292.
え〜っと・・・・これは誰だ?
白い服装からして、神殿関係者に間違いないだろう。
でも、神殿関係者は俺たちに近づかない・・・筈だ。
金色の縦巻きロールは腰のあたりまで伸びていて、額の両側からくるんと一房の巻き髪が降りていて、なんていうか、昔見た少女漫画の主人公のような髪型、とでもいうような髪型だな、これ。しかも金髪なのに、うっすらとピンクっぽくも見えるのがなんともなぁ・・・・
目の色はこれまたテンプレといってもいいような真っ青な空の色だ。それがまた美麗な顔にとても似合っている。
真っ白な神官のような服を纏った彼女は美少女神官といってもいいだろう。
まぁ・・・・・・ただし、と言葉が続くんだけどな。
ただし、口から垂れてるヨダレがなけれな、目も眩むような『美少女』神官様だな、うん。
あのヨダレが美少女度をマイナスに振り切ってるよ。
「スミレ・・・?」
『申し訳ありません。気づきませんでした』
スミレが気づかなかったってか?
「結界、張ってなかったんだったっけ?」
『いえ、結界は展開していますが、どうやらそれを反応させる事なくすり抜けたのではないかと』
「そんな事、できるんだ・・・」
『できない筈、なんですけど』
いつになく動揺しているスミレは、頭を傾げながら彼女を見ている。
「あの格好してるって事は、神殿の人、だよね?」
『はい、おそらくは』
じゃあ、今回の浄化のために来た神官の1人って事なんだろう。
でもさ、沼地はニハッシュを討伐したものの安全かどうかも判らない場所だ。なのにそんな場所にこんな小さな子をこんなところに来させるなんて、と思ってしまう。
「コータ、だれ?」
「何しに来たんだよ」
不思議そうに俺に視線を移したミリーと、眉間に皺をよせているであろうジャックに肩を竦めて見せるだけ。
いや、だってさ、そんなの俺が知る訳ないじゃん。
でもこのまま放置、って訳にはいかないだろう。
俺は立ち上がると、彼女と俺たちのテーブルの間に立つ。
「どなたさまでしょうか?」
「美味そうな匂いがしたのじゃ」
「神殿から来られましたか?」
「それはなんの肉じゃ?」
いいからさ、俺たちの晩飯の話じゃなくて、自分の事を自己紹介くらいしようよ。
『全くコータ様の話を聞いてませんね』
「だよなぁ」
『こちらの夕食の匂いに釣られてやってきたなんて、普段から大したものを食べさせてもらってないんでしょうね』
辛辣は事をいうスミレに俺は返事に困って見上げると、目の前の少女の同じようにスミレがホバリングしている辺りを見上げる。
「浄化の前じゃから禊のために精進料理しか用意してくれんのじゃ」
「ふぅん・・・って? えっ?」
「じゃが、精進料理を食ったからといって、効果はなんも変わらんのじゃ」
むぅ、と唇を尖らせて文句をいう彼女の目は、真っ直ぐスミレに向けられている。
「じゃから抜け出してきたのじゃ。我が鄙びた食事しかもらえんのに、どこからともなくいい匂いがしたからのう」
『うちのミリーちゃんとジャックと同じタイプの人のようですね』
「だな」
「誰じゃ、そのミリーやらジャックというのは?」
「俺の仲間で--って、あれ?」
今、ミリーとジャックの名前を出したのって、スミレだよな?
「スミレ、隠れてないのか?」
『えっ? いいえ、ちゃんと隠してま--えっ?』
呆れた、というように腰に手を当てて俺に返事を言いかけて、バッと彼女の方を振り返った。
『見えてるんでしょうか?』
「みたいだけどな」
「うむ、見えとるぞ」
『どっ・・どうして・・・』
動揺して慌てふためくスミレなんて初めて見たなぁ。
そんな事をのほほんと考えていると、俺の頭にスミレがしがみついてきた。
「おまえは妖精か?」
『・・・』
「いや、精霊というやつかのう?」
う〜むと顎に手を当てて考え込んでいる彼女をぼーっと見ていると、スミレが俺の頭を叩く・・・・・真似をする。なんせボディーを使ってないから実体がないんだよ。
それでも気分を抱いて叩かれたフリをする。
「いてっ」
『コータ様っっ、なんとかしてくださいっっ』
「なんとかって、何もできないだろ」
無理は言わないでくれよ、スミレ。
それより、と俺は目の前の彼女に視線を向けた。
「ところで、どちらさまでしょうか?」
「うん? 我か?」
「そうですよ。いきなり現れて自己紹介もないのは如何なものかと思いますけど?」
「おぬしらも我に名を名乗っておらんぞ?」
自己紹介しろよ、と暗に言う俺に横柄な言葉を返してくるクソ生意気なガキ。
「そうですね。ですがそちらが勝手にこちらにやってきたんですよね? そう考えるとどちらが先に自己紹介をするべきか、は判ると思いますが?」
「じゃが、我の方が高位じゃぞ?」
「そうですか? 俺たちはあなたの事は全く知らないので、高位だとかそんな事もさっぱり判りません」
「うむむむ・・・おぬし、偉そうな態度じゃな」
おい、おまえには言われたかねえよっっ。
一瞬口に出そうになったその言葉をぐっと飲み込んだ。
「そうですか。ではこちらも特に言う事はありませんね。俺たちはこれから夕飯ですので、これ以上話はないですね。ほら、2人とも、ちゃんと座れよ」
「えっ・・っと」
「お・・おう」
俺はさっさと彼女に背を向けると、自分の席に座る。
もちろん、頭にスミレがしがみついたままだ。
「冷めても美味いと思うけど、やっぱあったかい方が美味いから食うぞ」
「コータ」
「なんだ?」
「その、ね・・・いいの?」
「何がだ? ほら、いいからさっさと食うぞ」
ミリーはチラチラと視線を俺の背後に向けるが、俺は判っていて気づかないフリをする。
テーブルの上でまだほんのりとあったかい肉炒めの載った皿を手に取り2人に声をかける。
「まだ食えるだろ?」
「えっと・・・うん」
「ジャックは?」
「おう」
素直に頷くジャックとは対照的に、ミリーは頷きながらもまだ俺の背後を気にしている。
どうも彼女が気になって食べにくいようだ。
俺は皿をテーブルに戻し溜め息を1つ吐いてから、仕方なく背後を振り返った。
そこにはムッとした表情の彼女がまだ立っている。
「何か用があるんですか?」
「むぅ・・・」
「俺たちはまだ夕飯の途中です。用がないのであればご遠慮願います」
「うむむむ・・・」
むむむっと結んだ口から漏れるのは唸り声だけだ。
なんか相手をするのも面倒になってきた。
スミレの事が見えるっていうのにビックリしたけど、その程度の事なら俺たちに害にはならないだろう。
ま、スミレの事でいろいろと言ってくるようになれば、とっととアリアナから去ればいいだけだ。
「・・・・じゃ」
「はい?」
「い・・・じゃ」
「はっきり言ってくれませんかね? さっぱり言ってる事が聞こえませんよ」
俯いた姿勢からの上目遣いは美少女だけになかなか見応えはあるが、残念ながらガキは趣味じゃない俺には全く効き目はない。
「その言いようが意地悪じゃと言ったんじゃっ!」
「はぁ・・・それで?」
「じゃ、じゃからっっ・・・我を無視するな、と言っておるんじゃっ」
「自己紹介もできないような相手にそんな気を使う意味が判りませんけど?」
「そっ、それはそっちも同じじゃろうがっ」
ぐっと拳を握りしめて顔を上げて声を荒げる彼女は、きっといつだって相手からおべんちゃらを言われる事に慣れているんだろう。
でもさ、残念でした。俺にとってはそんなおべんちゃらなんかいうような相手じゃないんだよね。
だからわざと呆れたというような態度をとって見せる
「でも、別に俺たちからあなたのところにやってきた訳じゃないですよね? 俺たちのところに勝手にきたのは誰ですか?」
「うぐぐぐっっ・・・・」
「それでもまぁ、とりあえずこちらからあ自己紹介をしましょうか。俺はコータ、こっちはミリーで、その隣がジャックです」
別にどこの誰って事までは言わなくてもいいだろう。
「こっちは自己紹介しましたよ?」
「むむむ・・・」
あ〜、とっとと馬車の方に戻ってくれないかなぁ。
冗談抜きでめんどくさくなってきたよ。
「スミレ、そろそろ降りないか?」
『コータ様・・・・』
頭に手を伸ばしてスミレを掴もうとするけど、今は実体がないから頭からよける事もできないぞ。
でもそこにいる事は判るんだから不思議なもんだよ、うん。
「・・・じゃ」
「えっ?」
今なんか聞こえたか?
「じゃっ、じゃからっっ・・・我は・・・ミストリアシェリニアンじゃ」
小さな声が俯いた彼女から聞こえた。
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