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27.

 マッチって単価は安いけど、どこででも売れればいいお金になるんじゃね。

 なんて思っていた俺は、浅はかだったな〜と今しみじみと思っているところです。

 『コータ様、マッチができましたよ。筒に入れていってください』

 「はい・・・」

 スミレは仕事が早い。

 いや、それはいいことなんだと思う訳だ、うん。

 だけどさ、今の俺のスキルのレベルでは、それをまとめて作る事ができない。

 なのでスミレは全部で1000個の筒状の入れ物と、1000個の入れ物の蓋と、1万5000本のマッチ棒を別々に作っている。

 そして俺はそんな彼女の隣で一生懸命マッチセットを作っているって訳だ。

 最初は鼻歌を歌いながら15本のマッチを数えて筒状の入れ物に入れて蓋をキュッとしめて、出来上がったそれを以前スミレが作ってくれた大きめの皮袋に入れていた。

 けど、だんだん単調な作業に飽きてきて、おまけにてが疲れてきたんだよ。

 それなのにスミレは俺の前に出来上がったマッチ棒たちを次々と並べて来るんだ。

 スミレができたと言う度に俺の疲れのレベルが上がっていくのが判る。

 とはいえこれは俺の案だから今更嫌だとは言えないし、大体ケィリーンさんやボーライトさんに偉そうに言った手前、数を減らしてくださいなんて死んでも言えない。 

 そんな事を口にしたら俺の--

 「男としての矜持が・・・」

 『何かおっしゃいましたか?』

 「いえ、なんでもないです」

 どうやら心の声が漏れてしまったようだ。

 俺は黙って背中を丸めたままマッチを詰めていく。

 そんな俺の隣でスミレも同じようにマッチを詰めているのだが、いかんせん小さな体なので筒状の入れ物を立ててその横に立ってマッチを1本ずつ持ち上げていれているので、1つ詰め終わるのにも随分と時間がかかっている。

 そんな頑張っているスミレの姿を見てしまうと、文句なんて言えないさ。

 フッと溜め息が出てしまう。

 『コータ様、最後のマッチができましたよ』

 「そっか、よかったよかった」

 って事は目の前のこれを詰め終えればいいんだな。

 

 ててれてってれ〜〜

 

 これ以上の苦行はない、とホッとした俺の耳に気の抜けた音が響いた。

 チックショー、なんていうタイミングなんだよ。

 もう少し早かったらマッチ詰めしなくて済んだのにさ。

 『レベルアップですっっ』

 スミレにも聞こえたのか、彼女は抱えていたマッチをその場に落としてから俺の周囲を飛び回る。

 俺は四つん這いになって黙ってそれを拾い上げて元の位置に戻ると、そのまま黙々とマッチを入れ物に詰める作業に戻る。

 そんな俺を見て頭を傾げたスミレは、飛び回るのをやめて俺の目の前でホバーリングをしながら顔を覗き込んできた。

 『コータ様・・・嬉しくないんですか?』

 「ん? 嬉しいよ。でも喜ぶ前にこれ、済ませないとな」

 俺は少しだけ遠い目をしながらも、それでもなんとか作業を終えるべく手を動かしたのだった。







 そうして30分ほど黙々と作業を続けたおかげで、なんとかマッチは1000個準備できた。

 俺の隣にある皮袋はマッチでパンパンになっている。

 あとはこれをギルドに持っていけば1万ドランになる。

 俺がハァっと大きく息をついてから後ろにあった木にもたれかかると、スミレが心配そうな顔で俺の膝の上に降りてきた。

 『あの・・・大丈夫ですか?』

 「ん? 大丈夫だよ。ただちょっと疲れただけ」

 手が攣ったみたいになってるが、それを除けば大丈夫だよ、うん。

 けれどそんな俺をじっと見つめているスミレの視線に気づく。

 随分と心配しているみたいだな。

 そういやせっかくレベルアップしたっていうのに、マッチを詰めるのに一生懸命で一緒に喜んでやらなかったな。

 「スミレ、レベルアップしたな」

 『は、はい・・・』

 俺が声をかけてもしょぼん、としているスミレの頭をそっと指先で撫でると、そろっと顔をあげて俺を見上げる。

 「すぐに喜ばなくてゴメンな。あの時はとにかくマッチを詰めてしまいたかったんだ」

 あそこで喜んでしまうと、そのままマッチを放置してしまう自信があったんだよ。

 『だっ、大丈夫ですっっ。コータ様もお忙しかったんですからっ』

 「これでレベル3だよな。何ができるようになるんだったっけ?」

 『えっと、ですね。コータ様が作れるものの大きさは5立方メートルになりました。それに使える材料は20種類、単純な構造のものであればそれを含めた形で作れるようになります』

 おっ、って事は・・・

 「じゃあさ、次からはマッチは俺が詰めなくても大丈夫って事か?」

 『はっ、はい。できた状態で作れます』

 おお、それは朗報だ。

 「あっ、そういやライターが作れるようになるって言ってたよな」

 『はい、それも作れます』

 マッチもいいけど、ライターの方が使い勝手がいいんじゃないのか?

 それに1個あたりの金額もあがるだろうし。

 なんだかちょっとだけ気分が浮上した。

 「あっ、って事はスミレはこれからはいつも俺のそばにいてくれるって事だよな?」

 『あっ、はいっっ』

 嬉しそうに頷くスミレを見下ろして、俺も嬉しくて思わず口元が緩んだ。

 でも、とすぐに引き締める。

 「でもさ、スミレ。自分の姿を俺だけに見せるようにってできるのか?」

 『それは・・・どうでしょう? ちょっと待ってくださいね・・・・』

 スミレはすぐにスクリーンを展開して調べ始める。

 スミレの能力自体もレベルが上がる事でできる事が増えるらしく、初めて俺と言葉を交わした時にできなかった事もレベルアップによってできるようになっている事があるらしいのだ。

 なので恐らく今のスミレは調べる事ができるようになっているのだろう。

 『お待たせしました。結論としてはできるようになるみたいです。ただ、スクリーンの方は他人の目から隠す事はできないようですね。おそらくですが次のレベルアップでできるようになるのでは、と思います』

 「まぁそれは仕方ないよ。それに元々人目のあるところで何かを作るつもりはなかったからさ」

 ただすぐに何かを調べるって事ができないのは困るけど、それはまぁ今までと変わらないって事だ。

 「でもスクリーンが必要ない事に関しては大丈夫なんだろ?」

 『はい。今まで通り探索はスクリーンがなくてもできますし、コータ様の周囲に結界を張る事はできます』

 「じゃあ十分だよ」

 『それに加えて、その場でスキャンする事もできます』

 「えっ?」

 『例えばコータ様と一緒にどこかの商店に入って品物を見れば、それらを店主に見つからないようにスキャンする事ができます。そしてそれをデータバンクにセーブする事が可能です』

 「すごいじゃん」

 って事は今日からどこに出かけても出かけた先でスミレがなんでもスキャンできるって事だ。

 「それってさ、俺が言わなくてもスミレが勝手に判断してスキャンできるって事?」

 『はい、コータ様から許可があれば、私の判断で必要と思ったものをスキャンしてデータとして残す事ができます』

 「許可なんて出すに決まってるよ。今からスミレはなんでもスキャンしてデータをどんどん増やしてくれ」

 『はいっっ』

 両手を握りしめて拳を作り、そのまま力強く頷くスミレは可愛いなぁ。

 「そういや、本とかもスキャンできるのか?」

 『もちろんです』

 「でもさ、それってページを広げなくちゃ無理?」

 『いいえ、時間さえいただければ閉じたままでも中身を全てスキャンしてデータバンクに移す事はできます』

 それはいいなぁ、うんうん。

 「じゃあさ、イズナ採取をして村に戻った時にギルドに行くからさ、その時に2階にある図鑑をスキャンしておいてくれないかな? あれがあると便利だと思うんだよ」

 『判りました』

 「あっ、でもそれって俺がそばにいないと無理?」

 『そうですね・・・同じ建物内であれば大丈夫だと思います。距離が離れてしまうと自動的にスキルはシャットダウンされてしまいますから』

 「ああ、それなら大丈夫だよ。スミレがスキャンしている間、俺はケィリーンさんにマッチを納品しようと思ってるだけだからさ。それが済んだら俺も2階にあがるよ」

 図鑑はいくつもあるから、できれば村を出て行く前に全ての図鑑をスキャンしてもらいたいところだ。

 「それでさ、そのスキャンした図鑑って作れる?」

 『はい、今のレベルでしたら問題ありません』

 「じゃあ試しに1冊なんでもいいから作ってみせてくれよ」

 『1冊でいいんですか? たくさん作って売る事もできますよ?』

 「いやいや、図鑑販売ってギルドが一手にしているみたいだからさ、勝手にそれを俺が作って売っているのがバレたらやばいじゃん。ギルドカード取り上げなんかになったらシャレにもなんないよ」

 せっかくの身分証明書をそんな事で失いたくないぞ、俺は。

 それにそのせいで他のギルドに入れなくなっても困るしな。

 いつかどこかに腰を落ち着けて暮らすとなると、生産ギルドや商人ギルドに入って物をを作りながら生活していく事になると思う。

 その時にギルドに入れません、って事になったら生活できないからな。

 「もしギルドで図鑑を買えるんだったら今日にでも買うかなぁ。で、もし売ってなかったら作ってくれよ」

 『無理に買わなくても・・・』

 「いいんだよ。別にお金に困ってるわけじゃないからさ。スミレに作ってもらうのだって、どんなのができるのかっていうのを確認するためだから」

 『・・・判りました』

 あんまり納得していないと言いたげなスミレだが、俺としては真っ当なやり方で金を稼ぎたいんだよ。

 まぁ、あくまでも俺の基準としての真っ当、だけどさ。

 「んじゃ、薬草採取に行こうか」

 『はい』

 俺はよっこいしょと言いながら立ち上がると、マッチの入った皮袋をポーチにしまってから薬草採取に取り掛かった。






 読んでくださって、ありがとうございました。


Edited 02/23/2017 @ 20:50CT 訂正しました。ご指摘ありがとうございました。

マッチ100個 → マッチ1000個 1桁間違ってました。(^_^;)

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