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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 孤児院
289/345

288.

 孤児院の庭の隅っこに数日前に取り出しておいたアラネアに乗り込んで、集合先である門の前までゆっくりと走らせる。

 スミレと相談していろいろと悩んだ末、サイドキックは使わないでアラネアを使う事にした。

 サイドキックだと結構大きいから、一緒に行くメンバーが載せて欲しいと言い出さないとも限らない。

 できれば部外者には中を見せたくないからさ。

 最初はパンジーを連れて行こうかとも思ったんだけど、いつどんな形で状況が変わるか判らないメンバーと一緒の時にパンジーを連れて行くのは危険かもしれないと判断したんだ。

 「コータ、みんな見てるよ」

 「そうだな。自走行車っていうのは珍しいのかもな」

 『珍しいどころか、おそらく見た事ないと思いますよ』

 鋭いツッコミを入れてくるスミレだが、ここは軽くスルーさせてもらおう。

 「ちゃんとシートベルト締めとけよ?」

 「締めてる」

 「おう」

 バックミラーで後部座席を見ると、ちゃんとシートベルトをしているのが見えた、よしよし。

 まだ朝早いからか、人通りも少ない通りは馬車もそれほど走ってないおかげでスムーズに移動できている。

 「たくさん、人がいる?」

 「ん?」

 「今日、たくさんの人、いるの?」

 「ああ、そうだなぁ・・・10人くらいはいるんじゃないかな」

 「そっか・・・」

 道案内として俺たち3人に、浄化とやらをする人が数人、それにその人たちを護衛する人が数人、って言ってたからそんなもんだと思う。

 「無理に付き合わなくてもいいんだぞ、ミリー」

 「でもね・・・」

 「話しかけられるのが怖かったら俺のそばにいればいいんだからさ。ジャックもだよ」

 「お、おう」

 相変わらず他の人に対しては苦手意識があるみたいだな。

 まぁ2人とも他と違うからって色々な目に遭ったみたいだから仕方ないか。

 不安そうな表情の2人をバックミラーで見た俺は、スミレのいう通り孤児院で留守番させとくべきだったか、と思ってしまう。

 でもこれは2人のためには必要な事だ、とも思ってるんだよな。

 なんとか今回の依頼で少しは他の人と話ができるくらいになるといいな、そんな事を思いながらアラネアを走らせる。

 そうして近づいた門の前の広場を見て俺は目を擦った。

 それから2度見して、それが間違いじゃない事を知る。

 「コータ、あれ・・?」

 「あ〜、どうだろう。違うグループだといいんだけどなぁ」

 広場には10台ほどの馬車と7、80人ほどの人がウロウロしているのが見える。

 他にはグループらしきものが見えない、という事はあれがこれから俺たちが合流するグループなんだろうか?

 「ま、まぁとりあえず行ってみるか」

 『とりあえず行かなくても、どうやらあれがこれから暫く一緒に行動するグループですよ』

 「・・・マジか」

 「スミレ、なんでわかるの?」

 『前から3番目の馬車が見えますか、ミリーちゃん?』

 「う〜・・ん? うん」

 『あの馬車の横に丸の中に三角が描いてある模様が見えませんか?』

 「あるね」

 『あれは神殿を現わす紋章なんですよ』

 丸に三角が神殿? 

 なんかシンプルすぎて厳かさなんてちっとも感じないぞ。

 『今回は浄化する、と言っていたので、神殿の神官を連れてくる筈です。ですから神殿の馬車があるグループが私たちが参加するグループです』

 「スミレ、よく知ってるね」

 『お褒めいただきありがとうございます』

 恭しく礼をするスミレの白々しさは置いといて、と。

 そうか、浄化って神殿の仕事だったのか。

 っていうかさ、俺、神殿なんて行ったことないんだけど?

 「スミレ、神殿ってどこにでもあるのか?」

 『どこにでも、はありませんね。都市によっては神殿の存在を拒絶するところもありますからね』

 「んじゃさ、今まで通り過ぎた町で神殿があった場所ってあるのか?」

 『都市ケートンにはありましたよ?』

 えっ、知らなかったぞ。俺、見た事あったっけ?

 『ただし、都市ケートンの神殿は小さかったですから、見た事がないかもしれませんね』

 「小さい?」

 『はい、それだけ熱心な信者が少ない、という事なんですよ。この大都市アリアナではきちんと信仰している人が多いので、立派な神殿が建っています』

 ふぅん、日本みたいに星の数ほど神社仏閣があるって訳じゃないんだな。

 『興味ありますか、ミリーちゃん?』

 「えっとね、ある、かな?」

 『では、戻ってきたら行ってみましょうね』

 「うん」

 おっ、尻尾が動いているのがバックミラー越しに見える。

 どうやらスミレの話に興味が沸いたらしいな。

 「なあ、神官ってどんな連中なんだ?」

 『どんな、とは?』

 「獣人差別をする、とか、他者を見下す、とか、そういう性格に難がある連中なのか?」

 この点はちゃんと知っておかないと、一緒に行動する上では重要だからな。

 『さぁ、どうでしょう? さすがに個人の性格までは私のデータ・バンクにはありませんよ』

 「あ・・そりゃそうか。でもなぁ、まさか本人に性格が悪いですか、なんて聞けないしなぁ」

 でもなぁ、ミリーやジャックに対して差別的行為をされても嫌なんだよな。

 ゆっくりとアラネアを馬車列の最後尾につけてからエンジンを停めた。

 さて、このグループの責任者を探しに行こうか。

 「2人とも、この中で待ってろよ」

 「わかった」

 「おう」

 「出るなよ?」

 「うん」

 「おう」

 少し不安ではあるが、責任者を探さない訳にはいかない。

 って事で、おれはアラネアから降りて、先頭の馬車に向かって歩いていく。

 その途中で丸に三角の紋章がついた馬車を横目で見る事は忘れない。

 見ただけだとなんにも判らないけど、それでもついつい、な。

 馬車の横を歩いていると周囲から視線を感じるが、今はそんな事に構っているだけの余裕がない。

 とにかく前に向かって歩くだけだ。

 「コータッ」

 不意に名前を呼ばれてキョロキョロすると、誰かが手を振っているのが見えた。

 あれ、なんでここにいるんだ?

 おれは足早に手を振る人物の方に近づくと、そのまま驚きを声にした。

 「よお、コータ、ちゃんと来たな」

 「なんでローガンさんがここにいるんですか?」

 「なんでって、おれも一緒に行くからに決まってんだろ」

 なるほど、ローガンさんも一緒に出かけるのか、と思ったところで頭を振る。

 「そうじゃくってですね。ローガンさんはギルド・マスターでしょ? ギルドにいなくてもいいんですか?」

 「大丈夫だって。うちの職員はみんなできるからな、俺がいない方がのびのび仕事をしてるさ」

 それはそれで問題な気がしないでもないんだけど、まぁ本人が言うんだったらそれでもいいのか?

 「それよりローガンさん、話が違いますよ」

 「おっ、そうか?」

 「数人だって言いませんでしたっけ?」

 参加人数が少ないっていうから引き受けたようなもんだぞ、俺。

 「いっや〜、あっはっは。俺もそのつもりだったんだけどなぁ、神殿の連中がゴリ押ししてきやがったんだよ。俺のせいじゃねえぞ」

 「ゴリ押しって、どうしてですか?」

 「ニハッシュが出たってんで、そのための浄化をしたいから人を出してくれ、って頼んだんだよ。そん時に場所を地図で見せたら、これは大規模浄化が必要になります、って言いやがった」

 敬語を使う事もなくガンガン喋りまくっているローガンさんを見て眉を潜める人もいるけど、彼はちっともそんな視線には頓着していないみたいだな。

 「大規模浄化、ですか?」

 「おうよ、コータがニハッシュを仕留めた沼地はでかくってな、浄化の効果をあげるためには周囲を取り囲んでから浄化を始めるのが一番確実なんだって言い出しやがったんだよ」

 まぁ確かにあの沼地は広かったよな、うん。

 「そうなると連れて行く神官の数も増えたんだよな、はっはっは」

 「いや、それだったら教えてくれたってよかったでしょうに」

 「準備が忙しくってなぁ、すっかり忘れてたんだ。俺もお前の顔を見ていうのを忘れてたって事を思い出したんだよ」

 相変わらず豪快な人だけど、今回ばかりは教えてもらいたかったよ。

 「うちの子たち、すごく怯えているんですけど? あんな状態だと嫌だっていうかもしれないですねぇ・・・そうなると俺も置いていけないから--」

 「コータッッ」

 ガシっと肩を掴まれて、ビックリした。

 「悪かった。チビどもにも謝っといてくれ」

 「ニハッシュの件、結構トラウマになってるんですよ? それなのに更にストレスになるような事をしてくれたんですよね?」

 「だから悪かったって。あとで埋め合わせはするからさ」

 「どうでしょうねぇ」

 それほどビビってる訳じゃないけど、それでも予想外の人数に驚いていたのは確かだからな。

 「すまんっっ、この通りだっっ」

 「・・・それなりに優遇してもらいますからね」

 「もちろんだっ」

 「うちの子たちに無理は言わないでくださいよ」

 「当たり前だっっ」

 打てば響くように帰ってくる返事にむしろ不安な気持ちになるのはなんでだろう?

 「じゃあ、知らない人を俺たちの乗り物に近づかせないでくださいね。あの子たちの視界に入らなければ怯えないと思いますから」

 「判った」

 「約束ですよ、忘れないでくださいよ」

 「もちろんだ」

 「ちゃんと他の人にも伝達しておいてくださいよ。そんな事聞いてない、なんていう言い訳は聞きたくないですからね」

 「あとで神殿からきたヤツらにちゃんと言い聞かせる」

 よっし、言質は取ったぞ。

 これで興味があってもアラネアの近くには近寄れない。

 おっと、その前にもう1つ確認する事があったんだっけ。

 「あの神殿からきた人たちって、獣人やケットシーに対して思うところあると思いますか?」

 「うん? あ〜、どうかな。俺も神殿とは関わりがないからなぁ」

 「もし差別的な態度を取ってきたら、俺たちはその場で引き返しますからね」

 「おいっ、コータ」

 「俺のチームメンバーの差別は認めませんからね」

 「判った。ちゃんとその辺も言っとくからさ」

 「よろしくお願いしますからね」

 うんうんと頷くローガンさんを見て、俺はとりあえずはなんとかなりそうだ、とホッと息を零した。

 まだどんな事があるか判らないけど、今の俺にできるだけの手は打ったつもりだ。

 これで駄目だったら、もう仕方ないって諦めるしかないだろう。

 「じゃあ、俺は戻ります。一応列の最後尾につけたので、ちゃんとついていきますから」

 「いや、道案内のお前らが一番後ろっていうのはなぁ。ちょっと神殿組の責任者に聞いてくるよ」

 「判りました」

 「おう、じゃあすぐに戻ってくるからな」

 元気復活、という感じのローガンさんに手を振る。

 ちゃんと約束した事は果たしてくれるといいんだけど、どうだろうか?

 俺は少しだけ不安を胸に、アラネアに向かって歩き出したのだった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


 先週も書きましたが、粉の週末はずっと出かけているので、書けるかどうか判りません。

 ですので最悪全く更新なし、となる可能性もなきにしにあらずです。

 が、できるだけ頑張って2−3話くらいは書きたいと思っていますので、期待せずにお待ちいただけると嬉しいです。

 申し訳ありません。(ちなみにこれは予約アップなので、現段階ではさっぱり判りません)(^_^;)

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