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306.

 パチパチと薪が爆ぜる音を聞きながら、俺は焚き火の前に移動させたベンチに座ってボーッと夜空を見上げる。

 あまり星座には詳しくなかったけど、それでも知ってる星座は少しくらいはあった。

 例えばM型をしたやつ、とかさ。星座じゃなくっても北の空にひときわ輝く星、とかさ。

 でもそこには俺の知っている星座なんて1つもなくて、北を見てひときわ輝く星なんてない。

 そりゃさ、天の川っぽいのはあるけど、あれが俺の知っている天の川なのかどうかも判らない。

 夜空を見上げる度に、俺がいるのは地球じゃないんだなぁ、と再確認しているんだろうな、俺。

 チラ、と視線を左に向けるとそこにはコテージが見える。

 明かりは点いているけど、それは俺が戻った時のためなんだろう。

 きっと2人はロフトでぐっすりと寝ているに違いないな。

 なんたって今日はいろいろな乗り物で遊べたからなぁ。

 バギーに始まってホバークラフトもどきで水陸両方とも試したもんな。

 それに釣りも試した。

 まさかあんな仕掛けで釣れるとは思わなかったよ。

 スミレ曰く、誰も釣りをしなかったからだろう、って事だけどそれにしても大漁だった。

 おかげでミリーもジャックも夕飯は大満足だったみたいだからなによりだった、うん。

 俺は空から視線を焚き火に戻してから、俺の肩に止まっているスミレに視線を向けた。

 「スミレ、状況は?」

 『特に異常なし、ですね』

 「そっか・・・・」

 異常がないのはいい知らせ、なんだけどな。

 「馬車隊はどこに?」

 『予想通りの場所で野営をしていますよ。ほら・・・この位置です』

 俺の前にスクリーンを展開して、スミレは地図を呼び出すと馬車がいる位置を指差してくれた。

 「俺たちは?」

 『私たちは今ここにいます』

 「ほぼ対岸・・・いや、もう少し奥か?」

 『そうですね。この位置だと水草の量が少ないですから沼の見晴らしがいいでしょうね』

 ああ、それが野営に選んだ理由なんだろう。

 「でもさ、馬車から沼が見えやすいって事は、さ・・・」

 『沼からも馬車隊が見えやすいって事ですね』

 だよなぁ。まぁそれなりに人数が揃っているから、ちょっとやそっとの事じゃあ問題はないんだろうけどさ。

 それにハンターズ・ギルドの人間だっているんだしな。

 「こっちから向こうの様子を見る事ってできるのか?」

 『もちろんですよ。ちゃんとサーチング・スフィアを偵察として飛ばしてあります』

 見ますか? と聞かれたので素直に頷くと、スミレは俺の前にスクリーンを1つ展開してくれた。

 『今は1機飛ばしているだけです。もう少し夜が更けたらもう3機偵察を兼ねて飛ばす予定です』

 スクリーンに映し出された画像は暗視モードになっていて、なかなか細かいところまでよく見える。

 「なぁ、なんで円陣を組んでないんだ?」

 『そうですね。しかも沼地側が丸々空いているんですね』

 馬車隊の上空から映されている画像には、半円形に馬車を組んでいるのが見える。

 あの配置はどう見たって草原からの敵に対しての警戒で、沼地から出てくるものはいないと思っているようだ。

 「でもさ、他にニハッシュがいるかもしれないんだろ?」

 『彼らはニハッシュが退治された事を前提にして、跡地である沼地の浄化のためにここにきましたからね。沼地には何もいない、と決めつけているのかもしれませんね』

 「いやいやいやいや、いくらなんでもそれはないだろ?」

 『あるからこその、陣営なのでは?』

 あ〜、うん。そう言われると返す言葉はないな。

 「ローガンさんならもっと上手くやると思ったんだけどな」

 『おそらくですが、神官の方が地位的にギルド・マスターよりも権限があるのかもしれませんね。そのせいで神官側の言う通りにしか行動ができないのでしょう』

 「現場を知らない人間が指揮をとってるってか」

 それって一番悪いやり方なんじゃないのか?

 「あ〜、なんか全滅とまではいかなくっても、痛い目に合う布石にしか見えないぞ」

 『そうですよねぇ。何かやってくるとすれば沼地側からでしょうからねぇ』

 「草原ってそんなにやばい魔物魔獣っていたっけ?」

 『いいえ、せいぜいがラッタッタ程度でしょうね。ほかにもいない事はありませんが、今現在彼らの脅威になりそうな草原の魔物魔獣、または獣は周囲にはいませんね』

 だよなぁ。そんなのがいたら肉食いたさのために、ミリーとジャックが仕留めろってうるさかっただろうからなぁ。

 「俺たちが昨日仕留めたシトエロンは?」

 『あれはそれほど危険な魔物ではありませんよ。確かに魔物ではありますが、あれは単独で行動するのできちんと警備していれば、近寄って来る度に2−3人で仕留める事ができます』

 「だよな。ほかに沼に危険な魔物魔獣っていたっけ?」

 『そうですね・・・・全くいないとはいいませんが、あれだけの人数がいてきちんとした円陣を組んでいれば安全だと思いますよ』

 「うん、でもさ、円陣は訓でないんだよな?」

 『はい。円陣を組まない状態で危険な魔物魔獣といいますと・・・検索します・・・・検索終了しました。この沼地であればタメリがいるくらいでしょうか?』

 なんか新しい魔物の名前が出てきたぞ。

 「なんだ、そのタメリって」

 『カニの魔物ですね。甲羅は50センチ幅程度の楕円形の甲羅でかなり頑丈ですね。タメリの武器はハサミです。ハサミに合わせ部分についたギザギザ、あそこから毒を分泌するので絶対に挟まれないように気をつけなければいけません』

 「毒?」

 『はい、神経系の毒ですね。かなり即効性のある毒ですので、挟まれ10秒ほどで動けなくなります』

 マジか。なんでカニのくせに毒を持ってんだよっっ!

 「食えるのか?」

 『いいえ、全身に毒が回っているので食べられません』

 なんだ、ちょっと期待したのにガッカリだよ。

 「その代わりハサミを持って帰れば討伐したと認められるでしょうし、その上でハサミは買ってもらえます」

 「えっ、なんに使うんだ?」

 『ほかの薬草と組み合わせる事で痛み止めを作る事ができるようですね』

 あ〜、毒を用いて毒を制すってヤツか。

 『持って帰ればそれなりに需要がありますよ』

 「でもなぁ、毒を持ってんだろ? めんどくさいよ」

 『素材としても使えますよ?』

 「でもカニだからさ、甲羅が硬いだろ? 俺やミリーだと役に立たないぞ」

 『ボール・ガンを使えば仕留められますよ』

 あ〜、あれか。そういや作ったけど使った事ないよな。

 最後に使ったのって練習をした時だから・・・・この旅行に出る前って事か。

 「ほかには?」

 『ほかは、やはりシトエロンくらいでしょうか?』

 シトエロンだって単独で行動する魔物だから、人手さえあればなんとかなりそうだよな。

 『ああ、そういえばモーリーがいますね』

 「・・・・モーリー・・・?」

 なんだ、そりゃ?

 『モーリーは虫型魔物です。大きさは5センチくらいですが、集団で行動します。そうですね、コータ様の記憶バンクにある生物で言えばアメンボ、でしょうか?』

 「アメンボ・・?」

 『はい、水上を移動して獲物を捕まえますね。虫型なので魔石はありません。それに数が多いので嫌われ者ですね』

 「あ〜・・・数が多いって?」

 『大体平均で1万匹から3万匹で行動します』

 えっ、5センチくらいのアメンボが1万引き? もしかしたら3万匹?

 「ちょっと待てっっ!」

 『コータ様?』

 「いやいやいやいや、それはないだろ?」

 『それ、とは?』

 「だから、さ。アメンボが1万匹って、さすがに無理だろ?」

 『いいえ、彼らは集団で行動する魔物ですよ。まぁ、魔力があるから魔物と呼ばれるだけで、実際はただの虫みたいなものですけどね』

 1万匹のアメンボなんて想像もできないよ。

 「ってかさ、アメンボだったら夜は寝てるだろ?」

 『いいえ、モーリーは夜行性ですよ? 岸辺周辺に集まってくる獣などを狙って移動します』

 「えっ? 獣? なんで?」

 『どうしてって、食事のためですよね』

 何を当たり前の事を聞くんだ、と言わんばかりのスミレ。

 「アメンボだろ? 俺、アメンボが何食うか知らないけどさ、さすがに獣は食べないと思うぞ」

 『ですから、見た目がアメンボのようだ、と言っただけですよ。モーリーは集団で相手を襲うんです。そうでうね・・コータ様に判りやすく言うと、蟻が集団で獲物を襲うのと同じです』

 蟻かぁ・・・そういや集団で象すら仕留めるって聞いた事あるな。 

 「じゃ、じゃあさ・・・その・・アメンボが俺の全身に集ってくる、って事か?」

 『そういう事です』

 「マジかぁ・・・・」

 5センチくらいのでっかいアメンボが俺の全身に纏わり付いて食いついてくるってか。

 想像するだけで鳥肌が立ちそうだよ。

 『ただモーリーは私の探索にかかりませんので、夜は絶対に結界から出ないでくださいね?』

 「出ないでない。そんなヤバいもんがいるようなところに出るかよ」

 『ミリーちゃん達にも出ないように・・・いえ、私が結界から出られないようにすればいいんですね』

 「結界でモーロは防げるのか?」

 『もちろんですよ。結界の中にさえいれば安全は確保されます』

 スミレの結界は鉄壁だ、と改めて言われてホッとする。

 いや、だってさ起きたら周辺が虫だらけなんて嫌だよ、俺。

 『今まで虫に悩まされて事などないですよね?』

 「あぁ・・うん、ないな」

 『ちゃんと私の結界で侵入できないようになってるからですよ』

 そっか、スミレが蚊取⚪︎線香の役もしてくれてたのか。

 もしかしたらゴキブリ⚪︎イホイの役もしてたのか?

 今更ながらスミレ万能! 

 いっや〜、ホント助かるよ、うん。

 そんな事、本人には言えないけどさ。

 『大丈夫ですよ。モーリーはこの沼地にいてもおかしくない魔物であって、絶対にいるって言ってる訳じゃないですからね』

 「あっ、スミレ」

 『なんですか?』

 「そんな事いったら本当になるぞ」

 フラグは立てちゃダメなのに、なぜにそんなフラグが立ちそうな事を言うんだよっっ。

 『もし出たら?』

 『一気に殲滅するしかないですね』

 どうやって、と聞きたかったけどここは大人の対応で聞かないぞ。

 いや、だってさ、聞いたら危険な気がしたんだよ。

 それも危険なのは俺のような気がする。

 『それよりもコータ様もそろそろお休みになられた方がいいですよ』

 「ん〜、もうそんな時間か?」

 『そろそろ日付が変わりそうです』

 って事は真夜中か。

 確かにそろそろ寝た方がいいだろうな。

 「んじゃ、あとは任せるよ」

 『はい、お任せください』

 任せると言われる事が好きなスミレは嬉しそうに俺の肩から飛び上がった。

 俺も立ち上がるとそのままコテージに向かう。

 寝られる時にゆっくり寝ないとな。






 読んでくださって、ありがとうございました。


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