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312.

 尻尾に弾き飛ばされてそのまま地面に転がされた俺の上に、ゆっくりとその巨体を乗り上げてくるその姿は超デカいハゼのような魚だった。

 器用にヒレを使って俺の上に乗り上げて、全体重を押しかけてくる。

 「よけろっっ!」

 叫んでみるものの、それが俺の上から避ける筈もなく。

 むしろ更に重みが加わって、肺が潰されたかのように息苦しくなる。

 スミレは?

 ミリーは?

 ジャックは?

 みんな、どこにいるんだ?

 なんとか頭だけ動かして周囲を見回すけれど、薄暗くて何も見えない。

 「スミレッッ! ミリーッッ! ジャックッッ!」

 みんなの名前を呼ぶけど、その声に返ってくる声はない。

 一体どうしたっていうんだ?

 ってか、なんでこんな状況になったんだ?

 ハゼもどきの魔物がどんどん俺の上にのし上がってきて、俺の顔がその巨体に埋まってしまう。

 ああ、もう息ができない・・・・











 パッと目を開けると、そこは見慣れたコテージの天井だった。

 「夢か・・・」

 呟いた自分の声がかすれている事に驚き、それから窓から差し込んでくる日差しからしてもう昼過ぎなんだろう。

 まだ胸が苦しいと思って見下ろすと、そこには俺の上で丸まっているミリーが眠っていた。

 「ミ、ミリー・・・?」

 なんでこんなところで寝ているんだ?

 昨夜、いや、今朝早く戻ってきた俺たちは簡単にサンドイッチとお茶の食事をしてから、それぞれ寝床に入り込んで爆睡したんだよな。

 周囲を見回してみたけど、スミレの姿はない。

 多分外で何かしているんだろう。

 俺はゆっくりと腕を動かしてミリーを持ち上げる。それからそのままソファベッドに横たえてからブランケットをかけてやる。

 深く眠っているのか、ミリーは少しだけ身じろぎをしたものの目は覚まさない。

 俺はそんなミリーの頭をそっと撫でてから、静かにコテージから外に出る。

 昼過ぎかな、って思ったけどもっと遅い時間みたいだな。

 そーっとドアを開けた俺に気づいたのか、スミレが飛んできた。

 「おはよ、スミレ」

 『おはようございます、コータ様。といってももう昼過ぎですよ』

 「あ〜、うん、だろうな」

 俺はコテージの庇越しに空を見上げる。

 『昼過ぎというよりは、オヤツの時間、と言った方がいいかもしれませんね』

 「疲れてたんだよ」

 『そうですね』

 でも、そんなに長時間は寝てないと思うぞ。

 多分、6−7時間くらい?

 『ミリーちゃんとジャックは?』

 「ん? 2人は寝てると思うよ。ってか、ミリーが俺の上に乗っかって寝てたんだけど?」

 『ふふふっ、コータ様とジャックはすぐに寝たようですけどね、ミリーちゃんはなかなか眠れなかったみたいですね。結局3時間ほどまえにロフトから降りてきましたよ』

 「あれ、スミレ知ってたのか?」

 中にいたのか、おまえは?

 『ミリーちゃんが暫くコータ様が眠っていたソファベッドの前で、静かにうろうろしてしていたのは気づいていましたよ。そのまま暫くうろうろしてから、意を決したようにコータ様のブランケットに潜り込んでました』

 「そっかぁ・・・おかげで魘されたよ」

 『魘された?』

 「あ〜、うん。俺の胸の上で寝てたんだよ。だからその重さのせいで変な魔物に押しつぶされる夢を見た」

 巨大なハゼだったな、うん。

 『食事にされますか?』

 「ん? あ〜・・・どうしようかなぁ。まだそんなに腹は減ってないんだよな」

 『そうですか?』

 「うん、でもスープくらいは作っておけばいいか」

 どうせミリーとジャックが起きてきたらすぐにでも何か食べたいっていうだろうからさ。

 「パンって残ってたっけ?」

 『はい。アリアナで買ったものとセレスティナさんが作ってくれたものがまだ3食分くらいは残ってますね』

 「そっか・・・んじゃ、めんどくさいから具沢山のシチューにしようか。肉もたくさんいれとけば文句は出ないだろ?」

 『そうですね。その分のんびりしよう、といえば良いんじゃないんですか?』

 「だよな」

 でっかいシチュー用の鍋があるから、あれに具をいれられるだけいれて煮込めばいっか。

 『中に戻りますか?』

 「うん・・・いや、ここにテーブルと魔石コンロ出して作るよ」

 中に入ると2人を起こしそうだしな。

 『そうですね。中で料理をすると、匂いで起きてきそうですからね』

 「いや、別に匂いで起きてくるのは良いんだけどさ、疲れてるみたいだから少しゆっくりさせてやろうって思ったんだよ」

 『そうですね』

 クスクス笑いながらスミレは同意したけど、俺が照れてるとでも思ってるみたいだな。

 ま、いいけどさ。

 俺はコテージのポーチを降りると、そのままテーブルと魔石コンロを取り出した。

 早速でっかい鍋をコンロに置いて火をつけて、鍋の3分の1くらいまで水を入れる。

 肉は・・・シチューだからラッタッタでいっか。

 俺はラッタッタを取り出すと適当にぶつ切りにして鍋に放り込む。

 それから適当に取り出した野菜を刻んでどんどん鍋に入れていく。

 そうしてやっと全部の野菜を刻んで鍋に入れ終えて蓋をしたところで、椅子を人数分取り出すとそのうちの1つに座った。

 「ところで、ウェイメラはどうしてる?」

 『ウェイメラですか? コータ様たちが眠りについて1時間ほどしてから動き出しました。今は沼の深部に潜っているので、それ以上の事は判りません』

 「馬車隊がいたところには戻らなかったな」

 『はい、あの場所には今は誰もいません』

 って事は、無事に移動を始めたって事か。

 『その馬車隊はどうしてる?』

 『あれから夜通しずっと移動していました。つい先ごろ野営地を決めて停車したところですね』

 「もう? ああ、そっか、一晩中移動していたから疲れてんのか」

 『そうでしょうね』

 「馬車隊周囲の安全性は?」

 『大丈夫ですよ。特に危険な魔物魔獣、それに獣もいませんから』

 スミレがいないって言うんだったら大丈夫だろう。

 「馬車隊、これからどうすると思う?」

 『そうですね・・・おそらくはこちらに合流してくると思いますよ』

 「えっ、マジで?」

 『彼らの仕事はこの沼の浄化ですからね。その仕事もせずにアリアナに戻る訳にはいかないんでしょう。それにウェイメラがいるという事はあそこにはニハッシュはいない、という事にもなりますからね』

 あ〜、そういや、あいつらって浄化の依頼だったっけか。なんか態度が悪い事しか覚えてなかったよ。

 「じゃあさ、到着予定時間は?」

 『私たちと同じようにテキパキと移動すればあと2日だと思いますけど、今まで通りだと3日といったところでしょうね』

 「んじゃ、3日から4日って事で、到着を迎えるためにある程度の準備をしなくちゃいけないのか・・・」

 あ〜、めんどくさい。

 「その辺りは明日ミリーちゃんとジャックにバギーで周辺の草刈りと整地を頼めば良いですよ」

 「ああ、そういう手があったな。んじゃその辺はあとで2人が起きてきたら聞いてみるよ・・・ってか、聞いてやって」

 『はい、あとで聞いてみますね』

 でもまぁ、きっと喜んでやってくれると思うけどさ。

 スミレもそう思うのか、既に笑みを浮かべている。

 「あっ、このコテージ、どうしよう?」

 『あ〜・・・そうですね。やっぱり片付けておく方が良いかもしれませんね』

 「別にこのままでもいいんじゃね?」

 『コテージに目をつけられて神官たちに寝床を取られたらどうします?』

 「結界で進入禁止にする?」

 『コータ様・・・・』

 「判ってるって。ちょっと言ってみただけだろ」

 あんなヤツら結界で排除すれば楽なんだよ。

 でもさ、実際問題としてそれをしていいか、ってなるとダメだって言われるだろうな。

 いや、俺たちは気にしなくてもローガンさんたちがやいやいと突かれるかもしれないか。

 「判ったよ。じゃあ、馬車隊が到着する2時間前に教えてくれよ。片付けてテントを出すからさ」

 『判りました』

 俺はオタマで灰汁あくを掬っては地面に捨てながら、コテージに視線を向けた。

 「しゃあない、今夜はジックリとベッドで寝よう」

 『あれだけ寝たのに、まだ寝足りないんですか?』

 「俺は1日中だって寝られるぞ」

 『それ、自慢になってませんからね』

 「・・・・はい」

 そういやここに来て1日中布団でゴロゴロっていう生活はしてないなぁ。

 なんかふと、アパートの布団が懐かしくなってきたよ。






 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 06/07/2018 @20:32HST 誤字のご指摘があり訂正しました。ありがとうございました。

馬車隊がいたところにはも取らなかった → 馬車隊がいたところには戻らなかった

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