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280.

 あ〜・・・疲れた。

 俺はいつものように野営の時に出すテーブルに突っ伏している。

 夕方遅くになってここまでやってきた俺たちは、そのままここで野営をする事にした。

 左手に草原、右手は林になっていて、その辺りで一際ひときわ大きな岩を見つけたので、その石を背後の防御とした形での野営だ。

 無事に夕食も済ませ、ミリーとジャックは既にテントの中で夢の世界に旅立っている。

 俺は風呂上がりのお茶を楽しんでいるところだ。

 ニハッシュの討伐は無事に済んだ。

 ってか、俺が手を出す必要はこれっぽっちもなかったよ、うん。

 ジャックの1撃が柔らかい腹にあたりそこで最初の電撃、それから痛みで大きく口を開いて俺たちを威嚇しようとしたニハッシュの口にミリーのからの電撃。

 あれで心臓発作的な状況になったニハッシュは即死だったようだ。

 そのあとはスミレが結界を張り直してニハッシュを取り込んでからの解体は・・・・・思い出したくもない。

 おまけにニハッシュの腹の中から出てきたものは・・・・うげっ。

 思わず思い出してしまって、口を抑えてしまった。

 「コータ様?」

 「あ〜、大丈夫だよ」

 「そうですか? 無理はしないでくださいね?」

 「うん、ちょっといろいろと思い出しただけだから、さ」

 ああ、と言って納得したスミレ。きっと彼女にも俺が何を思い出したのか想像がついたんだろう。

 「もう忘れた方がいいですよ?」

 「うん、判ってる」

 でもさ、簡単に忘れられないものってあると思うんだ。

 「そういえばニハッシュの肉を食べませんでしたね?」

 「あ〜、あれを見ちゃったらなぁ。さすがのミリーとジャックも食いたいって言わなかったじゃん」

 今夜はラッタッタの焼肉だった。

 あれだけ楽しみにしていた2人だったけど、食べたいとは言わなかったんだよなぁ。

 「まぁ、アリアナに戻ってから食べればいいよ」

 「そうですね」

 なんだかんだ言ってもスミレはサポートシステムだからさ、こういう人としての感情というか機微には疎い。

 これこれこうだからこうなる、とか、こういう時はこんな感情になる、という事は理解していても、それはあくまでも言葉の上での事だけだ。つまりそいういう反応をするものだと理解しているだけだ。

 でもそれが俺たちに感情にどんな影響を与えるかまでは理解していないんだと思う。

 だから今も、俺が思い出したものの想像はできて、俺がどんな反応をするか、なんて事まではスミレにも予想がつくけど、それを俺がどうやって克服するか、なんて事にまでは思いがいかないんだよな。

 まぁこればっかりは仕方ない。

 ってか、そんな事まで理解されたら、それはもうサポートシステムじゃない気がするぞ。

 「スミレ、ニハッシュを使ってなんか作るのか?」

 「何か希望がありますか?」

 「ん〜・・・そうだなぁ・・・あれ、染色できる?」

 「どうでしょうねぇ・・・試してみないと判りませんけど、私のデータには染色できるとは出てませんね」

 「じゃあどう使うんだ?」

 「間に挟んだり、内張り用に使われるようですよ」

 「ああ、なるほどなぁ・・・」

 このままじゃあ使えないってか。な〜んかつまんないなぁ。

 防水効果があってもあの色じゃなぁ・・・

 ニハッシュの体色は茶色と灰色が混ざったような、なんとも言えない色だ。しかも単色ではなく混じり合った感が半端ない。

 「ま、いっか。なんか思いついたら作ればいいし、そうじゃなかったらこのまま売っちゃえばいいんだよな?」

 「そうですね。討伐部位を持ってハンターズ・ギルドに行った時にでも聞いてみればどうですか?」

 「そうだな、判らない事は聞けばいいんだよな」

 討伐依頼があるかどうかは判らないけど、もしあればラッキーって事で受けちゃえばいいし、そうじゃなくても肉や皮は売れる筈だ。

 肉は楽しみにしてたけど、あれを見た俺は食べようって気になれない。

 ニハッシュっていう魔獣は透明化、というか体を不可視にして気配を消して獲物に近づく。そして十分近づいたら大きな口を開いて丸呑みするんだよ。

 その理由はただ1つ、ニハッシュには歯がない。

 だから丸呑みしかないんだけど、解体している時にニハッシュが丸呑みしたものがよ〜く見えたんだ。

 なんで内臓が半透明色なのか説明が欲しいよ、全く。透明化のためには仕方ないのかもしれないけど、だ。

 そのせいで見たくもないニハッシュの獲物が見えてしまった。

 なんとニハッシュの中で消化されかけていたのは、人だった。

 あれは駄目だ。魔物や魔獣が人を襲って食うっていうのは知ってる。でも、知ってるのとそれを実際に目の当たりにするのは全く違うんだって、今回の事でよく判った。

 ミリーとジャックが今夜悪夢で魘されないといいんだけどなぁ。ってか、その前に俺が魘されそうだよ。

 「もうそろそろ寝られますか?」

 「うん?」

 「お疲れのようですよ」

 「ああ、大丈夫だよ」

 「そうですか?」

 ぼーっと考え事をしていたらスミレが心配して声をかけてきた。

 お疲れなのはその通りだけど、まだ眠い訳じゃない。

 いや、多少の眠さはあるけど、これは精神的なダメージのせいだからなぁ。

 「ちょっとだけやりたい事があるから、それを済ませてから寝るよ」

 「何を?」

 「カラー・ガンの改良」

 「あれで十分じゃないですか?」

 「あ〜、うん、まぁ、使えない事はないんだけどさ。でも使い勝手がいいとは言えないだろ? だからもうちょっと使いやすくしたいかなって、ね」

 威力は問題ないんだよな。

 でも弾を込める時の手間がほんっとうにネックになってる気がする。

 今日はミリーとジャックの1発ずつで仕留める事ができたけど、数が多いとかもっと大きな獲物だとかって事になると弾数が欲しい。

 そうなると今のままじゃあ無理がある。

 「どうするんですか?」

 「マガジンを取り付けて、半自動銃にしようかな、と。といっても複雑な作りじゃなくってさ、今のカラー・ガンにマガジンを取り付けるって感じにしたいんだ。それなら簡単に改良できるだろ?」

 「そうですね。でもある程度の強度は必要ですよ?」

 「うん、それも込みでの改良だよ」

 俺は目の前にスクリーンを展開して、カラー・ガンの設計図を呼び出した。

 「これのさ、この部分にマガジンを装填できるようにしたいんだけど、どう思う?」

 「そうですね、そこが1番使い勝手がいいんじゃないでしょうか?」

 「まぁ確かにここ以外だとマガジンを装填なんてやりにくいだろうからなぁ」

 もっと手前も考えたけど、そこじゃあ取り回しもおかしくなるし無理がある。

 やっぱり元の世界の銃っていうのは、ちゃんと研究尽くされた形なんだって事なんだろう。

 「そういえばスミレ、生産ギルドの納品分ってできてるのかな?」

 「はい、それなりの数を用意してありますよ。そのために遠回りして素材集めをしてましたからね」

 「そっか、じゃあ、安心だな」

 切羽詰まった顔で迫ってこられるのは怖いものがあるからな。

 「そういやスミレ、素材採取も簡単にやってたよな?」

 「そのための装置ですからね」

 ふふん、と胸を反らせたところを見るに、かなりの自信作だったんだろう。

 まぁ確かにあれは楽チンだったもんな。

 スミレが作った素材採取のための道具はパッと見は幅3メートルほどの熊手くまでだった。

 それをサイドキックの後部に取り付けて、まるで地面を耕すような感じで移動するだけで、熊手に触れたものを採取する事ができるのだ。

 まぁその殆どは石ころだったり雑草なんだけど、それでも手で拾ったり毟ったりしていた事を思えば随分楽になる。

 そしてそれ以外はスミレ・センサーでサイドキックを止めさせられては採取、というのを繰り返していた。

 多分それもあってミリーたちは疲れて寝てるんだと思うな。

 「そういえばコータ様はアラネアはサイドキックを商品として登録されるんですか?」

 「なんで?」

 「きっと欲しがると思いますよ?」

 「ん〜、そうだろうなあ。でもその気は全くないよ」

 サイドキックもアラネアも自走車だから、ヒッポリアも馬もいらないって事で欲しがる人はいるかもしれないよな。

 「これは俺の切り札みたいなもんだからさ、俺だけの乗り物って形にしたいんだ」

 「切り札ですか?」

 「うん、そう。他の誰も持ってない物を持っている、って事はそれを欲しがる相手との交渉に使える訳だ。この先どうしても誰かの力が必要だとか、何か相手に差し出さないといけない時があったり、とかって事があるかもしれないだろ? そういう時にその交渉のための報酬として差し出すのに、車っていうのは使えると思うんだ」

 この先もしかしたらまたミリーの事で何かあるかもしれない。

 そういう時に権力者の力が必要になる事だってあるかもしれないから、そういう時の交渉材料として何か特別な切り札を常に持っておきたいんだよな。

 「それに生活のためにはもう何も登録しなくてもいいかなって思ってる。ほら、今までもう十分商品登録したからその使用料だけでもかなりの金額になるだろ。だからさ、もういいかなって。あれだけの収入があれば、あとはハンターとしての仕事をすれば十分生活していける」

 「それはそうですけど・・・」

 「前から言ってるだろ? 俺はのんびりとやりたい事だけをして暮らしていきたいんだよ」

 「はぁ・・・」

 スミレの主人としては覇気のない事を言ってる、って思ってるかもしれないけどさ。それが俺の本音なんだよな。

 あくせく働くのはもう十分だよ。それは元の世界で十分やったって思ってる。

 まぁ今だっていろいろな事に巻き込まれているけど、それでも仕事仕事の毎日だった頃を思えば遥かにマシな生活だ。

 「のんびりと好きな事をして暮らしたい。そのために神様(カー⚪︎ルおじさん)から多次元プリンターっていうスキルをもらったんだもんな」

 「・・・判りました。コータ様の望むように」

 「うん、ありがとな。スキルであるスミレとしては、それを存分に使った成果を周知させたいだろうけど、俺はそういう事は興味ないからさ」

 スキルは使ってこそ、そしてその素晴らしさは周囲に周知してこそ、なんだろう。

 でも、そんな事したらのんびり生きていけないじゃん。

 それって本末転倒。

 だからこっそり隠して、のんびり暮らしたいよ、うん。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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