289.
ようやく隊列が動き出したのは、それから更に2時間以上経ってからだった。
「全く、急いでるんだって言ってたくせにトロイよな」
『まぁ仕方ないですよ。神殿から滅多に出ない人の集まりですからね』
あ〜、なるほどなぁ。
集団行動っていうのは神殿での生活で慣れているかもしれないけど、そこを1歩出ちゃうと何をすればいいのか判らなくて纏まらないというか動きがとれなくなるのか。
判るけど、早くしてもらいたかったよ、うん。
「もうすぐ昼だけど、休憩、あんのかなぁ?」
「お昼? わたし、お腹すいた、よ」
「俺も腹減ったぞ」
「ああ、うん、そうだな」
おまえらはいつだって腹減ってるもんな。
特にジャック、おまえはいつだって食いたいっていうもんな。
「そうじゃなくってさ、2時間前にや〜っとアリアナを出発したのに、すぐに昼休憩って言いださないか心配だって事だよ」
別におまえらの昼ごはんの心配じゃないっていうんだよ、ったく。
「どのくらいの頻度で休憩するのか判らないけどさ、しょっちゅう休憩を入れたりしてたら日程がさっぱり判らないよ」
「にってい?」
「うん。ほら、俺たちは2日で沼地からアリアナに戻ったけど、それはサイドキックに乗ってたからだろ? 今回は馬車だから3日か3日半はかかるとみてたんだけどさ、この調子だともっとかかるかもしれないなぁ」
俺、セレスティナさんに1週間くらいで帰ってくると思います、って言ったんだけど帰れるのか?
なんか無理な気がしてきたよ。
「そうじゃなくても大人数での移動だからさ、結構無駄に時間がかかるんじゃないかな?」
「えぇぇぇ」
「めんどくせえな」
「パンジー、くらい?」
「あ〜、どうだろう? 大体うちのパンジーは足が早い方だからさ、普通のヒッポリアより移動が早かったんだよなぁ」
それにスミレの結界があるから、わざわざ休憩所で泊まる必要もなかったもんで進めるだけ進んでから野営、なんていう事もできたんだしな。
今回は場所が場所だから休憩所では泊まらないけど、それ以前に移動にどれくらい時間がかかるか俺には全く見当もつかないよ。
そんな事をぼーっと考えながらノロノロとアラネアを運転していると、俺の注意を引こうとスミレが手を振っているのが目の端に止まった。
『コータ様』
「ん?」
『先頭から馬車が停まり始めましたよ』
「マジかよ・・・」
やっぱりな、と諦めの境地に入ろうとした俺の耳に、ミリーとジャックの声が聞こえる。
「先にいっちゃ、ダメ?」
「めんどくせえから置いていこうぜ」
『駄目ですよ。彼らを道案内する、という理由で来ているんですから』
「でも案内してない、よ?」
「そうだよ。案内しろって言うんだったら先頭行かせろってんだ」
『神殿の方たちがハンターごときが自分たちの前を進むのは許せない、と言ったんだそうですよ。だから諦めて後を追うしかないですね』
嫌味が込められたスミレの台詞で思わず見下ろすと、彼女の目は全く笑っていない。
「だったら、案内によばなきゃ、いいのに、ね」
「そうだぜ、もう帰ろうぜ」
「ミリー、それにジャックも。そうプリプリ怒るなって。一番後ろだから神殿の人たちと関わらなくて済んでるんだ、って思えばいいだろ?」
「でもね、コータ」
「でもよう」
「できるだけ関わらないでいこう。俺たちの道案内が必要になったらローガンさんが聞きにくるように、って言ってるからさ。他の人が来ても話をしなくてもいいんだよ」
隊列を組む時に、さすがに道案内をする俺たちが最後尾は、とローガンさんが言いだして、神殿がだした馬車にお伺いに行ったんだけど、その時にハンターごときが自分たちの前を進むのは許せない、と言い切ったんだとか。
それを聞いた時、ミリーやジャックはもちろんの事、スミレも腹を立てていた。
俺としては面倒がなくていいかな、ってところだったんだけどさ。
『街道から外れる前に休憩、といったところなんでしょうね』
「でこぼこ道になったら馬車酔いするようなヤツが出るかもしれないのにさ。その前に食事する、ってしっかり馬車酔いしろって言ってるようなもんだよなぁ」
『いいんじゃないですか? 私たちには関係ありませんからね』
「うん、まぁな。でもさ、そのせいで休憩が増えるかもしれないぞ」
『それは・・・迷惑ですね』
キッパリと迷惑だと言い切るスミレに苦笑いしてから、俺は止まった馬車から少し離れた後ろに寄せてからアラネアを止めたのだった。
俺たちの予想通り、ここで1時間の食事休憩となった。
って事はそれから3時間ほど進んだところで野営の準備に入る事になるんだろう。
「なぁ、今日どの辺まで進めると思う?」
『そうですね・・・今私たちはここにいるので、食後すぐに移動を開始できたとしてこの辺でしょうか?』
スミレは俺が広げた地図を見ながら、少し考えてから指差した。
いつもならスクリーンを展開して立体的な地図を見るんだけど、さすがに今日は周囲に人が多いからスミレ謹製の地図だ。
「あ〜・・・こりゃあと3日はかかるな」
『最低でも3日、でしょうね』
「下手すると4日って事になるかもしれないってか」
アラネアのボンネットに広げた地図を見ながら、サンドイッチに齧り付く俺のそばでミリーとジャックもサンドイッチとジュースのランチを食べている。
『どうでしょう。もしかしたら5日かかるかもしれないですよ』
「それはない、だろ?」
『判りませんよ? なんせモタモタとしか行動ができない集団ですからね』
辛辣なスミレの言葉に、俺は朝の事を思い出す。
確かにもたついていたよなぁ・・・・はぁ。
『コータ様、ローガンさんが来ますよ』
「えっ? ホントだ」
顔をあげると、列の前の方からローガンさんがこちらに歩いてくるのが見えた。
手にはサンドイッチみたいなものを持っていて、それを行儀悪く食べながら歩いてくる。
「お前らも昼飯か」
「そうですよ。1時間だっていうから簡単に作れるサンドイッチですけどね」
こういう集団で行動する時って誰かが全員分の食事を用意するものだと思っていたんだけど、俺たちのところには誰も持ってこなかったから自分たちで用意したんだよ。
なので嫌味を込めて言ったのだが、それを聞いたローガンさんは少しだけ申し訳なさそうな顔になる。
「あ〜、その、悪いな」
「何がですか?」
「だからさ。その、神殿の連中がお前らの分を用意しなかった事だよ」
「ローガンさんたちは用意してもらったんですか?」
「いや、俺たちもギルドからのメンバーだけで作って食べたよ」
ほらこれだ、と言って手に持っているサンドイッチを見せてきた。
「ギルドから何人来ているんですか?」
「現場検証1人に索敵要員が2人、それに俺の4人だ」
「それで大丈夫なんですか?」
「おう、まぁな。俺だって元々ギルドから4人、神殿から2−3人って思ってたんだ。それなのにあれよあれよという間にこんな大人数での浄化となったんだよなぁ」
なんでだろうな、と頭を傾げているローガンさん。
この人、良い人なんだけど大雑把すぎるんだよなぁ。
ローガンさんの乗っている馬車は前から5番目に位置している。その前が浄化のための力を持つ神官たちが乗っている馬車なのだそうだ。
「俺たち、本当に必要でした?」
「コータ?」
「なんか俺たち、別にいなくても大丈夫な気がするんですけど?」
「いやいやいやいや、そんな事ないぞ」
「でもですね、俺たちってハンターごときなんですよね? いない方が良いんじゃないんですか?」
嫌味を込めて聞いてみる。
でもさ、本当になんかもう面倒くさくってさ。本気でそう思ってるんだよな。
「コータ、そんな言い方するなよ。って、まぁ俺もそう言ったのを聞いてたんだけどなぁ。でも、だ。現場に着いたら検証をしたいんだ。だからやっぱりコータがいた方が俺としては助かるんだ」
「現場って、どのくらいかかると思います?」
「3日くらいだろ?」
「ほんっとうに3日で着くと思ってますか?」
なんでそんな事を聞くんだ、と頭を傾げているローガンさんにボンネットの上にある地図を指差した。
「おっっ、すっげえ立派な地図じゃねえか。お前が作ったのか?」
「そんな事は今気にしないでください。それより、これを見てください。ここが大都市アリアナです。それから目的地である沼地はここです。そして今俺たちがいるのが・・・ここです」
さっくりとローガンさんの言葉を無視して、俺は地図の上の位置を指差した。
「これ、適当に描いた地図じゃねえのか?」
「位置と位置の間合いは合ってますよ」
「マジかよ。おい、だったら3日じゃあ着かねえぞ」
「だから、聞いているんですよ。ローガンさん、俺には大体1週間から10日だって言いましたよね? でもこの感じだと4日、下手をしたら5日は片道でかかりそうですよ」
俺の言葉に腕組みをして地図を凝視するローガンさん。
「もし片道に5日かかるとしたら往復で10日間ですね。現場に何日留まるつもりですか?」
「いちおう当初の予定では2日のつもりだっただけどな、あいつらがなぁ」
チラリ、と視線を前方に向けるローガンさんを見て、2日じゃあ終わらないって事が判る。
「俺が10日分しか食料を用意してないって言ったらどうします?」
「えっ、マジか?」
「だって俺、1週間から10日としか聞いてませんでしたからね」
「いや、それは」
慌てふためいて俺とアラネアの中に乗っているミリーとジャックを見回す。
俺くらいならなんとかなるだろうと思ったんだろう。でもミリーとジャックにはそんな強行軍は押し付けられない、とでも考えたか?
「だから、言いましたよね、俺。なんでちゃんと連絡してくれなかったんだ、って」
「いや、それは、俺だってだな、忙しかったんだよ、うん」
「そうですね。ローガンさんは忙しくって俺たちに人数や日程が変わりそうだって事を教える時間が取れなかったんですね」
「そ、そうなんだ」
「で、そのせいで俺たちは十分な食料がなくて、ミリーやジャックがひもじい思いをする事になるんですね」
はぁ、とわざとらしく溜め息を吐いて視線をミリーたちに向ける。
そんな俺の目の端に慌てるローガンさんが映っている。
ま、食料なら1ヶ月分は必ず持ち歩いているからさ、ミリーたちが飢えるような事はない。
ただ、ちょっとイライラが溜まってたので、ローガンさんで憂さ晴らしをしてるだけだ。
「さすがにミリーたちにひもじい思いをさせたくないので、食料が足りなくなったら帰ってもいいですよね?」
「いや、その、だな、コータ。俺が道中でいろいろと獲物を狩ってやるから、その・・・頼むから一緒に来てくれ」
ガバッと音がする勢いで頭を下げるローガンさんに俺はびっくりした。
まさか頭を下げられるとは思わなかったんだよ。
「ローガンさんっ」
「悪かったよ。俺が忘れずにちゃんとお前らにも状況が変わったって言ってたら、子供たちがひもじい思いをするかもしれないって不安に思うような事にはならなかったんだよな」
「あ〜・・・」
その通りです、とは言えない雰囲気だ。
「だから、俺も食料集めにできるだけ手伝う。俺たちは18日分持ってきているから、いつでも分けるから言ってくれ」
「そんな事したらそちらの分が足りなくなっちゃいますよ」
「いいんだ。子供たちが腹を減らすよりマシだ」
キッパリと言い切るローガンさんはキリッとした顔でかっこいいぞ。いつもの『ごついだけの暑苦しいおっさん』というイメージが少しだけ変わりそうだ。
そんなローガンさんを見ていると仕方ないな、と思ってしまう。
ま、あんまりゴネてもどうせどうしようもないんだしな。
「判りました。ちゃんと着いていきますよ」
「コータ、頼むな」
「はいはい」
これも引き受けた仕事だ、仕方ない。
俺は途端に嬉しそうな表情を浮かべるローガンさんを見てから、小さく溜め息を吐いたのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。
なんとか2話できたので、火、金、に更新させていただきます。
少なくて申し訳ありません。 (でも、楽しかったwww)




