307.
ウトウトしながら目の前のPC画面から顔を上げた
「眠てぇ・・・・」
背伸びをしながら周りを見回すと、そこはいつもの俺のアパートだった。
狭い部屋は相変わらず散らかっていて、コンビニで買ってきた弁当のカラがコタツの上に乗ったままだ。
あれ?
何かが引っかかった気がしたけど、その何かが判らない。
壁掛け時計を見上げると丁度真夜中を回ったところだった。
うん、今日はこのまま寝てしまえばいい。明日は月曜日だから仕事だもんな、月曜日から寝不足だと残りの日が大変だ。
俺はコタツから這い出すとそのままベッドに乗り上げる。
コタツで寝ると風邪引くっていうからさ。
でもさ、なんかいつもと違う気がする。
さっきの違和感のせいか? でもその違和感が何か思い出せない。
溜め息を1つ吐いてから、思い出せないまま俺は目を閉じる。
できればいい夢を見られるように・・・そうだ、3Dプリンターを手に入る時の夢を見たいな。ようやく資金が溜まりそうなんだ。
来月にでも買えそうだ、そう思うと口元に笑みが浮かぶ。
うん、なんかいい夢が見れそうだ。
ドンガラガッシャーン
目を閉じてすぐに、けたたましい音がして慌てて飛び上がった。
なんだっ、台所でなんかひっくり返ったか?
周りを見回すと、さっきまでの俺の部屋じゃない。
あれ?
『コータ様』
「スミレ?」
目の前でホバリングしているスミレを見て、俺は自分が夢を見ていたんだって気がついた。
「どした?」
『対岸の馬車隊に危険が迫っています』
「・・・・へっ?」
対岸? 馬車隊?
寝ぼけた頭でそこまで反芻してから、目を大きく開いた。
「ニハッシュ?」
『いいえ』
「も、もしかして・・・・モーリー?」
『いいえ』
ああ、良かった。人食いアメンボなんてどう対処すればいいのか判らないもんなぁ。
『ウェイメラですね』
「ウ、ウェイメラ・・・?」
なんだ、それ、聞いてないぞ。
「スミレ、ウェイメラってなんだ?」
『亀の魔物ですね』
亀・・って、あのもしもしカメよ、の亀だよな?
そんなもの、怖いのか?
なんかノソノソと歩くだけってイメージしかないんだけどな。
『口から強力な水砲を撃ちますから、まともに当たるとかなりのダメージを受けます。手足自体は短いですが状況によって伸縮自在ですし、その爪は硬く鋭いので攻撃されたら1撃で引き裂かれるでしょうね』
「伸縮自在って、あるのか?」
『魔物ですからね。普通のカメの常識は当てはまりません』
キッパリと言い返され、俺は確かにな、と頷いた。
大体ここは俺がいた世界じゃない。俺のいた世界のカメとはまた習性も生態も違うかもしれないしな。
でも足は知らないけど、手の長さが変わるのって・・・・カッパ?!?
いや、でもさ、カメなんだよな?
「それってでかいのか?」
『大きいですね。 体長3メートル、幅は2メートルで高さも2メートルほどでしょうか? どちらかというとリクガメに似た感じですね』
リクガメって、ゾウガメみたいなものって事だよな?
ずんぐりむっくりのカメって事か。
あんまり怖そうじゃないんだけどなぁ。でも水砲を撃ってくるし、爪攻撃もかなりのものらしいから、見た目じゃあ判らないって事か。
『甲羅は大変硬いですから、仕留めるのは大変だと思いますよ』
「大変って・・・・あっ、もしかしてクリカラマイマイの殻みたいなもんか?」
『いいえ、あれよりももっと硬いですよ』
じゃあ無理じゃん。
クリカラマイマイでさえ、あれだけ苦労したんだぞ。
まぁスミレが、だけどさ。
「あの時にスミレが使ったドリルみたいなのは使えないのか?」
『あれでは無理ですね。ウェイメラの甲羅が固すぎてドリルがすぐ駄目になります』
「じゃあ、どうやって仕留めるんだよ」
『無理ですので、仕留めません』
てっきり仕留めるための方法を話してくれるのかと思ってたのに、キッパリと仕留めないと言い切りやがったよ。
「いや、仕留めないってどうするんだよ」
『撃退するんです』
「撃退って・・・・」
仕留められないものを撃退できるのか?
『元々それほど獰猛な魔物ではないんですが、どうやら彼らが野営をした辺りに巣があったようです。ですので一番いいのは彼らがあの野営場所から移動する事なんですが、出てきてしまった今となっては今更なんです。ですから、今できるのは沼に追い返す事だけですね。明日の朝、日の出とともにすぐにか他付けて移動すれば大丈夫ですよ。ウェイメラは夜行性ですからね』
「もう襲われないって事か?」
『そうです。ウェイメラの縄張りから出れば、それ以上危害を加えられる事はないでしょう』
つまり、なんだ? 縄張りで野営をするために入ってきたから腹を立てて出てきたって事か。
「でもそれなりに武器を用意しないと駄目なんだよな?」
『はい、それは私が移動中に作り上げますよ』
「できるのか?」
『もちろん。カラー・ガンを使うつもりですので、今回のための玉を特別に作ります』
ああ、既にある武器を使って、玉だけを変えるって事か。
それなら間に合いそうだな。
「で、馬車隊の状況は?」
『あまりよくありません。今はまだウェイメラも動きが鈍く陸に上がってきたばかりなんですが、そのうち動きもよくなってくると思います』
「ああ、寝起きで動きが鈍いって事か。目が覚めたら攻撃を始めるって事かよ」
『ウェイメラは巣に篭ると何年もじっと動かない事もありますからね』
冬眠じゃないけど、じっとして動かずに何年も過ごすって・・・
『彼らが今までのように円陣を組んでいればまだなんとかなったと思うんですけどね』
「すぐ出るか?」
『早い方がいいでしょうね』
ソファベッドから起き上がると俺はテーブルの上に用意してあった服に着替える。
「2人も連れて行った方がいいのか?」
『ここの方が安全ですけど・・・置いていくと私たちを探してコテージから出るかもしれませんよ?』
「結界は?」
『コテージには結界が付いてます。ですが出ると結界が効きません』
だよなぁ・・・スミレは俺についてくるからさ、そうなるとスミレの結界も張れなくなってしまう。
「仕方ない、連れてくか」
『判りました、起こしてきます』
「頼んだ」
ふわっと飛んでいくスミレを見送って、俺はブーツを履くためにソファベッドに座った。
ドンガラガッシャーン
座ると同時に聞こえたけたたましい音に、思わず尻がソファベッドから浮き上がった。
俺を起こしたあの音はスミレだったのかよ。
てっきり夢で聞いたんだとばかり思ってたよ。
「うわっ」
「ひゃっ」
上から悲鳴なのか叫び声なのか判らない声が上がり、少し静かになったと思ったらすぐにドタバタという音が響いた。
目を覚ましてスミレに説明されてすぐに動き出したって事か。
スミレの事だから残るかどうか聞いたんだろうけど、ミリーとジャックがおとなしくコテージで待つとは思えないもんな。
思わずぷっと吹き出した俺は、そのままコテージから出て準備を始める。
よ〜し、スキッパーの登場だ。
しっかり試運転はしてあるから、大活躍間違いなしだ。
「スミレ、結界を沼まで伸ばしてくれよっっ」
『もうやってます』
「おっけー」
よし、スキッパーを出しに行くか、と俺はポーチから懐中電灯を取り出した。
それからまたポーチに手を突っ込んで、ソフトボール大の玉を取り出した。
まずは1個足元に投げると地面に落ちた瞬間に玉から出て、地面から50センチほどの高さに伸びると明かりが灯った。
それを見てから俺は次を取り出すと沼方向に1つ、また1つと投げると、あっというまにコテージから沼までの間は明かりで灯される。
「んじゃ、沼に行ってスキッパーを出すか」
俺はまだコテージから出て来ない3人を待たずに沼に向かう。
コテージには結界機能が付いているから、このままここに放置でも大丈夫だろう。
もしそれでも不安だって事だったら、スミレがそれなりに対処してくれるだろうさ。もし片付けるんだったらスミレのストレージに仕舞えばいいんだしな。
それよりも俺がここで待つ時間が今は惜しい。
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