301.
罠にかかっているシトエロンを1匹ずつ同様の手口でトドメを刺してまわり、解体は面倒だからという事でとりあえずポーチに突っ込んでいった。
それから水辺、というか沼辺に生えている薬草を採取したり、落ちている石ころや雑草を適当に採取したりしていると、あっという間に昼すぎになってしまった。
結界の中であればボディーを使ったスミレが採取を続ける事ができるので、俺たちは後を任せて昼飯を作る事にしてコテージに戻る。
もちろん、メインはシトエロンの足肉だな。
「え〜っと、解体は・・・どうするかなぁ」
でっかいカエルの解体はしたくないなぁ、っていうのが本音なんだよな。
「よし、スキルを使おう」
ぽん、と手を打ってから俺はスクリーンを呼び出した。
それからシトエロンの解体のためのプログラム設定をしてから、陣を呼び出してその上にポーチから取り出したシトエロンを置く。
「コータ?」
「ん?」
「かいたい?」
ミリーが不思議そうに陣の上に置かれたシトエロンを指差しながら俺を見上げる。
「したいのか?」
「うん」
「・・・・マジ?」
「たのしい、よ?」
いや、解体は楽しいもんじゃないぞ?
俺はスキルを使えるからいいけど、ミリーは自力でしなくちゃいけないんだ。ぐっちゃぐっちゃのでろんでろんになるくらい体液に塗れるんだぞ?
「汚れると嫌だろ?」
「ううん・・・?」
まさか、嫌じゃないのか?
俺は嫌だぞ、絶対に嫌だっ!
「あ〜、いや、まぁ、ミリーは腹減ってないのか?」
「おなかペコペコだ、ね」
「だろだろ? これで解体する方が早いんだ。早く解体できたらその分早く食えるぞ」
「わかった」
俺たちが解体するよりはスキルの方が早い、となんとかごまかせた事にホッとする。
「でも、あとでかいたい、ね」
「・・・・・判った。でもな俺はほかにする事があるからさ、解体はミリーに任せてもいいかな」
「いいよ」
ニコっと笑みを浮かべて頷くミリーにそこはかとない罪悪感が生まれたが、やりたいっていうミリーを悲しませたくないんだ、うん。
心の中で必死に罪悪感と申し訳なさに言い訳しながらも、俺はスクリーンで準備を終わらせる。
「よし、これでおっけ。あとはスキルにおまかせだな。ミリー、ジャック、こっちの手伝いをしてくれるかな?」
「なに?」
「なんだよ」
「2人でスープの材料を切ってくれるかな?」
スープの材料を切る、という新しい仕事に2人は尻尾を振りながら頷いた。
うん、いつもは肉を焼く係だもんな。
俺はコテージの前の陣をそのままに、2人を引き連れて中に入るとキッチンカウンターの上に材料を並べる。
「大きさは食べやすいサイズで頼むよ。こっちの鍋に入れてくれたらいいから」
「わかった」
「おう」
取り出した鍋をキッチン付属の魔石コンロに載せ、水を適量注いでから場所を2人に明け渡す。
とはいえ2人とも低いから足台は欠かせない。
高さ30センチほどのベンチ型の足台の上に立って、尻尾を左右に振りながら材料を切っている2人はとても微笑ましい。
俺は思わず口元に笑みを浮かべながら外に出て、陣の上で既に解体を終えているシトエロンの足肉だけをポーチに仕舞った。
ってか、陣の上にはそれしか残ってなかったんだよな。
さっきスクリーンで解体のプログラムした時に足肉だけをその場に残して、残りはスミレのストレージに移動させるように設定したんだ。
なんせスミレだったらあんなものでも素材として使いそうだろ?
もし使えなかったらすぐに処分すればいいんだしな、うん。
「そういや魔石も溜まってきたよなぁ」
スミレがものを作る時に使ったりしてるし俺だって結構無駄な事に使ったりしてるけど、それでも俺たちが討伐する数が多いみたいでなかなか減らないんだよなぁ。
「今いくつくらいあるんだったっけか?」
『何がですか?』
「うぉおっっ・・って、スミレ、いきなり声かけてくんなよ」
陣の前でぬぼーっと立って独り言を言ってたら、いつのまにか戻ってきていたスミレがいきなり声をかけてきた。
『ぼーっとしてたので、どうしたのかと思ったんですよ』
「そっか、大丈夫だよ」
『それで何がいくつくらいある、ですか?』
「ん? ああ、魔石が結構溜まってるんじゃないかな〜って思ってたんだよ」
『そうですね、かなりの数の在庫がありますね』
スミレもすぐに同意するって事は相当量あるって事だろうなぁ。
『大きさを問わずに魔石の数で言えば1000個はあるでしょうね』
「そんなにあったっけか?」
『朝起きた時に結界にぶつかって魔石化しているものが結構ありましたからねぇ』
ああ、そういやそういうおバカな魔獣魔物もいたんだったっけか。
最初の頃は野営した朝起きたらテーブルの上に10個くらいの魔石が乗っててびっくりしたけどさ、今ではそれが当たり前だから驚かなくなったよな。
でもそういう魔石って小指の爪くらいの大きさのちっこい魔石が多かったよな。
やっぱりある程度でかい魔石っていうのは狩りで仕留めた魔獣魔物から手に入れる事が多かったな。
『それにニハッシュの魔石もありますからね』
「あ〜・・・あれかぁ」
見た目が超グロいあいつの魔石もあるんだったか・・・・
ニハッシュの魔石は今まで見た事がないグレーっていうのか、煙水晶のような色の透明な魔石だった。
普通は属性っぽいのが色に出てくるらしいけど、ニハッシュには属性がないんだとか。
だからあんな色なんだとスミレが説明してくれた。
「そういやニハッシュの魔石って何に使うのが一番いいんだ?」
『何にでも使えますよ。ただまぁ属性がないので、動力源として使うのが一番効率的だとは思いますけどね』
「ふぅん、そっか」
動力源と言われて頭に浮かぶのはアラネアとサイドキックだ。
でもどっちも溜まった魔石を使うのを目的にして魔石の取り込み口を小さくしてあるんだよな。
『中で食事の支度の手伝いをしなくても大丈夫ですか?』
「ん? あ〜、そうだな、そろそろ様子を見に行った方がいいよな」
『そこに取り出しておいてくだされば、私が残りの解体を済ませておきますよ』
「いいのか? だったら助かるよ」
『また1体解体しただけですよね?』
「うん、肉を持って行って食わせないと、って思ってたからさ」
違います、面倒くさかったから1体しか解体しませんでした。
『じゃああと7体ありますね』
「うん。あっ、でも1つか2つは残しておいてくれるかな?」
『残すんですか?』
「うん。ミリーが解体したいみたいなんだ」
「あら、なるほど。ミリーちゃんは解体が好きですからね」
えっ、スミレも認めるほど解体が好きなのか?
俺、今まで気がつかなかったんだけどさ。
『判りました。とりあえずここに全部置いていってください。2体残して全て解体を済ませておきますから』
「うん、頼むな」
スミレに言われるままポーチから7体のシトエロンを取り出す。
それからちょっと考えてから、ついさっき解体したシトエロンの足以外の部位も取り出しておく。
スミレに見せれば使えるかどうか判るだろう。
『コータ様?』
「これ、足肉をとった残りの部位なんだけど、捨てようかどうか迷ったんだよ」
『魔石は?』
「あっ、ちゃんとよけてあるよ。足肉以外だと魔石以外使える部位が俺には想像がつかなかったからさ」
スミレは顎に手を当てて中空を見上げて考えている。
いや、多分データ・バンクから情報を検索しているんだろう。
『皮は使えるようですね。それ以外は使える部位もありますが二束三文にしかならないようです』
「スミレは使えないのか?」
『私ですか? そうですねぇ・・・・検索してみます』
スミレは目の前にスクリーンを呼び出して、検索結果を見ながら使い道を調べているようだ。
シトエロンの皮って、あのでこぼこしているくせに脂ぎってたよな?
あんなもん使えるのか?
俺には使い道はさっぱり思いつかないよ。
『検索終了しました。残念ながらそれ以外は大した使い道はないようです』
「そっかぁ・・じゃあ、焼却処分かな?」
『そうですね。ですが2体分ほど残しておきましょうか?』
「なんで? 使えないんだろ?」
『はい、ですが呼び餌として使う事はできると思いますよ?』
ああ、つまり今度狩りをする時の餌にする事ができるって事か。
俺にはポーチがあるし、スミレにはストレージがあるから腐る心配はしなくていいもんな。
「ん〜、そうだなぁ・・・まぁそこの分は全部処分しようか。ミリーの解体用に2体残しているから、それを呼び餌用に取り置く事にすればいいよ」
『判りました』
「んじゃ、俺はコテージに戻るよ」
『ごゆっくりどうぞ』
「うん、ありがと。でもさ、人手がいるんだった声かけてくれよ」
『大丈夫ですよ』
ひらひらと手を振ってからスミレは自分の前にスクリーンを展開する。
俺は作業に没頭し始めたスミレを見てから、コテージの中に向かうのだった。
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