281.
結局1週間ほどかけて大都市アリアナに戻ってきた。
途中で採取もしたし、アクシデントも発生した。
それでもみんな元気にアリアナに戻ってきて、今は長い行列に並んでいるところだ。
もちろん、サイドキックは門から1キロほどのところでポーチにしまって、そこからは仲良く歩いて戻ってきた。
「めんどくせえな」
「うるさいよ、ジャック。ほかの人だってちゃんと並んでるんだから」
「でもさぁ」
「ジャック、うるさい」
「うっ・・・」
俺が言っても聞かなかったジャックは、ミリーの一声で黙ってしまった。
この辺りは相変わらずだよな。
「まっすぐ孤児院に、行く?」
「そうだな。別に依頼を受けてた訳じゃないからな。でもまぁまだ早い時間だから、時間があればギルドに寄って見るか」
「わかった」
ギルドでニハッシュの皮と肉を売るという話は既にしてあるので、特に寄る事には文句はないようだ。
あのあと結局2人ともニハッシュの肉を食べたい、とは言わなかった。
まぁあれは仕方ない。トラウマになったっておかしくないものを見たんだからなぁ。
でも1欠片だけ取っておこうとスミレと話してる。
もしかしたらそのうち食べたくなるんじゃないか、って考えたんだよな。その時にまたあれを仕留めるのは勘弁してもらいたいので、そのためにポーチの中に残しておこうという事になったんだ。
ポーチの中に入れておけば腐らないからさ、本当に助かるよ、うん。
「それともどこか行きたいところでもあるのか?」
「えっと・・・ない、よ」
少し考えてからの返事は、反対の答えが含まれている気がする。
孤児院に行く時に何してたっけか?
「途中で買い物をしてから行くかな? 俺たちの食べるものもあんまりないからさ」
「うんっ」
買い物というとすぐにいい返事が戻ってきた。
それを聞いて思わず吹き出すと、ミリーが恨めしそうに見上げてくる。
「子供達が好きな食材を買って行こうな」
「・・・いいの?」
「もちろん、どうせ2人ともがお世話になるんだ。だったらせめて食材くらいは渡さないと駄目だろ?」
「でも、ね」
「明日はギルドに行ったりしなくちゃいけないからさ、ミリーとジャックには孤児院で留守番をしてもらおうと思ってるんだ。だからその前にお礼を渡さないとな?」
「うん」
色々と理由をこじつけて話すと、ようやくミリーが笑みを浮かべた。
「間に合えば今夜一緒に晩御飯も食べられるかもな」
「そだね」
孤児院だと大勢でわいわい喋りながらの食事で、それが楽しいらしい。
そんな事をスミレが教えてくれた事がある。
「コータ、誰か来るぞ」
「えっ?」
嬉しそうなミリーを見て頬を緩めていると、ジャックが俺の脇を突いてきた。
顔をあげてジャックが指差す方を見ると、確かに男が1人こっちに向かって歩いてくる。
「これだけの人がいるんだぞ? 俺じゃなくて違う人じゃないのか?」
「そうかな? でもさ、まっすぐこっちを見てると思うんだけどさ」
「そっかぁ?」
まだ距離があるから俺にはさっぱりだ。
「スミレ、あの男の目的は俺たちか?」
『おそらく。ジャックの言う通り、周りを見回す事なく真っ直ぐこちらに来てますからね』
「あ〜・・・面倒事、じゃないよな?」
希望を込めて呟いてみたけど、スミレは答えてくれなかった。
ちっくしょう。
『コータ様、あの人、シュナッツという人ではないですか?』
「えっ?」
シュナッツさん?
彼の事なら知ってるけど、なんでだ?
頭を捻ってみるけど、彼が俺のところに来る理由が判らない。
でもまぁ、俺たちのところにやってきているのが知っている人でホッとしたよ、うん。
「コータさんっ」
「こんにちは、シュナッツさん」
早足で近づいてきたシュナッツさんが手を差し出したので、俺も差し出して握手を交わす。
「丁度良かった。おかえりを待っていたんです」
「俺たちを?」
「はい、ちょっとここでは話しにくい事なので、詰所の方に来ていただけますか?」
「えっと・・はい」
俺たちが帰ってくるのを待っていたというシュナッツさんは、そのまませかせかと来た道を戻っていく。
俺はミリーたちを見下ろしてから先を行くシュナッツさんに着いて行く事にした。
「喜べジャック、もう並ばなくてもいいみたいだぞ」
「コータッッ!」
お前並んで待ちたくなかったんだよな? と嫌味を付け足す事も忘れない。
それから俺はミリーの手を取ってシュナッツさんの後に続くのだった。
シュナッツさんが俺たちを連れてきたのは、以前連れ込まれたのと同じ部屋だった。
「すみません、急がせてしまって」
「ああ、大丈夫ですよ。でももしかして待ってたんですか?」
「門番たちにケットシーと猫系獣人の女の子を連れた男を見つけたら連絡するように、と通達していたんです。つい15分ほど前に門番がやってきて、それらしい人が並んでいると連絡が入ったので、慌てて来ました」
わざわざ通達までしてたってか?
「3日ほど前に孤児院に滞在していると聞いていたのでそちらに行ったのですが、そこには引き車とヒッポリアはいたんですがコータさんたちは出かけていると教えられました」
「ああ、はい。ちょっとヒッポリアを連れて行きにくいところに行ってたんです」
「はい、孤児院の院長さんから話を聞いています」
「えっ?」
「いえいえ、詳しい話は聞いていませんが、ヒッポリアの安全のために置いていった、と聞いたんですよ」
ああ、それだったらいいか、とホッとする。
さすがに何の関係もないシュナッツさんに、セレスティナさんが話す筈がないか。
「ですのでヒッポリアと引き車を目印にできなくて、ジャック君とミリーちゃんを目印にさせていただきました。申し訳ありません」
「いえいえ、謝らなくてもいいですよ。この2人を目印にする方が俺を探すよりは楽でしょうからね」
「そう言っていただけると気持ちが楽になります」
本気でホッと息を吐いたシュナッツさんは丁寧に頭を下げた。
「そ、それで、俺たちを探していたって、どういう事ですか?」
「ああ、その話をしなくてはいけないですね。実は指名依頼をさせていただきたいのです、それも至急に」
「指名依頼?」
「はい、緊急事案となります。それでずっとおかえりを待っていました」
緊急事案? 俺たちに?
「えっと、俺たちはたった3人のチームで、ランクも低いですよ?」
「はい、ですがあなたたちにはグランバザードを生け捕りにした、という実績があります」
「そりゃまぁ・・・」
でもあれ、全部スミレの指示に従ったからできたようなもんなんだけどさ。
「とにかく、取り合えず話を聞いてもらえますか?」
「ここで、ですか?」
「はい、もし受けていただけるなら、ハンターズ・ギルドで手続きをしていただきますので。事は緊急事案なんです」
「はぁ・・・」
こんなに焦っているシュナッツさん、初めて見たぞ。
「ここから4日ほどいったところにある沼池で、危険な魔獣が目撃されました。その沼地には魔物魔獣が何種類かいますので、その素材目当てに出かけるものがかなりいるのですが、今回はそこにいる筈のない魔獣が確認されたんです」
「はぁ・・・」
「6人でチームを組んでいたハンターたちがいつものように素材採取のために訪れていたようで、全員で採取をしているところを襲撃されたようです。ただ1人逃げ出す事ができたハンターの話によりますと、それは姿を見せずにいきなり現れて次々に仲間を飲み込んでいったそうです」
「はぁ・・・」
「唯一生き残ったハンターは、斥候を務めるほど索敵能力に優れていたのですが、その彼をして全く気配を感じる事ができなかったと言ってます」
あれ、なんかどこかで聞いた事があるような話の気がするぞ?
確かそんな魔獣とかちあった気が・・・・
「すぐにハンターズ・ギルドに討伐依頼が出されたのですが、気配を読み取る事もできない魔獣が相手という事で、誰も受けようと言ってくれるハンターはいません。それに私たちといたしましても、確実に仕留める事ができる実力のないハンターを送り出してこれ以上の犠牲者を出す訳にもいかないのです」
「いやいやいや、俺たちだってそんな実力ないですよ」
「いいえ、グランバザードを生け捕りにできたコータさんたちであれば、私は可能だと思っています」
「えぇぇぇ・・・・」
ものすごく買い被られている気がするのは俺だけか?
でもさ、なんとなく狙っている魔獣の事、知ってる気がするんだけど。
「あの・・・その魔獣の名前は」
「ああ、失礼しました。どうやら気が動転しているようです。その魔獣は戻ってきたハンターの話だけからの予測でしかないので確実だとは言えないのですが、ハンターズ・ギルドの予測ではニハッシュ、というそうです」
「やっぱりかよっっっ!」
あれか? あれなんだな?
思わずその場で立ち上がって叫んでしまったのだった。
読んでくださって、ありがとうございました。
お気に入り登録、ストーリー評価、文章評価、ありがとうございます。とても励みになってます。
さて私は休日に1週間分をまとめて書くのですが、9/2までの投稿はなんとか済ませる事ができました。(平日は朝4時半に起きて5時半に家を出て仕事に行き、帰りは9時くらいなのでバタンキューで寝てます)
ですが9/1−3(金ー日)は出かける予定が入っていて書ける時間はおそらくありません。
ですのでなんとか合間に1話でも書き上げて翌週分にしたいのですが現段階ではそれも不透明なので、もしかしたら9/3−9は更新がない、かもしれません。
申し訳ありませんが、その時はご了承いただけると嬉しいです。




