311.
ウェイメラがガ⚪︎ラじゃなくて、ホントに良かったよ。
ガ⚪︎ラだったら自ら上がっても、クルクル回りながら追いかけてきただろうからさ。
あれから更に10キロほど移動してから、俺はスキッパーを陸に乗り上げた。
そしてすぐにタイヤを出すと、そのまま草原へと一気に走らせた。
水陸両用とはいえ、水上にメインを置いて作ったせいかアラネアやサイドキックよりも乗り心地が悪い。
ウェイメラは同じように陸に上がると、ノソノソと俺たちを追いかけるために歩き出したようだけど、こっちはスピードをあげてあっという間に後ろに置き去りにした。
いや、だってさ。ここまでくれば、今から野営地に戻ったとしても馬車隊が移動するだけの時間は稼げただろ?
それに俺の忠告を無視して未だにあの場に留まっていたんだったら、もう俺にはする事はないよ。
後は勝手にしろってんだ。
「スミレ、まだついてきているか?」
『いえ、立ち止まってます。諦めたみたいですね』
「ホントか?」
疑いつつもとりあえずスキッパーを止める。
本当に追いついていないんだったら、サイドキックに乗り換えようと思ったからだ。
スキッパーが止まると、スミレがサーチング・スフィアからの画像を少し大きめのスクリーンに映した。
そこには暗視モードの白黒画面の中で、じっとしているウェイメラが映っている。
「俺たちとの距離は?」
『3キロ、といったところでしょうか』
「沼からは?」
『1キロちょっとですね』
「そっか・・・」
3キロ離れてたら少しはのんびりできるな。
「んじゃ、ここでちょっとだけ休憩しようか。コテージに戻ってもいいけど、まだ距離があるだろ?」
『そうですね・・・・さすがに沼沿いに移動する訳には行きませんから、迂回するとすれば2時間ほどはかかるでしょうね』
「じゃあやっぱ休憩だ」
これから2時間移動するんだったら、やっぱりちょっとだけでも休みたいよ、俺。
「おまえらも疲れたろ?」
「わたし、だいじょぶ、だよ?」
「お、俺だって」
「いいから、無理すんなって。ってか、俺が休みたいんだよ」
「コータ、疲れた?」
「うん、疲れた」
「じゃあ、お茶、する?」
する? と聞きながらもシートベルトを外して立ち上がるミリー。
俺もそれに倣ってシートベルトを外して立ち上がる。
だってさ、ミリーがお茶淹れる気満々なのはいいけど、魔石コンロを持ってるのは俺なんだよ。
「めんどくさいからテーブルと椅子、それから魔石コンロだけ出すぞ」
「いいよ」
ポーチからテーブルを出してから魔石コンロをその上に置く。それから周囲に椅子を並べていると、ジャックがやってきた。
全員がスキッパーから降りたのを見てからスキッパーを仕舞い、代わりにサイドキックを出した。
ないとは思うけど、お茶している間にウェイメラがやってきたらすぐに飛び乗って出発するつもりだ。
「スミレ、ウェイメラは?」
『まだ動きませんね』
「ダメージを与えられた、って事か?」
『そうですね。電撃で体内がかなり損傷していると思います。その上で全力水上移動があったので、体内のダメージはかなり大きいのではないでしょうか』
だといいんだけどさ。
なんせスミレが倒せないっていうくらいの強力魔物だ。
なんとか馬車隊から離れさせる事ができただけでも上出来だったと思う。
「俺、スミレだったら倒せると思ってたよ」
『コータ様・・・私はただのスキルですよ。いえ、コータ様のスキルのサポートシステムですよ。そんな事できる訳ないじゃないですか』
「いや、だってさぁ・・」
いつだってピンチの時は敵をぶっ飛ばして助けてくれたじゃん。
『私はデータ・バンクを持ってますからね。そこから必要な情報を検索する事ができるから、いろいろと対策を立てる事ができるんです』
「あ〜・・まぁ、そうだけどさ。でも、そう思ったたよ」
『無茶言わないでくださいよ?』
「ははは・・・」
笑ってごまかそうとする俺の前に飛んできて、目を逸らそうとする俺の顔の前で腰に手を当ててホバリングする。
『コータ様・・・』
「ごめん」
『何がですか?』
「あ〜・・っと、そのさ、スミレに頼りすぎだなって思ったんだよ。なんか大変な事があるとすぐにスミレに頼って押し付けてるな、ってさ」
『そんな事ないですよ』
何を言ってるんだ、と呆れたような表情のスミレ、俺は頭を横に振る。
「あるだろ。スミレに聞かないと判らない事がありすぎだ。なんでもスミレに聞けば判るって安易に思ってた。それじゃダメなのにな」
ははは、と自嘲気味に笑うと、スミレがピッと指を俺の鼻先に伸ばした。
『私はコータ様のスキルのサポートシステムですよ。コータ様が私を頼るのは当たり前です。スキルはそれぞれが持つ能力ですからね。それを使うのは当たり前の事ですよ。そのスキルに使いすぎてごめん、なんて謝る人なんていません』
「いや、でもさ--」
『スキルは使ってこそ、なんですよ。コータ様が遠慮されて私を使わないというのは本末転倒です』
そうなのか?
『頼ってくれればいいんです。ただ、だからと言って全ての解決法を知っている訳じゃない、その事は覚えておいてくださいね。それに私はコータ様の記憶データ・バンクの情報もありますから、その分この世界の人たちよりも知識という面においてアドバンテージがあります。だから、この世界の人が思いつかないような事ができるのでコータ様も私ならできる、と思われたんでしょうね』
いや、それは違うと思うぞ。
おまえ、俺が想像もつかないような事するじゃん。
思わず口に仕掛けて、俺はぐっと言葉を飲み込んだ。
『コータ様の記憶データ・バンク、本当にいろいろな情報がありますからね。開発しがいがあるというものです』
「開発って・・・・」
『それにコータ様の記憶データ・バンクの中にあったテレビというものにも、本当にいろいろなアイデアが詰まっていて応用を効かせる時にとても助かりますしね』
テレビからのいろいろ、とか、応用、とか、スミレの言ってる事はすごくいいんだけど、その裏に不穏なものがある気がする俺はダメなのか?
『とにかく、今まで通り頼ってください。できる事は手を貸しますからね』
「・・・ふぅ・・おっけ、そうするよ」
『そうしてくださいね』
「じゃあ、早速だけど、そのままウェイメラの監視を頼む。もし移動を始めたら教えてくれ」
『判りました』
ニコと笑みを浮かべてすぐにスクリーンの方に向き直ったスミレの背中を見て、俺は以前もこういう会話をしたなぁ、と思い出す。
つまり、だ。スミレは頼りにされるのが嬉しいんだ。
だったらしっかり頼らせてもらおう。
「コータ」
「ミリー、何かな?」
「お茶、できた、よ」
「おっ、ありがと」
遠慮がちに呼ばれて振り返ると、既にテーブルの上にはお茶の入ったカップが3個並べられていた。
「お茶菓子を出そうか?」
「うん」
「おう」
と言っても大したものはないんだけどさ。
でも確かクッキーもどきが・・・あったあった。
ポーチからクッキーもどきを取り出して、2人の前に2枚ずつ置いた。
「ありがと」
「おう、ありがとな」
クッキーもどきが嬉しかったのか、2人揃って尻尾を左右に振る。
2人は並んで座っているからか、尻尾は左右に並んで揺れてるんだよな。
妙にシンクロしているところが微笑ましい。
「休憩はお茶を飲むまでだぞ。飲み終えたらすぐに出発だ」
「えぇぇぇ」
「ゆっくりしねえのかよ」
「しない、ってか、こんなところで仮眠をとるよりもコテージに戻ってちゃんと寝た方がいいだろ?」
「そりゃそうだけどよぉ」
さっきまでシンクロして2本仲良く揺れていた尻尾は、力なくへにゃりと垂れている。
「ミリーはどうしたい?」
「えっと、ね・・・コテージ戻ったら、ねれるの?」
「うん」
「でもね、すぐに朝だよ?」
「そうだな」
でも俺は寝るぞ。朝だろうが昼だろうが、夜にねれなかった分は取り戻すぞ。
「朝になったら、おきる?」
「なんでだよ・・・ああ、そっか、寝るのが明け方だからな、明日は1日のんびりするぞ。起きるのは昼すぎでいいだろ?」
「いいのかっ」
「いいのかって、当たり前だろ? 2−3時間寝ただけじゃ体が持たないって」
どうせ明日する事もないしな。
「でもね、朝は起きるんじゃないの?」
「ん? ああ、いつもだったらな。でもさ、昨日は殆ど寝てないじゃん。そんなんじゃ体が持たないよ。だから、コテージに戻ってゆっくり休みたいんだ」
ここでもスミレがいるから結界は張れるけど、それでもコテージの方がちゃんとしている分よく寝れる。
「あ〜、でもその前に簡単に飯を食おうな」
「ご飯っ?」
「腹が減ってたら寝れないだろ? 空腹で目を覚ますなんていやだぞ、俺は」
「ご飯、じゃあ帰ろ」
「おう、すぐに食うからな」
途端にクッキーもどきを口に放り込んで慌てて食べ始める2人を見て、俺はぽかんとする。
なんだなんだ?
『どうやら2人ともコテージに戻ってもいつも通り起きなくちゃいけないと思ってたみたいですね』
「そうなのか?」
『だからここで朝までゆっくり寝る方が移動の間も寝れると思ったんじゃないでしょうか?』
「移動の間も、ってどうせ俺が運転するんだからミリーもジャックも後ろで寝てるだろ?」
『その通りなんですけどね。きっと気持ち的なものなんでしょう』
くすくすと笑いながらスミレが指差すので2人に目を向ける、ってもうクッキーもどきは食い終わってるよ。
『コータ様も早くお茶を飲まないと置いていかれますよ』
「俺が運転するんだよ」
『訂正します。早く行こうと言って急かされますよ』
「・・・だな」
2人の食べっぷりを考えると、それはありえるな。
俺はとりあえずお茶を楽しもうと一口飲むのだった。
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