマスと一緒に牽制はしていましたから、話を聞いているとしたらそちらからでしょうね』
そんなヤツら居たっけか?
さっぱり覚えてねえよ。あの時俺たちに話しかけてきたのはローガンさんだけだったからなぁ。
ああ、なんかトラブルの予感。
今からウンザリして溜め息が止まらないよ。
俺は出そうになる溜め息を飲み込んでから、ミリーが指差していた方角に視線を向けた。
「おっ、今なら俺にも見えるな」
「馬車、見えた?」
「うん、あの黒い点が馬車じゃないか?」
「黒い、点じゃないけど、あれが馬車、だね」
「あ〜、うん、そっか」
目が良いミリーには点には見えないってか。
あ〜、はいはい。
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Edited 06/07/2018 @20:35HST 誤字のご指摘があり訂正しました。ありがとうございました。
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