293.
「ミス、トリア、シェリ、ニアン・・?」
「そうじゃ、ミストリアシェリニアン、それが我の名じゃ」
ミス、トリア、シェリ、ニアンかぁ・・・言いにくいな。
「我は神殿の奥に住まう巫女であるぞ」
ない胸を張って踏ん反り返ってから薄めで俺たちの様子を伺っていたけど、俺たちとしては別にふ〜んっていう程度の事で全く畏る事もない。
だってさ、神殿の巫女だからって、俺たちにはなんの関係もないじゃん。
そんな俺たちの反応が期待はずれだったのか、少しだけ気落ちした風に元の体勢に戻ってしまった。
「んで、その巫女様とやらがなんで俺たちのところに?」
「おぬしらがあまりにも美味そうな匂いをさせておるからに決まっとろうがっ」
憤るミス、トリ、ア・・シェリ、ニア、ン・・・だったっけか? あ〜、言いにくいしめんどくさいから巫女様でいいや、を見ても特に思う事はない。
「しかもわざわざ離れた場所に陣取って匂いだけを馬車に向けるなど、腹立たしいばかりじゃっっ。しかも毎晩毎晩美味そうな匂いをさせおってっっ」
「いや、だってさ、俺たちがここにいるのはそっちがそうしたからだろ? それに、何を食べて何を食べるな、なんていう事は全く言われてないからさ。一切の指示がない事に関して文句を言われたって、俺たちにはどうしようもないぞ」
「・・・・どういう意味じゃ?」
「どういう意味って?」
眉間に皺を寄せた巫女様は、どうやら何も知らないらしい。
俺はチラ、と頭の上のスミレに視線を向ける。ま、見えたかどうかは判らないんだけど、俺が話しかけたいっていう雰囲気はスミレに伝わったようだ。
『何も聞かされてないのでは?』
「みたいだな」
「聞かされてない、とはなんの事じゃ?」
「つまり、だ。初日から、俺たちはあんたらの馬車の輪から追い出されてんだよ」
「なんじゃと」
「あ〜、まぁ、少しはこっちにも責任はあるみたいだけどさ」
「なんじゃ、言うてみい」
偉そうな態度は巫女故か、それとも彼女の性格なのかは判らないけど、まぁこっちも誰かに愚痴を言いたかったところだったからさ、一通り集合場所での事から今日までの事を説明しておいた。
集合場所に聞いていないほどの神殿からのメンバーがいた事、道中揉め事を避けるためにこちらにあまり近づいてこないようにと言った事、初日に馬車の円陣で作られた野営地に入れてもらえなかった事、帰ろうとしたけど帰らせてもらえなかった事、それ以外は一切の指示もなくただ列の最後尾をついて移動していた事、などなどだ。
「と、まぁそんなところだよ。だから俺たちは毎晩あんたらから離れた場所で野営をしているって訳だ。ま、今の話は俺たち側の話だからこっちの主観も入ってるから、そっちの神官たちの言い分も聞いてからどう思うか考えてくれればいいよ」
『コータ様は嘘はついてませんよ』
「うん、ついてないつもりだよ。でもさ、人によっては受け取り方は違うだろ? もしかしたら俺たちが思っていない方向に受け取ってるかもしれないじゃん」
『それはそのようにしか解釈できない方が馬鹿なだけです』
「スミレ、ちょっと言い過ぎ」
『すみません』
口では謝ってるけど、全くそうは思ってないだろう。全く、スミレは。
「我は何も聞かされておらんぞ。おぬしらも浄化のメンバーだという事すら知らなんだ」
「そうなんですか?」
「我は神殿長の言う仕事をこなすだけじゃ」
どこか淋しそうな巫女様。
「まぁ、それもあと2年の辛抱じゃ」
「えっ? 2年、ですか」
「そうじゃ、巫女は10歳から16歳までの処女と決まっておる。我もあと2年で16じゃ、そうなれば神殿のしきたりから離れる事ができるのじゃ」
その日が待ち遠しいと言わんばかりの笑みを浮かべる巫女様。
それを見るとなんとなく彼女の境遇も判る気がする。
俺はチラリ、とテーブルの上に皿を見る。
まだ肉は残ってるんだよなぁ。
でもなぁ・・・・・う〜ん。
俺が悩んでいると、目の前に座っているミリーが立ち上がる。
「たべる?」
「ミリー?」
「たべて、いいよ?」
「よいのか?」
「うん、でもここに残ってるだけ、ね」
「もちろんじゃ、それで十分じゃ」
巫女様はミリーに笑顔を返しながら、ズカズカと歩いてきたかと思うとミリーの隣に座った。
「コータ、おさら」
「えっ? ああ、はいはい」
ポーチから予備の小皿とフォークを取り出してミリーに手渡すと、受け取った彼女はそこに大皿に残っていた肉炒めを乗せてからフォークを横に置いて巫女様に手渡した。
「はい、どうぞ」
「すまんな、感謝するぞ」
受け取った皿をテーブルに置いておもむろにフォークを手にした巫女様は、そのまま大きな口を開けて肉炒めを頬張った。
どうやら味は好みだったようで、途端に笑顔が浮かぶ。
それを見てホッとしたような表情を浮かべたミリーも同じように自分の皿に残っている料理を食べ始めた。
そんな2人をガン見してからジャックも食事を再開する。
俺はチラ、と視線を肩に移動したスミレに向けると、彼女は軽く肩を竦めるだけで何も言わない。
仕方ない、俺も食うか。
テーブルの上の皿は全て空っぽで、それを隅にまとめあげてある。
俺たちの前にあるのはお茶の入ったカップだ。
いつもは3人だけど、予備のカップは2つあるのでそのうちの1つを巫女様の前に置いてある。
「お茶は美味しいのじゃな」
「えっ?」
「我はまずいお茶しか飲んだ事ないぞ」
「にがい、お茶?」
まずいお茶という言葉に最初に反応したのはミリーで、まずいイコール苦いになっているらしい。
俺も好奇心で聞いてみる。
「どんなお茶なんですか?」
「苦いな、いや、それだけではないな。渋い、か?」
なるほど、苦くて渋いお茶、か。
俺もそんなのは飲みたくないなぁ。
「ハチミツを入れる、とか?」
「ハチミツとはなんじゃ?」
「お花からとれた、甘いミツ?」
「おお、花蜜の事か。あれは高級品じゃ。我も滅多に口にした事がないぞ」
あれ?
「スミレ、ハチミツって高級品だったんだ?」
『そうみたいですねぇ。あれって、簡単にてに入るものだと思ってましたけど』
「だよなぁ」
スミレの指示で移動中にいろいろな素材を集めるけど、その中にハチミツもあったよな?
まぁ俺に判りやすくハチミツというけど、本当は花から直接集めてんだよな。だから正確には巫女様の言うように花蜜と言った方がいいのかもしれない。
「ちょっとだけ、蜜をいれるか?」
「おぉっ、良いのか?」
「ちょっとだけ、ならな。ミリーとジャックはどうする?」
巫女様だけだと不公平だからな、と思って2人に声をかけるとコクコクと頷いている。
俺はポーチからハチミツが入った瓶を取り出して、スプーンで1杯ずつお茶に入れてやる。
俺? 俺は甘くないお茶が好きなんだよ、うん。
「おいしい、ね」
「そうか?」
「うん、あまい、よ」
「そんなにハチミツ入りのお茶が気に入ったんだったらいつでも言えば出すぞ」
「いいよ、だいじょぶ」
遠慮しなくてもいいのにな、ったく。
いつでも遠慮して頭を横に振るミリーに手を伸ばして頭を撫でてやる。
「じゃあ、1日1回だけお茶にハチミツ、にしようか。朝でもお昼でも寝る前でも、ミリーが選べばいいよ」
「あ、ありがと」
「お、俺は?」
「ジャックも1日1回だけ、な」
「おう」
慌てて聞いてきたジャックは俺の返事に気を良くして尻尾を揺らしている。
「我は・・・」
「ハチミツなんか持って戻ったら怪しいだろうが」
「そうじゃのう・・・」
がっくりと肩を落とす巫女様。そうしていると年相応に見えるんだけどな。
「それより、馬車に戻らなくてもいいのか?」
「大丈夫じゃ。誰も気づいておらん」
「なんで判るんだよ」
「それが我の持つ力だからじゃ」
「巫女としての?」
「そうじゃ」
特殊能力を持ってるって事か?
「我の目は全てを見る事ができるのじゃ」
「全てって?」
「全て、じゃ。罠が仕掛けてあってもそれを見る事ができるのじゃ。そして人の心の奥を見る事もできる」
何それ、カッコいい。
魔眼とかっていうやつじゃね?!?
「じゃからのう、我の馬車に用もなく近づくものはおらん。我と目を合わすだけで心の内を見られるのじゃからな」
「へぇ・・・って、俺の考えが丸見えって事かよっっ」
「そうじゃ、と言いたいが・・・おぬしらの胸の内はよう見えん」
見えない、と言われてホッとしたものの疑問が湧く。
「なんで?」
「我にもよう判らん。ただ霞みがかってはっきりと見る事ができん」
『霞みがかって、って事は少しは見えるという事ですか?』
「それは・・・なんとなくこう考えておるんじゃろう、程度であれば、な」
『なるほど』
ちょっとスミレさん、何納得してんだよ?
俺にはさっぱり判らなかったんだけど?
「スミレ」
俺が咎めるように声をかけると、スミレは俺の肩から降りてテーブルの端に移動する。
そこだったら俺からも正面に座っているミリーたちからも見えるからな。
『つまり、彼女のその能力のせいで、結界も私も見えるんだと思いますよ』
まさかの・・・・・爆弾宣言だった。
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Edited 06/07/2018 @ 20:29HST
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