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296.

 俺はスミレの用意した地図をハンドルの上に広げたまま、前を進む馬車の後を付いていく。

 「もうちょっと進んだら右方向に移動した方がいいのか?」

 『ニハッシュを発見した場所に行くのであればそうですけど、前の連中が私たちに付いてきますかねぇ・・・』

 はぁ、と溜め息を吐くスミレに思わず苦笑が浮かぶ。

 『このまま隊列から離れて進みませんか?』

 「スミレ・・・・」

 『冗談ですよ。ただの思いつきです』

 ホントかぁ? ほぼ9割以上が本音だと思えたぞ。

 「でもさ、確かにスミレの言う通り、このままあの列の後についていっても時間が無駄になるだけな気がするよな」

 『ですよねぇ』

 「よし、スミレの案で行こう」

 『えっ?』

 すぐにハンドルを回して右に方向を変えると同時にスミレが驚いた声をあげた。

 「コータ?」

 「いいのかよ?」

 「いいんだ、いいんだ。このままついて行って馬車を止めてから方向転換するよりも、とっとと目的地に行って追いついてくるのを待つ方が楽じゃん」

 ニヤ、とバックミラー越しに笑ってみせると、困ったような顔でミリーとジャックはお互いを見合わす。

 列からはみ出た俺はそのまま並走するようにアラネアを走らせながらも、じわりじわりと方向を右斜め前方面へと変更していく。

 急激に右にいってもいいけど、それをしたらまた左に方向転換しなくちゃいけないからめんどくさいんだよ。

 だから、こうやってじわ〜っと離れていくのが一番なんだ。

 「ついてこない、よ」

 「怒ってるぜ、あいつら」

 「ま、ついてこなくても俺は気にしないさ。俺の依頼はニハッシュ発見場所に連れていく事だからな」

 「そりゃそうかもしれないけどさぁ・・・」

 ぼやくジャックを見てから、俺はサーチング・ボードを呼び出して、赤く点滅するニハッシュ発見場所を確認しながら先に進む。

 目的地までで終わりだ、終わり。

 他にもいろいろとローガンさんは言ってたけどさ、もう十分だろ?

 俺は特にスピードをあげる事もなく、馬車と同じスピードでゆっくりと進路を右斜め前に向ける。

 このまま真っ直ぐ行くと沼地の反対側に出そうなんだよな。

 「離れたら少しスピードをあげるか?」

 「コータ、はやく行く?」

 「うん。馬車から離れたら見られる心配しなくてもいいからさ」

 「よっしゃっ」

 ガッツポーズで嬉しそうに尻尾を振る2人。

 普段スピード出して移動していたからなぁ、こんな風にのろのろと移動するのが嫌だったみたいだ。

 ま、それは俺も一緒だ。あまりに遅くってストレスがたまりそうだったよ。

 「早く向こうに着いたら、その分のんびりもできるしな」

 「狩り、する?」

 「それもいいよな」

 「じゃあ肉焼きだ」

 「お前はそればっかだな、ジャック」

 「ちっ、ちげえよっ」

 揶揄うように言うと、慌ててジャックが訂正するけど、その横でミリーがうんうんと頷いているから全く信憑性がない。

 でもジャックの案には賛成なんだろう、ミリーは訂正するジャックを振り返る。

 「でもお肉、おいしいよ?」

 「うん、美味いよな」

 「そ、そりゃ・・肉は好きだけどよ」

 「何を狩る?」

 「そうだなぁ・・・あの辺って何がいたっけか?」

 ラッタッタがいたのは覚えてんだけどさ。

 「チンパラ?」

 「チンパラっていたっけ?」

 「ラッタッタはいたぞ」

 「あれはヤダ」

 きっぱりと嫌だと言って鼻に皺を寄せるミリー。

 うん、俺もあの肉はあんまり好きじゃない。

 「着いてからスミレに調べてもらおうか」

 「うん、美味しいお肉、ね」

 「おう、美味いのが一番だ」

 俺には肉、いや、獲物の分布なんて判らないからな。その辺はスミレの探索を使ってもらおう。

 昨日は時間がなかったから肉炒めになったけど、今夜は串焼きかな。

 なんか気分が浮上してきたよ、うん。

 でもそんな俺たちに水を差すようにスミレが声をかけてきた。

 『コータ様』

 「ん?」

 『ハンターズ・ギルドのマスターがこちらに向かって走ってきてますけど?』

 「えっ? ローガンさんが?」

 しまった、彼の事を考えたんでフラグが立ったか?!?

 『どうしますか?』

 「どうするって、なぁ。しゃあない、とりあえずローガンさんと話をしてからにするか」

 俺はしぶしぶ進路をローガンさんに向けてアラネアを走らせるのだった。







 アラネアが自分の方に方向転換した事に気づいたローガンさんは走るのをやめて、その場に立ったまま俺たちがそばに来るまで待っていた。

 キキッとわざとブレーキの音を立ててアラネアを停めて降りると、そのままローガンさんの前に行く。

 「コータ」

 「どうかしたんですか?」

 「どうかって、お前・・・いきなりお前らだけ違う方向に行くからさ、一体どうしたのかって思ったんだよ」

 「だってそっちだと方角が違いますから」

 「はっ・・?」

 何を言ってるんだお前、みたいな顔で俺を見るローガンさんに俺は進もうとしていた方角を指差した。

 「俺たちがニハッシュを見つけたのはあっちです」

 「けど地図じゃあこっちになってるぞ?」

 「ちゃんとした正確な地図じゃないんでしょうね」

 「いや、あれは神殿が用意した地図だぞ・・・・いや、そういやお前らすっげぇ緻密な地図を持ってたよな?」

 「持ってたんじゃなくって作ったんですけどね」

 もちろん、作ったのはスミレだけどさ。

 「けど神殿の地図は精密だからって、かなりの高額で売られてんだぞ?」

 「値段なんて関係ないですよ」

 「ちゃんと目印になるものだって地図に書かれてるしな」

 「そんなの俺たちの地図にも書かれてますよ」

 あったりまえじゃん、と呆れたような視線を向けると、ローガンさんは慌てて言葉を続ける。

 「でも目印とかの位置も合ってたのか?」

 「俺たちが持っていた地図は縮尺も正確ですから、目印となるものの位置もちゃんと合ってますよ。だから進む方角を間違える事はないですよ。ローガンさんだって俺たちの地図を見たんでしょ?」

 暗にそっちの地図は間違ってますよ、と言う意味を含めたのだがローガンさんにはちゃんと伝わらなかったようだ・・・ちぇっ。

 「とにかく、そっちは方角が違います。それにですね、地図だけじゃなくって覚えている風景からして全く違いますから」

 「なるほど・・そういやお前らは場所を知ってるから、地図がなくても移動できるって事か」

 それだけじゃないんだけどさ。

 「それもありますね。色々ありましたから、地形や風景もちゃんと覚えてます」

 「確かにいろいろあっただろうしなぁ・・・地形を考えながらの戦闘でもあっただろうしな」

 あれ、なんか1人で納得して頷いているんだけど、そんな風に考えなくてもいいような気がするんだけどさ。

 「・・・・よし、判った」

 「えっと、何が?」

 「ちょっくら先頭を行く馬車と話をしてくるよ」

 えぇ〜〜、ほっといてくれてもいいのになあ。

 「ちょっとそこで待ってろよ。方角が間違っているから修正して移動しましょう、って言えばいいさ」

 「でも信じますかね?」

 「あ〜・・どうだろうな。でも間違った場所に辿り着いて、そこからまた移動なんてめんどくさいだろ? 向こうだってここに居られる時間は限られているんだ。少しでも無駄にする時間は少ない方がいいに決まってるさ」

 そうかなぁ・・・と思うけどそれをはっきりと口にできるほど俺の肝は座ってないのだ。

 それに。あれだけ俺たちを邪険にしていた神殿組が俺たちの話を素直に信じるとは思えないんだけどなぁ。

 でもまぁやる気になっているローガンさんに水を差すのも大人気ない、か。

 「じゃあ判りました。聞いてみてください。でももしこのままあっちに行くんだったら、俺たちはみなさんの隊列から離れて現場に行きますからね」

 「コータ、そんなつれない事言うなよ」

 「言いますよ。俺だってめんどくさいんですよね。無駄な移動時間なんてきっぱりごめんです」

 「しゃあねえなぁ。とにかく俺が話をつけてくるから、もうちっとだけ待っててくれ」

 「仕方ないですね。できるだけ早く戻ってきてくださいよ」

 「おう、ガンバるぜ」

 どこまで頑張るのか俺にはさっぱり予想もつかないけど、ギルド・マスターとしての仕事を頑張ってもらおうかな。

 俺は先頭の馬車に向かって歩いていくローガンさんの後ろ姿を見ながら、大きな溜め息を吐いたのだった。

 





 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 06/03/2018 @ 18:13HST 誤字の指摘をいただきましたので、訂正しました。ありがとうございました。

戦闘でも亜った → 戦闘でもあった

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