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283.

 「あの・・・?」

 「ありがとうございました」

 「えっと、その・・・」

 お礼を言われたのは判るけど、誰も助けられなかった訳だからなんと返せばいいのか判らない。

 「おそらく見つけられなかった2人は既に消化されてしまっていたのでしょう。ギルド・カードもおそらくは同じように消化されてしまっているのだと思います」

 「ギルド・カードが、ですか?」

 「はい、先ほどのコータさんが回収されたカードの状態を見れば、もう少し時間があれば消化されていたと思いませんか?」

 確かにカードの状態は悪かった。

 色が完全に失せていてランクが判らなかった上に、裏書きされている情報も全て判らなかった。

 「ニハッシュはこの辺りに多いんですか?」

 「いいえ、目撃例は全くありませんでした。ですので、報告が届いた時も見間違いではないかと言われたんですよ。ですが、この2−3ヶ月ほど戻ってこないハンターや街の住人が10人以上いたので、もしかしたらとも考えられたんです」

 「ああ・・・戻ってこない人たちがニハッシュの獲物になっていた、って事ですね」

 「はい、そう思います。ですので、これ以上被害が広がる前になんとかしなくてはいけない、と思っていたんです」

 そっか、これ以上被害者を増やさないために依頼を出そうとしてたのか。

 「でもシュナッツさんが出さなくても役所の方がきちんと討伐を考えていたんじゃないんですか?」

 「はい、そうですね。ですが、私としても自分の出来る事はしたかったんですよ」

 魔獣魔物の討伐依頼は、ハンターズ・ギルドに出される事が多いけど、それ以外の場所として役所の中にある討伐依頼版を見て出かける人も多い。

 ハンターズ・ギルドに所属するハンターは基本採集採取のために依頼を受ける。

 もちろんその採集採取のために魔物や魔獣を討伐して素材を集める事もあるけど、それ以外の討伐のみの依頼っていうのはハンターズ・ギルドには来ない。

 ただ討伐依頼が出ている事は全てのギルドに伝達される事になっている。

 これはその地域が危険出ある事を知らせるためだからで、魔獣魔物討伐依頼を出すのは役所だからそこで人手を集める、っていうのがスミレからの情報だ。

 「役所の方ですぐに人手が集まらないかもしれない、そう思ったので、私は最初コータさんに指名依頼として素材が欲しいから仕留めて欲しいとお願いするつもりでした」

 「あれ、でもシュナッツさんは最初から魔物の襲撃があったから、って言ってましたよね?」

 「はい、コータさんたちを見て、そんな騙すような真似は卑怯だ、と思いましたので。もしコータさんが獣人族のチームであればそう言っていたかもしれませんが、ミリーさんやジャック君を見るとそんな真似はできないと思ったんですよ」

 「あ〜・・確かにうちのお子ちゃまたちを見ると心配になるでしょうからね」

 「はい、それにコータさんは搦め手がお嫌いのようにお見受けしましたので」

 うん、嫌いだな。直球で来られる方が好きだ。

 「でもどうしてわざわざシュナッツさんがそんな依頼を?」

 「行方不明者の1人が私の所轄の職員なんです」

 「えっ・・・・」

 「2週間ほど前に、休みの日の小遣い稼ぎとして薬草採取の仕事を受けたんですが、そのまま戻ってきませんでした」

 薬草採取って事は、ハンターのカードも持ってるって事なんだろう。

 ああ、だからローガンさんとも話が通じていたのかもしれない。

 「戻らないと連絡を受けて3日ほど待ったのですが、やはり戻って来る気配がなくて。それでローガンさんに相談したところ、ハンターズ・ギルドの方でも依頼を受けたまま戻ってこないハンターが複数いるという事を教えてもらったんです」

 「依頼達成期限がありますからそれまでに戻ってこないから判ったんでしょうね」

 「ええ、ローガンさんもそう言ってました。なのでグランバザードを生け捕りにできたコータさんたちに指名依頼をお願いしたいと言ったんです」

 ありゃ、そりゃタイミングが悪かったなぁ。

 丁度その頃に俺たちはトラ族の村に向かってアリアナを出発したんだよな。

 「リランの花びら亭に行くと、コータさんたちは泊まっていないと言われ、ローガンさんに聞いたら孤児院にいるというのでそちらに行くと、丁度アリアナを出発したばかりだと言われました。帰ってくるのは早くても2週間ほど先だろう、もしかしたら戻ってこないかもしれない、と言われたんですが諦められなくて、職権乱用して見かけたらすぐに連絡を入れるように、と通達しておいたんです」

 いや、戻ってこない事はない、ってセレスティナさんは知ってる筈だろ?

 だってさ、パンジーを預けてるんだからさ。

 「ですので、今日コータさんたちと思しき人が門の前で並んでいる、と報告を受けた私は大慌てで確認に行ったんです」

 「あ〜・・・すみません」

 「謝らないでください。みなさんを見て、私は本当にホッとしたんですから」

 苦笑いを浮かべるシュナッツさんは、なんとなくホッとしたような表情も重ねている。

 「正直、断られるかもしれない、と思っていたんですよ。なのにコータさんたちは既に討伐した、と言われて・・・・私は反応に困りましたよ」

 「そんな事なかったですよ? 俺にはいつも通りにシュナッツさんに見えましたから」

 「いえいえ、驚きのあまり反応ができなかったんですよ」

 そうかぁ?

 「とにかく、ニハッシュの討伐、ありがとうございました。申し訳ありませんが、あとでローガンさんが地図を持ってくると思いますので、どの辺りで遭遇して討伐したのかを教えていただけると助かります」

 「あっ、はい」

 「それでですね、本来であれば役所に来てもらって手続きをしてもらう事になるんですが、明日にでも来てもらえますか?」

 「あ〜・・・」

 特に予定はないんだけど、どうかなぁ?

 俺はチラリと肩に止まっているスミレに目を向けると、彼女は笑顔で頷いているので大丈夫だろう。

 「判りました。でもお昼くらいでいいですか?」

 「はい、それで十分です」

 「俺たち3人ともいなければいけませんか?」

 「無理でしょうか?」

 「いいえ、その、無理というか・・・解体の時にあの2人もあれを見たので、あまりおもいださせたくないんですよね」

 「ああ、なるほど。そういう事でしたら、コータさんお1人で結構ですよ。確かに先ほどのコータさんの話を思うと、あの状況は子供に思い出させるものではないですからね」

 うん、そう言ってもらえると助かるよ。

 俺だって思い出したくないのにミリーたちにあれを思い出させるのは可哀そうだ。

 今日は孤児院でのんびりゆっくり休ませてやりたいよ。それで明日は1日孤児院の子供たちと一緒に遊べば、セラピーにもなるんじゃないかな。

 ガラッッ 

 ぼーっとそんな事を考えていると、ドアが開けられてローガンさんが戻ってきた。

 「待たせたな」

 「大丈夫ですよ」

 「傷みが酷かったんで、思ったより時間がかかっちまったよ」


 どかっとシュナッツさんの隣に腰を下ろしたローガンさんは、さっきテーブルの上から拾い上げたカードを置いた。

 「この3枚の身元は判ったよ。唯一の生存者のチームのものだった」

 「やはりそうでしたか」

 「残りのカードは見つからなかったが、おそらくは同じように食われたんだと思う」

 「そう・・でしょうね」

 ローガンさんの言葉に静かに相槌を打つシュナッツさんだけど、無茶苦茶部屋の空気が重い。

 いつもは賑やかで明るいローガンさんも、さすがに深刻そうな表情で沈んだ雰囲気になっている。

 「コータ、地図を持ってきたから、どの辺りで見つけたか印をつけてくれないか?」

 「いいですよ」

 「大体の場所で構わんからな。俺は明日にでも役所に行って浄化申請だな」

 「浄化?」

 「おう、ニハッシュは澱んだ死体が多い沼地に発生するんだ。死体が大量に発生したら、その死体がなんらかの理由で融合してニハッシュに変化するんだよ」

 マジかよ。死体が融合して生まれたのがアレって事か。

 でもさ、無茶苦茶美味い肉だって、スミレは言ってたぞ?

 うげっっ、食わなくて大正解だったよ、うん。

 「ニハッシュが1箇所に1体以上発生する事はない、と言われているがそれを確認するためにも調査に行かなくちゃいけないんだ。その時にまだ死体が残っていればまたニハッシュが生まれないとも限らないからな。それも調査するつもりだ。その時に沼地を浄化してもらって、澱みを取り除いてもらうつもりだ」

 「それって、ハンターズ・ギルドがするんですか?」

 「いや、これは俺たちの手には余るからな。アリアナの大都市長に丸投げするよ」

 なんだよ、それ。ハンターの手に余るってさぁ。

 「もちろん、要請がくれば参加する事になるだろうが、うちのメンバーだけでは無理があるからな。おそらく大都市長が各方面に連絡をいれて必要な調査メンバーを揃える事になるだろうな」

 「そうですね、確かにもしニハッシュがまた現れていたとなれば、結界魔法が使えるものがいなければ危険ですからね」

 「そうそう、それに火力の強い武器も揃えないとな」

 火力か、確かに俺たちは運が良かったんだよな。

 あの時スミレの結界がなかったら、俺たちもアレの餌になってたって事だ。

 「そういやコータ、おまえどうやってあれを仕留めたんだ?」

 「えっと・・・」

 「まぁ飯の種だから言いたかねえかもしれんけどさ、ちょっとは教えてくれねえか?」

 「・・・・今回は、ヒッポリアを孤児院に預けて出かけてたんですよ。その代わりに、自走する乗りものを作ってたんです。それでですね、薬草採取をしようって、事であそこに乗りものを止めて準備をしていると、何かが乗り物にへばりついてきたんです。俺たちは、中にいたのでびっくりして、そのまま持てる武器全てを使って攻撃してなんとか倒せましたけど、もしあの時外にいたら、他の被害者と同じ目にあっていたでしょう」

 横でスミレが俺に話すシナリオを、なんとか自分の言葉でローガンさんとシュナッツさんに話して聞かせる。

 いつもよりもしどろもどろの説明だったのは、まぁご愛嬌ってヤツだな、うん。

 「そうか・・・運が良かったんだな」

 「はい、本当にそう思います」

 「それに武器があって良かったですね」

 「ええ、途中で色々と作ったり開発したりしながら移動してましたから、それらを全て乗り物にいれていたおかげです。まぁそれ以外にもニハッシュが大口を開いて乗り物を飲み込もうとしていたので、口の中を攻撃できたのが大きかったと思いますね」

 口の中を狙えたから仕留められたんだ、と強調する。

 じゃないと綺麗な皮の説明ができないからさ。

 「それで、これ、どうします?」

 「ん? ああ、それはとりあえずしまっといてくれ。明日役所に行くんだろ? その時に提出してくれたらいいさ」

 「判りました」

 「今日はご苦労さん。もう帰っていいぞ」

 「はい、本当にありがとうございました。今夜はごゆっくりお休みください」

 俺は目の前のニハッシュの足をバックパックに仕舞ってから立ち上がる。

 「コータさん、孤児院まではお送りしますね」

 「えっ? でも忙しいんですよね?」

 「はい。ですから私の部下がお送りします」

 「え・・ありがとうございます」

 申し訳ないなぁ、と思うものの乗合馬車で移動する事を思うとその方が楽なので、シュナッツさんの言葉に甘える事にする。

 明日も昼過ぎに馬車をよこすように手続きをしておくと言ってくれた。

 あ〜、うん。そうしなかったら忘れて役所に顔を出さないかもしれないもんな。

 今だって、既に忘れてたよ。

 俺はヘラっと笑ってごまかしてから、シュナッツさんが用意してくれた馬車に向かうのだった。








 読んでくださって、ありがとうございました。


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