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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
長すぎるけど、プロローグ
3/345

2.

 どのくらいその格好で固まっていたのだろう?

 俺がようやく頭をあげると、目の前のカー◯ルおじさんは申し訳なさそうな表情のまま俺を心配そうに見つめていた。

 「その・・・本当にすみませんでした」

 目があった途端にカー○︎ルおじさんはまた頭を下げて謝罪の言葉を口にした。

 それを見て、少しだけ冷静になる。

 こいつだって俺を殺すつもりはなかったんだろう。

 でなかったら、ここまで必死になって俺に謝る事はしなかった筈だ。

 俺は大きな溜め息を1つ吐いてから、その場に胡座あぐらをかいて座るとカー⚪︎ルおじさんと対峙する。

 「で、ここはどこなんだ? 俺は死んだんだろう?」

 「はい。残念ながらあなたはもう死んでしまいました。ここは先ほども言いましたが、あなたのいた世界と死後の世界の狭間にある空間です。あなたの魂は既に元いた世界を離れてしまったのでそこに連れて帰るわけには行きませんでしたので、とりあえずここであなたが目を覚ますのを待っていました」

 なるほど、と頷きかけて頭を傾げる。

 どうしてそんな事ができるんだ?

 普通に考えればそんな事ができる訳ないだろう。

 俺は胡乱な目で男をじっと見た。

 「どうやって?」

 「どうやって、とは?」

 「だから、どうやって死んだ俺の魂を狭間にある空間なんていう場所に留める事ができたんだ?」

 「ああ、それは簡単です。私は神ですから」

 「・・・・・・・・はぁ?」

 神?

 誰が?

 目の前のカー⚪︎ルおじさん?

 「いやいやいやいやいやいやいやいや。それはない」

 俺はカー⚪︎ルおじさんを指差して、キッパリと言い切る。

 「でも、その、私は神です」

 「そんな弱気な神様がいるかよ」

 「それは、その・・・私のせいで死なせてしまったあなたに尊大な態度は取れませんから」

 目の前のカー⚪︎ルおじさんは、片手でメガネを押し上げてから、少し困ったように俺を見る。

 う〜ん、確かに俺も自分のせいで死なせた相手が目の前にいたら、申し訳なさで下手したてに出るな。

 「あ〜・・・百歩譲って、あんたが神様だとしてさ、どうしてあんなところに居たんだ? それに神様だっていうんだったら、あそこで俺を助けるとか、間に合わなくても死んだ後で俺を生き返らせる事くらいできただろう?」

 「私は違う世界の神です。あの世界の神ではないので、私にはあなたを蘇生する権限はありません。神同士の取り決めで、他の神の世界に行く時は無力なただのヒトである事、というのがあるんです。これは下手にその世界に干渉できないための取り決めですね」

 「じゃあ、あんたにはなんの力もなかったって事か」

 「はい、そうです」

 「でもあんたが危ない目にあったりしたら困るんじゃないのか?」

 違う世界の神様がやってきてその世界で死んだりしたら、一体どんな賠償問題が発生するんだろう。

 「それは大丈夫です。そのために他の世界にやってきた神を守るためのシステムもありますから、もし私があの時線路に落ちたとしても私が死ぬような事はありません」

 「ふぅん、でも、そのせいで死んだ俺の面倒まではみれなかった、と」

 「それは・・・すみません。私もあの時は動揺してしまっていて、あの世界の神にその場ですぐ頼む事ができなかったんです」

 って事は、自称神様(カー⚪︎ルおじさん)がすぐに俺の世界の神に頼んでいれば、もしかしたら俺は死んでなかったかもしれないのか。

 なんかほんと使えないな、この自称神様(カー⚪︎ルおじさん)は。

 「その・・・私としてもですね、ただ視察で出かけていた世界であんな事が起きるとは夢にも思っていませんでした」

 「視察? 違う世界を? 」

 思わず普段の口調になってしまった 。

 最初のうちは俺も自称神様(カー⚪︎ルおじさん)をどう扱えばいいのか判らなかったからそれなりに気遣おうと思っていたのだが、話がどんどん荒唐無稽の方向に向かって突っ走っていくので、気がつくと普段の口調になってしまっていた。

 ま、目の前の自称神様(カー⚪︎ルおじさん)は気にしていないようなので良しとしよう。

 「お互いの世界を行き来する事はよくある事なんです。他の神が創った世界を見る事により、自分の世界をよりよくするためのインスピレーションを受ける事ができますからね。ですので、私たち神は互いの世界に行き、視察するのです」

 「ふぅん・・じゃあ、俺の3Dプリンターの箱をガン見していたのも視察のうちなのか?」

 「あぁ・・・その、見た事もないものだったのでつい・・・まぁ、その、視察、です、はい」

 「見た事ないって、別にそんなに新しいものじゃないぞ? 俺は金が貯まるまで待ってたけど、持ってるやつはもっと早い時期に手に入れていただろうからな」

 カードを使ったりローンを組めばもっと早くに手に入れる事はできただろう、と俺も思う。

 ただ金を借りるって事に抵抗があったのだ。

 俺には何かあった時に頼れる身内がいないから、有事の時に自分の首を締めるような状況に追い込まれないために絶対に借金はしないと誓っている。

 「あんた、いつも何を視察しているんだ?」

 「いろいろ、ですよ。それぞれの世界は成り立ちや基本が違いますから、それらを比べているんです」

 「例えば?」

 ふと、好奇心で自称神様(カー⚪︎ルおじさん)がどんなものを視察・・しているのか聞いてみる事にした。

 「例えば、あなたがいた世界は私の世界と違って魔力がありませんから、その分テクノロジーが発達していて世界の雰囲気そのものが違います。特に日本という国は面白いです。他の国にないマンガの文化や食の文化、それに訳の判らない服装で練り歩く文化。ああいったものは見ていて面白いです」

 「面白いっていう事は、実際に試したのか?」

 「当たり前じゃないですか! 実際に自ら試してみなければその良さは判らないですからねっ。実際に見て良さそうなものは私はいつも買っているんだ。テレビやパソコンも部屋にあるし、ドローンもこの前行った時に買って帰ったんだ。お気に入りのお店で普段は食べないようなご飯を堪能して美味いお酒も飲んで、不思議な格好をした人たちで溢れている街をカメラ片手に見て回る。ほんっとうに楽しい至高の時間を過ごせるんだ」

 「・・・それって、観光っていうんじゃないのか?」

 「あっ・・・・・」

 自称神様(カー⚪︎ルおじさん)は話しているうちに興奮してきたのか口調から堅苦しさが取れ、つい本音がぽろっと零れてしまったようだ。

 俺が思わず突っ込んだら、両手で口を抑えやがった。

 思わずピクッと頰が引きつったが、まぁ今更だ。

 代わりにさっきからずっと突っ込みたいと思っていた自称神様(カー⚪︎ルおじさん)の外見の事を聞いてみる。

 「だいたいあんたのその格好こそ、コスプレだぞ」

 「えっ?」

 「なんだよ、その格好は。街中歩いている時に人が振り返らなかったか?」

 「それは・・・でも、私が神だから人々が振り返っていたのでは?」

 頭を傾げて問い返す自称神様(カー⚪︎ルおじさん)

 可愛い女の子がそんな風に可愛く小首を傾げれば思わずでれっとしてしまいそうだが、相手は自称神様(カー⚪︎ルおじさん)だ。

 そんなポーズをとられてもゲンナリはしてもデレッとはしない。

 「威厳ある格好してるんならともかく、その格好は仮装以外なにものでもないよ」

 「でもすごくポピュラーだと認識しているんですけど・・・私自身には肉体はないので、他の神の世界に行くにはそれぞれの世界に適応する肉体を用意する必要があって、私は丁度良さそうなモデルを見つけてそれに似たものを作っただけなんですが・・・」

 「あ〜・・確かにある意味ポピュラーだよな、その人。でもさ、それはアウトだよ。せめて遠目で見れば似ているかも、という程度にすりゃ良かったのに、なんでまたそこまでそっくりにするかな」

 なるほど、神様には肉体がないのか。

 自称神様(カー⚪︎ルおじさん)の話によると、それぞれの世界に合わせた肉体を用意してから観光に赴くようだ。

 「どう見ても、今のあんたは神様っていうよりはフライドチキンを売っているおじさんだよ」

 「じゃ、じゃあ街行く人が振り返って私を見ていたのは・・・」

 「有名なカー⚪︎ルおじさんのそっくりさんが歩いているから、だろうな」

 「はぁ・・・・」

 自称神様(カー⚪︎ルおじさん)は、どことなくがっくりと肩を落とした 。

 どうやら本気で神様だからという尊敬の眼差しを向けられていたと思っていたようだ。

 きっと自称神様(カー⚪︎ルおじさん)を見ていた人たちは口元に笑みを浮かべてみていたと思うのだが、どうしてそんな人たちを見てそう勘違いする事ができたのかこっちの方が不思議に思う。

 目の前の自称神様(カー⚪︎ルおじさん)は、ブツブツと「おかしいな」とか「ずっと仮装していたのか?」と呟いている。

 そんな姿を見ていると、俺もなんだかフライドチキンが食べたくなってきた。

 死んでいるからかお腹が空いたようには感じないのだが、ジューシーなフライドチキンが頭に浮かんだ途端に食べたくなるのだから不思議なものだ。

 「あっ・・・すみません」

 俺がフライドチキンの事を考えていると、ようやく思考が戻ってきたのか、自称神様(カー⚪︎ルおじさん)はほったらかしにしたままだった俺に謝ってきた。

 「話が脱線してしまいました」

 「いいよいいよ。時間はたっぷりあるんだろう?」

 どうせ死んでいるんだ、今更する事なんてないんだから時間は無限にあるんだろうさ、と手をひらひらさせて言う。

 「いえ、その事で提案があります」

 「提案?」

 「はい、そのために私はあなたの魂をこの狭間の空間に呼んだんですから」

 どうやら自称神様(カー⚪︎ルおじさん)は、俺に何か提案をするつもりのようだ。

 ふむ、と顎に手を当てて俺は彼の言葉を待った。

 「北村幸太さん、あなた、私の世界でもう一度、人生をやり直してみませんか?」





 読んでくださって、ありがとうございました。

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