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異世界で、のんびり趣味に走りたい  作者: チカ.G
大都市アリアナ 孤児院
286/345

285.

 ゆったりと座り直した俺の前に、セレスティナさんが入れ直したお茶を置いてくれた。

 「ありがとうございます」

 「いいえ」

 セレスティナさんは自分のカップを俺の正面に置いてから、さっきまでミリーが座っていた席に座る。

 「ごちそうさまでした」

 「いいえ、たいしたものではありませんでしたが」

 「十分ですよ。多分作ったとしても同じようなもの、いや、あれよりはグレードが落ちる食事だったと思いますからね」

 「あら、コータさんは料理がなかなか上手だって聞いてますよ?」

 誰だ、そんな事を言ったのは。

 「俺のは男の料理ですよ。大雑把だから簡単なものしか作れません」

 「でも、ちゃんと2人に食事を作ってあげているんですよね? そこまでちゃんと面倒を見てくれて本当にありがたいですわ」

 「仲間ですから」

 「・・・そうですね、あなたたち3人でチームでしたわね」

 「はい、でも仲間というよりは家族と言った方がいいかもしれませんね」

 家族と俺が口にした時、セレスティナさんが儚い笑みを浮かべた。

 「マリアベルナの事を家族と言ってくれるあなたなら、安心してあの子をお任せできるわ」

 「セレスティナさん」

 「簡単な話はあの子から聞きました。でもできればコータさんからもう少し詳しい話を聞かせてもらいたんですけど・・・いいかしら?」

 ミリーの説明、ってどんなのだろう、とちょっと聞いてみたい気もしたけど、今はそれを聞く時じゃない。

 「その前にいくつか質問してもいいですか?」

 「何かしら?」

 「あれからトラ族の者は来ましたか?」

 「いいえ。あなた方がここを離れた事を知ったあとは、1度も顔を出してません」

 俺たちが出て行った時に後を尾けようとしていたからな。

 結局見失ったけど、そのままトラ族の村に戻ったんだろう。

 「それからトラ族の村から何か連絡は?」

 「それもないわ。元々私は村を出てから長いから、よほどの事がない限りここには連絡は来ないのよ」

 「トラ族の村が何かを同胞に伝える時はどうするんですか? 例えば違う街に住んでいる、とか、遠くにある集落に連絡する事がある時って手紙でも出すんでしょうか?」

 「そうね・・・ここみたいな大きな街だとトラ獣人も数名いるから、そういうところに連絡を入れるとするとギルドや役所に手紙や伝言を残す事になるでしょうね。それから遠くにある集落だったら伝言を携えた使者を送るかしらね」

 なるほどトラ族に取って重要な案件があれば、それを伝えるために動く事はあるって事か。

 「じゃあセレスティナさんのところに来るトラ獣人はいなくても、役所やギルドに行けば何か伝言があるかもしれない、って事ですね」

 「そうね、それはありえるわね。でも、その場合はギルドや役所が私のところに知らせてくれる筈よ。すぐじゃあないかもしれないけど、週に1度はそういった場所に孤児院の誰かが行きますからね」

 「最後に確認したのは?」

 「一昨日よ。丁度届けなくちゃいけない書類があったから、それを役所に持って行ってもらったの」

 「ギルドは?」

 「そっちは大抵役所の方に連絡を入れてくれるから、何かあれば役所に行った時に教えてくれた筈よ」

 つまり、未だにトラ族はスミレの脅しを全トラ族に伝える努力はしていないって事か。

 チラリ、と肩に留まるスミレに視線を落とすと、なぜか満面の笑みを浮かべている。

 こ・れ・は・ま・ず・い。

 「いや、別に全てのトラ族に伝達しろ、とは言ってなかったよな?」

 『そういう問題ではありません』

 えっ、違うの?

 『他の銅虎の事は譲るとして、少なくともミリーちゃんには手を出すな、くらいは全トラ族に伝達するべきですね』

 「あ〜、うん、そうなんだけどさ。でも、大丈夫だよ、多分。ここにミリーがいるのを知っているのはこの前やってきた2人とトラ族の村の連中くらいだからさ。それ以外のトラ獣人だったらきっとミリーが銅虎だって事にも気づかないよ」

 『判りませんよ。もしかしたら気づくトラ獣人がいるかもしれません。それに銅虎の事を知らないトラ獣人がミリーちゃんを見た時に、彼女を傷つけるような事をいうかもしれないじゃないですか』

 「それは・・・あるかもしれないけどさ。でもそんな事まで今から心配しても仕方ないだろ? 今は俺たちでできるだけミリーを守るだけだよ」

 スミレは不服そうな顔をするけど、あまり大きな話にもしたくないんだよ。

 ただいつかそのうち銅虎に関しての情報は全トラ獣人周知の事実にしたいと思う。

 「あの・・・・」

 「あっ、すみません」

 「精霊様・・・いえ、スミレ様とお話しされているんですか?」

 「ええ、はい。ちょっと気になった事があったので」

 「それは今コータさんが私に訪ねた事と関係があるんでしょうか?」

 「ミリーに関する事です。これから今回の顛末の話をする前に現状が知りたかったんですよ」

 「それはどういう意味でしょう?」

 「それをこれからトラ族での話と一緒に説明します」

 俺はお茶を1口飲んで喉を潤してから、ここを出てからの出来事を全てセレスティナさんに話したのだった。







 なぜ俺が遅れて孤児院に着いたのか、というところまで全て話し終えた頃には、俺のお茶のカップは空っぽになっていた。

 「新しいお茶を淹れましょう」

 「ありがとうございます」

 すっと立ち上がりそのまま2人のカップを持って厨房の方へ行くセレスティナさんの後ろ姿を見送ってから、俺は肩に留まっているスミレを見下ろした。

 「とりあえず明日ミリーたちをここに預けてても大丈夫だって事は判ったな」

 『そうですね。それでもブレスレットを通して、定期的に様子は確認するつもりです』

 「うん、その方がいいな」

 トラ獣人はここに来ていない、という事を話を始める前に確認したけど、それでもスミレが定期的に確認してくれるって言うんなら安心だ。

 「明日は畑の方にも行くみたいだからな。孤児院の中だったら結界魔法具を設置すればなんとかなるけど、さすがに敷地外となると魔法具を勝手に設置する訳にもいかないからさ」

 『いちおうパンジーちゃんの道具と引き車には簡易結界魔法具を設置しておきましょう』

 「うん。頼むよ」

 簡易でもないよりはマシだ。

 ってかさ、スミレの言う簡易は全く簡易じゃないからな。きっとそれだけで十分みんなを守れると思う。 

 「そういやさ、子供たちを畑に送るって言ってたよな? 引き車で大丈夫か?」

 『そうですね。屋根の上ならともかく、中はコータ様たちのプライベート空間ですからね。たとえ孤児院の子供でもいやかもしれませんね』

 ああ、そういう見方もあるか。

 でも確かに俺のベッドの上で跳ねる子供たちは想像したくないぞ。

 今の状態の引き車だったらベッドは跳ね上げてあるけど、それでも思わぬ事をしでかされそうで怖いよ。

 「なぁ、荷車があるんだけど、あれじゃあ駄目かな?」

 『さすがに荷車はどうでしょう? パンジーちゃんが嫌がるかもしれませんよ』

 「ああ、そっか。そうだなぁ」

 パンジーは引き車を自分のテリトリーと感じているから、そこに荷車を持ってきて繋ごうとしたらそれだけで暴れるかもしれない。

 「しゃあない。明日は引き車の屋根で我慢してもらおう」

 『それが無難でしょうね。あっ、戻ってきましたよ』

 言われて顔をあげて厨房の方を見ると、セレスティナさんが戻ってくるところだった。

 「お待たせしました」

 「いえいえ、ありがとうございます」

 淹れたてのまだ熱いお茶の湯気から香るお茶の香りを楽しむ。

 「おそらくですが、この件はトラ族の村で止めるでしょうね」

 不意に話し始めたセレスティナさんを見ると、申し訳なさそうな表情をしている。

 「そうですか。まぁなんとなくそんな気がしました」

 「そうでしょうね。ですから私にあれこれお尋ねになったんですよね?」

 「ははは、その通りです。俺たちとしてはこれ以上ちょっかいをかけてこなければいいんですよ。ミリーのためにもほっといてくれたらそれで十分です」

 まぁ、スミレはそう思ってないけどさ。

 「仕方ありません、悪しき習慣ですから。それに今回は稀な事だったと思います」

 「そうですか?」

 「はい、今まで銀虎と銅虎はこの周辺のトラ族集落か村の中で生まれました。ですから今までこのような事がなかったんです」

 「でもトラ族は各地に住んでいますよね? 現にミリーの両親も僻地ですがトラ族の集落に住んでましたよね?」

 と言っても俺はそれがどこにあるのかまでは知らないんだけどさ。

 『コータ様、これはあくまでも私の推測ですが』

 「何、スミレ? なんか判ったのか?」

 『いいえ、ですからただの推測ですけど、それでいいなら説明できると思います』

 スミレには何か心当たりがあるっていう事なんだろうか?

 ふわっと飛んでからテーブルの上に着地したスミレは、そのままセレスティナさんの方を向いた。

 『これは推測です。ですから違うかもしれませんけどいいですか』

 「もちろんです」

 『では。金虎はこれに当て嵌まらないと思いますが、おそらく銀虎と銅虎は隔世遺伝で出てくるのではないでしょうか?』

 「隔世遺伝? でもそれぞれの時代にしか現れないって話じゃなかったっけ?」

 『はい、だからこそ2代から3代のちに現れるんだと思います』

 ああそっか、隔世遺伝だもんな。すぐ次の世代に現れるんじゃなくって、孫や曾孫の代に現れるんだろう。

 『金虎はある一定の条件を満たせば、それによって1人だけ生まれるんだと思います。ですが銀虎や銅虎はトラ族に綿々と流れる血の中に組み込まれていて、それが金虎が生まれるタイミングでこの世に生まれおちるんだと思います』

 俺の方を見ながらそう言ってから、スミレは今度セレスティナさんの方に振り返った。

 『あなたのご先祖様に銅虎はおられませんか?』

 「えっ? あ、ああ、そうね・・・私の祖母が銅虎だったと聞いた事があります。でも、それが何か?」

 『隔世遺伝と言うのは、何代か間を空けて過去のご先祖様と同じ能力や身体的特徴が現れる事なんです。おそらくミリーちゃんが銅虎だったのは、彼女の曾祖母が銅虎だったからその身体的特徴が現れたんでしょう』

 「えっ、でも、銅虎は金虎が現れなければ生まれてこないって・・・」

 『いいえ、それは違いますよ。おそらくなんらかの周期があるんだと思います。金虎が生まれるのは大体60年前後ですよね? そしてミリーちゃんの曾祖母は今の金虎ではなく、その前の金虎の銅虎だったのではないでしょうか?』

 「え、ええ、そうでした」

 ミリーは次代の金虎のために生まれたって言われてるから・・まぁ年齢的には有りって事か。

 『それに銅虎は金虎と年が離れている事もあるんですよね?』

 「はい」

 『それって、たまたま他の銅虎よりも後に生まれただけ、ですよ。つまり、あなたたちトラ族には銀虎と銅虎の遺伝子があるんです。ただそれはいつも特徴として現れるのではなく隔世遺伝として出てくるだけなのではないでしょうか? ただ、金虎が各世代に1人だけ、というのがうまく説明できませんが、もしかしたら金虎が生まれた事が引き金になって銀虎と銅虎が生まれるのかもしれませんね』

 スミレの遺伝子説、というか、隔世遺伝説は、セレスティナさんにとっては思いもしなかった推測なんだろう。そんな感じがその表情からも読み取れてしまうほどだ。

 「あの・・本当に?」

 『私の推測ですよ。でも、おそらくは。だから遠くのトラ族の村に伝達しなくても良かったんですよ。銅虎は金虎の生まれるトラ族の村の周囲で生まれるから、今回のミリーちゃんのようなトラブルは起きなかったんだと思います』

 つまりなんだ? 銀虎も銅虎も隔世遺伝で村の周辺に生まれるから、そのために遠くの集落にまで伝える必要はなかったって事かよ。

 『これはあくまでも推測です。ですが、かなりの高確率で私の推測が当たっているだろう、と思っています』

 「・・・そう、ですね。確かにそう言われると、そんな気がします」

 静かな声でセレスティナさんは呟くと振り返ってミリーを見た。

 「あの子の母親は村の出身です。もしかしたら村の男と結婚して村の中であの子を産み落としたかもしれません。ですがあの子の母親が選んだ男は僻地の出身でした。だから銀虎や銅虎の事をたいして知らない集落でミリーを産み落とす事になったんでしょう。だから・・・・」

 まさかの隔世遺伝説。 

 俺もビックリだよ。







 読んでくださって、ありがとうございました。


 お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。


Edited 06/07/2018 @ 20:22HST 誤字のご指摘があり訂正しました。ありがとうございました。

聖霊様 → 精霊様

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