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278.

 あしみたいな草が生い茂った沼のそばにサイドキックを止めると、すぐにミリーとジャックは屋根部分に登る。

 どうやら2人はそこから攻撃すると決めたようだ。

 『コータ様はどうします?』

 「ん? 俺は出て前に行くよ。ボンネットに腰掛ける事にする」

 『判りました』

 ドアを開けて降りてからサイドキックの屋根を見るとミリーは既に弓を構えており、ジャックは水鉄砲、改めハンドガンを構えている。

 水鉄砲だとどうしても飛距離が短いので、小型のハンドガンを作って渡したのはつい昨日だ。

 今日はその練習と使い心地を確かめるために、この沼地にやってきたのだ。

 スミレの話だとここにはラッタッタがたくさんいるらしい。

 「スミレ、ラッタッタは?」

 『隠れてますね』

 「サイドキックにビビったか・・・まぁ仕方ないな」

 でこぼこ道だからな、どうしてもガタガタと音を立ててしまう事になる。

 「エサは? 撒こうか?」

 『今は撒いても来ませんよ。少しだけ落ち着くのを待ってから撒く方がいいと思います』

 「そっか」

 『それに落ち着いて私たちがいる事に気づいたら、向こうからこちらに寄ってきますよ』

 ラッタッタは以前にも狩った事がある獲物だ。

 こいつはそれほど大きくないけど、数が多いなよなぁ・・・・

 それにあいつら、結構凶暴なんだよな。サイドキックから降りた俺たちなんか、エサが来たっていう程度の認識でしかない気がするよ・・・・はぁ。

 「ま、たくさん獲れたら孤児院に土産に持って帰ればいっか」

 「おみやげ?」

 「うん、肉だからさ、子供達が喜ぶだろ?」

 「わたしもお肉、好き」

 「俺も好きだぜっ」

 うん、知ってる。2人とも肉食系だもんな。

 俺としてはさっぱりした魚も捨てがたいんだけど、残念ながらこの沼にいる魚は不味いらしい。

 「あっ・・・」

 「なんだ、ミリー?」

 「たくさん仕留めたら、たくさん解体・・・」

 肉がたくさん手に入るのは嬉しいけど、解体がたくさんあるのは嫌なようだ。

 そんなミリーの心情を現わすように、彼女の耳はペタンと頭にくっつくように萎れて尻尾は力なくたら〜んと垂れている。

 「あ〜、解体は大変だもんな。でもミリー。スミレに頼んでみろよ。可愛くお願いすれば、スミレが手伝ってくれるかもしれないぞ?」

 「ホント・・・?」

 「判んないよ。でももしかしたら、って事だよ」

 ミリーだって解体が苦手な訳じゃないんだよな。いつだって率先して手伝ってくれる。

 ただ、さ。ラッタッタの場合は数が問題なんだよなぁ・・・・

 でっかいネズミの上、大抵は群れているからな。20から30はいると思うと、その数の解体もしなくちゃいけないからそれでがっくりしているんだろう。

 でも俺がスミレに頼めば、と唆したからか、ミリーは屋根から飛び降りてスミレを見上げて尻尾をフリフリお願いしている。

 可愛くの意味は判っていなかったみたいだけど、十分可愛いお願いをしている気がする。

 「スミレ、お願い」

 『ミリーちゃん、自分で仕留めた分は自分で解体するんですよね?』

 「うん・・・でもね、大変なの」

 『判ってますよ。でも、それもハンターの仕事ですよ』

 「スミレ・・・・」

 困ったような顔で俺を振り返るスミレは、目だけで俺を責めている。

 いや、だってさ、解体って俺も苦手だからさ。

 「スミレ、どうせ毛皮とかはスミレが素材としてストレージに仕舞い込むだろ? だったらその素材分くらいは手伝ってやってくれないかな?」

 『コータ様・・・』

 「ほ、ほら、俺も手伝うから、さ」

 『・・・・全くミリーちゃんには甘いんですから』

 呆れたと言わんばかりに頭を振ってから、スミレも困ったような笑みを浮かべた。

 『まぁそれは私も一緒ですけどねぇ。はいはい、判りました。手伝いますよ。その代わり、ミリーちゃんやジャックも私の素材集めを手伝ってくださいよ?』

 「うん」

 「おう」

 いつのまにかミリーの後ろで一緒にお願いしていたジャックも、スミレの返事を聞いて嬉しそうに尻尾を揺らしている。

 『サイドキックの横に陣を用意しますから、そこまでは運んできてくださいよ。陣に載せてくれたら解体は私ができます』

 「わかった」

 「おう」

 『という事ですから、全員サイドキックから降りて結界ギリギリまで移動してください』

 「「えぇぇぇぇ」」

 ミッションコンプリートと言わんばかりの笑みを浮かべて屋根によじ登ろうとしていた2人は、スミレの言葉に抗議の声をあげた。

 『そんなところにいたら回収できませんよ? 回収して持ってこないと私は解体できませんからね?』

 「うぅぅ・・・・わかった」

 「おう」

 至極残念です、という顔でミリーが頷くと、ジャックも渋々頷いてから重い足取りで結界ギリギリの地点まで歩いていく。

 今回はとにかく狙い撃ち、って事でスミレの結界は15メートル四方の小さなものだ。ラッタッタがやってっくるのは沼方面だろうから、って事でミリーとジャックはサイドキック正面の沼に面したところに陣取った。

 『ほら、コータ様も』

 「えっ、俺も?」

 『当たり前です。さっき全員、って言いましたよね?』

 「あ〜・・・うん」

 『もちろん、ご自分で解体するというのであれば好きにしてくださって結構ですよ?』

 「あ、はい、すぐに行きます」

 素直に頷いてからボンネットから飛び降りて、ミリーやジャックの後ろに陣取った。

 そんな俺の後ろから溜め息が聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだな、うん。

 「コータ、来た?」

 「うん、俺もスミレに解体してもらいたいからさ」

 「そだね」

 「おう」

 頷く2人は既に準備万端だ。

 んじゃ俺も準備するか、って事でポーチからパチンコを取り出した。弾は・・・・石で作ったやつでいっか。

 「あ、スミレ」

 『なんでしょう?』

 「なぁ、昨日使ったターゲットをラッタッタの囮エサとして出せないか?」

 『【ひとしくん】ですか?』

 「それでもいいし、エイ⚪︎アンでもいいぞ」

 『コータ様、【ひとしくん】ならまだしも、さすがにあれを出すと逃げてしまいますよ?』

 「あれ、そうか?」

 ターゲットだから魔力はないだろ? だったら魔物かもって感じないんじゃないのか?

 『ラッタッタには目が付いてますからね、見た目で十分脅威になるものに不用意に近づくとは思いません』

 「なる。じゃあ【ひとしくん】は?」

 『それなら十分囮エサにできると思いますよ。ついでに少し血や体液を擦りつけておけば更に囮エサっぽくなるでしょうね』

 「・・・・血?」

 まさか、俺から血を搾り取ろうっていうんじゃないだろうな。

 そんか気持ちが顔に出ていたのか、スミレが眉間に皺を寄せて目の前に飛んできた。

 『何を考えているんですか、コータ様?』

 「えっ、いや、何も?」

 『そんな風には見えませんでしたけど? まぁいいです。私が言いたかったのは食事で使う肉を少量使って、それで【ひとしくん】に匂いをつけよう、という事ですよ』

 「あ、なるほど」

 ぽん、と白々しく手を打つけど、今更感が満載だな、うん。

 『ついでにその肉を薄切りにして【ひとしくん】のあちこちに載せておけば、それだけで十分囮エサになると思いますね』

 「んじゃ、すぐにするか?」

 『はいはい』

 面倒くさそうに返事をしてから、スミレは【ひとしくん】をストレージから取り出した。

 「あ、【ひとしくん】だ」

 「お、綺麗になってる」

 スミレが取り出した【ひとしくん】は修復されていて、初めて見た時と同じ服を着ている。そして、髪の毛が元通りになっている。

 「ちゃんと髪も生えてる」

 『なんですか、それは。一応修復機能の術式をつけてあるので、24時間で元に戻りますよ』

 「おぉ、すごいな」

 だったらアフロヘアになった【ひとみちゃん】も元通りって事か。

 なんとなくスミレの視線が冷たいものになっていたけど、それには頓着せずポーチから肉を取り出して手のひらサイズに切り分けて残りをしまう。

 それからスミレが言ったようにそれをスポンジのように【ひとしくん】の全身に擦り付けてから、ボロボロになった肉をスミレに薄く切ってもらって、それを頭や肩に広げて貼り付けた。

 「おっし、準備完了?」

 『そうですね』

 「スミレが設置するのか? それとも俺がしようか?」

 『大丈夫ですよ、私ができます』

 スミレが片手をあげると直立不動だった【ひとしくん】がふわっと浮き上がり、そのままの姿勢で沼と俺たちの間に飛んでいく。

 スミレは少し考えてから【ひとしくん】を沼に向かうように方向転換させてから立たせると、前回同様に後ろにつっかえ棒みたいなのを取り付ける。

 そのままでも立たせる事はできるらしいけど、倒れやすくもあるのでつっかえ棒がいるんだとか。

 『準備できましたよ』

 「こっちもオッケーだよ、な?」

 「うん」

 「おう」

 る気満々の2人と俺は、武器を構えていつでも仕留める事ができる状態で沼に向かって立つのだった。







 読んでくださって、ありがとうございました。


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