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295.

 白いひらひらが見えなくなるまで見送った俺たちは、お互い顔を見合わせてからフーッと息を吐いた。

 なんか一気に疲れた気がする。

 すっかり温くなったお茶を一口飲んでから、俺はスミレに視線を向けた。

 『コータ様?』

 俺の視線を受けたスミレが問いかけてくるけど、それに応える事もなく今度はミリーとジャックに視線を向けた。

 2人は俺の真似をしてなのか、同じようにお茶を飲んでいる。

 「コータ?」

 「なんだよ?」

 「いや・・・・」

 俺の視線を感じて顔をあげた2人に、何を言えばいいのか判らず頭を横に振る。

 さっきの話を2人はどう思ったんだろう。

 それが聞きたいのに、なぜか躊躇ってしまうのだ。

 でもなぁ、とも思う。

 今までだって言いたくなかった訳じゃないんだよな。

 たださ、その、きっかけがなかっただけで、さ。

 んで、さっきのシェリがそのきっかけをくれたんだから、それを活かすのが一番いいんだろうけど、だ。

 う〜む。

 「ミリー、ジャック」

 「なに?」

 「なんだよ?」

 「俺がどこから来たか、とか、気になるか?」

 「コータが来た、とこ?」

 「うん。俺がどこからやってきたか、ミリーは知りたい?」

 「ん〜・・・」

 ミリーが真面目な顔で頭を傾げて考えている姿は可愛いが、正直今の俺にはそれを愛でるだけの余裕はない。

 「コータ、前に小さな集落から来た、って言ったよね?」

 「うん、そうだな」

 「あれ、ホント、ちがうの?」

 「うん、悪いな。俺がどこから来たか、って事、人に知られたくなかったんだ」

 「そっか・・・・」

 ミリーは頷いてから、隣に座っているジャックと顔を見合わせてからまた視線を俺に向けた。

 「しかたないね」

 「えっ・・・・?」

 「知られたくなかった、でしょ? じゃあ、しかたないね」

 いいのか、それで?

 あっさりと認めてくれたミリーを俺はまじまじと見てしまう。

 もしかしたら気を遣ってくれただけかもしれない、なんて思ったもののミリーもジャックもいつもと変わりない。

 「怒らないのか?」 

 「どして?」

 「どうしてって・・騙してたんだぞ?」

 「ちがうよ。コータは、ただ言わなかっただけ、だよ」

 「でもさ、2人に隠してたんだ」

 ずっと気にはなっていたんだ。いつか言わなきゃって、さ。

 でもさ、俺、チキンだから、ずっと言えずにいたんだ。

 「あのさ、コータ。そんな事、気にすんなよ」

 「ジャック・・・」

 「俺たち、コータは他のヤツらと違う、って話してたんだ」

 「うん、そだね。コータ、知らない事たくさん、知ってるね。でも、わたしやジャックが知ってる事、知らないね」

 「おう。なんかさ、変な事知ってんな、って思わされる事の方が多いけど、俺でさえ知ってる常識を知らなかったりしただろ?」

 ミリーとジャックはお互いの顔を見合わせてにっと笑みを浮かべた。

 「だから、ね。2人で、おかしいね、って話してたの」

 「でもさ、言わないから言いたくないんだろ、って話してたんだ」

 「だから聞かなかった、よ」

 マジかよ・・・・・・

 2人とも俺が変だって気づいていたのに、今まで俺のために聞かないでくれたのかよ。

 「気を遣わせたんだな」

 「んなんじゃあねえよ。精霊みたいな不思議なスミレを平然として連れ歩いている事からして怪しいじゃん」

 「そだね、それにスミレ、見えなくなるし、ね」

 『あら、私のせいでもあるのでしょうか?』

 「ちょっと、だけね」

 少し揶揄うような口調で話に参戦してきたスミレに、ミリーはいつものように笑みを浮かべて返事をする。

 「別にね、言わなくてもいいの」

 「ミリー?」

 「一緒にいてくれるなら、わたし、知らなくてもいいよ」

 「お、俺だって無理に聞こうなんて思ってねえよ」

 「ずっと一緒、そう言ってくれたコータ、だから」

 うわっ、俺、泣きそうっっ。

 どうしよう、スミレェェェ。

 俺は少しだけ涙腺が緩んだ目でスミレを見ると、彼女は既に泣いていた。

 あれ? サポートシステムなのに、泣けるのか?

 なぜか泣いているスミレを見たせいで冷静になった俺。

 「話してもいい、って思ってるんだよ。ただ、さ。あまりにも荒唐無稽な話だから、信じてもらえないんじゃないかって思ってたんだ」

 「こうと・・・?」

 「ありえないような話、って事だよ」

 「そっか・・・」

 いつも通りのミリーを見て、なぜか俺はホッとする。

 「んじゃあ・・・これから俺がどうしてここにいるのか話すから、さ」

 「コータ、別にいいんだ、よ?」

 「そうだぜ、無理に話さなくったって俺たちは気にしないぜ」

 「そうだな。そう言ってくれると嬉しいよ。でもさ、話したいんだ、いいかな?」

 無理に聞き出そうとしない2人にほっこりしながら尋ねると、2人はお互いの顔を見合わせてから頷いてくれた。

 「長い話しになるかもしれないけどね。じゃあ----」

 俺はゆっくりとこの世界に来た経緯を話し始めた。







 パチパチと薪が爆ぜる音が静かに聞こえる。

 話し終えた俺は黙ったまま2人の顔を見るけど、2人とも口をポカンと開けて惚けたような表情で俺を見返すだけで何も言わない。

 かなりびっくりしたみたいだな。

 でも、なんか肩の荷が下りた気がするよ、うん。

 「なんか質問、あるかな?」

 「・・・・」

 「・・・・」

 何も言わないでただ頭を横に振る2人。

 俺は立ち上がると新しいお茶を淹れるために魔石コンロに向かう。

 ポットに水を入れてかけるだけだ。

 あとは沸いたらお茶っ葉をいれれば、あっという間にお茶はできる。

 まぁ美味しい淹れ方なんていうのもあるんだろうけど、そんなの俺が知ってる訳ないから無理に決まってる。

 ぽこぽこと沸騰したお湯をポットに入れ、少し考えてからポットごと自分の席に戻る。

 と言っても魔石コンロはテーブルの端っこに置いてあるから、ほんの数歩程度の移動だ。

 「驚いたか?」

 お茶をカップに淹れながら聞いてみると、素直に頷くミリー。

 ジャックはまだショックから立ち直っていないようで、ただただ俺をじっと見ているだけだ。

 「コータ、死んじゃったの?」

 「らしいな」

 「じゃあ、今も死んでる?」

 「死んでないよ。だから言っただろ? 新しい体を貰ったんだって」

 どうもまだミリーの頭でも消化しきれていないみたいだ。

 でもまぁ、こればっかりは仕方ないだろう。俺だっていきなりこんな話をされたら頭の中がこんがらがるだろうからさ。

 「気味が悪いか?」

 「ううん」

 ブンブンと頭を横に振るミリーは、それから不安そうな顔を俺に向ける。

 今の話のどこかに不安になるような要素があったのか?

 考えてみるけど、全く思い当たる節はないぞ。

 「コータ、死なない、よね?」

 「ミリー・・・」

 ああ、なるほど。俺が1度死んだって事が不安要素なのか。

 「無茶しない限り死なないよ」

 「ホント?」

 「うん。それに俺にはスミレがいるからさ、危ない目に会う前にバシーッって結界を張って守ってくれるよ」

 『そうですよ、ミリーちゃん。私が付いてますからね、心配しないでください』

 「スミレがいるなら、安心、だね」

 ビシッと人差し指を空に向けたスミレの言葉に、ミリーはようやく安心したような笑みを浮かべた。

 あれ、俺の言葉じゃあ安心できない、ってか?

 「じゃあ、どこにもいかない?」

 『大丈夫ですよ』

 「ミリーたちが一緒にいたいって言う間はずっと一緒だって言っただろ?」

 「じゃあ、ずっと一緒、だね」

 「ジャックもな」

 「お、おう・・・」

 どこか戸惑いが隠せないジャックだけど、大丈夫なのか?

 「ジャック?」

 「その・・俺も一緒にいていいのか、なって」

 「当たり前だろ?」

 何を今更、なセリフを言ってるんだ、こいつは。

 「いや、だって、さ。俺、勝手についてきたようなものだし」

 「お前を拾ったのは俺だからな、拾ったものの面倒をみるのは当たり前だろ」

 「なんだよっ・・・って・・・そっか」

 思わずいつも通り言い返そうとしたジャックはそのまま俯いたけど、口元が緩んでいるのはしっかりと見たからな。

 ったく、お前のツンデレなんか見たくねえよ。

 でもまぁ、それもジャックらしい、って思うくらいの付き合いの長さはある訳だな、うん。

 「ま、この事は誰にも言うなよ? 俺とスミレの秘密なんだからさ」

 「いわない」

 「言う訳ねえよ」

 「うん、そう言ってくれると助かるよ」

 できるだけ俺がどこから来たのか、って事は知られたくないからさ。

 真面目な顔で『言わない』と言い切ってくれた2人位は感謝してるよ。

 このままずっと一緒に旅ができるといいな。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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