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28.

 俺はギルドの建物のドアの前で中の様子を伺いながらも、俺の肩に乗っているスミレに小声で話しかける。

 「よし、俺はこのままカウンターに行って薬草を換金してくるから、スミレは2階にあがって図鑑をスキャンしてくれ」

 『はい、どれでもいいんですか?』

 「そうだな・・・じゃあ、まずは薬草図鑑をスキャンしてくれないかな? それからはスミレの好きにしていいからさ」

 『判りました』

 ドアを開ける前に階段のある方向をスミレに示してから、ゆっくりとドアを開けてギルドに入った。

 すぐに俺の肩から飛び立ったスミレはそのまま2階に上がる階段に向かって飛んでいく。

 俺は依頼ボードに向かって歩きながらも誰かがスミレの姿に気づくのではと注意していたけど、全く誰も騒ぎ出さなかった。

 どうやらスミレの言う通り、俺以外には姿は見えないようだ。

 その事にホッとしながら俺は依頼ボードから目当ての紙を取ると、そのままケィリーンさんの列に並ぼうとして、初めて彼女がそこにいない事に気づいた。

 「あれ?」

 いつもであればカウンターの一番右端にいるのだが、今日はそこにいるのはむさいおっさんだった。

 俺は他のギルド職員の列を見てから、むさいおっさんの前に向かう。

 だって、そこだけ人が並んでいなかったんだよ。

 ケィリーンさんと話す事ができないのであれば、俺としてはとっとと換金して2階に上がりたいのだ。

 「お願いします」

 「イズナの常時依頼ですね」

 俺は依頼票を渡してから白々しく背中のリュックをおろすと、いかにもリュックから出しているように見せかけながらイズナの入った袋をポーチから取り出した。

 「100本ある筈です」

 「はい、確認させていただきます」

 男はそう言うと皮袋から取り出したイズナを数えながらカウンターの下から取り出した盆に載せていく。

 真面目そうな男だが、必要な事以外は話さないスタンスのようだ。

 なので俺も黙って彼が数え終わるのを待つ。

 「はい・・・100本ありますね。それでは5本1束で50ドラン、20束で1000ドランの報酬となります」

 男は俺の返事を待つ事もせず、イズナの載った盆を手に奥へと行ってしまう。

 ま、いいんだけどさ。

 お金さえもらえば、俺はとっとと2階に行くよ。

 「お待たせしました。こちらが報酬の1000ドランとなります。ご確認ください」

 「あっ、はい・・・・ありがとうございます」

 ご確認ったってさ、大銀貨1枚だからごまかしようもない気がするのは俺だけか?

 「あの・・・」

 「なんでしょう?」

 とっとと帰れビームが男から発せられていたが、俺は思い切ってケィリーンさんの事を聞いてみる事にした。

 「今日はケィリーンさんはいないんでしょうか?」

 「・・・ああ、彼女は今日は休みです。明日になれば戻ります」

 「はぁ・・ありがとうございました」

 答えたくないけど仕方ないから答えてやるさモードの男の返答に、俺は礼を行ってから2階を目指す。

 そっか、ケィリーンさんは今日はお休みかぁ。

 確かに年中無休のギルドだったら週末だけが休みってわけにはいかないか。

 っていうかさ、俺今気づいたけど、この世界の1週間がどうなっているのかも知らないな。

 それだけじゃなくて、1日の長さや1年の長さすら知らない。

 あとでボン爺にでも聞くかな。

 そんな事を考えているうちに階段を上り終え、ホールの隅っこにある本棚に向かう。

 あれ、スミレがいない。

 俺は思わずキョロキョロと周囲を見回したが、スミレの姿はみえないままだ。

 あれ?

 「スミレ・・・?」

 小さな声で呼んでみる。

 『コータ様』

 「どこにいる?」

 『ここですよ〜』

 呼ぶとスミレの声がしたからこの辺りにいる筈なんだが、と思いながらキョロキョロしていると並んでいる本とその上の棚の間からスミレが出てきた。

 「なんでそんな隙間にいたんだ?」

 『スキャンする本に触れていたんです。私では本棚から引っ張り出す事はできませんので、こうやって触れてスキャンしていました』

 「ああ、そういやそうだったな。悪い」

 『いいえ、テーブルに本が出しっ放しだと不自然ですからね』

 そりゃそうだ。こんな誰もいないところで本だけが広げられていると、気づいた誰かが棚に戻してしまうだろうしな。

 「それでスキャンは終わったのか?」

 『あと少しですね』

 「んじゃ、俺がいれば本が出ててもおかしくないからテーブルに持ってくるよ」

 『お願いします』

 本棚に向かうと、ちょうどスミレが飛び出してきたあたりに薬草図鑑があった。

 ちゃんと俺が頼んだ通り薬草図鑑を最初にスキャンしてくれていたようだ。

 「これってスキャンするのに開くページに関係ある?」

 『いいえ、どのページでも大丈夫ですよ』

 「そっか、じゃあ、適当にページをめくってるよ。スキャンが終わったら教えて」

 『判りました』

 どのページでもいいという事で、とりあえず開いたページを眺めていたのだが、ふと気付いた事がある。

 「あのさ、スミレの声って他の人に聞こえる?」

 『いいえ、コータ様だけです』

 「って事は、俺が独り言を喋ってるように見えるのかぁ」

 周囲からすれば変人にしか見えないって事だな。

 なんかそれは嫌かも。

 「じゃあ、俺が心で思っている事は判る?」

 『いえ・・・それは無理です』

 「そっか・・・じゃあ、やっぱり小声で話しをするしかないな」

 『すみません・・・』

 申し訳なさそうに眉を下げて謝るスミレに、俺は慌てて気にするなと伝えるために手を振る。

 「気にしなくていいよ。ただ、もしかしたら判るかな〜って思っただけだからさ。それにスミレが心を読めたらそれはそれで俺としては問題な気もするしな」

 『そうですか?』

 「うん、大問題だ」

 つまり煩悩が心の中で叫んでいてもスミレには判るって事だろ?

 それってまずいじゃん。余計な事を考えられなくなってしまう。

 それよりは変なヤツと思われてもこうやって小声で喋る方がマシだよ、うん。

 『それにしても早かったですね』

 「ん? ああ、ケィリーンさんはお休みだったんだ。だから、イズナだけ換金してきた」

 『ああ、だから早かったんですね』

 マッチを渡すとなると別室に案内されるから時間がかかる、って言っていたから、それが思ったよりも早く俺がきたのでスミレも気になったんだろう。

 「まぁ、明日で十分だよ。そうだ、ヴァンスさんのところに鉄の延べ棒を持って行った時、鉄の部品を頼む鍛治師の手が丁度空いているから3日くらいで仕上がるだろうって言ってた。今日のうちに鉄の延べ棒を持って鍛治師のところに確認に行ってくれてる筈だから、明日の朝ヴァンスさんのところにその話で行こうと思っているんだ。その時にスミレも一緒に行って興味のあるものはスキャンすればいいよ。彼の仕事場にはいろんなものがあったからな」

 『そうなんですか?』

 「うん、ヒッポリアや馬に使う道具を作って売っているみたいだね」

 『判りました。楽しみにしておきますね』

 「そういえばさ、あの小屋にいろんなものが置いてあったんだけど、素材みたいなものでもスキャンすれば作れるようになるのか?」

 『そうですね・・・素材にもよりますけど、おそらく大抵のものは大丈夫だと思います。制作物はそれに使用される材料や複雑さによっては無理なものもあるでしょうけれど、部分で分ければ作れるものもあると思いますしね』

 ああ、マッチを作った時みたいにパーツに分ければ作れるものもあるって事か。

 「んで、明日はライターを作りたいかな」

 『ライターですか? 作れますけど、それを作るのであれば魔石があった方が魔力の節約になりますよ』

 「魔石・・?」

 『はい、魔獣を倒す事で手に入れる事ができます。もちろん、コータ様の魔力を使えば魔石を作る事もできますが、そうすると使用魔力がかなり必要になりますのでマッチのように数を作る事はできません』

 「って事は、俺の魔力を使って魔石を作るって事?」

 『そうです。ライターは魔法具のカテゴリーとなりますので、どうしても魔石を使わなければ自動で発火させる事は無理です』

 あれ? 確かライターってそんなに難しい構造だったっけか?

 「スミレ、ライターって自動っていうわけじゃなくって、確か金属をこすり合わせる事で火花を起こして火をつけるんだったと思うんだけど?」

 『そうですね。ただ、その燃料となるオイルはこの世界にありませんので、そのオイルを魔石で代用する事になるんです』

 なるほど・・・火をつけるために魔石がいるんじゃなくて、燃料として魔石がいるって事か。

 「それって、ギルドで買えるかな?」

 『買えると思いますけど、買う事はお勧めしません』

 「へっ、なんで?」

 『コータ様、ここは小さな村ですよ。お世話になっているボン爺さんも言っていた通り、魔石を大量に買うと目をつけられます。もちろん、試作品を1つだけ作ってそれを見せるというのであれば、購入する事に反対はしません』

 つまり魔石は高い、って事か。

 そんなものを買う金があると思われると面倒な事に巻き込まれるかもしれない。

 「じゃあ、大きな町へ行けば大丈夫って事だよな」

 『そうですね・・・でもその時は生産ギルドのメンバーになってからがいいですよ。生産ギルドで作ったものの商品登録しておけば安心です』

 「それって俺のアイデアを盗んで俺より先に商品登録するヤツがいるかもしれない、って事だよな? それを防ぐために先にものを登録しておけって事か」

 『はい、その通りです』

 「この村にはハンターズ・ギルドしかないって話だから、確かにスミレの言う通り大きな町で生産ギルドに入ってからの方が良さそうだな」

 ライターなんてものは簡単に作れそうだからな。

 そのアイデアを他のヤツに盗られて登録されたら腹立たしいだろう。

 「判った。でもマッチは?」

 『あれは火薬の配合が難しいんですよ。この世界には魔石がありますから、火薬を作るという発想がないんです。ですのでマッチであればここのギルドで売っても真似をする人はいないと思います』

 「なるほどなぁ・・・スミレはちゃんと考えてるんだな」

 『ただ、やはり生産ギルドに入ってから一応商品登録はしておいて方がいいと思いますけどね』

 「うん、判った」

 俺はそんな事、これっぽっちも考えてなかったよ。

 となるとこれからも何かを作る時は生産ギルドに登録してからが一番って事だな。

 じゃあ、それまでは既に作ってある剣やナイフを売って金を作るか。

 『コータ様、スキャン終わりました。他の図鑑もしますか?』

 「ん? いや、今日はもういいよ。どうせまた明日来る事になるんだからさ、その時にスミレに頼むよ」

 『判りました』

 「んじゃ、今日はもう帰ろうか」

 『ボン爺さんのところですね』

 「うん。スミレを紹介する事はできないけどさ、まぁいいだろ?」

 はい、と頷くスミレの前から図鑑を取り上げて本棚に戻してから、俺は彼女を肩に乗せて階段を降りた。






 読んでくださって、ありがとうございました。

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